文研ブログ

2021年3月11日

メディアの動き 2021年03月11日 (木)

#309 政権に影を落とす接待問題 ~新型コロナとの戦いの下で~

放送文化研究所 島田敏男


 この1か月の間に、実に様々なことがありました。年明けからの新型コロナウイルス感染拡大に対する緊急事態宣言が10都府県で延長(2月8日)。女性蔑視ととれる発言が猛烈な批判を受けて森オリンピック・パラリンピック組織委員会会長が辞任、橋本聖子氏が後継に。

 医療従事者のワクチン接種がようやくスタート(2月17日)。これで世の中が少しは明るくなるかと思いきや、週刊誌に焙り出された接待問題が政権に大きく影を落とし始めました。

 菅総理の長男が関わる放送関連事業者・東北新社による総務省幹部への接待、贈収賄事件を引き起こした鶏卵会社による農林水産省幹部への接待。国民の怒りに押される形で処分が相次ぐ中、総務審議官当時に1回で7万4000円を超える高額接待を受けた山田真貴子内閣広報官の去就が注目されました。

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 何となれば安倍総理大臣・菅官房長官のコンビが総理秘書官に抜擢し、霞が関の女性活躍の象徴として重用。そして菅氏が総理大臣に就任すると、内閣広報官に起用して不得手な記者会見の仕切り役を任せてきたからです。

 山田氏は給与の一部を自主返納した直後には辞任を否定し、菅総理もそれを支持しました。しかし、世の中の不満は収まらず、体調不良を理由に辞職せざるを得なくなりました(3月1日)。体調不良を理由に身を引く(引かせる)という手法は永田町・霞が関では昔からよく使われる手です。それは「辞める本当の理由を言わずに済むから」です。

 「体調が悪化し、職務に耐えられないので辞職する」と言いさえすれば、モヤモヤは残るにしても説明したことになるという重宝さがあります。とは言え、これが菅総理の周辺の事柄に及びますと、どうしても「暗い空気」を感じる人は少なくないと思います。

 そう感じる人たちは、あの日本学術会議委員の任命拒否問題を思い出したことでしょう。去年の秋、野党の追及に対し「人事なので、いちいち理由を話す必要はない」と述べて押し切った菅総理ですが、同時に内閣が決める人事案件を「ブラックボックスの中で掌にのせる達人」という印象を刻み込みました。

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 こうした政権にとっては決して好ましくない状況の中で行われた3月のNHK世論調査の結果ですが、前の月と比べて内閣支持率が微増するというものでした。
 3月の調査では「菅内閣を支持する」40%(前月比+2ポイント)、「菅内閣を支持しない」37%(同-7ポイント)となりました。前2か月の1月、2月は「支持する」<「支持しない」だったものが、「支持する」>「支持しない」に転じました。

 また、調査の中で「あなたは新型コロナウイルスをめぐる政府の対応を評価しますか?」という問いに対しては、「評価する」48%、「評価しない」47%となりました。前3か月が、「評価する」<「評価しない」だったものが、ほぼ横並びになりました。

 こうして見ると、東京などの大都市部を中心とした感染者数の拡大が、夜間の外出自粛、飲食店の営業短縮などによって収まるにつれて、国民の評価・内閣支持の若干の回復に繋がっていることが窺えます。

 ただ、そうは言っても菅内閣の支持率は2回目の緊急事態宣言が発出される前の12月調査の水準に戻った程度です。医療従事者、高齢者、一般国民の順で予定されているワクチン接種が順調に進まなければ、政府の対応評価・内閣支持が急落することは間違いないでしょう。

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 そこに接待問題です。東北新社の接待に加えて、今度はNTTの高額接待が明るみに出ました。総務事務次官と並ぶ谷脇康彦総務審議官は、「東北新社以外から違法な接待を受けていないかという先の調査に対し、事実を述べなかった」(武田総務大臣)として、官房付に更迭されました。

 NTTが出てきますと、頭をよぎるのは菅総理の「携帯電話料金は高すぎる」という指摘を受けての料金引き下げ決定です。野党側は谷脇総務審議官に対する接待が、菅総理の発言とどういう関係にあったのかを追及する構えです。

 小泉内閣で総務大臣を務めた菅氏が、総務省内に対する影響力を手にし、安倍内閣の官房長官時代を通して益々求心力を高めた。このことは大方の自民党幹部が認めるところです。

 コロナとの戦いが続く中での総務省幹部の接待問題は、菅総理にとっては政権運営を支えてくれるはずの内懐のほころびにも感じられる出来事だと思います。

 菅内閣にとって当面の最重要課題である令和3年度予算案は、3月2日に衆議院を通過したことで、年度内成立が確実になりました。

 問題はその後です。新型コロナとの戦い、国民の不興を買っている官僚の接待問題。これをどう乗り越えながら前に進むのか。

 コロナ禍で我慢を強いられている国民が政治を見る眼は、いつになく厳しいことを忘れてはならないでしょう。