文研ブログ

2016年8月19日

おススメの1本 2016年08月19日 (金)

#40 鬼怒川決壊から1年。大水害から何を学ぶか? ~茨城県常総市における住民調査から~

メディア研究部(メディア動向) 入江さやか

逆巻く濁流の中、電信柱に身を寄せていた男性がヘリコプターで救出される様子を中継したこの場面。記憶されている方も多いのではないでしょうか。

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昨年9月10日、茨城県常総市で鬼怒川が決壊。常総市では市の面積の3分の1が浸水し、4,000人以上が浸水した地域に取り残され、いわゆる「孤立」が問題になりました。NHK放送文化研究所では、避難指示・勧告の対象となっていた地域の住民1,000人を対象に、当時の情報入手や避難行動について面接による世論調査を実施しました。


「指定避難場所」で孤立。せっかく「避難」したのになぜ?
今回の調査に回答した686人のうち、30%に当たる203人が「孤立」状態になりました。孤立した場所は「自宅」が73%で最多。ところが、次に多かったのが、「指定避難場所」で、13%を占めました。調査のデータを読みこんでいくと、「指定避難場所」で孤立したのは、かなり早い段階で避難行動を起こした人たちでした。

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せっかく早い段階で避難したのに、「孤立」してしまったのはなぜか?実は、常総市の「指定避難場所」が浸水想定区域内にあったのです。
常総市は平成21年に「洪水ハザードマップ」を全戸に配布していました。鬼怒川が決壊した場合に浸水が想定される地域が一目でわかります。「マップ」を見れば、避難場所が浸水区域内にあるのは明らか。これを知っていれば、早めに浸水区域の外に避難し、孤立を避けられたかもしれません。
自治体が避難場所を浸水区域内に設置していたことも問題ですが、回答した住民の53%がこの「ハザードマップ」を「見たことがない」と答え、すぐに見られる場所に保管している人はわずか8%でした。災害が起きる前にハザードマップを確認しておくことの有効性・重要性を改めて痛感するデータです。

さてここで、ブログを読んでくださっているあなた。お住まいの地域のハザードマップはお手元にありますか?「どこかにしまってあるはずだけど…」「新聞と一緒に捨てた…」大丈夫です。このサイトに住所を入力すれば、全国のハザードマップが見られます。
「国土交通省ハザードマップポータルサイト」


「孤立」を避ける。「孤立」に備える。
孤立したとき、すぐにヘリコプターやボートで助けてもらえるとは限りません。今回の水害は朝から日中にかけての時間帯に発生し、救出時には風雨も峠を越えていました。これが夜間や暴風雨などの悪条件下であったら、迅速な救出は困難でした。
今回の調査では、孤立した期間は最も長い人で5日間でした。まだ残暑の厳しい9月、もし孤立が長期化していれば、健康面での問題も深刻化したことでしょう。国の中央防災会議が利根川や荒川などの決壊を想定した「首都圏大規模水害」の報告書では、最大で110万人が孤立、浸水は2週間以上も続くといいます。
水害のおそれがあるときには、早い段階で浸水しない地域に「避難」をするのがベストです。その一方で、浸水のおそれのある家庭や職場では、孤立する事態も想定して連絡手段の確保や物資の備蓄をしておくことも重要です。鬼怒川の水害から学ぶべき教訓は数多くあります。

今回ご紹介した常総市住民調査の結果の詳細は、「放送研究と調査」2016年8月号に掲載されています。
また、9月3日に東京大学で開催される日本災害情報学会シンポジウム「鬼怒川水害から1年~情報と避難を考える~」では、水害の当事者のみなさんの証言と併せて、このデータも報告する予定です。詳細は「日本災害情報学会」ホームページをご覧ください。