文研ブログ

2021年2月12日

メディアの動き 2021年02月12日 (金)

#307 政治家を見る厳しい眼 ~垣間見えた責任感の欠如~

放送文化研究所 島田敏男


 “今は昔、永田町に「陣笠議員」なる言葉ありけり。議場を埋める頭数なれど、「選良」であることの矜持は忘れざりけり・・・”

 衆議院の選挙制度が今の小選挙区比例代表並立性になる前の中選挙区制の時代、長く一党支配を続けていた自由民主党は派閥政治全盛でした。つまり党内に割拠していた派閥のボスが政治を仕切っていたわけです。

 駆け出しの議員や、なかなか役職に就くことができない中堅議員は、そのボスの指示に従って議場で賛成・反対の1票を投じる(あるいは起立する)わけです。こういう頭数の議員を「陣笠議員」と称したのは、昔の下級武士たちが兜の替わりに笠をかぶったことに由来すると言われています。

 しかし「陣笠」であろうとも、選挙区の有権者から議席を託された「選良」であることに誇りや自負を持っていた議員は大勢いました。総理大臣を決め、法律を成立させることができるのは国会議員だけで、数をたのまなければそれができないのですから。

 本来、一人一人がそういう誇り・自負を持つべき国会議員であるにも関わらず、とりわけ年明けからの1か月あまりで目立ったのは、自らの職責に無自覚な与党議員の行動でした。

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 松本純元国家公安委員長ら自民党衆議院議員3人が、新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐための緊急事態宣言が出ているさなかに、銀座の高級クラブをはしごする夜遊びに興じ、程なく露見した一件。

 3人は自民党を離党し、同じように深夜の飲食が明るみに出た公明党の遠山清彦衆議院議員は辞職しました。でも、それでけじめがついたから良しではなく、もう一段深く考える必要がありそうです。

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 緊急事態なのだから国民は外出を控えること、宣言が出ている地域では飲食店の営業は午後8時で打ち切ること・・・自粛要請か、罰則を伴う指示であるかを問わず私権制限は多岐に及んでいます。

 こうした個人の自由な活動を制限する要請や指示を政府や自治体が出すことができるのは、国会議員が必要な法律を成立させてきたからです。

 平時であれば、国会で成立が図られる法案は、産業や福祉の支援制度を設けたり、見直したりするものなどが多く、様々な分野ごとに細分化されています。従って、自分に直接関係しない限り多くの国民は無関心なものです。

 しかし、コロナ対策のために基本的に全国民に対し政治が我慢を強いている状況は、まさに有事です。眼に見えず、耳に聞こえない、体感できない脅威に対し、日常生活の我慢で向き合っている有事です。つまり誰もが我がこととして政治の動きを注視する必要がある稀な状況なのです。

 このコロナ禍の1年間に、政治家を見る国民の厳しい眼差しは急速に鋭さを増してきました。その変化に無頓着な国会議員が少なくない、自分たちが国民に我慢を強いていることに対する責任感の欠如、無自覚・・・これが垣間見えたのが今回の問題だったと思います。

 もちろん、与野党を問わず全ての国会議員が責任感に欠けていると言うつもりはありません。コロナ禍の現実が、国民と政治の距離を近づけたという皮肉な現象に、政治家はもっと注意を払うべきだということです。

 そうしないと政治プロセスに対する国民の不信が生じ、民主主義の足元が揺らぐことにもなりかねません。ここは与党も野党も関係なく、危機に際して国民から信頼される姿勢を貫くことが全ての政治家に求められています。

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 さてそこで、菅内閣の今です。2月5日から7日にかけて行われたNHK世論調査で、菅内閣の支持率は1月より更に下がりました。「支持する」38%、「支持しない」44%で、不支持が支持を6ポイント上回りました。

 政党支持率を見ると、自民党が先月より3ポイント近く下がって35・1%、他の政党には目立った変化は見られませんでした。その一方「特に支持する政党はない」と答える無党派層の割合は、先月より2ポイント近く上がって42・3%。自民党支持者の流出が伺えます。

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 内閣支持率と自民党支持率の低下。根底にはコロナとの戦いの出口が見えてこないことへの不満があるでしょう。ただ、今月は先に見た自民党国会議員の「あってはならない行動」が影響したのは確かです。

 さらに、調査直前の3日に飛び出した東京オリンピック・パラリンピック組織委員会の森喜朗会長の問題発言。この女性蔑視と猛反発を浴びた発言も、菅総理と自民党にはマイナスでした。東京開催が決まった後、森元総理を会長に据えたのは当時の安倍総理・菅官房長官ですから、任命責任を免れることはできません。
 この問題はボランティアの人たちの協力辞退を引き起こしていて、さらに波紋を広げかねない危うさを抱え込んでいます。

 国会では新型コロナ対策の改正特別措置法が成立した後、2月4日から令和3年度予算案の審議が衆議院で行われています。それと並行して、政府は新型コロナワクチンの確保を急ぎ、医療従事者、高齢者の順で接種を行なう準備に追われています。

 この二つが順調に進むのか、あるいは新たな問題の発生で滞る事態が生じるのか。緊張感のある政治と行政の姿を国民に示し、一つ一つの問題を乗り越えていくことが肝要です。