文研ブログ

2018年7月18日

メディアの動き 2018年07月18日 (水)

#136 これからの"放送"はどこに向かうのか? ~進むか?NHKの常時同時配信~

メディア研究部(メディア動向) 村上圭子

7月13日、およそ半年ぶりに総務省で「放送を巡る諸課題に関する検討会(以下、諸課題検)」の親会が開催されました。
諸課題検では、ローカル民放やケーブルテレビの将来像、視聴ログ活用のあり方など、通信・放送融合時代のテレビの未来についてテーマごとに数多くの分科会が設けられて議論されており、これらの分科会をとりまとめて論点をつないでいくのが親会の主な役割です。ただ、NHKに関する議論だけは分科会でなくこの親会で議論されており、今回、第二次取りまとめ案(以下、取りまとめ案)として「新たな時代の公共放送」の項目が示されました。

取りまとめ案の内容については既に多くのメディアが報じているので、目にしている方も少なくないかもしれません。NHKはこれまで諸課題検で、放送と全く同じ内容をインターネットで届ける“常時同時配信”を2019年度から開始したい、そのために必要な放送法の改正をしてほしいと要望し続けてきました。取りまとめ案では、NHKが「常時同時配信を実施することについては、国民・視聴者の理解が得られることを前提に、一定の合理性、妥当性がある」とし、総務省は「制度整備等の対応について具体的な検討を行うべき」との文言が示されました。諸課題検が最初に開催されたのは2015年11月ですから、これまで3年ちかくの間、19回にわたって議論が重ねられた結果、ようやく実施への道筋が見えてきたといえます。

≪NHKの常時同時配信を巡るこれまでの議論については、『放送研究と調査』2017年7月号〈「これからのテレビ」を巡る動向を整理する Vol.10〉(33P) の中でその変遷を一覧表にまとめています。≫

取りまとめ案では、今後の進め方で「常時同時配信の実施に当たって求められる」こととして、下記のような“条件”が示されました。この“条件”は今回突然出てきたものではなく、既に2016年9月の第一次取りまとめの段階で、常時同時配信の実施は単体ではなく「業務・受信料・経営」の“三位一体”改革の中で検討されていくことが不可欠とされていたものが、より具体的な文言として示されたものといえます。ただ、「他事業者との連携・協力等の確保」「見逃し配信」など、ネット活用業務のあり方に関する条件がより明確に示されたこと、そして受信料のあり方の見直しの部分に「水準」という文言が新たに付け加えられたことは、今回の大きなポイントと言えると思います。

136-0718-1.png
 出典:諸課題検・第二次取りまとめ案概要 第1部第3章(※太字も原文のまま)

この取りまとめ案について、構成員から様々な意見が述べられました。印象的だったのは、約半数の構成員から
常時同時配信やネット展開については、NHKと民放が協調・連携して進めてほしい、との声があがっていたことでした。
例えば下記のような意見がありました。
 「動画配信のインフラやプラットフォームなどの共同での整備、アプリの共通化についてNHKと民放各社がそろそろ本気で検討されることを期待したい。特にNHKにはしっかり汗をかいていただきたい
 「NHKのタイミングに見計らって、民放も足並みをそろえて協調領域として体制を整えていただきたい
 「NHKと民放がネット空間の中でどういうふうに信頼できる情報をつくっていくかというのは、業界の問題だけでなく、国民にとっても重要な問題。これまでの垣根、しがらみを外して議論してもらいたい

私はこの諸課題検を第一回から傍聴し続けていますが、実は当初から、常時同時配信やネット展開についてはNHKと民放が共通のプラットフォームで実施することが重要である、という意見が多くの構成員からあがっていました。そのため今回の議論を聞いていてふと、当時と変わらない議論をしているなぁという感覚にも陥りかけました。しかし同時に、思い起こせばこの3年あまりの間、NHKは様々な形で同時配信の実験を重ねてその結果を公表し、民放は実施に向けたビジネス上または民放特有の課題を提示し、時にやや感情的な議論もありながら、それでもなお今回のような議論が行われているということこそを重く受け止めなければならない、と思い直しました。

これからNHKは、視聴者、国民、社会に対し、納得できる改革と未来像を具体的に示していくことが求められます。常時同時配信はその未来像の中の1つにすぎず、いよいよNHKの目指す“公共メディア”とは何なのかが問われてくることになります。そして民放を含めた放送事業者全体としては、信頼できる情報を提供できる空間をいかに協調しながらネット上に構築していけるかを考えていかなければなりません。有識者からは、放送事業者への厳しい批判と共に、社会は今後一層その役割に期待しているとの意見が示されています。こうした期待を事業者はどう形にしていくべきなのか、そのための制度改正はどのような道筋をたどっていくべきなのか、引き続き取材をしていきたいと思っています。