文研ブログ

メディアの動き

メディアの動き 2023年08月21日 (月)

【メディアの動き】女子W杯,FIFA 放送権交渉に課題も

サッカー女子の世界一を決める「FIFA女子ワールドカップ2023 」(以下,女子W 杯)が7 月20日,オーストラリアとニュージーランドの共同開催で開幕した。
FIFA(国際サッカー連盟)が2019 年の大会の成功などをふまえ,女子W杯の放送権を男子W 杯と切り離したが,欧州の主要国などとの交渉が難航し,合意が開幕直前までずれ込むなど課題を残した。

FIFAは初の南半球開催となった今回の女子W杯で,参加チームを8 増やして32とした。
FIFAによると,2019 年大会の視聴者数は11億人で女子サッカーの人気は高まっている。
女子W杯の放送権は初の単独での販売となったが,これまで男子W 杯とセットの契約だったこともあり,いわゆる欧州5大リーグがあるイギリス,スペイン,ドイツ,イタリア,フランスの欧州主要5か国で放送権交渉が難航した。

FIFA会長は5月,5か国の放送事業者の提示金額について,男子W杯の1/20 ~ 1/100と「落胆する内容」で,「このままでは放送をやめざるを得ない」と見直しを迫った。
その後,FIFAとEBU(欧州放送連合)が既存の契約を修正し,5か国を含める形で放送が決まったのは,女子W杯開幕のわずか1か月前であった。
日本でもNHK が日本代表の全試合放送を発表したのは7月に入ってからだった。

FIFAは,男女の格差解消に向け,今大会の賞金総額を前大会の3 倍以上の1億5,200万ドル(約215 億円)に増額し,次期W杯で男女同額をめざすとしている。
一方で,経営が厳しい放送事業者の放送権料負担の増加やFIFA が女子W 杯を過小評価してきた問題などを指摘する声も上がっている。

メディアの動き 2023年08月21日 (月)

【メディアの動き】英BBC,国際サービス利用者大幅減

イギリスの公共放送BBCは7月11日,2022年度の年次報告を発表した。
受信許可料の値上げが見送られ,財源削減策を進めたことなどの影響で,国際放送サービスで大幅に利用者が減少したことが明らかになった。


報告書によると,BBCの受信許可料による収入は,支払い件数が43万7,000 件減少した結果,37億4,000万ポンド(約6,769 億円)と前年比で1.6%の減少となった。
その他の収入は,商業部門の売り上げが28%伸び,19 億8,500万ポンド(約3,593 億円)となったが,インフレの影響やデジタル投資などで支出が増えた結果,グループ全体の収支は1億2,000万ポンド(約217 億円)の赤字となった。
利用実績は,統計の取り方を変えたため前年との比較はできないが,16歳以上の週間接触率は69%だった。
また動画配信サービスiPlayerの利用件数は前年比11%増の73 億件で過去最多となった。
一方,世界でBBCのテレビやラジオ,ウェブなどを利用した人は4 億4,700万人で,前年比9%減となった。
特に2022 年に一部言語のラジオ放送の廃止や人員削減策などを決めた国際放送BBC World Serviceでは,43のサービスのうち29で利用者減となった。
西アフリカで使われるヨルバ語やインドネシア語が70%以上の減となる一方,中国語は26%,ロシア語は19%,ウクライナ語は11%の増となった。


BBCは2023 年から,偽情報対策や同局のブランドを広める効果が低いプラットフォーム経由でなくBBCに直接アクセスしてもらうことを優先するとしたうえで「ニュース環境の変化や,経費削減のために国際放送は今後も難しい決断が必要になる」としている。

メディアの動き 2023年07月15日 (土)

【メディアの動き】NHK放送文化研究所で世論調査対象者1,200人の個人情報紛失

 NHK放送文化研究所(文研)は6月2日,2022年11月に実施した世論調査「ISSP『家庭と男女の役割』に関する国際比較調査」の対象者1,200人分の個人情報が記載された資料を紛失したと公表した。

 紛失したのは,住民基本台帳法に基づいて自治体の台帳から閲覧・抽出し,2023年1月,委託先の調査会社から提出を受けた調査対象者の「氏名」「住所」「生まれた年」「性別」が書かれた資料100枚。

 1枚に12人分の情報が記載されていた。

 資料は研究所内の施錠された棚で保管されていたが,原則半年間の保管期限を前に廃棄のために確認した際,紛失に気づいた。

 居室内を繰り返し探したが見つからず,総務省などに報告するとともに,対象者にお詫びと経緯等を説明する書面を発送した。

 紛失した資料が流出,または悪用された事実は確認されていない。

 文研では,世論調査に関する個人情報の内部ルールを設け,保管場所から資料を取り出す際には名前や資料名などを台帳に記録することにしていたが,徹底されていなかった。

 NHKは「調査へのご協力をお願いした皆様や自治体の方々に大変ご迷惑をおかけし,深くお詫び申し上げます。(略)管理体制を強化し,二度とこのような事態を起こさないよう,対策を徹底してまいります」とコメントしたが,法律で住民基本台帳を利用できる特別な配慮を与えられていたにもかかわらず,個人情報の管理が甘かったことは痛恨の極みであり,筆者も含め,組織全体で文字どおり管理体制の抜本的な改革に取り組んでいかなければならないと考える。

メディアの動き 2023年07月15日 (土)

【メディアの動き】「5月は地震多かった」気象庁データ発表,メディアも詳細分析

 5月は「地震が多かった」と感じた方もたくさんいたのではないだろうか。

 6月8日に気象庁が発表した「5月の地震活動」のデータからもその多さが裏づけられた。

 それによると,▼5日午後2時42分に能登半島沖で発生したマグニチュード(以下,M)6.5の地震で最大震度6強を観測。

 その約7時間後には,この地震の震源付近でM5.9の地震が起きて震度5強を観測した。

 ▼11日には千葉県南部の地震(M5.2)で震度5強,▼13日には鹿児島県のトカラ列島近海の地震(M5.1)で震度5弱,▼22日には伊豆諸島の新島・神津島近海の地震(M5.3)で震度5弱,▼26日には千葉県東方沖の地震(M6.2)で震度5弱を観測した。

 これらを含め,震度4以上を観測した地震はあわせて17回に達した。

 各メディアは解説記事などを掲載。

 このうちNHKは気象庁のデータベースを使って調べた結果,「震度4以上が17回」は,▼熊本地震が発生した2016年4月,▼北海道胆振(いぶり)東部地震が発生した2018年9月に次いで,この10年で3番目に多くなったと報じた。

 専門家は「科学的にもあまりみられない“まれな現象”が起きていたといえる」などとしたうえで,いずれの地震も予測されている巨大地震の想定震源域から遠く離れていることなどから,「南海トラフ巨大地震や首都直下地震に直接関係するものではない」とみている。

 5月の地震をめぐっては,ネット上でも不安の声が広がった。

 「何が起きているのか」を視聴者や読者に丁寧に説明し,地震への備えを考える機会につなげることが,メディアの重要な役割であることを改めて認識させた現象だったといえるだろう。

メディアの動き 2023年07月14日 (金)

【メディアの動き】総務省で放送業界によるプラットフォームの在り方に関する検討始まる

 6月19日,総務省「デジタル時代における放送制度の在り方に関する検討会(在り方検)」に「放送業界に係るプラットフォームの在り方に関するタスクフォース(TF)」が立ち上がった。

 議論の主軸として想定されているのは,NHKによる「日本の放送業界への貢献」である。

 2022年6月の放送法改正ではNHKの民放への協力努力義務,2023年5月の改正ではNHKと民放で中継局の共同利用を可能とする規定がそれぞれ追加されたことが背景にある。

 提示された論点は,①在り方検で議論が進む「地上波放送の中継局」共同利用の加速化,②NHKの「衛星放送の番組制作」への外部制作者に対する機会提供,③ローカル局の番組も含めた「インターネット配信」の推進におけるNHK・民放の役割,④現状は2社が維持・管理・運用を行う「衛星放送」のハード設備の将来像,⑤放送業界あげての「国際発信」推進,の5点。

 初回ならびに6月29日の2回目に議論が集中したのは③であった。

 構成員からは,NHK,民放,ローカル局の番組がネット上で一覧性を持って選択・視聴できるプラットフォームが用意されることが望ましいとの声が相次いだ。

 それに対して民放連からは,ネットサービスは個別企業の経営判断であり,放送法という共通の基盤とは異なり,新たな共通基盤という考え方は難しいという見解が示された。

 TFは7月中にあと2回,計4回の議論を行ったうえでとりまとめる急ピッチの予定が示されている。

 NHKには自らの責任,役割範囲を示すことが期待されている。

メディアの動き 2023年07月14日 (金)

【メディアの動き】生成AIめぐり新聞協会にヒアリング,問われる日本の著作権法の「間口」

 ChatGPTの登場を機に,生成AIへの懸念が世界的に高まっている。

 EUでは生成AI規制法案の年内合意をめざして協議が続いているが,加盟国内の多くの企業が,競争力と技術開発を鈍化させるものだと強く反発している。

 日本政府は,6月9日に決定した知的財産推進計画の中で,生成AIによって著作権侵害が相次ぐおそれや,対策の検討に言及した。

 15日には,自民党のデジタルコンテンツ戦略小委員会が,生成AIと著作権について,日本新聞協会からヒアリングを実施。

 同協会は5月に生成AIに関する見解を発表し,報道コンテンツが「無秩序にAIに利用される」ことで,「筆者も内容も不確かな記事」が氾濫すれば,社会に動揺を与え,報道機関の経営悪化や国民の「知る権利」の阻害を招くことなどへの危機感を示し,政府の対応を強く要望している。

 また,同協会は声明の中で,AIの機械学習について,日本の著作権法は諸外国と比べて「極めて間口が広い」と指摘する。

 たしかに,2018年の法改正で,AIの学習データ収集など,人がその著作物を知覚しない利用は無許諾で行えると規定された。

 将来の技術革新にも柔軟に対応しうるとして,法改正時に大きな異議はなかったが,生成AIへの懸念が高まる今,規定に批判的な声が出始めている。

 生成AIの無秩序な氾濫に対処するための議論は今後,本格化するだろう。

 だが,今国会で成立した改正著作権法がめざす利用円滑化の議論も後景化させてはならない。

 著作物利用と表現の萎縮につながらないか,注視したい。

メディアの動き 2023年07月14日 (金)

【メディアの動き】EU議会,生成AI含む規制案を採択

 AI=人工知能に対する包括的な規制の整備をめざすEUのヨーロッパ議会は,6月14日,ChatGPTなど生成AIも対象にすべきとする修正案を採択した。

 EUの執行機関にあたるヨーロッパ委員会は,世界にさきがけて2021年にAIに規制を設ける法案を提出していたが,生成AIについては触れられてはいなかったため,今回,修正が加えられた。

 規制案では,AIについてのリスクを「容認できない」から「最小限」の4段階に分類し,それぞれのレベルでAIサービスの提供者とユーザーへの義務を定めている。

 捜査当局がAIを使った生体認証システムをリアルタイムで使うことを原則として禁じ,所得や職業などに関する政府のデータに基づいて市民を格づけする「ソーシャルスコアリング」(social scoring)のために利用することを禁じている。

 また生成AIについては,▼AIを使って作られた文章や画像,音声などはAIで作られたことを明示し,▼AIに学習させるために著作権で保護されたデータを利用した場合は公表することなど透明性の義務を課す,としている。

 こうした規制に違反した場合には,最大で4,000万ユーロ(約60億円)か,法人の場合は年間売り上げの7%のいずれかの高いほうを罰金として科すとしている。

 EUは今後,ヨーロッパ議会と加盟国が協議を重ねて最終案を作成し,年内の合意を目指す。

 AIをめぐっては,コンピューター大手のMicrosoftやIBMなどが何らかの規制は必要だとの立場をとるのに対し,FacebookやInstagramを運用するMetaなどは慎重な姿勢で,EUの規制案についてさまざまな意見が出るものとみられる。

メディアの動き 2023年07月13日 (木)

【メディアの動き】カナダ,プラットフォーム事業利益の報道機関への分配を義務づける

 カナダ議会は6月22日,Google(Alphabet)やMetaなど検索エンジンやソーシャルメディアのプラットフォーム事業者に,ニュース記事の掲載で直接・間接的に得るデジタル広告収入などの利益の一部を報道機関に分配することを事実上,義務づける「オンラインニュース法(OnlineNewsAct)」を可決・成立させた。

 同法は事業者に報道機関との交渉を義務づけ,一定期間内に合意が得られない場合は,監督機関(CRTC)のもとで調停者の判断により決着させられる。

 オーストラリアが2021年に導入した制度を参考にした。

 企業との間の力関係の不均衡に配慮してメディアのグループによる交渉を認め,一定の透明性を持たせるため毎年,独立監査も実施する。

 対象となるメディアやIT企業の認定基準,CRTCによる監督や調停の方法など,具体的な施行規則は官報で発表し,広く意見を募ったうえで確定させる。

 カナダ政府は,同法の施行は民主主義に不可欠なニュースメディアの存続のために必要で公正な措置だとしている。

 一方,同法に反対してきたMetaはカナダでは自社プラットフォーム上でニュースを閲覧させないようにすると発表。

 Googleも検索結果にカナダのニュース記事リンクを掲載しないなどの対応をとると表明した。

 新法はカナダ政府によるニュースメディア支援策の一環で,カナダではこのほか,報道に携わる労働者の雇用費の25%分の税控除や,オンラインニュース購読費の15%分の税控除,地方のニュースの空白地帯などで公的機関や公的課題を取材するジャーナリストの雇用費補助などが実施されている。

メディアの動き 2023年07月13日 (木)

【メディアの動き】仏議会下院文化・教育委員会,公共放送改革に関する調査報告書公表

 フランス議会下院の文化・教育委員会は6月7日,議員調査団がまとめた,今後の公共放送のあり方に関する,提言を含む報告書を承認し,公表した。

 2022年8月に受信料にあたる公共放送負担税が廃止されたが,提言をふまえ,財源に関しては,改革に必要な法案も議会に提出されている。

 今回の調査報告書は,公共放送トップやメディア関係者など200人以上にヒアリングを行い作成された。

 公共放送の財源については,2024年末までの暫定措置として行われているTVA(付加価値税)の税収からの拠出を,2025年以降も継続するために必要な法改正を行うことを提言としてあげている。

 また,公共放送としての特性を改めて重視するため,公共テレビFranceTélévisionsの広告は,夜8時から翌朝6時の番組について,これまで規制の対象外だったスポンサーシップやデジタルサイトの広告を含めて一切廃止することもあげた。

 報告書によると,FranceTélévisionsの広告収入は,2022年度,全体で約4億ユーロ(約600億円)で,広告廃止による減収については,MetaやGoogleなどデジタルサービス事業者への課税による税収で補塡すべきだとしている。

 さらにデジタル時代において,公共放送各局の連携を迅速に強化するため,公共テレビ,公共ラジオ,国際放送,INA(国立視聴覚研究所)を1つの持ち株会社のもとで統括することなどが盛り込まれた。

 持ち株会社設立については,上院の議員が作成した公共放送改革法案の中でも柱の1つにされ,6月12日に上院で採択されている。

メディアの動き 2023年07月13日 (木)

【メディアの動き】韓国KBS,受信料の分離徴収の動きが加速,財政基盤が脅かされる事態に

 韓国の規制監督機関である韓国放送通信委員会(KCC)は6月16日,公共放送KBS の受信料と電気料金の分離徴収を目的とする放送法施行令の改正案を公表し,国民から意見を募集した。

 韓国では,受信料は電気料金とともに徴収されているが,放送を見ていなくても支払う仕組みとなっていることから反発が強く,韓国政府は制度の見直しを行っていた。

 改正案の公表に対してKBSは,分離徴収が実施されれば受信料の大幅な減収が予想されるため,激しく反発した。

 キム・ウィチョル社長は19日,職員に対し「KBSの独立性を維持するための最後の砦となる」と述べたうえで,21日には施行令改正手続きの差し止めを求めて憲法裁判所に仮処分を申し立てた。

 また,BBCなど世界の公共放送8局の会長が組織するグローバル・タスクフォース(GTF)は22日,このままではKBSは存続の危機に直面し,使命を果たせなくなるとの声明を出した。

 GTFは,偽情報があふれ社会が二極化する中,信頼できる情報源である公共メディアを弱体化させるべきときではないとも警告した。

 意見募集は26日まで行われ,寄せられた約4,700 件のうち89.2%が分離徴収への反対意見だった。

 ただ,7月上旬に予定されているKCCの議決では改正案が可決される可能性が高い。

 差し止め訴訟の判断にもよるが,早ければ7月中にも改正施行令が公布され,分離徴収が確定する。

 公共メディアの必要性や役割について議論が深まる前に手続きが加速しており,KBSは受信料収入という財政基盤が脅かされる事態となっている。