文研ブログ

2020年3月24日

メディアの動き 2020年03月24日 (火)

#243 放送のアクセシビリティー高めるには 方法を探る

メディア研究部(メディア動向)越智慎司

放送文化研究所は、放送技術研究所や番組の制作現場と連携し、視覚障害者などへのユニバーサルサービスとして、「自動解説音声」の実現に向けた研究開発を行っています。下の表は料理番組でつけた自動解説音声の一例です。太字で示した自動解説音声の情報は、テロップや映像の様子など視覚でしかわからない情報で、これらを自動で音声化してナレーションなどの隙間につけます。2019年、自動解説音声を視覚に障害がある人たちに聴いてもらい、WEBでアンケートを行いました。そして、そこからわかった放送のアクセシビリティー(情報の取得しやすさ)の課題などを『放送研究と調査』2月号に執筆しました。

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    料理番組への自動解説音声付与の例
          太字:自動解説音声
            NA:番組のナレーション音声

WEBアンケートでは、今のテレビで行われている解説放送についても尋ねました。「解説放送が必要だ」と答えた人は、全盲の人で約8割、ロービジョン(弱視)の人で約5割でした。一方、「解説放送を利用している」という人は、全盲の人で約3割、ロービジョンの人で約2割にとどまりました。利用していない理由を尋ねたところ、特に全盲の人たちで、「以前利用したが、解説放送では内容を十分理解できない」「解説放送を利用したいが家族が嫌がる」という理由を選んだ割合が高くなっていました。

総務省によると、2018年度の解説放送の実績は、NHK総合が16.4%、在京民放5局が16.0%です。字幕放送が90%台後半なのに比べると、普及が進んでいるとは言えません。総務省の報告書では、解説放送の課題として、解説をつける音声の隙間が少ないことや、解説の台本作成や収録時間の確保が難しいことを挙げています。自動で解説音声を作ってつけることができれば、これらの課題の多くは解決できますが、今回のアンケート結果からは、どんな情報を音声にするのか、音声の量と読み上げる速度のバランスをどうするか、などの検討がさらに必要なことが、改めてわかりました。

アンケートの回答からは、自動解説音声を自分のメディア利用のスタイルに合わせて利用したいという声も多くありました。こうした声に応え、スマートフォンで読み上げ速度をカスタマイズできる方法も検討しています。それと同時に、通常の番組制作の過程でも「障害のある人に伝わっているだろうか」と想像力を働かせることも、放送のアクセシビリティーを高めるのに大事なことだと考えます。