文研ブログ

2016年5月27日

ことばのはなし 2016年05月27日 (金)

#28 ついに刊行!『NHK日本語発音アクセント新辞典』

メディア研究部(放送用語・表現) 太田眞希恵

突然ですが、
わかめのみそ汁」
と言うとき、みなさんは「わかめ」をどのようなアクセントで発音するでしょうか。
①[ワカメ]  ですか?
②[ワカメ]  ですか?
   ※アクセント記号[]は、音の下がり目を示します。
    上記①は[カ]のうしろで下がる、②は[ワ]のうしろで下がるということ。
    ②[ワカメ]は、サザエさんの妹の「ワカメちゃん」と同じアクセントです。

これまでのNHKアクセント辞典では、この語を[ワカメ, ワカメ]の順で掲載してきました。
しかし、このたび「わかめ」のアクセントを、[ワカメ, ワカメ]の順に掲載した新しいアクセント辞典を出しました。5月26日に刊行となった『NHK日本語発音アクセント辞典』です。

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18年ぶりに大改訂されたこの辞典に『~新辞典』と名付けたのは、いろんなことが新しくなったからこそです。
 ◆アクセント記号(しかも、記号[][]は赤字印刷の、2色刷り)
 ◆見出しの立て方(“国語辞典方式”に)
 ◆実用的、かつ、情報満載の付録

しかし、もっとも注目されるのは、どんな語のアクセントが変更されたのか‥‥‥だと思います。
その1つが「わかめ」です。

『新辞典』で「わかめ」のアクセントを変更するのかどうか。それを判断するために、私たちは調査をおこないました。NHKアナンサーを対象に、「このアクセントは放送でふさわしいか?」について尋ねた調査です。その結果がこちらです。
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 ・[ワカメ]について、「放送でふさわしい」と答えた人は57%
 ・[ワカメ]について、「放送でふさわしい」と答えた人は96%
でした。この調査は、「どちらがふさわしいか?」ではなくて、それぞれのアクセントについて「ふさわしいか」「ふさわしくないか」を尋ねているため、どちらについても「ふさわしい」と答えたアナウンサーもいます。

興味深いのは、回答が、年代によってかなり違うことです。若年層(23~34歳)と中堅層(35~44歳)では[ワカメ]について「ふさわしい」と答えたアナウンサーが100%、[ワカメ]を「ふさわしい」と答えた64%・38%を大幅に上回っています。一方、ベテラン層(45歳以上)では
両方とも75%です。
この結果をもとに、「わかめ」については、掲載するアクセントの順序変更をおこない[ワカメ,ワカメ]と掲載することにしました。
文研・用語班では、このような調査の結果をもとに一語一語判断し、今回の新辞典改訂では、次のような語についてもアクセント変更をおこないました。
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  ※アクセント記号[]は、音の下がり目がない“平板型”であることを示します。
  ※最初に示したアクセントが“1番目に覚えるならこれがおすすめ”という意味、2番目に示したアクセントは“2番目に覚えるならこれがおすすめ”という意味です。


「え~、このアクセントって、今まで載ってなかったの?」という声があちこちから聞こえてきそうです。

アクセントの許容度や抵抗感は、人によって、特に年代によっても大きく違います。そして時代によっても変わります。それゆえに、アクセント辞典の改訂作業が必要になるのです。
「今の時代に、あらゆる年代の人々が見たり聞いたりする放送で使うのにふさわしいことばのアクセント」を載せるため、大規模な調査と慎重な検討を経て作り上げたのが、今回の新しいアクセント辞典です。

実は、アクセント辞典刊行を前に、【NHK文研フォーラム2016】でおこなった研究発表『新・アクセント辞典ポイント解説』では、コメンテーターを務めた“ことばおじさん”こと梅津正樹元NHKアナウンサーが嘆いたり悲しんだり…。会場の皆さんがドキドキ(ワクワク?)するような場面もありました。特に、上記の「護衛艦」の変更に対しては「なんで!!」とひと言。「二次会」の変更に対しては、「[ニジカイ]なんて言う人と一緒に行きたくないですね。私は[ニジカイ]に行きます!」と言う一幕も…。

また、梅津さんと、秀島史香さん(ラジオパーソナリティー、ナレーター)の年代の差(?)が如実に現れる場面もありました。

【NHK文研フォーラム2016】での『新・アクセント辞典ポイント解説』の様子(動画)は、全編を文研HPで公開しています。
これを見れば、新しいアクセント辞典の使い方やポイントがすぐわかるとともに、アクセントをめぐるやりとりに、見る側もドキドキ‥‥‥そんな、緊張感のあるプログラムです。
ぜひご自身の“アクセント観”と照らし合わせながら、果てることのないアツイ議論、じゃなかったアツイ議論をお楽しみください。

▼まずは「1分動画 ~紹介編~」をご覧ください
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▼『新・アクセント辞典ポイント解説』動画(全編)はこちらから
アクセント新辞典のご紹介