文研ブログ

おススメの1本

おススメの1本 2017年08月04日 (金)

#90 メディア利用は特別支援教育の現場でも活発

メディア研究部(番組研究) 小平さち子

6月9日付けのブログ「#82 小学校の教室でよく見られている番組は?」にはお目通しいただけましたでしょうか。日本では学校放送の歴史が長く、現在は放送だけでなくウェブサイト上でも番組が視聴できることや、2016年度には、全国の小学校6年生の担任の先生の6割が『歴史にドキリ』という社会科番組を授業で利用したことなどをお伝えしました。

この調査を行った同じタイミングの2016年10月から12月にかけて、放送文化研究所では、もうひとつ調査を実施していました。それは、特別支援学校(小学部)および小学校の特別支援学級で授業を担当しておられる全国の先生がたを対象としたメディア利用と意識に関する調査です。この調査からも、様々なことが明らかになってきました。

「特別支援学校」や「特別支援学級」では、「通常の学級」の場合と同様、テレビやパソコンをはじめとするメディア機器やインターネット環境が一定程度整っていますが、とくに注目されたのは、特別支援学校の授業でのタブレット端末利用が、通常の学級の場合よりもはるかに浸透していることです。先生だけでなく児童にも利用が広まっています。機器の操作がパソコンより容易で持ち運びも簡単なため、多様な支援を必要とする子どもたち一人一人の学習を豊かにするための有効なツールであるとが認識されているためと思われます。 

90-0804-1.jpg 少人数制の特別支援教育の授業


NHK学校放送(「NHK学校放送番組」やインターネットのサービス「NHKデジタル教材」)の利用に目を向けてみると、『ストレッチマンV(ファイブ)』『スマイル!』などの特別支援教育向けの番組をはじめ、理科・社会等の教科番組、『おかあさんといっしょ』『ピタゴラスイッチ』といった幼児向け番組など、多様な分野の番組が利用されていることがわかりました。

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『ストレッチマンV』
のウェブサイト:番組のストリーミング視聴の他に、「きょうざい」「先生向け」のコンテンツも利用できます。

『ストレッチマンⅤ』は、特別支援教育向け学校放送番組として放送されてきた『ストレッチマン』シリーズの第4作で、2013年から放送中。ストレッチマンと一緒に行うストレッチ体操や遊びを通して、体を動かす喜びを実感し、学習や生活の基礎を楽しく身につけていくことをねらいとした番組です。人を笑わせることや、歌、ダンスなど得意なことが多種多様な5人のストレッチマンが交代で全国の特別支援学校を訪問して、子どもたちと触れ合いながら体操をし、それぞれの得意なことを生かしてストレッチパワーで大活躍しています。
なお、特別支援教育向けテレビ学校放送番組の第一号は、1964年開始の『たのしいきょうしつ』でした。

現在の特別支援教育(2006年までは「特殊教育」と呼ばれていました)の概況、「特別支援学校」や「特別支援学級」の授業におけるメディア利用の詳細、そして「通常の学級」でのメディア利用とはどのような共通点や相違点があるのか等については、『放送研究と調査』8月号に「一人一人の子どもの支援のためのメディア利用~2016年度「特別支援学校(小学部)教師と特別支援学級(小学校)教師のメディア利用と意識に関する調査」から~」と題して報告しています。(ウェブでは、9月に文研ホームページで全文を公開します。)

 

おススメの1本 2017年06月16日 (金)

#83 地域情報を掘り起こす放送局とは

メディア研究部(メディア動向) 関谷道雄

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地方出張時に自身に課していることがあります。各地の放送局のローカル番組を視聴し、地方紙を読むことです。地方紙は東京でも国会図書館などで読めますが、各地の放送局のローカル番組はその地でしか見られません。東京ではなかなか知ることができない各地の話題や地域の問題に触れる。そしてそこに暮らしている人たちと話す。同時代に生きてはいますが、なかなか知り合う機会がない人たちの息吹を体感する一瞬です。

今回の調査は、そうした各地の人たちの息吹を放送局がどれだけ伝えられているだろうかという発想からスタートしました。具体的には各地の放送局がそれぞれの地域の情報をどれだけ発信しているか、つまり、放送局の地域性はどうなっているかという視座です。

ローカル局の地域情報の発信量が十分であるかどうかについては、厳しい見方があります。マンパワーや制作費などの制約があるだけに、やむを得ない側面はあるでしょう。ただ、媒体が異なるので簡単には比較できないものの、地元紙の発信量を下回っている局が多いように思います。

「日本全国どこへ行っても、同じ番組ばかり」という指摘を時折耳にします。要はキー局、つまり東京発の情報がテレビを通じて日本全国にあふれていることを、多くの人たちは実感している、そのように受け止めています。その陰で、地元の情報、地域の問題は逆に見えにくくなっているかもしれません。目を凝らしてそうした情報、問題を探し当て、放送を通じて伝える――。これがローカル局に課せられた使命のはずなのですが。

今回、『放送研究と調査』6月号「“地域性”に回帰する民放ローカル局の可能性」で、地域性に回帰した放送局の新たな可能性を3つの事例をとおして見つめました。いずれも印象的でしたが、個人的に最も記憶に残ったのは山陽放送でした。同社OBの曽根英二氏が取材し、1992年に放送した『おっちゃんの裁判』をかつて視聴した記憶がよみがえったからです。先日、四半世紀を経て横浜の放送ライブラリーで改めて見てみました。“おっちゃん”は岡山市で暮らしていた、ろうあ者の方です。600円の窃盗容疑で生涯後半の20年近い歳月を刑事被告人として生きることを余儀なくされました。このような人は日本全国に大勢いるわけではありません。多数の被害者がいる社会問題とは異なります。しかし、“おっちゃん”のような扱いを受ける人が一人でもいるならば、それは見過ごしてはならない問題です。「メッシュを細かくして、地域の情報を掘り起こし、全国へ問題提起していきたい」という同社の原憲一社長の言葉が心に刻まれました。

おススメの1本 2017年06月02日 (金)

#81 "放送倫理の番人"の10年

メディア研究部(メディア動向) 塩田幸司

BPO(放送倫理・番組向上機構)の3つの委員会のひとつ「放送倫理検証委員会」(以下検証委)が今年5月に10周年を迎えました。下の写真は10周年を記念して3月に開かれたシンポジウムの様子です。シンポジウムでは、検証委の現役委員で映画監督の是枝裕和さんら関係者が、この10年間に放送倫理をめぐってどんな問題が起き、検証委がどう対応をしてきたかを振り返りました。

81-0602-1.jpeg検証委は、『発掘!あるある大辞典Ⅱ』のデータねつ造事件をきっかけに起きた放送規制の動きに対して、放送の自主・自律を守るために、NHKと民放連が2007年5月に自主的に設立した第三者委員会です。ですから検証委は、放送現場から恐れられる放送倫理の番人であると同時に、放送への圧力に対峙しながら萎縮しないように現場を励ますという面も持っているのです。  

検証委は、放送現場で起きた問題について放送倫理違反にあたるかどうかを話し合い、その判断結果を「勧告」「意見」といった「委員会決定」として、その放送局に伝えるとともに公表してきました。この10年間に25件の委員会決定を出しています。この25の決定文を読んでいくと、しばしば既視感に襲われます。それは同じような事案が繰り返し起き、必然的に指摘される問題点も同じようなものになるからです。具体的には、ニュースや報道番組での証言・インタビューが不適当なものや、バラエティ番組で不正確な事実や不適当な演出が行われた例などです。

こうした同じような問題が繰り返される背景には、委員会決定で指摘されても放送現場に十分に届いていないことが考えられますし、指摘されたことが放送現場の構造的な問題にかかわるために一朝一夕に変えることが難しいのかも知れません。いずれにしても検証委にとっても放送界にとっても重要な問題にかかわっています。この既視感にとらわれる問題を中心に委員会決定を分析し、検証委の今後の課題についても考えてみました。

当NHK放送文化研究所編集の『放送研究と調査』5月号に「立体検証・BPO放送倫理検証委員会の10年」としてまとめましたので、ぜひご覧ください。昨日6月1日から、文研ホームページで全文を公開しています。

おススメの1本 2017年04月28日 (金)

#76 月を指さす人の「指」

メディア研究部(メディア史研究) 宮田 章

アーカイブに保管されている過去の膨大な放送番組は、放送局の「財産」だとよく言われます。ただ、これが具体的にどういう価値を持つ「財産」であるかはまだはっきりしません。ここではテレビドキュメンタリーを研究する者の立場から、過去の放送番組が潜在的に持っている価値を十分に引き出す研究とはどんなものか考えてみましょう。

現状、放送番組のアーカイブ研究で数的に主流なのは、「テレビが描いた○○」と名付けられるタイプの研究です。「沖縄戦後史」、「水俣病」、あるいは「高度成長期の東京」といったテーマを立てて、それぞれのテーマに関係する番組(ドキュメンタリーが多くなります)を選び出し、各番組がそのテーマをどのように描いているかを見ます。数十年前の水俣病患者の映像・音声が大きなインパクトを持つなどと今更言うまでもなく、過去の放送番組はこうしたテーマ研究の資料として価値を持っています。

ただし、アーカイブの側から見ると上記のようなテーマ研究は、過去の放送番組を使ってくれる大口の顧客ではあるものの、放送番組が潜在的に持つ価値を十分に引き出してくれているとは言えないところがあります。こうした研究では、放送番組全体からいえばごく一部の番組を選択し、選択した番組の中でもテーマに関係する部分だけをいわば「つまみ食い」するのが普通です。しかも、放送番組は研究の主要な資料ではなく、文書や関係者の証言や統計データといった他の様々な資料の中のone of themであることがしばしばです。また、今のところ映像や音声を資料としてどう扱うかについて定見があるわけではないので、諸資料の中での放送番組のプライオリティは必ずしも高くないでしょう。

76-0428.jpgではどんな研究なら、過去の放送番組がもつ価値をもっと大きく引き出すことができるでしょうか。色々アイデアはあるでしょうが、ここではテーマ研究の「逆張り」を考えてみましょう。つまり、放送番組の外に成立しているテーマの解明を目指して放送番組をそのone of themの資料とするのではなく、放送番組そのものの解明を目指してその番組が関係しているテーマをone of themの資料とするのです。様々な指(メディア)がさし示している月(対象)に重点を置いて研究するのではなく、様々な月をさし示している指の方に重点を置いて研究するわけです。メディア研究としてはこちらの方が普通でしょう。もちろん、「指」の研究は、それがさし示している「月」への言及なしに、あるいはその「指」の持ち主である「人」への言及なしには十分ではないので、「月」や「人」を取り上げないわけではありません。

『放送研究と調査』4月号に掲載した「テレビドキュメンタリーの音声分析」は、一本一本の番組に含まれる特定の種類の音声の量を手掛かりにしてテレビドキュメンタリーという「指」の解明を試みるものです。このやり方だと一部の番組のつまみ食いではなく全てのテレビドキュメンタリーを対象に、その「指」としての基本的なありようを探ることができます。月を指差す人の「指」の解明を目指すこうしたタイプの研究から、アーカイブに眠る放送番組が持っている価値が徐々に現れてくるのではないかと考えています。 

おススメの1本 2017年01月27日 (金)

#62 8Kスーパーハイビジョンの防災活用の可能性

メディア研究部(メディア動向) 山口 勝

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NHKは、世界に先駆けて2016年8月、4K・8Kスーパーハイビジョンの試験放送を始めました。8Kは医療分野での活用が始まっていますが、現行のハイビジョン(2K)の16倍の超高精細映像を、放送はもちろん公共放送の使命の一つである防災分野で生かすことは、8Kを開発した公共メディアとしても重要な課題です。

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(クリックすると大きくなります)

NHKは熊本地震の直後に大きな被害が生じた活断層に沿って8Kカメラで空撮を行いました。その映像を改めて活断層の専門家に分析してもらったところ、地震後の調査で未発見だった地震断層や亀裂が複数見つかり、その成果が10月のNHKスペシャル「活断層の村の苦闘~熊本地震・半年間の記録~」で放送されました。8Kによる災害分析を災害報道、番組制作に活用した初のケースです。

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この熊本地震の取材をもとに「8Kスーパーハイビジョンの防災活用の可能性」という論考を『放送研究と調査』1月号に掲載しました。ぜひご覧ください。
本稿では、リモートセンシングや地理空間情報、災害研究の視点から8Kが防災に有効であることを明らかにしています。 
8K空撮映像は、高度400mから地上に舞う蝶(ちょう)や数センチの亀裂も捉えることができます。空中写真よりも解像度が高く、ドローンより画角が広い特徴があります。亀裂は災害の芽」です地滑りや堤防の決壊は、小さな亀裂から始まります。わずかな亀裂を捉えることができる8Kスーパーハイビジョンは、さまざまな防災での活用が期待されます。一人ひとりの「動き」も見えるため、人命救助や捜索、車中泊・自主避難所の検出に有効です。ヘリコプターからの「斜め撮影」であるため高さ方向の情報が得られ、建物の倒壊状況なども把握でき、画像データから「立体モデル」「災害支援地図」を作ることができます。

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メディアだけでは分析しきれない多くの情報(ビックデータ)を含む8Kを「どう使うのか」。災害報道では、犠牲者の姿を映し出す可能性もあり、報道利用には、「技術開発」とともに「放送文化的検討」が必要です。
興味のあるメディア、防災関係者、そして研究者のみなさん、是非ご一読ください。

おススメの1本 2017年01月20日 (金)

#61 「切迫性を伝え切る」ってどういうこと?

メディア研究部(メディア動向) 福長秀彦

 おととし9月の鬼怒川の氾濫では、多くの人が濁流の中に取り残され、約4,200人がヘリやゴムボートで救助されました。住民に「切迫性を伝え切れなかった」ことが防災上の反省点の一つとされています。切迫性を伝え切れなかったのは何故か?このことをずっと考えてきました。

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 鬼怒川の氾濫から2カ月近くが経ったおととし11月、堤防が決壊した常総市上三坂地区を訪れ、住民の方々から話を伺いました。堤防から溢れた水の流れがいつの間にか激しく波打ち、渦を巻くような様相に変わっていたこと、堤防の上で決壊の瞬間を目撃し、慌てて逃げようとしたものの、濁流に呑みこまれてしまったことなど、衝撃的な話を数多く聞きました。住民の多くは、まさか自宅近くの堤防が決壊するとは思ってもいませんでした。

 堤防が決壊した原因は、川の水が堤防を乗り越えて(越水)住宅地側の土手をえぐり崩していく越水破堤が起きたためでした。越水したからといって、必ずしも堤防が決壊するとは限りませんが、越水すれば決壊の危険性が増すことになります。堤防決壊で一番多いのが、この越水破堤です。これらは河川工学や災害の専門家にとっては当たり前のことですが、一般の人びとにとっても常識と言えるでしょうか?私は越水破堤のことは全く知りませんでした。

 私が抱いた素朴な疑問は「越水すれば決壊の危険性が増すことを住民は知らされていたのだろうか」でした。「堤防が決壊するまで人びとがその危険に気づかないのはまずい。切迫性を伝えるのであれば、最悪のリスクを知ってもらう必要がある」と思いました。こうした疑問と考えを出発点に最初に書いたのが、鬼怒川の越水破堤を対象にした事例研究「堤防決壊と緊急時コミュニケーション」(「放送研究と調査」(2016年2月号)に掲載)です。

 川沿いなどで浸水のおそれがある地域では、越水する前に立ち退き避難することが最も重要なのですが、過去の水害をみると、越水しても逃げない人が多いのが現実です。中には越水の様子を見に行ったりする人もいます。ですから、越水から決壊までの限られた時間に、人びとに決壊の危険性を伝え、近くの頑丈な建物の2階以上に上がることなど適切に身を守るよう呼びかけることも、切迫性を伝える上で重要だと思います。

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 鬼怒川の事例では、越水から決壊まで1時間40分のタイムラグがありましたが、そもそも、一般的にタイムラグはどの位あるのでしょうか?鬼怒川の氾濫の後、国土交通省は越水しても決壊しにくい構造に堤防を補強する危機管理型ハード対策の導入を進めていますが、これによってどの位タイムラグを引き延ばすことができるのでしょうか?タイムラグを生かして切迫性を伝え切るために、情報はどうあるべきなのでしょうか?こうした疑問をもとに続編として書き上げたのが「越水破堤のタイムラグと緊急時コミュニケーション」で、「放送調査と研究」の最新号(2017年1月号)に掲載されています。

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 私はNHK報道のOBで、テレビニュースのエディター(編集責任者)をしていたことがあります。台風や低気圧が接近して重大な災害が起きるおそれがあるときには番組を中断して特設ニュースを長時間・繰り返し放送し、警報や洪水予報などを伝えてきましたが、早めに避難しないで被災してしまう方々も多く、切迫性を伝えることの難しさをいつも痛感していました。文研で緊急時コミュニケーションの研究をするようになったのも、そのためです。
 「切迫性を伝え切る」ことについて、今後も私なりに考えていきたいと思っています。

おススメの1本 2016年12月09日 (金)

#57 障害者スポーツを、共生社会の窓口のひとつに

メディア研究部(メディア動向) 山田 潔

今年9月、リオ五輪に続いて障害者スポーツの祭典、パラリンピックが開催されました。
中継やニュース等いろいろなメディアが取り上げたので、目にされた方も多いのではないでしょうか。

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障害者がスポーツに打ち込む姿を、どのように見て、どのようなことを感じられましたか?
「障害があっても頑張ってるね。私もがんばらなきゃ。」
「結構、スポーツじゃん!」
「日本がんばれ!」
「スポーツはオリンピックだけで十分。」 などなど

いろんな、見方、感じ方があると思います。

パラリンピックには、「パラスポーツを通じて、よりインクルーシブな社会(障害者も健常者も共に生きる社会)を創出する」という視点があります。スポーツを通して、共に生きるという理念を肌感覚にしていこうということです。こうしたムーブメントには、お茶の間に直接届く放送の役割が大きいのではないかと思います。
リオを終え、2020年に向けた取り組みが加速していくこの時点で、放送が「障害者」「障害者スポーツ」といったテーマとこれまでどう向き合ってきたのか、そして、その現在地がどこにあるのかを、今後に向けて俯瞰してみました。取りまとめた小論を「放送研究と調査」12月号に掲載しています。
取材で立ち寄った社会福祉法人「太陽の家」で、1964年の東京パラリンピックの牽引者であった中村裕博士が開発した「和室用車いす」と出会いました。畳が傷まないようにとタイヤを幅広にしたものです。障害のある相手を1人の生活者として見る視線こそ、共生社会への鍵のように感じています。

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2020年の東京大会に向けて、パラリンピアンや競技を取り上げた講演や放送、そして障害者スポーツの体験イベント等の取り組みが各地で行われます。NHKでも、オリンピックとともにパラリンピックについてもさまざまな取り組みを行っていきます。
どこかで見かけたら、参加してみませんか。障害者スポーツにちょっと触れてみて、放送も楽しんでみませんか。そして、12月号の「障害者スポーツと放送」も読んでいただけるとうれしいです。

実は、筆者自身、ポリオの後遺症で松葉づえを使う障害者です。これまでスポーツとは縁遠い生活でしたが、きつくなったズボンが、スポーツをやれと言っています。
パラリンピアンにはなれないとしても、スポーツセンターに行って見ようかな。
気持ちよく受け入れてもらえるといいな。
誰かとつながれるともっといいな。

おススメの1本 2016年08月19日 (金)

#40 鬼怒川決壊から1年。大水害から何を学ぶか? ~茨城県常総市における住民調査から~

メディア研究部(メディア動向) 入江さやか

逆巻く濁流の中、電信柱に身を寄せていた男性がヘリコプターで救出される様子を中継したこの場面。記憶されている方も多いのではないでしょうか。

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昨年9月10日、茨城県常総市で鬼怒川が決壊。常総市では市の面積の3分の1が浸水し、4,000人以上が浸水した地域に取り残され、いわゆる「孤立」が問題になりました。NHK放送文化研究所では、避難指示・勧告の対象となっていた地域の住民1,000人を対象に、当時の情報入手や避難行動について面接による世論調査を実施しました。


「指定避難場所」で孤立。せっかく「避難」したのになぜ?
今回の調査に回答した686人のうち、30%に当たる203人が「孤立」状態になりました。孤立した場所は「自宅」が73%で最多。ところが、次に多かったのが、「指定避難場所」で、13%を占めました。調査のデータを読みこんでいくと、「指定避難場所」で孤立したのは、かなり早い段階で避難行動を起こした人たちでした。

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せっかく早い段階で避難したのに、「孤立」してしまったのはなぜか?実は、常総市の「指定避難場所」が浸水想定区域内にあったのです。
常総市は平成21年に「洪水ハザードマップ」を全戸に配布していました。鬼怒川が決壊した場合に浸水が想定される地域が一目でわかります。「マップ」を見れば、避難場所が浸水区域内にあるのは明らか。これを知っていれば、早めに浸水区域の外に避難し、孤立を避けられたかもしれません。
自治体が避難場所を浸水区域内に設置していたことも問題ですが、回答した住民の53%がこの「ハザードマップ」を「見たことがない」と答え、すぐに見られる場所に保管している人はわずか8%でした。災害が起きる前にハザードマップを確認しておくことの有効性・重要性を改めて痛感するデータです。

さてここで、ブログを読んでくださっているあなた。お住まいの地域のハザードマップはお手元にありますか?「どこかにしまってあるはずだけど…」「新聞と一緒に捨てた…」大丈夫です。このサイトに住所を入力すれば、全国のハザードマップが見られます。
「国土交通省ハザードマップポータルサイト」


「孤立」を避ける。「孤立」に備える。
孤立したとき、すぐにヘリコプターやボートで助けてもらえるとは限りません。今回の水害は朝から日中にかけての時間帯に発生し、救出時には風雨も峠を越えていました。これが夜間や暴風雨などの悪条件下であったら、迅速な救出は困難でした。
今回の調査では、孤立した期間は最も長い人で5日間でした。まだ残暑の厳しい9月、もし孤立が長期化していれば、健康面での問題も深刻化したことでしょう。国の中央防災会議が利根川や荒川などの決壊を想定した「首都圏大規模水害」の報告書では、最大で110万人が孤立、浸水は2週間以上も続くといいます。
水害のおそれがあるときには、早い段階で浸水しない地域に「避難」をするのがベストです。その一方で、浸水のおそれのある家庭や職場では、孤立する事態も想定して連絡手段の確保や物資の備蓄をしておくことも重要です。鬼怒川の水害から学ぶべき教訓は数多くあります。

今回ご紹介した常総市住民調査の結果の詳細は、「放送研究と調査」2016年8月号に掲載されています。
また、9月3日に東京大学で開催される日本災害情報学会シンポジウム「鬼怒川水害から1年~情報と避難を考える~」では、水害の当事者のみなさんの証言と併せて、このデータも報告する予定です。詳細は「日本災害情報学会」ホームページをご覧ください。

おススメの1本 2016年04月28日 (木)

#24 "テレビを作った"ディレクター

メディア研究部 中尾益巳

テレビディレクターとは、「テレビ番組を作る」のが仕事ですが、何とテレビそのものを作ってしまったディレクターがいました。我々の先輩であり、80歳の今も現役でディレクターの仕事をしている、相田洋(あいだ・ゆたか)さんです。

0428-1.jpg 博物館を回る相田さん

1月末にリニューアルオープンしたNHK放送博物館(東京・港区愛宕)。このブログでも何度か紹介してきましたが、その新しくなった展示内容は
「放送研究と調査」4月号にカラーグラビアも使って特集しています。そしてその特集の中で、博物館を観覧しながら放送の歴史についてうんちくを語ってくれたのが、相田洋さんです。

相田さんは1960年にNHKに入局、ラジオとテレビの両方でたくさんのドキュメンタリー番組を作り続けてきました。相田さんの名前は知らなくても、この番組を覚えている方は多いのではないでしょうか?

0428-2.jpg NHKスペシャル「電子立国日本の自叙伝」(1991年)

この番組の中で相田さんは、ディレクターとしては珍しく堂々と画面に登場し、番組の進行役を務めました。聞き手である三宅民夫アナウンサーに、真空管やトランジスターから当時最新のマイクロプロセッサーまで、半導体産業の歴史と科学者、技術者たちのドラマを語ったのです。そして、続編のシリーズ「新・電子立国」ではビル・ゲイツやスティーブ・ジョブズたちが開発したコンピューターソフトウェアの世界をわかりやすく見せてくれました。

このように電子技術の発展に強い興味と知識を持つ相田さん。実は元々エンジニア志望だったとか。今回、博物館の特集のため、私は相田さんと一緒に館内の展示を見て回ったのですが、相田さんが嬉しそうに話す「子どもの頃、鉱石ラジオを作った」「大学生の頃、テープレコーダーを作った」そしてなんと「ブラウン管のテレビを作って家族で見ていた」という思い出話にはびっくりさせられました。テレビ放送が始まった当時、受像機(という言葉はわからない人もいるかもしれませんが、要するにテレビです)は非常に高価だったため、自作できるキットが売られていたそうなのです。

そして本業のディレクターとしても“手作りエンジニア”熱は高まります。1984年に放送された話題作「NHK特集 核戦争後の地球」では、東京やパリの街が核爆弾で消滅する映像を作るため、完全な手作りの特撮を行ったそうです。今ではVFXでどんな映像でも作れますが、テレビ番組ではCGなどほとんど使えなかったその時代に、まったくアナログな日曜大工的工作で、迫力と恐怖感満点の爆発映像を作ったのです。そしてその時の資料は博物館に展示もされています。

そんな相田さんのうんちくが止まらない放送博物館の特集記事は
こちらから。5月1日からは全文公開されます。そして、博物館は大型連休の間は休みなく開館していますので、お時間がある方は新緑の愛宕山に遊びに来てください。

                             
                                       

NHK放送博物館

休館日    :原則として月曜日、年末年始 ※5月の大型連休中は休みなし
入場料    :無料
開館時間:9:30 - 16:30
所在地    :東京都港区愛宕2-1-1 

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(ホームページはこちら)  
                                               

 


おススメの1本 2016年04月22日 (金)

#23 <映像>を<文章>で表現できますか?

メディア研究部(番組研究)宇治橋祐之

テレビで見たニュースやドラマの内容について、見ていない家族や友人に「こんな事件が起きていた」とか「あのシーンがよかった!」と話す機会は日常的にあるのではないでしょうか。番組で見た<映像><言葉>にするのは、そんなに難しくはなさそうです。
では、<映像>を「限られた時間」、「限られた字数」で<文章>にするのはどうでしょうか。
昨年12月、東京都北区立豊川小学校の佐藤和紀先生は、小学校6年生の国語の授業で、「映像を文章で表現する力」を育てる授業をしました。
題材に使っているのは、小学校の授業でよく利用されている、NHK for Schoolというウェブサイト。2000本以上の番組、7000本以上の1-2分の動画クリップを公開しています。

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NHK for School  
www.nhk.or.jp/school


たとえば、「生き物の1年」(理科),「関が原の戦い」(社会科)など、学校で学ぶことがこのウェブサイトの映像を見ることでわかります。
佐藤先生はこうした映像を国語の時間に、「限られた時間」、「限られた字数」で表現することで、情報を読み取り文章で表現する力をつけようとしました。映像を見たあと文章に書く時間は3分間。字数は100字以内です。

もし時間があったらみなさんもやってみてください。題材は「広島と長崎」という2分3秒の映像です。画像の下のタイトルをクリックすると動画が見られます。
繰り返しますが、映像を見た後、3分間で、100字以内です。

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広島と長崎

さて、いかがでしたでしょうか。3分間で100字以内にまとめられたでしょうか。

0422-3.pngこちらは、3か月間、この授業を受けた6年生が書いた文章です。

「1945年8月6日、広島市に原爆が落ちた。一瞬で焼け野原になった。鉄骨がむき出しになった原爆ドームは世界遺産。8月9日は長崎市に原爆が落ちた。8月9日には様々な平和行事が長崎で行われている。」

全部で95字。元の映像を見るとわかりますが、的確に内容をまとめています。
佐藤先生によると、3か月間続けた結果、最初は平均すると50字程度しか書けなかった子どもたちが80 字程度で映像を要約して表現できるようになったとのこと。毎回、自分の書いた文章を隣の子に読み聞かせて、わかりやすいかどうか確認したことで効果が高まったそうです。




 

 
放送文化研究所では、番組を「見て学ぶ」だけでなく、「使って学ぶ」全国各地の試みについて調査や研究をしています。全国の小学校の番組利用の様子については、「放送研究と調査」2015年6月号に掲載されています