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おススメの1本 2018年09月07日 (金)

#143 海賊版サイトとブロッキングの問題 最近の動向

メディア研究部(メディア動向) 越智慎司

漫画やアニメなどを無断で掲載している海賊版サイトへの対策として政府が行うとした「ブロッキング」についての論考を、『放送研究と調査』9月号に書きました。ブロッキングとは、ユーザーがインターネットでウェブサイトにアクセスしようとした際、プロバイダーなどの判断で閲覧を遮断することです。国内では児童ポルノについてブロッキングの先例があり、どのような経緯でブロッキングの実施に至ったか、さらにどのように運用されているかを、関係者への取材などで探りました。取材を通じて、「まずブロッキング」ではなく、ほかのさまざまな策とともに考えていくほうが、海賊版サイトへの有効な対策になるのではないかという思いを強くしています。

政府は海賊版サイト対策の実現に向け、ことし6月から出版・動画の業界、通信事業者、法律の専門家などの有識者を集め、検討会議を開いています。9月中旬をめどに中間取りまとめの予定で、8月30日の会議でその骨子案が示されました。案は政府の知的財産戦略本部のウェブサイトで見ることができ、総合対策の案も示されています。この総合対策の中で、ブロッキングについては「ブロッキングに係る法制度整備について(P)」とだけ書かれています。記述の後ろの「P」とは?

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シンポジウムの様子

9月2日、プライバシーや情報法などの研究者で作る情報法制研究所が海賊版サイト対策についてのシンポジウムを開きました。この中で、「P」とは“霞が関用語”で「ペンディング=保留」の意味という説明がありました。つまり、ブロッキングについて検討会議が現時点で示せることは何もないということになります。

シンポジウムには検討会議のメンバーの方々も何人か出席し、ブロッキングも含めた議論が行われましたが、議論を聞くかぎりでは、検討会議での意見集約などがまだ十分でないという印象を受けました。このため、仮にブロッキングを行った場合に誰がイニシアチブをとり、どのようにコストを負担するのかといった議論には行きつきませんでした。

今回執筆した論考のまとめの中で、「インターネットに関わる多くの人たちの知恵を集めなければならない」と書きました。政府は海賊版サイト対策の実現に向けて進んでいますが、これまでほとんど接点のなかった関係者の知恵を集められているのでしょうか。中間取りまとめにある総合対策が決まったとしても、本当に現場でうまく機能するのか、それが心配になりました。

『放送研究と調査』9月号
調査研究ノート 海賊版サイトは “ブロッキングすべき” か ~著作権侵害コンテンツ対策の課題を考える~」