文研ブログ

2019年8月 2日

調査あれこれ 2019年08月02日 (金)

#200 認知症ケアに放送アーカイブ

メディア研究部(メディア動向)大髙 崇


気づけば五十路の坂に立つ。令和になっても平成生まれの鼻タレどもにはまだまだ負けぬと威張ったところで,現実は「ほら,あれですよ,あの,ほら,なんだっけ,だからあれだよ,あれあれ,あれだってば」と言っているうちに日が暮れる。

悲嘆している場合ではない。
年金支給年齢が上がったらどうする。まだまだやらねばならぬのだ。

もの忘れ予防,脳力トレーニングは花盛り。同じ思いの仲間が多いということだ。
近頃ではあの麻雀までもが老化防止にいいとマダムたちにも人気らしい。脳はフル回転,おしゃべりも弾み,若返りにはもってこいだろう。麻雀と言えば,かつては昭和の男臭ぷんぷんで,ともすればダーティーなイメージをまとっていたが,今や熟年セレブが「ロン! 国士無双!!」「あちゃー! ハコテンだーーー!」することが奨励される。あの世の阿佐田哲也もびっくりであろう。

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麻雀に負けじと,というわけではないが,放送局がアーカイブする古い映像が,シニア世代の脳を活性化させる取り組みに一役買っていると聞いた。子ども時代の懐かしい思い出を語り合うことは認知症の人のための心理療法のひとつで「回想法」というらしい。古い記憶を呼び戻すためのツールとして,NHKのモノクロ時代のニュースなどが活用されているのだ。まさか認知症ケアに活躍するとは,長く放送局で働く者でもなかなか思いつかなかったことである。ひょうたんから駒。麻雀にたとえれば,リーチのみであがったら裏ドラが乗って跳満,である。

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だが,ただ古い映像なら何でもよい,というわけではないようだ。アーカイブ映像は実に大量だが,ではどのように提供すれば役立ち,喜ばれるのかを探り当てるのは難しい。
テーマを決めて,それに合った映像を集めてコンパクトに編集する必要がある。麻雀でいえば,面子をきれいにそろえましょう,と言ったところか。
映像につける説明のナレーションは少ないほうがいい。字牌はなるべく捨てましょう,か。

とにもかくにも,子ども時代のニュースや番組を見て,平成の鼻タレどもが目を丸くするような昔話を思いっきりしゃべれば,きっと元気が湧いてくるはずだし,「あれ,あれ」を言う回数も減る希望が持てるではないか。

……ということで,「NHK回想法ライブラリー」を事例に,放送アーカイブの可能性をテンパって考えました。「放送研究と調査」2019年7月号に掲載しています(麻雀の話はいっさい出てきません)。ぜひご一読ください!

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