文研ブログ

おススメの1本

おススメの1本 2021年11月24日 (水)

#351 放送のいまを未来に届ける―――『NHK年鑑』

メディア研究部(メディア史研究) 居駒千穂


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211119-3.jpg 10月30日に『NHK年鑑2021』を刊行しました。1931年に『ラヂオ年鑑』として創刊されて以来、戦時中と終戦直後の3年間を除いて毎年刊行され、本号は86冊目にあたります。今回は「見出しデザイン」なども一新し、読みやすさを追求しました。
 本号では新型コロナウイルス感染拡大へのNHKの対応や、発災から10年の東日本大震災について冒頭に掲載しました。また一年の動きを社会、NHK、国内・海外メディアに分けてコンパクトに一覧できる「放送日誌」や、1,000に及ぶNHKの定時番組・特集番組の概要をまとめた「番組解説」、NHKの本部だけでなく地域放送局の業務内容も詳細に掲載しています。

 さて、ここで「問題」です。いま放送中の『あさイチ』『うたコン』『ガッテン!』。
この3番組の初回放送日を古いものから順に並べてください。正解はぜひ『NHK年鑑2021』377~378ページでお確かめください。ご覧になるとわかりますが、意外な「事実」も浮かび上がります。


――― 時代とともに歩み続け、放送のいまを未来に届ける、『NHK年鑑』。
 これからも「いま」を刻み続けます。



『NHK年鑑』は書店またはNHK出版にお申し込みください。
Web版は次の画像をクリック!

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(答え)
初回放送日の古いものから、
   『あさイチ』第1回放送日 2010年3月29日
   『うたコン』第1回放送日 2016年4月12日
   『ガッテン!』第1回放送日 2016月4月13日
の順になります。
 『ガッテン!』は21年間にわたって放送した『ためしてガッテン』をリニューアルした番組で、意外にもこの3番組の中では「一番若い番組」。
 リニューアル後の初回放送は、『うたコン』と同じ2016年4月。わずか「一日違い」の4月13日です。


おススメの1本 2021年06月14日 (月)

#327 技研公開2021リポート② ~塩田研究員が探る新技術と芸術の可能性~

計画管理部(計画) 柳 憲一郎


 NHK放送技術研究所の最新の研究成果を広くお知らせする「技研公開2021」。今年はオンラインで公開されており、このイベントに文研も協力しています。文研ブログでは、その様子を2回にわたってお伝えします。

 第2回は、文研の塩田雄大主任研究員がトークに参加した特別プログラム「体感と知覚 ―可視化・可聴化によるエクスペリエンスの可能性―」について、ご紹介します。

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(左から)文研 塩田雄大主任研究員、技研 澤谷郁子研究員、慶應義塾大学環境情報学部長 脇田玲氏

 NHK放送技術研究所では、8KスーパーハイビジョンやAR/VR、3Dテレビなどの“可視化技術”、立体音響やAIによる音声合成技術などの“可聴化技術”の研究を進めています。このプログラムでは、放送文化とメディア技術をつなぐひとつの領域として、「芸術」に着目。メディアアートの第一人者である脇田玲氏をお招きして、これまでにない体感を提供する未来のメディア表現にはどのような技術が必要か、メディア表現の可能性について展望しました。

 脇田氏には、技研の最新技術のうち映像表現や音の表現に今後可能性が期待される技術を体感して頂きました。その上で、脇田氏から「“可視化・可聴化技術”の進歩は、もっともっと人を豊かにしていく可能性を持っていると思う」と提言頂きました。一方、塩田研究員は、「技術の進歩とともに、放送技術、放送文化、そして芸術がお互いの垣根を越えて進んでいけば、そこに何か新しい未来が出てくるのではないか」と可能性を提示しました。

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 詳しいトークの内容は、NHK放送技術研究所のホームページで、今月30日まで公開しています。ぜひご覧下さい。


おススメの1本 2021年06月10日 (木)

#326 技研公開2021リポート① ~文研所長と技研所長が研究の未来を探る~

計画管理部(計画) 柳 憲一郎


 NHK放送技術研究所(技研)の最新の研究成果を広くお知らせする「技研公開2021」。今年はオンラインで公開されており、このイベントに文研も協力しています。文研ブログでは、その様子を2回にわたってお伝えします。

 第1回は、文研の大里所長と技研の三谷所長が対談する特別プログラム「公共メディアNHKにおける研究について」をご紹介します。

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 NHKには、NHK放送文化研究所とNHK放送技術研究所の2つの研究所があります。文研と技研は今まで、さまざまな共同研究を行ってきました。「技研公開2021」では、2つの研究所の所長が、これからの放送メディアの進歩発展に向けた調査・研究の取り組みについて話し合いました。

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      NHK放送文化研究所長 大里 智之

 文研の大里所長は、技研と協力する意義について「技研が行っている未来像の研究と、文研の調査研究から分かる未来予測、この2つを合わせることで、より正確な未来像、メディアの未来像を探求できたらいい」と言及しました。

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      NHK放送技術研究所長 三谷 公二

 技研の三谷所長は、文研との共同研究の今後について、「これからの公共メディアが、もっと便利でもっと役立つようなものにしていくように、しっかりと頑張っていきましょう」と述べて、対談を締めくくりました。

詳しいトークの内容は、NHK放送技術研究所のホームページで、今月30日まで公開しています。ぜひご覧下さい。


おススメの1本 2019年11月29日 (金)

#221 平成時代の「放送研究」あれこれ~放送文化研究所・30年間の論文から~⑦「北京オリンピックはどう見られたか~先進的視聴者のメディア接触状況~」

メディア研究部(メディア動向)柳澤伊佐男

平成の30年間、NHK放送文化研究所(文研)が手掛けた調査研究について振り返るシリーズ、7回目は、平成20年(2008年)の『放送研究と調査』11月号に掲載された「北京オリンピックはどう見られたか~先進的視聴者のメディア接触状況~」を取り上げます。

この論考は、2008年に開かれた「北京オリンピック」を題材にしています。タイトルの中にある“メディア接触”という用語は、情報(この場合はオリンピック情報)を得るために、視聴者がどのようなメディアを利用(接触)したかという意味で用いられています。

放送とオリンピックとの間には、切っても切り離せない関係があります。1964年の東京大会での衛星中継、カラー放送など、オリンピックを舞台に放送の新しい技術が導入されてきました。テレビ放送は、オリンピックとともに進化してきたとも言われ、文研でも、オリンピック放送に関する様々な調査研究が行われています。その中で、なぜ、この論考を取り上げたのかといいますと、北京大会でのメディア接触(利用)状況を確認しておくことが、これからの放送の姿を展望する手がかりになるかもしれないと思ったからです。

当時は、「地上デジタル放送」が始まって5年、「ワンセグ」サービスの開始2年で、大会直前に国内でのスマホ普及のきっかけとなった「iPhone」が発売されたり、大会の動画映像がインターネットで国内向けに初めて配信されたりするなど、放送や通信の環境が大きく変わろうとした時期でした。論考では、「様々なデジタルツールを手に入れ、既に利用している人たち~先進的視聴者~が、『北京オリンピック』にどうアクセスし、各メディアをどのように使い分けたか」を調べようと大会期間中の2日間、調査会社のモニター男女800人を対象にインターネット調査を行った結果が記されています。

それによりますと、オリンピックの情報を得るために最も利用されたのが「地上デジタル放送」で、次いで「新聞」、「BSデジタル放送」、「パソコンによるインターネット」という順になっていました。このうちネットについて、「毎日2回以上」もしくは「ほぼ毎日」アクセスしたと答えた人が全体の半数を超えていて、論者は「職場や家庭に広く普及したパソコンが、テレビや新聞と同様に情報取得の簡便なツールとして定着化してきたことがうかがえる」と分析しています。
その一方、「ワンセグ放送」「データ放送」といった“新たなメディア”への接触率は、高いものでも50%以下という結果で、「テレビ視聴の補完的役割にとどまっている」と判断されました。その上で、論者は「放送・通信をめぐる環境が変化する中でも、“スポーツの祭典”を楽しむ最適のメディアは、やはり『テレビ』であった」と結論づけています。

それから10年あまり、放送と通信の融合が一段と進み、インターネットによる動画配信や番組の同時配信、4K・8KやAI、VR・ARなど、様々な技術が目まぐるしいスピードで進化を遂げています。また、大容量のデータを瞬時にやり取りできる次世代の通信規格・5Gを活用した新しいサービスも本格的にはじまろうとしています。2020東京大会での「メディア接触状況」は、どうなるのでしょうか。


おススメの1本 2019年10月16日 (水)

#213 平成時代の「放送研究」あれこれ ~放送文化研究所・30年間の論文から~ ⑥「特集 歴史的選挙と有権者 ~'93年7月衆院選~」(平成5年・1993年)

メディア研究部(メディア動向)柳澤伊佐男


平成の30年間、NHK放送文化研究所(文研)が手掛けた調査研究について振り返るシリーズ、6回目は、平成5年(1993年)の『放送研究と調査』10月号に掲載された「特集 歴史的選挙と有権者 ~‘93年7月衆院選~」を取り上げます。

このリポートは、同年7月18日に行われた第40回衆議院選挙をテーマに選んでいます。この時の選挙は、日本新党、新生党といった「新党」が台頭する一方、自民党が現状維持ながら過半数割れ、社会党が大幅減という結果になりました。このため、与党第1党が自民党、野党第1党は社会党という“55年体制”が崩壊、非自民の連立政権が誕生したことから、論者はこの選挙を「歴史的な選挙」と位置づけています。

特集は2部構成です。第1部は、「非自民政権誕生の構造」と題し、選挙に関する世論調査から有権者の意識や投票行動を分析し、“歴史的な選挙”となった背景に迫っています。また、第2部の「選挙情勢報道はどう行われたのか」では、テレビ各社の選挙報道のうち、全国的な当選者数の予測と、注目選挙区の選挙戦終盤の情勢報道に焦点を当てて考察しています。この中で論者は、「(選挙予測の)報道が有権者の投票行動にまったく影響を及ぼさない、と考えるのは現実的ではない」としつつも、「選挙に関して世論の動向を的確に把握し、報道・評論することは、有権者が選挙に関する関心を高め、理解を深めるうえで不可欠であり、それは報道機関の重要な使命である」などとする日本新聞協会の見解を引用しながら、選挙情勢などを伝える報道の必要性・重要性を主張しています。

テレビの選挙報道をめぐっては、しばしば公平性や中立性に欠けると批判の対象になります。この公平性に関して、BPO(放送倫理・番組向上機構)の放送倫理検証委員会は、2016年、「テレビ放送の選挙に関する報道と評論に求められているのは(各候補者を同一時間で紹介するといった)『量的公平』ではなく、政策の内容や問題点など有権者の選択に必要な情報を伝えるために、取材で知り得た事実を偏りなく報道し、明確な論拠に基づく評論をするという『質的公平』だ」との見解を示しています。
各局とも、選挙の公正さを損なわないよう、配慮と努力を重ねながら、選挙報道を行っていますが、選挙そのものに対する有権者の関心や投票率は、年々低下しています。2019年7月の参議院選挙では、選挙区の投票率が48.80%で、国政選挙としては戦後2番目の低さになりました。選挙運動期間中のテレビ各局の放送時間(NHKと在京民放5局の合計)は36時間あまりで、前回(2016年)と比べて5時間以上減ったという調査結果(「エム・データ」社調べ)もあります。

1993年当時の選挙報道について、論者は、以下のような問いを投げかけています。「これまでテレビは、一連の選挙報道の中で、開票速報に特段の力を入れてきた。速報性、広範性というメディアの特性が生かせる格好の機会だから当然であろう。だが、それだけでいいのか。有権者が投票行動を決めるのに役立つ情報をテレビは十分に提供しているのだろうか」。
それから26年たったいま、テレビ各局は、論者の問いかけにどれだけこたえられているのでしょうか。

※今回紹介した論文をお読みになりたい場合は、国会図書館やお住まいの都道府県立の図書館のサイト等で検索・確認していただくか、NHK放送博物館(東京都港区愛宕2-1-1)で、閲覧いただけます。


おススメの1本 2019年07月05日 (金)

#194 平成時代の「放送研究」あれこれ ~放送文化研究所・30年間の論文・リポートから~⑤ テレビ美術から見る「キャスターショー」の誕生と発展  ~『ニュースセンター9時』と『ニュースステーション』のスタジオセット分析を中心に~(平成21年)

メディア研究部(メディア動向)柳澤伊佐男


NHK放送文化研究所(文研)が手掛けた平成時代30年間の調査研究をご紹介するシリーズ、5回目は、平成21年(2009年)の「放送研究と調査」11月号に発表されたテレビ美術から見る「キャスターショー」の誕生と発展 ~『ニュースセンター9時』と『ニュースステーション』のスタジオセット分析を中心に~を取り上げます。

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この論文は、テレビ番組を制作する上で必要な「美術」に着目し、ニュース番組の考察を行ったものです。論者は、テレビ美術について、「スタジオセット(大道具、小道具)、衣装、タイトル、グラフィックス等の総称」と定義した上で「通常、テレビ視聴者の意識や関心の主たる対象にはなりにくいものの、番組の映像表現にリアリティや臨場感、説得力や信頼性を与え、番組が展開される『場』や『空間』のイメージ、距離感、親近感といった感覚の構成にとって不可欠な要素」だと述べています。そのテレビ美術によって、番組の印象や意味が大きく左右されているという視点に立って、NHKの『ニュースセンター9時』とテレビ朝日の『ニュースステーション』の2つの番組について、分析を行っています。

この2つの番組は、それぞれ1970年代、80年代に始まった「キャスターショー型」のニュース番組です。スタイルが異なるように思われますが、テレビ美術に注目すると、「多くの共通点を見出すことができる」としています。その共通点として、論者は▼スタジオセットが「テレビらしいニュース番組」というコンセプトを具体化しようとしていた、▼ニューススタジオを「作りもの」ではなく、より「本物らしい」空間にしようという設計思想、▼「キャスター」の「語り」や「パーソナリティ」を最大限に生かし、これを際立だせるという意図でセットが設計されていた、という3点をあげています。これらの共通点は、いまのニュース番組にも見られ、魅力ある番組作りに欠かせない要素になっているようです。

私は長年、ニュースの取材や制作に携わり、テレビ美術の重要性を実感してきました。地域の放送局にいた際、視聴者から「スタジオのセットが野暮ったい」とか、「字幕が見にくい」など“おしかり”を受けたこともあります。そうした声に耳を傾けたり、仲間と知恵を出し合ったりしながら、より多くの視聴者に信頼され、見てもらえるニュース番組にしようと努力を重ねました。

テレビ美術について、論者は、「各分野の先端技術との相互作用の中で進展してきた側面がある」と指摘しています。インターネットの発達、放送と通信との融合が進むいまの時代、テレビ美術がどのような形で進歩を遂げ、ニュース番組にどんな効果をもたらすのでしょうか、これからも注目したいと思います。


おススメの1本 2019年06月11日 (火)

#191 平成時代の「放送研究」あれこれ ~放送文化研究所・30年間の論文・リポートから~④ テレビの災害情報はどう評価されたか  ~『雲仙・普賢岳災害と放送』調査から~(平成4年)

メディア研究部(メディア動向)柳澤伊佐男


NHK放送文化研究所(文研)が手掛けた平成時代30年間の調査研究を紹介するシリーズ、4回目は、平成4年(1992年)の「放送研究と調査」1月号に掲載された「テレビの災害情報はどう評価されたか~『雲仙・普賢岳災害と放送』調査から~」を取り上げます。


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この論文は、防災や報道のあり方に多くの教訓・課題を残した長崎県の雲仙・普賢岳の火山災害をテーマに、災害情報の伝達がどのように行われたかについて分析したものです。雲仙・普賢岳は、長崎県にある火山で、平成2年11月、198年ぶりに噴火しました。翌年(平成3年)6月3日の大火砕流で報道関係者や消防団員ら43人が犠牲になったほか、噴火活動が4年半続くなど、災害は大規模で長期間に及びました。この火山災害について、文研は、平成3年10月、ふもとの島原市・深江町(現在の南島原市深江町)の住民にアンケートを実施し、学識・防災関係者への聞き取り調査なども行った上で、災害情報はどう収集されてどう伝えられたか情報は人々にどう受け止められ理解されたか、▼災害放送はどう評価されたかという3点について、分析を行いました。

論文では、分析の結果をもとに▼災害情報の入手と放送、▼メディアへの評価と期待、▼災害情報の伝え方、▼テレビの取材、以上の4つの項目について考察しています。この中で私が特に注目したのは、「テレビの取材」に関する考察です。当時の報道各社の取材について、▽応援を含む多数の取材陣が現地に入ったことで、タクシーが各社にチャーターされ、市民の足が奪われた▽川沿いの狭い道路に各社の中継車が並び、土石流災害復旧の作業を妨げた▽避難した後の留守宅に入り込み無人カメラ用の電源を引き出して警察から事情聴取されたテレビ局もあったとした上で、「こうした無秩序で節度を欠いた取材が繰り返された結果、被災者からは厳しい報道批判、不信の声が上がるように」なったと指摘しています。本人か家族が取材を受けたり、取材を目撃したりした住民のうち、5人に1人がテレビ局の取材態度に批判的だったという調査結果なども紹介しています。

当時、私も現場で取材にあたった報道陣の一員でした。避難所で、合羽姿の記者がそのまま入ろうとして、市の職員から注意を受けた場面に遭遇したことがあります。火砕流で犠牲者が出た後、私たちに対する市民の接し方が厳しくなったと感じたこともありました。私も批判の対象になった1人だったのでしょうか。

雲仙・普賢岳の災害の後、災害取材・報道のあり方が大きく変わりました。災害現場に向かう際、上司から、▼現地の状況に動じることなく、正しい情報を冷静に伝えること、▼自らを含めたスタッフの安全確保に十分注意を払うことなどを、繰り返し言われました。今でもその心構えで臨んでいるつもりです。防災・減災の情報は、人の命に関わるだけに、的確かつ、迅速に伝えることが求められます。もちろん、取材態度を含めて、視聴者の信頼を損なうことがあってはなりません。いまのマスコミ報道をめぐる状況はどうでしょうか。28年前の雲仙・普賢岳の教訓を忘れてはならないと思います。


おススメの1本 2019年05月31日 (金)

#189 平成時代の「放送研究」あれこれ~放送文化研究所・30年間の論文・リポートから~③  調査研究ノート 韓国「論文ねつ造事件とメディア」(平成18年)

メディア研究部(メディア動向)柳澤伊佐男


NHK放送文化研究所(文研)が手掛けた平成時代30年の調査研究を紹介するシリーズ、3回目は、韓国のメディアに関するリポート、平成18年(2006年)の「放送研究と調査」5月号に掲載された「韓国『論文ねつ造事件とメディア』」を取り上げます。

この事件は、平成17年(2005年)に発覚しました。韓国の研究者が世界で初めて「クローン技術を使ってヒトの胚から“万能細胞”ともいわれるES細胞を作ることに成功した」と発表した論文が、ねつ造されたものだったというものです。ご記憶の方も多いかと思います。

この問題を最初に指摘したのが、韓国の民放の報道番組でした。研究者は、当時、クローン研究の“画期的な成果”を次々に発表し、「国民的英雄」などともてはやされていた人物でしたので、報道に対して、他のメディアや国民などから猛烈な反発があったそうです。

文研のリポートでは、▼番組の放送後、放送局に抗議が殺到し、デモが繰り返されて、スポンサーへの不買運動やCMの引き上げにまで発展したことや、▼他の放送・新聞メディアが、番組の取材チームに倫理的な違反があったと報じたり、疑惑が深まる中でも、番組の問題提起を「国益」を害すると批判したりしていたことなどが報告されています。そうした当時の韓国メディアをとりまく状況に対し、論者は「『真実』を明らかにするというジャーナリズムとしての役割を果敢に果たそうとした事実を不当に貶めることがあってはならない」と結んでいます。

私がなぜ、このリポートに関心を持ったかといいますと、かつて「ねつ造問題」を取材したことがあったからです。といっても、平成26年(2014年)に発覚した「STAP細胞」の問題ではありません。韓国の問題の5年前に世間を騒がせた「旧石器遺跡」のねつ造問題です。毎日新聞の報道で明らかになったこの問題ですが、噂のレベルで事前に話は聞いていました。しかし、本当に石器を埋めていたとは思いもしませんでした。他社のスクープでしたが、隠された不正を暴く「調査報道」の意義・必要性を強く感じた体験でした。

その一方、学術的な成果を正しく報道することの難しさも身をもって知りました。学術ネタを報道するには専門的な知識が求められ、目新しいものであればあるほど、事実かどうかを確かめる(ウラを取る)ことが難しくなっていきます。発表者に悪意があっても見抜けない可能性も否定できません。私もかつて、「石器を埋めた」ことに気づかず、「50万年前の遺跡発見」などと報道してしまったことがあります。先日もドイツ宗教学の研究者による論文のねつ造が明らかになりました。こうした不正を掘り起こす「調査報道」は、国の内外を問わず、いまも、ジャーナリズムに求められている大切な役割だと思います。

おススメの1本 2019年05月23日 (木)

#187 "モンスター"を止めるのは誰だ!?

メディア研究部(メディア動向)大髙 崇


“モンスター”井上尚弥の試合、見ました?
ボクシング世界戦、ボッコボコに殴り倒して2ラウンドKO勝ち。強すぎ!
試合前は「最強の対戦相手!」とのふれこみでしたが、「あれ? 相手の選手、弱くね?」と思ってしまうほどの完勝でした。
井上選手、強くて、男前で、礼儀正しくて……、


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という思いとともに……、心の中は、正直……、

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……の日曜でありました。

そんなことはどうでもいいとして(^^;)
試合終わってさっそく、やっぱり、動画がたくさんインターネットにアップされてます。
いわゆる違法アップロードですね。
放送局など「権利者」の側からすると、相当な予算を投じて制作・放送した番組が、次々と無断でアップロードされてしまう状態は、当然放置できません。
そのため、放送局では常々、違法アップロードの番組動画を見つけては、サイトの運営者などに「削除要請」をしています。
私もかつて、この業務の担当でしたが、なにせ相手はインターネットの大海原。自局の番組をすべて探し出すのはとても無理! 大量の動画を見続けて、目がカッサカサになるのがわかります。それでも、ざっくりですが、1日で百件以上の違法動画を見つけることもしばしばありました。
ですが、このあとが、けっこう手間暇がかかるんです。
そのサイトの運営者に対し、削除してほしい動画のアドレスを一つずつコピペして(つまりコピペ百回!)、削除を依頼するメッセージを送ります。削除要請対応のフォーマットがしっかりしているサイトならある程度は楽なのですが、「ここ、メッセージ送って大丈夫なの?」とヒヤヒヤしてしまうサイトも、もちろんたくさんあります。。。

で、削除要請の仕事が終わった頃には、いつもこう。

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まさに、
モンスターにボッコボコにされた気分。

……今年の国会でも海賊版サイト対策の法案提出が見送りになりました。なかなかいいパンチが当たらないこのモンスター、KOされる日は来るのでしょうか。

私も一員の文研・メディア動向グループでは、海賊版サイト問題など、メディアと著作権に関する動向や研究論文を逐次発表しています。以下のリンクよりぜひご覧ください!

◎海賊版サイトや違法ダウンロード関連の記事
「放送研究と調査」2018年9月号
『調査研究ノート 海賊版サイトは"ブロッキングすべき"か』
「放送研究と調査」2019年4月号
(メディア・フォーカス)違法ダウンロード「全著作物に拡大」,文化審議会が報告書』

◎メディアと著作権関連の記事
「放送研究と調査」2018年8月号
『“著作権70年時代”と放送アーカイブ活用(前編)~深刻化する「権利者不明問題」~』
「放送研究と調査」2018年9月号
『“著作権70年時代”と放送アーカイブ活用(後編)~大量著作物利用への道」~』
 「放送研究と調査」2019年4月号
(メディア・フォーカス)ベストセラー『君たちはどう生きるか』,ドラマ化で著者遺族が出版社に抗議』

おススメの1本 2019年04月24日 (水)

#183 平成時代の「放送研究」あれこれ ~放送文化研究所・30年間の論文・リポートから~ ②「平成の皇室観~『即位20年 皇室に関する意識調査』から~」(平成21年)

メディア研究部(メディア動向) 柳澤伊佐男

NHK放送文化研究所(文研)が手掛けた平成30年間の調査研究について振り返るシリーズ、2回目は、平成21年(2009年)に行われた「即位20年 皇室に関する意識調査」についてご紹介します。

この世論調査は、天皇の即位20年というタイミングをとらえ、平成21年10月30日からの3日間、全国の20歳以上の男女を対象に、電話法(RDD追跡法)で行われました。NHK社会部との共同調査で、調査対象は3,313人。このうちの62%にあたる2,043人から回答を得ています。調査の目的は、「皇室への関心・感情や、皇室との距離、皇位継承のあり方などについての意識を探ること」で、その結果が、「即位の礼」20年にあたる同年11月12日のニュースで報道されました。詳細は、翌年(2010年)の『放送研究と調査』2月号に掲載されています。

調査結果の一部をご紹介します。天皇が憲法で定められた象徴としての役割を果たしていると思うかを尋ねたところ、▼「十分に果たしている」と答えた人が全体の48%、▼「ある程度果たしている」37%、▼「あまり果たしていない」8%、▼「全く果たしていない」2%で、「果たしている」と答えた人の割合は85%に上りました。象徴としての役割を「十分に果たしている」と評価した人は、男性・女性ともに年齢が高くなるほど多くなっていました。

また、皇室に親しみを感じるかとの問いに対して▼「とても親しみを感じている」と答えた人が16%、▼「ある程度親しみを感じている」46%、▼「あまり親しみを感じていない」29%、▼「全く親しみを感じていない」9%でした。

調査は10年前に行われたものですが、当時から、多くの国民が、今の天皇は憲法が定める象徴としての役割を果たしていると考えていたことや皇室に親しみの感情を抱いていたことがわかり、大いに興味を持ちました。


「天皇に対する感情」は、文研が行っている「日本人の意識」調査の中でも尋ねています。平成30年(2018年)の調査では、▼「尊敬の念を持っている《尊敬》」と答えた人が全体の41%、▼「好感を持っている《好感》」36%、▼「特に何とも感じていない《無感情》」22%で、▼「反感を持っている《反感》」0%(0.2%)でした。

こちらの世論調査は、昭和48年(1973年)から5年ごとに実施されていますが、昭和の時代は、《無感情》と答えた人が常に40%を超え、最も多い回答でした。それが、平成になると、《好感》が大幅に増え、平成25年(2013年)の調査から、《尊敬》や《好感》が《無感情》を上回るようになっています。

私は平成の「国体」や「植樹祭」に出席された両陛下の取材を担当したことがあります。そうした「三大行幸啓」(もうひとつは「全国豊かな海づくり大会」)だけでなく、災害の被災地を訪問された際も何回か取材しました。画面を通してですが、南太平洋の島々で戦没者を慰霊するお姿も強く印象に残っています。こうした象徴としてのお務めを伝えてきたことが、平成の「皇室観」につながっているのでしょうか。

では、新しい時代の「皇室観」は、どうなるのでしょう。「令和」の時代に行われる世論調査を通して考えてみたいと思います。

※紹介した論文は、放送文化研究所のホームページに掲載されています(「日本人の意識」の論文は2003年の調査以降)。
冊子でご覧になりたい場合は、国会図書館やお住まいの都道府県立図書館のサイト等で検索・確認していただくか、NHK放送博物館(東京都港区愛宕2-1-1)でも、ご覧いただけます。