文研ブログ

おススメの1本

おススメの1本 2017年04月28日 (金)

#76 月を指さす人の「指」

メディア研究部(メディア史研究) 宮田 章

アーカイブに保管されている過去の膨大な放送番組は、放送局の「財産」だとよく言われます。ただ、これが具体的にどういう価値を持つ「財産」であるかはまだはっきりしません。ここではテレビドキュメンタリーを研究する者の立場から、過去の放送番組が潜在的に持っている価値を十分に引き出す研究とはどんなものか考えてみましょう。

現状、放送番組のアーカイブ研究で数的に主流なのは、「テレビが描いた○○」と名付けられるタイプの研究です。「沖縄戦後史」、「水俣病」、あるいは「高度成長期の東京」といったテーマを立てて、それぞれのテーマに関係する番組(ドキュメンタリーが多くなります)を選び出し、各番組がそのテーマをどのように描いているかを見ます。数十年前の水俣病患者の映像・音声が大きなインパクトを持つなどと今更言うまでもなく、過去の放送番組はこうしたテーマ研究の資料として価値を持っています。

ただし、アーカイブの側から見ると上記のようなテーマ研究は、過去の放送番組を使ってくれる大口の顧客ではあるものの、放送番組が潜在的に持つ価値を十分に引き出してくれているとは言えないところがあります。こうした研究では、放送番組全体からいえばごく一部の番組を選択し、選択した番組の中でもテーマに関係する部分だけをいわば「つまみ食い」するのが普通です。しかも、放送番組は研究の主要な資料ではなく、文書や関係者の証言や統計データといった他の様々な資料の中のone of themであることがしばしばです。また、今のところ映像や音声を資料としてどう扱うかについて定見があるわけではないので、諸資料の中での放送番組のプライオリティは必ずしも高くないでしょう。

76-0428.jpgではどんな研究なら、過去の放送番組がもつ価値をもっと大きく引き出すことができるでしょうか。色々アイデアはあるでしょうが、ここではテーマ研究の「逆張り」を考えてみましょう。つまり、放送番組の外に成立しているテーマの解明を目指して放送番組をそのone of themの資料とするのではなく、放送番組そのものの解明を目指してその番組が関係しているテーマをone of themの資料とするのです。様々な指(メディア)がさし示している月(対象)に重点を置いて研究するのではなく、様々な月をさし示している指の方に重点を置いて研究するわけです。メディア研究としてはこちらの方が普通でしょう。もちろん、「指」の研究は、それがさし示している「月」への言及なしに、あるいはその「指」の持ち主である「人」への言及なしには十分ではないので、「月」や「人」を取り上げないわけではありません。

『放送研究と調査』4月号に掲載した「テレビドキュメンタリーの音声分析」は、一本一本の番組に含まれる特定の種類の音声の量を手掛かりにしてテレビドキュメンタリーという「指」の解明を試みるものです。このやり方だと一部の番組のつまみ食いではなく全てのテレビドキュメンタリーを対象に、その「指」としての基本的なありようを探ることができます。月を指差す人の「指」の解明を目指すこうしたタイプの研究から、アーカイブに眠る放送番組が持っている価値が徐々に現れてくるのではないかと考えています。 

おススメの1本 2017年01月27日 (金)

#62 8Kスーパーハイビジョンの防災活用の可能性

メディア研究部(メディア動向) 山口 勝

62-0127-1.jpeg

NHKは、世界に先駆けて2016年8月、4K・8Kスーパーハイビジョンの試験放送を始めました。8Kは医療分野での活用が始まっていますが、現行のハイビジョン(2K)の16倍の超高精細映像を、放送はもちろん公共放送の使命の一つである防災分野で生かすことは、8Kを開発した公共メディアとしても重要な課題です。

62-0127-2.jpeg
(クリックすると大きくなります)

NHKは熊本地震の直後に大きな被害が生じた活断層に沿って8Kカメラで空撮を行いました。その映像を改めて活断層の専門家に分析してもらったところ、地震後の調査で未発見だった地震断層や亀裂が複数見つかり、その成果が10月のNHKスペシャル「活断層の村の苦闘~熊本地震・半年間の記録~」で放送されました。8Kによる災害分析を災害報道、番組制作に活用した初のケースです。

62-0127-3.png 62-0127-4.png

この熊本地震の取材をもとに「8Kスーパーハイビジョンの防災活用の可能性」という論考を『放送研究と調査』1月号に掲載しました。ぜひご覧ください。
本稿では、リモートセンシングや地理空間情報、災害研究の視点から8Kが防災に有効であることを明らかにしています。 
8K空撮映像は、高度400mから地上に舞う蝶(ちょう)や数センチの亀裂も捉えることができます。空中写真よりも解像度が高く、ドローンより画角が広い特徴があります。亀裂は災害の芽」です地滑りや堤防の決壊は、小さな亀裂から始まります。わずかな亀裂を捉えることができる8Kスーパーハイビジョンは、さまざまな防災での活用が期待されます。一人ひとりの「動き」も見えるため、人命救助や捜索、車中泊・自主避難所の検出に有効です。ヘリコプターからの「斜め撮影」であるため高さ方向の情報が得られ、建物の倒壊状況なども把握でき、画像データから「立体モデル」「災害支援地図」を作ることができます。

62-0127-5.jpeg 62-0127-6.jpeg

メディアだけでは分析しきれない多くの情報(ビックデータ)を含む8Kを「どう使うのか」。災害報道では、犠牲者の姿を映し出す可能性もあり、報道利用には、「技術開発」とともに「放送文化的検討」が必要です。
興味のあるメディア、防災関係者、そして研究者のみなさん、是非ご一読ください。

おススメの1本 2017年01月20日 (金)

#61 「切迫性を伝え切る」ってどういうこと?

メディア研究部(メディア動向) 福長秀彦

 おととし9月の鬼怒川の氾濫では、多くの人が濁流の中に取り残され、約4,200人がヘリやゴムボートで救助されました。住民に「切迫性を伝え切れなかった」ことが防災上の反省点の一つとされています。切迫性を伝え切れなかったのは何故か?このことをずっと考えてきました。

61-0120-1.jpg

 鬼怒川の氾濫から2カ月近くが経ったおととし11月、堤防が決壊した常総市上三坂地区を訪れ、住民の方々から話を伺いました。堤防から溢れた水の流れがいつの間にか激しく波打ち、渦を巻くような様相に変わっていたこと、堤防の上で決壊の瞬間を目撃し、慌てて逃げようとしたものの、濁流に呑みこまれてしまったことなど、衝撃的な話を数多く聞きました。住民の多くは、まさか自宅近くの堤防が決壊するとは思ってもいませんでした。

 堤防が決壊した原因は、川の水が堤防を乗り越えて(越水)住宅地側の土手をえぐり崩していく越水破堤が起きたためでした。越水したからといって、必ずしも堤防が決壊するとは限りませんが、越水すれば決壊の危険性が増すことになります。堤防決壊で一番多いのが、この越水破堤です。これらは河川工学や災害の専門家にとっては当たり前のことですが、一般の人びとにとっても常識と言えるでしょうか?私は越水破堤のことは全く知りませんでした。

 私が抱いた素朴な疑問は「越水すれば決壊の危険性が増すことを住民は知らされていたのだろうか」でした。「堤防が決壊するまで人びとがその危険に気づかないのはまずい。切迫性を伝えるのであれば、最悪のリスクを知ってもらう必要がある」と思いました。こうした疑問と考えを出発点に最初に書いたのが、鬼怒川の越水破堤を対象にした事例研究「堤防決壊と緊急時コミュニケーション」(「放送研究と調査」(2016年2月号)に掲載)です。

 川沿いなどで浸水のおそれがある地域では、越水する前に立ち退き避難することが最も重要なのですが、過去の水害をみると、越水しても逃げない人が多いのが現実です。中には越水の様子を見に行ったりする人もいます。ですから、越水から決壊までの限られた時間に、人びとに決壊の危険性を伝え、近くの頑丈な建物の2階以上に上がることなど適切に身を守るよう呼びかけることも、切迫性を伝える上で重要だと思います。

61-0120-2.png

 鬼怒川の事例では、越水から決壊まで1時間40分のタイムラグがありましたが、そもそも、一般的にタイムラグはどの位あるのでしょうか?鬼怒川の氾濫の後、国土交通省は越水しても決壊しにくい構造に堤防を補強する危機管理型ハード対策の導入を進めていますが、これによってどの位タイムラグを引き延ばすことができるのでしょうか?タイムラグを生かして切迫性を伝え切るために、情報はどうあるべきなのでしょうか?こうした疑問をもとに続編として書き上げたのが「越水破堤のタイムラグと緊急時コミュニケーション」で、「放送調査と研究」の最新号(2017年1月号)に掲載されています。

61-0120-3.jpg

 私はNHK報道のOBで、テレビニュースのエディター(編集責任者)をしていたことがあります。台風や低気圧が接近して重大な災害が起きるおそれがあるときには番組を中断して特設ニュースを長時間・繰り返し放送し、警報や洪水予報などを伝えてきましたが、早めに避難しないで被災してしまう方々も多く、切迫性を伝えることの難しさをいつも痛感していました。文研で緊急時コミュニケーションの研究をするようになったのも、そのためです。
 「切迫性を伝え切る」ことについて、今後も私なりに考えていきたいと思っています。

おススメの1本 2016年12月09日 (金)

#57 障害者スポーツを、共生社会の窓口のひとつに

メディア研究部(メディア動向) 山田 潔

今年9月、リオ五輪に続いて障害者スポーツの祭典、パラリンピックが開催されました。
中継やニュース等いろいろなメディアが取り上げたので、目にされた方も多いのではないでしょうか。

57-1209-1.jpg 57-1209-2.jpg

障害者がスポーツに打ち込む姿を、どのように見て、どのようなことを感じられましたか?
「障害があっても頑張ってるね。私もがんばらなきゃ。」
「結構、スポーツじゃん!」
「日本がんばれ!」
「スポーツはオリンピックだけで十分。」 などなど

いろんな、見方、感じ方があると思います。

パラリンピックには、「パラスポーツを通じて、よりインクルーシブな社会(障害者も健常者も共に生きる社会)を創出する」という視点があります。スポーツを通して、共に生きるという理念を肌感覚にしていこうということです。こうしたムーブメントには、お茶の間に直接届く放送の役割が大きいのではないかと思います。
リオを終え、2020年に向けた取り組みが加速していくこの時点で、放送が「障害者」「障害者スポーツ」といったテーマとこれまでどう向き合ってきたのか、そして、その現在地がどこにあるのかを、今後に向けて俯瞰してみました。取りまとめた小論を「放送研究と調査」12月号に掲載しています。
取材で立ち寄った社会福祉法人「太陽の家」で、1964年の東京パラリンピックの牽引者であった中村裕博士が開発した「和室用車いす」と出会いました。畳が傷まないようにとタイヤを幅広にしたものです。障害のある相手を1人の生活者として見る視線こそ、共生社会への鍵のように感じています。

57-1209-3333.png

2020年の東京大会に向けて、パラリンピアンや競技を取り上げた講演や放送、そして障害者スポーツの体験イベント等の取り組みが各地で行われます。NHKでも、オリンピックとともにパラリンピックについてもさまざまな取り組みを行っていきます。
どこかで見かけたら、参加してみませんか。障害者スポーツにちょっと触れてみて、放送も楽しんでみませんか。そして、12月号の「障害者スポーツと放送」も読んでいただけるとうれしいです。

実は、筆者自身、ポリオの後遺症で松葉づえを使う障害者です。これまでスポーツとは縁遠い生活でしたが、きつくなったズボンが、スポーツをやれと言っています。
パラリンピアンにはなれないとしても、スポーツセンターに行って見ようかな。
気持ちよく受け入れてもらえるといいな。
誰かとつながれるともっといいな。

おススメの1本 2016年08月19日 (金)

#40 鬼怒川決壊から1年。大水害から何を学ぶか? ~茨城県常総市における住民調査から~

メディア研究部(メディア動向) 入江さやか

逆巻く濁流の中、電信柱に身を寄せていた男性がヘリコプターで救出される様子を中継したこの場面。記憶されている方も多いのではないでしょうか。

40-0819-1.png

昨年9月10日、茨城県常総市で鬼怒川が決壊。常総市では市の面積の3分の1が浸水し、4,000人以上が浸水した地域に取り残され、いわゆる「孤立」が問題になりました。NHK放送文化研究所では、避難指示・勧告の対象となっていた地域の住民1,000人を対象に、当時の情報入手や避難行動について面接による世論調査を実施しました。


「指定避難場所」で孤立。せっかく「避難」したのになぜ?
今回の調査に回答した686人のうち、30%に当たる203人が「孤立」状態になりました。孤立した場所は「自宅」が73%で最多。ところが、次に多かったのが、「指定避難場所」で、13%を占めました。調査のデータを読みこんでいくと、「指定避難場所」で孤立したのは、かなり早い段階で避難行動を起こした人たちでした。

 40-0819-222.png 40-0819-33333.png

せっかく早い段階で避難したのに、「孤立」してしまったのはなぜか?実は、常総市の「指定避難場所」が浸水想定区域内にあったのです。
常総市は平成21年に「洪水ハザードマップ」を全戸に配布していました。鬼怒川が決壊した場合に浸水が想定される地域が一目でわかります。「マップ」を見れば、避難場所が浸水区域内にあるのは明らか。これを知っていれば、早めに浸水区域の外に避難し、孤立を避けられたかもしれません。
自治体が避難場所を浸水区域内に設置していたことも問題ですが、回答した住民の53%がこの「ハザードマップ」を「見たことがない」と答え、すぐに見られる場所に保管している人はわずか8%でした。災害が起きる前にハザードマップを確認しておくことの有効性・重要性を改めて痛感するデータです。

さてここで、ブログを読んでくださっているあなた。お住まいの地域のハザードマップはお手元にありますか?「どこかにしまってあるはずだけど…」「新聞と一緒に捨てた…」大丈夫です。このサイトに住所を入力すれば、全国のハザードマップが見られます。
「国土交通省ハザードマップポータルサイト」


「孤立」を避ける。「孤立」に備える。
孤立したとき、すぐにヘリコプターやボートで助けてもらえるとは限りません。今回の水害は朝から日中にかけての時間帯に発生し、救出時には風雨も峠を越えていました。これが夜間や暴風雨などの悪条件下であったら、迅速な救出は困難でした。
今回の調査では、孤立した期間は最も長い人で5日間でした。まだ残暑の厳しい9月、もし孤立が長期化していれば、健康面での問題も深刻化したことでしょう。国の中央防災会議が利根川や荒川などの決壊を想定した「首都圏大規模水害」の報告書では、最大で110万人が孤立、浸水は2週間以上も続くといいます。
水害のおそれがあるときには、早い段階で浸水しない地域に「避難」をするのがベストです。その一方で、浸水のおそれのある家庭や職場では、孤立する事態も想定して連絡手段の確保や物資の備蓄をしておくことも重要です。鬼怒川の水害から学ぶべき教訓は数多くあります。

今回ご紹介した常総市住民調査の結果の詳細は、「放送研究と調査」2016年8月号に掲載されています。
また、9月3日に東京大学で開催される日本災害情報学会シンポジウム「鬼怒川水害から1年~情報と避難を考える~」では、水害の当事者のみなさんの証言と併せて、このデータも報告する予定です。詳細は「日本災害情報学会」ホームページをご覧ください。

おススメの1本 2016年04月28日 (木)

#24 "テレビを作った"ディレクター

メディア研究部 中尾益巳

テレビディレクターとは、「テレビ番組を作る」のが仕事ですが、何とテレビそのものを作ってしまったディレクターがいました。我々の先輩であり、80歳の今も現役でディレクターの仕事をしている、相田洋(あいだ・ゆたか)さんです。

0428-1.jpg 博物館を回る相田さん

1月末にリニューアルオープンしたNHK放送博物館(東京・港区愛宕)。このブログでも何度か紹介してきましたが、その新しくなった展示内容は
「放送研究と調査」4月号にカラーグラビアも使って特集しています。そしてその特集の中で、博物館を観覧しながら放送の歴史についてうんちくを語ってくれたのが、相田洋さんです。

相田さんは1960年にNHKに入局、ラジオとテレビの両方でたくさんのドキュメンタリー番組を作り続けてきました。相田さんの名前は知らなくても、この番組を覚えている方は多いのではないでしょうか?

0428-2.jpg NHKスペシャル「電子立国日本の自叙伝」(1991年)

この番組の中で相田さんは、ディレクターとしては珍しく堂々と画面に登場し、番組の進行役を務めました。聞き手である三宅民夫アナウンサーに、真空管やトランジスターから当時最新のマイクロプロセッサーまで、半導体産業の歴史と科学者、技術者たちのドラマを語ったのです。そして、続編のシリーズ「新・電子立国」ではビル・ゲイツやスティーブ・ジョブズたちが開発したコンピューターソフトウェアの世界をわかりやすく見せてくれました。

このように電子技術の発展に強い興味と知識を持つ相田さん。実は元々エンジニア志望だったとか。今回、博物館の特集のため、私は相田さんと一緒に館内の展示を見て回ったのですが、相田さんが嬉しそうに話す「子どもの頃、鉱石ラジオを作った」「大学生の頃、テープレコーダーを作った」そしてなんと「ブラウン管のテレビを作って家族で見ていた」という思い出話にはびっくりさせられました。テレビ放送が始まった当時、受像機(という言葉はわからない人もいるかもしれませんが、要するにテレビです)は非常に高価だったため、自作できるキットが売られていたそうなのです。

そして本業のディレクターとしても“手作りエンジニア”熱は高まります。1984年に放送された話題作「NHK特集 核戦争後の地球」では、東京やパリの街が核爆弾で消滅する映像を作るため、完全な手作りの特撮を行ったそうです。今ではVFXでどんな映像でも作れますが、テレビ番組ではCGなどほとんど使えなかったその時代に、まったくアナログな日曜大工的工作で、迫力と恐怖感満点の爆発映像を作ったのです。そしてその時の資料は博物館に展示もされています。

そんな相田さんのうんちくが止まらない放送博物館の特集記事は
こちらから。5月1日からは全文公開されます。そして、博物館は大型連休の間は休みなく開館していますので、お時間がある方は新緑の愛宕山に遊びに来てください。

                             
                                       

NHK放送博物館

休館日    :原則として月曜日、年末年始 ※5月の大型連休中は休みなし
入場料    :無料
開館時間:9:30 - 16:30
所在地    :東京都港区愛宕2-1-1 

       0128-chizu.gif
(ホームページはこちら)  
                                               

 


おススメの1本 2016年04月22日 (金)

#23 <映像>を<文章>で表現できますか?

メディア研究部(番組研究)宇治橋祐之

テレビで見たニュースやドラマの内容について、見ていない家族や友人に「こんな事件が起きていた」とか「あのシーンがよかった!」と話す機会は日常的にあるのではないでしょうか。番組で見た<映像><言葉>にするのは、そんなに難しくはなさそうです。
では、<映像>を「限られた時間」、「限られた字数」で<文章>にするのはどうでしょうか。
昨年12月、東京都北区立豊川小学校の佐藤和紀先生は、小学校6年生の国語の授業で、「映像を文章で表現する力」を育てる授業をしました。
題材に使っているのは、小学校の授業でよく利用されている、NHK for Schoolというウェブサイト。2000本以上の番組、7000本以上の1-2分の動画クリップを公開しています。

0422-1.png
NHK for School  
www.nhk.or.jp/school


たとえば、「生き物の1年」(理科),「関が原の戦い」(社会科)など、学校で学ぶことがこのウェブサイトの映像を見ることでわかります。
佐藤先生はこうした映像を国語の時間に、「限られた時間」、「限られた字数」で表現することで、情報を読み取り文章で表現する力をつけようとしました。映像を見たあと文章に書く時間は3分間。字数は100字以内です。

もし時間があったらみなさんもやってみてください。題材は「広島と長崎」という2分3秒の映像です。画像の下のタイトルをクリックすると動画が見られます。
繰り返しますが、映像を見た後、3分間で、100字以内です。

0422-2.png
広島と長崎

さて、いかがでしたでしょうか。3分間で100字以内にまとめられたでしょうか。

0422-3.pngこちらは、3か月間、この授業を受けた6年生が書いた文章です。

「1945年8月6日、広島市に原爆が落ちた。一瞬で焼け野原になった。鉄骨がむき出しになった原爆ドームは世界遺産。8月9日は長崎市に原爆が落ちた。8月9日には様々な平和行事が長崎で行われている。」

全部で95字。元の映像を見るとわかりますが、的確に内容をまとめています。
佐藤先生によると、3か月間続けた結果、最初は平均すると50字程度しか書けなかった子どもたちが80 字程度で映像を要約して表現できるようになったとのこと。毎回、自分の書いた文章を隣の子に読み聞かせて、わかりやすいかどうか確認したことで効果が高まったそうです。




 

 
放送文化研究所では、番組を「見て学ぶ」だけでなく、「使って学ぶ」全国各地の試みについて調査や研究をしています。全国の小学校の番組利用の様子については、「放送研究と調査」2015年6月号に掲載されています

 

 

おススメの1本 2016年03月25日 (金)

#18 『NHKデータブック 世界の放送2016』発刊!

メディア研究部(海外メディア研究) 松本裕美

今回のブログで紹介するのは、文研
毎年刊行している『NHKデータブック 世界の放送』です。
0325-1.png
この本は、世界の国々にどんなテレビ局やラジオ局があって、どういう放送がされているのか知りたいときに便利な一冊です。

実は、この本の歴史は古くて、日本でテレビ放送が始まった1953年に遡ります。当時は「世界のラジオとテレビジョン」という書名で、毎年刊行ではありませんでした。そして対象は「アメリカ州」「ヨーロッパ」「オセアニア」「アジア及中東」「アフリカ」の5つのグループ、55の国や自治領、地域などでした。

今は「アジア・オセアニア」「ヨーロッパ」「中東・アフリカ」「北中米・南米」の4つの大きな地域グループに分けて世界の66の国と地域を取り上げています。
0325-2.JPG「文研の図書室」

創刊時から重点的に掲載されているアメリカ、イギリス、フランス、カナダを見てみると、概況、最近の動向、放送制度…という構成で、“ちょっと知りたい”方から“放送の専門家”まで、分かりやすく知りたい情報がぎゅっとつまった感じになっています。
少しマニアックな項目もあって、本の後ろ、資料編です。「世界のデジタル放送の実施状況」や「世界の衛星デジタル放送」などで、海外のチャンネルが使っている衛星から、主要な放送関係の組織のウェブサイトも掲載されているので、自画自賛ですが、便利かなと思っています。
ちなみに創刊時には付録として「世界テレビ正式放送国一覧表」というのが掲載されていましたが、いまこれを見ると驚きます。この1953年当時にテレビ放送を始めていた国は、アメリカ、カナダ、メキシコ、キューバ、ブラジル、アルゼンチン、イギリス、フランス、ソヴィエト、西ドイツ、オランダ、そして日本のわずか12か国しかありません!
時代の流れを感じてしまいますね。

世界の放送メディアの最新事情や歴史に興味をお持ちの方は、ぜひこのデータブッ
クを一度読んでみてください。
NHKデータブック 世界の放送2016』

 

おススメの1本 2016年03月18日 (金)

#17 『文研年報2016』紹介 ラジオの歴史と未来を大特集!

メディア研究部 中尾益巳

文研の研究員が調査研究の成果を発表するのは、主に月刊誌の
『放送研究と調査』です。私たちはこれを「月報」と呼んでいますが、「年報」もあります。こちらは正式タイトルもNHK放送文化研究所年報』。もちろん年に1回の発行で、月報に載せきれない長期間の研究成果や、月報で発表したものの拡大版など、長編の論文を掲載しています。

さて、今年1月に発行した『文研年報2016』は、ラジオ大特集号です。去年2015年はラジオ第一声が放送された1925年から数えて90年にあたるため、「放送90年=ラジオ90年」としてラジオの歴史、そして未来への可能性を重点的に研究しました。その論文をまとめたのがこの年報なのです。前置きが長くなりましたが、今回はその内容をちょっとご紹介します。

0318-4.jpg 
ラジオを取り囲む家族

1)   ニュースリードが消えた?~ラジオニュース草創期におけるリード文の成立と戦時下におけるその変貌過程~
「ニュースリード(リード文)」とは、ニュースの冒頭で要点を述べる文のことです。第二次大戦時のニュース原稿や録音音声を分析した結果、日華事変や太平洋戦争開戦時など日本軍が進撃している時期のニュースにはリード文がありますが、後半で敗色が強くなってくるとリード文がなくなってきた、ということがきたということが新たにわかりました。放送の開始と同時に始まったラジオニュースでは、どのようにリード文が作成され、それが戦時下にどのように変わっていったのか、放送90年、そして戦後70年にして掘り起こされた知られざる歴史を伝えます。
なお、この研究成果の一部は、放送記念日の特番でも取り上げられることになりました。3月22日(火)夜10時放送の放送記念日特集 激動の時代を越えて ~戦前から戦後へ 放送の歩み~」です。番組の中で、論文を執筆した井上裕之研究員が、当時のニュース原稿についてインタビューに答えます。

0318-1.JPG 
1943年のニュース原稿(NHK放送博物館所蔵)


2)   「録音構成」の発生 ~NHKドキュメンタリーの源流として~
終戦後、占領下にあった日本ではCIE(民間情報教育局)指導の下「民衆へのマイクの開放」として『街頭録音』という番組が作られました。ドキュメンタリーの歴史を研究している宮田章研究員は、このラジオ番組の中で「録音構成」という制作形式が生まれ、それが後のテレビドキュメンタリーにつながる源流であると論じています。
0318-2.jpg 
渋谷駅頭での『街頭録音』収録風景(1947年)

3)   放送90年シンポジウム「ラジオは未来の夢を見る」~文研フォーラム2015採録~
文研フォーラム2016は先週終わりましたが、こちらは昨年のフォーラムで行われたシンポジウムを採録したもの。ラジオ90年の歴史を振り返ると共に、アメリカやイギリスの現状リポートも聞きながら、ピーター・バラカンさん、メディア・プロデューサーの入江たのしさん、東海大学教授の谷岡理香さんらが今後の展望を語り合いました。最も盛り上がったのは「もしラジオを聴いていない人に1週間ラジオを聴いてもらったら」という調査(通称“もしラジ”)の報告。ラジオにはまだまだ可能性があるのです。

0318-3.jpg 
NHK文研フォーラム2015
0318-123.jpg

4) デジタル時代のラジオの未来 ~BBCラジオ戦略に見るオールドメディアからの脱却~
上記のシンポジウムの中でも報告したイギリスの現状を詳しく論じたのがこちら。日本では37%というラジオの週間接触率が90%に達しているイギリス。公共放送BBCのラジオは多チャンネル化、完全デジタル化、全世界で聴ける「iPlayerラジオ」サービスなどで新しいメディアとして確立しているのです。
0318-5.JPG 0318-6-2.png

BBC放送センター(左) / BBC iPlayerラジオの画面(右)

テレビ以前に全盛期を築いていたラジオと、ネット時代に可能性を広げているラジオ。
この『文研年報2016は、そんな古くて新しいメディア、ラジオの奥深さを味わえます。ぜひご一読を。

おススメの1本 2016年02月26日 (金)

#12 放送メディア研究「世論をめぐる困難」編集事務局より

世論調査部(社会調査)原 美和子
         (視聴者調査)中野佐知子
計画管理部 (計画)   西村規子

こんにちは、今回は3人組の文研ブログです。
文研では、放送にまつわるさまざまなテーマについて、専門の研究者たちの最新の論文やインタビューをまとめた「放送メディア研究」を刊行しています。今回は、先日刊行したばかりの第13号「世論をめぐる困難」のご案内です。

0226-1.JPG

   
編集事務局その1の原です。今回のテーマは「世論」。世論調査部に所属している私たちですが、日々の業務について、いろいろ悩みの多いこの頃です。

中野 
その2の中野です。同じく世論調査部です。そうそう、私たちなりに努力はしているけど、調査に協力していただける人の率は年々下がっていますよね。それなのに新聞やテレビでは、最近はやけに「世論調査」の注目度が高いような・・・

  
そもそも、「世論」を「調査」する、という私たちの仕事にどんな意味や役割があるのか、自分たちの「商品」についてきっちり考えることすらあまりないですよね。一度どこかで、今この時点での「世論」それに「世論調査」の課題を整理することが必要なのでしょうが、日々の業務にかまけて手つかずになっていました。

中野 
文研所内のメンバーだけで考えて整理できるような、簡単なテーマでもないですしね。

西村 
その3、計画管理部の「放送メディア研究」窓口の西村です。
そこで今回、「放送メディア研究」のテーマに「世論」を掲げ、主に外部の研究者やメディア関係者の皆さんから、さまざまな視点や切り口で問題提起していただくのはどうだろうか、と話が動き出したんだよね。

  
その結果、今回の「放送メディア研究」は、世論調査部の人が自ら業務で扱う「世論」や「世論調査」に真正面から向き合う、というちょっとユニークなスタイルになりました。

中野 
所内の有志の研究員と何度もブレストを重ね、テーマは「世論をめぐる困難」に決定。
 
“世論測定をめぐる困難”
 “世論形成をめぐる困難”
 “世論が生まれる社会の困難”
 “困難から生まれる世論の未来、社会の可能性”
の4つの柱に整理して、論文を寄稿していただいたほか、インタビューなども行いました。

  
最終的には、大学の研究者から、NHKの番組制作者まで、本当にさまざまな分野から23人の方にご協力を頂くことができました。当初予定より相当ボリュームが増えましたが、その分内容をより充実させることができたのではないかと思います。あなたの読みたいテーマが、きっとひとつはあるはずです。

中野 
だけど、編集することがこんなに大変だとは・・・・。勉強にはなったけどね。

   
この機会にと、「世論」や「世論調査」をテーマにした世論調査までやってしまったりしたし。自らのキャパを完全に逸脱していた、と途中で青くなりました。

西村 
刊行に漕ぎつけたのは、ひとえに執筆などにご協力いただいたみなさんのお蔭です。私たちのつたない説明から巧みに企画意図をくみ取って、先進的な論文、活発な座談会、魅力的なインタビューを実現してくださいました。そして、忘れてならないのは、NHK出版のみなさんのご尽力。K編集長を中心とした強力なバックアップ体制がもしも無かったら…

  
今頃こんなブログを書いている場合ではありませんでしたね。

西村 
ということでいろいろありましたが、「放送メディア研究」第13号、今月22日より発売中です。詳しくは
こちら

中野 
「困難」とはいえ、嘆いてばかりいてよいわけではない。そのためにも厳しい提言や、反対に将来的な可能性などももろもろ取り上げた形になりました。一度お手にとってもらえれば幸いです!