文研ブログ

2017年9月 8日

調査あれこれ 2017年09月08日 (金)

#93 災害発生! 被災地で求められる「生活情報」とは?

メディア研究部(メディア動向) 入江さやか

9月1日の「防災の日」。訓練に参加したり、非常持ち出し袋の中身を点検した人も多いのではないでしょうか。7月には「九州北部豪雨」による災害が発生。今まさにアメリカでもハリケーン「ハービー」で甚大な被害が出ています。日本、いや世界のどこにいても、自然災害のリスクに備えなければならない時代です。

自然災害で、電気・水道・ガスなどのライフラインが断たれたとき、交通手段がなくなったとき、避難生活を余儀なくされたとき――水や食料などの確保はもちろん大事ですが、どこでどのような救援・支援が受けられるのかという「生活情報」が「命綱」になります。

NHK放送文化研究所では、昨年4月の「平成28年熊本地震」で大きな被害を受けた熊本県の熊本市東区、益城町、西原村、南阿蘇村の20歳以上の住民各500人、計2,000人を対象に「熊本地震被災地における住民の情報取得行動に関する世論調査」を実施しました。

地震発生から1か月くらいまでの間に必要だった生活情報」は何かを聞いたところ、4市町村のいずれでも「ライフライン(水道・ガスなど)の復旧見通し」「地震の見通し」が上位を占めました。道路や鉄道が寸断された南阿蘇村では「交通情報」のニーズが高く、役場庁舎が大きな被害を受け、行政機能の回復に時間がかかった益城町では「り災証明の交付」に関する情報が求められていました。しかし、「ライフラインの復旧見通し」については、半数以上の人が「手に入りにくかった」と回答。「食料品が買える店舗」「ガソリンスタンドの営業情報」「洗濯のできる場所(コインランドリーなど)」「介護用品の手に入る場所」などの情報も不足していたという指摘がありました。

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避難所に貼り出された「役場からのお知らせ」
役場庁舎が被災し、り災証明書の発行ができないことなどを告知している。
(2016年4月26日 益城町総合体育館)

情報を入手したツール(情報機器)は自治体によって違いがありました。熊本市東区、西原村では「テレビ(据え置き型)」が最多でしたが、半数を超える住宅が「半壊」以上の被害を受けた(本調査による)益城町では「スマートフォン・携帯電話」、停電が長期化した南阿蘇村では「ラジオ」が多数を占めていました。

2回の震度7の地震の後も活発な地震活動が続いた熊本地震では、自動車の中で寝泊りする「車中泊」の多さも注目を集めました。今回の調査でも各自治体で6~7割の人が車中泊をしていたと回答しています。そのような状況を反映し、カーナビやスマートフォンを使い、ワンセグ放送やインターネット同時配信(ライブストリーミング)でテレビを視聴していた人も少なくありませんでした。

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生活情報を伝えるNHKのデータ放送の画面(2016年4月25日)

熊本地震では、地震発生直後から自治体や放送局、新聞社などがさまざまな媒体を通じて、物資の配布や医療、交通など多様な「生活情報」を発信しました。私も発災後まもなくNHK熊本放送局に入り、生活情報の発信に携わりました。しかし、調査結果からは、多様な情報ニーズに必ずしも応えきれていなかったことがわかりました。情報の「出し手」としてこうした課題に向き合っていきたいと思います。

さて、ここまでブログを読んでくださったあなた。非常持ち出し袋の中に、情報入手のツールは入っていますか?「ラジオと乾電池」だけでなく、スマートフォンや携帯電話の充電器など、複数の手段を確保しておいてください。また、今回の調査で「スマホの充電切れで、端末に登録してある電話番号がわからなくなって困った。手帳に控えておくべきだった」という貴重な教訓を書いてくださった方がいました。いつ起きるかわからない自然災害。被災者の経験を「わがこと」として受け止め、備えておきたいものです。

上記の世論調査の詳細は、「放送研究と調査」2017年9月号に掲載されています。
また、単純集計結果は、こちらからご覧いただけます。