文研ブログ

おススメの1本 2019年07月05日 (金)

#194 平成時代の「放送研究」あれこれ ~放送文化研究所・30年間の論文・リポートから~⑤ テレビ美術から見る「キャスターショー」の誕生と発展  ~『ニュースセンター9時』と『ニュースステーション』のスタジオセット分析を中心に~(平成21年)

メディア研究部(メディア動向)柳澤伊佐男


NHK放送文化研究所(文研)が手掛けた平成時代30年間の調査研究をご紹介するシリーズ、5回目は、平成21年(2009年)の「放送研究と調査」11月号に発表されたテレビ美術から見る「キャスターショー」の誕生と発展 ~『ニュースセンター9時』と『ニュースステーション』のスタジオセット分析を中心に~を取り上げます。

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この論文は、テレビ番組を制作する上で必要な「美術」に着目し、ニュース番組の考察を行ったものです。論者は、テレビ美術について、「スタジオセット(大道具、小道具)、衣装、タイトル、グラフィックス等の総称」と定義した上で「通常、テレビ視聴者の意識や関心の主たる対象にはなりにくいものの、番組の映像表現にリアリティや臨場感、説得力や信頼性を与え、番組が展開される『場』や『空間』のイメージ、距離感、親近感といった感覚の構成にとって不可欠な要素」だと述べています。そのテレビ美術によって、番組の印象や意味が大きく左右されているという視点に立って、NHKの『ニュースセンター9時』とテレビ朝日の『ニュースステーション』の2つの番組について、分析を行っています。

この2つの番組は、それぞれ1970年代、80年代に始まった「キャスターショー型」のニュース番組です。スタイルが異なるように思われますが、テレビ美術に注目すると、「多くの共通点を見出すことができる」としています。その共通点として、論者は▼スタジオセットが「テレビらしいニュース番組」というコンセプトを具体化しようとしていた、▼ニューススタジオを「作りもの」ではなく、より「本物らしい」空間にしようという設計思想、▼「キャスター」の「語り」や「パーソナリティ」を最大限に生かし、これを際立だせるという意図でセットが設計されていた、という3点をあげています。これらの共通点は、いまのニュース番組にも見られ、魅力ある番組作りに欠かせない要素になっているようです。

私は長年、ニュースの取材や制作に携わり、テレビ美術の重要性を実感してきました。地域の放送局にいた際、視聴者から「スタジオのセットが野暮ったい」とか、「字幕が見にくい」など“おしかり”を受けたこともあります。そうした声に耳を傾けたり、仲間と知恵を出し合ったりしながら、より多くの視聴者に信頼され、見てもらえるニュース番組にしようと努力を重ねました。

テレビ美術について、論者は、「各分野の先端技術との相互作用の中で進展してきた側面がある」と指摘しています。インターネットの発達、放送と通信との融合が進むいまの時代、テレビ美術がどのような形で進歩を遂げ、ニュース番組にどんな効果をもたらすのでしょうか、これからも注目したいと思います。