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メディアの動き

メディアの動き 2023年09月15日 (金)

【メディアの動き】仏国際放送,西アフリカを中心に放送禁止相次ぐ

 軍事クーデターが続く西アフリカで,旧宗主国フランスの国際放送FMM(France Médias Monde)が禁止される事態が相次いでいる。2022年以後,マリやブルキナファソに続き,2023年8月にはニジェールでも放送が遮断される事態となっている。

 7月下旬,ニジェールではクーデターにより,軍の部隊がバズム大統領を排除し,軍事政権の発足を発表した。その後,8月3日,FMM傘下の国際テレビ(France 24)とラジオ(RFI)の放送が,ニジェールで遮断される事態となった。仏日刊紙Le Mondeは,新たな軍当局の指令によるものとしている。FMMは同日,法的枠組みからも外れた決定で,地域の市民の,自由で独立した情報へのアクセスを奪う行為だと,強く抗議する声明を出した。FMMによると,ニジェールでは2022年,RFIは毎週人口の18%にあたる190万人が聴取し,France 24は人口の4分の1が視聴している。

 これまでも西アフリカでは,軍事クーデターが発生したマリで,2022年3月,暫定政権がFrance 24とRFIのマリ軍に関する報道は虚偽だとして,両局の国内での放送を禁じた。同様にブルキナファソでも,軍事クーデター後の2022年12月にRFI,2023年3月にFrance 24の放送が相次いで禁止された。さらに8月26日,大統領選挙が行われたアフリカ中部のガボンでも,当局により,France 24とRFIが,選挙関連報道で客観性とバランスを欠いたとされ,一時的に放送が遮断される事態となっている。その後,30日には軍の将校らが権力掌握を宣言し,混乱が広がっている。

メディアの動き 2023年09月15日 (金)

【メディアの動き】生成AI利用・報道基準,米APが公表

 ChatGPTなど生成AIの利用が広がる中,アメリカの大手通信社APは8月16日,生成AIの取材・編集利用についての基準を公表。翌17日,全米の地方紙など多くの英語メディアが参照する報道の手引「AP Stylebook」にも,AIに関わる報道のガイダンスや関連用語を追加した。

 このうちAP Stylebookでは,AIツールについて報じる際に,▷人間であるかのような表現や代名詞は避け,▷開発された目的や機能を説明する,▷その利用によって誰に利益があり,誰が不利益を被る可能性があるかを伝える,▷具体的な根拠を伴わない将来の可能性に関する開発者や企業の発言は慎重に扱い,現実にある課題の取材を優先する,などと勧告している。

 APとしての生成AI利用の基準では,事実を積み重ねて評価・整理し,記事・コンテンツを編集するという記者の中心的な役割に代わりはなく,AIが代替することはないとしたうえで,▷写真や動画,音声の加工・修正に使わない,▷機密情報などを入力しない,▷生成AI作成の情報は未検証の情報と同様に扱う,▷外部からの情報に生成AI作成のものが紛れ込むことを警戒する,などの注意を促している。

 アメリカではこのほか,ラジオ・テレビ・デジタルニュース連盟(RTDNA)が5月,報道機関がAIを利用する際には透明性や情報の正確さを担保する基本方針を明示するよう勧告した。非営利組織Partnership on AIはAI研究者,APや地方紙大手Gannettと協力し,幅広い意見交換の機会も設けながら,AIの利用やツール開発委託のガイドライン案,AIツールのデータベースなどを作成している。

メディアの動き 2023年09月15日 (金)

【メディアの動き】韓国KBS 理事会,社長の解任案提出

 韓国の公共放送KBSの理事会は8月30日,定例理事会においてキム・ウィチョル(金儀喆)社長の解任案を緊急案件として提出し,非公開での議論の結果,9月の臨時理事会で採決することを決めた。キム社長はムン・ジェイン(文在寅)政権下の2021年12月に社長に就任し,任期は3年。理事会は解任の理由として,経営の悪化や偏向報道などを挙げている。

 KBSの理事会は理事長と理事の合計11人。メンバーは韓国放送通信委員会(KCC)の推薦を受けて大統領によって任命され,これまでも時の政権の影響を色濃く反映してきた。ユン・ソンニョル(尹錫悦)大統領の就任後,政権寄りの理事への入れ替えが進み,8月時点では与党系6人,野党系5人で,キム社長の解任案は賛成多数で採択されるものとみられる。

 ユン政権は,これに先立つ同月25日に放送通信委員会の新しい委員長に,イ・ドングァン(李東官)氏を任命した。イ委員長は,保守系大手紙,東亜日報の記者出身で,イ・ミョンバク(李明博)政権では大統領府報道官などを務めた。イ委員長は28日に行われた就任式の挨拶で,公共放送の運営と内容が労働組合の意思によって左右されていると指摘するとともに,経営陣を含め,公共放送の構造改革に強い意欲を示していた。

 解任案についてキム社長は声明を出して,「KBSは政権が変わるたびに外圧に悩まされてきた。そのたびにKBSの構成員たちは国民とともに公共放送の独立を守るために闘ってきた。与党理事らの今回の社長解任案提出は,こうした努力に真っ向から背くことだ」として批判した。 

メディアの動き 2023年09月08日 (金)

総務省「公共放送ワーキンググループ」取りまとめ案 意見募集はじまる【研究員の視点】#503

メディア研究部(メディア情勢)村上圭子

はじめに
 8月31日、総務省で開催中の放送の将来について議論する有識者会議、「デジタル時代における放送制度の在り方に関する検討会(以下、在り方検)1) 」で、「公共放送ワーキンググループ(以下、WG)」の取りまとめ案2)が示されました。そして、9月7日からこの案に対する意見募集が開始されています3)。案では、NHKのネット活用業務を“必須業務”として位置づけるべきとの方向性が示されています。
 現在、NHKは放送同時・見逃し配信「NHKプラス」や「NHKニュース防災アプリ」など、ネットを活用したさまざまなサービスを実施していますが、これらの業務は、制度上は“任意業務”4)NHKが行うことができる業務という位置づけになっています。しかし、視聴者の情報入手やコンテンツ視聴の経路がネットに大きくシフトし、テレビを持たない人も増える中、ネット活用業務をNHKが実施しなければならない業務、すなわち、総務大臣の認可を得ない限り廃止ができない5)という重い責務を課す業務にすべきではないかということで、WGの有識者の意見がまとまりました。これは、番組業務(国内・BS・国際番組)と調査研究業務(放送および受信の進歩発達に必要な調査研究)6)に加えて、もう1つの必須業務の柱としてネット活用業務を位置づけるという、NHKの業務の根幹に関わる大きな制度変更を意味しています。
 また案では、ネットのみで放送同時配信・見逃し配信を視聴する人7)についても、視聴の対価としてではなく、相応の負担を求めることが適当だとしています。このことは、スマホやPCを保持しただけで対象とみなすのではなく、視聴する意思が明らかになるような行為を前提(アプリのダウンロードやID・パスワードの取得、一定期間の試用や利用約款への同意等の行為などが考えられる8))にしています。テレビなど受信端末の所持を前提としたこれまでの受信料制度から考えると、NHKの財源の根幹に関わる大きな制度変更を意味しています。
 以上のような制度改正の方向性が示された今回の取りまとめ案ですが、議論の中で最も紛糾し、時間が割かれたのが、必須業務として配信すべき情報の「範囲」と、提供する「対象」をどうするのか、という論点だったと思います。この論点の奥にあったのは、NHKの公共的価値の追求と情報空間におけるメディアの多元性維持という、時にあいいれない2つの目的をどのように両立していくのか、という困難な問いでした。また、メディア事業者を主語としたこの議論において、どこまで視聴者・国民目線の議論ができたのかも問われました。この2つの問いは、取りまとめ案が出た今も答えが出たわけではなく、むしろさらに困難な問いを抱えたと言えるかもしれません。
 本ブログではまず、とりまとめ案の全体像を整理することでWGの視点について確認します。その上で、必須業務の「範囲」と「対象」を中心に、案では今の状況をどう変更しようとしているのかについて、視聴者・国民の視点から図式化して内容を確認します。そして最後に、WGを1年間傍聴して感じてきたことをコメントしたいと思います。

 

1. 取りまとめ案の全体像
 表1は、今回のとりまとめ案のポイントを一覧するために、私なりに簡略化してまとめたものです。
詳細な内容については、総務省のウェブサイトの本文9)および概要10)をご確認ください。

 (表1)公共放送WG取りまとめ案の全体像
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 取りまとめ案は、①NHKの役割、②NHKのネット活用業務の在り方、③ネット活用業務の財源と受信料制度、④今後の進め方、の4つの柱で構成されています。黄色で示したのは、今回の案ではまとめきれていないもの、もしくは今後の検討が必要とされたものです。「はじめに」でも述べた通り、今回のWGの主題は②とそれに付随する③であり、案の文面の半分近くが②に割かれています。
 WGの議論の底流には、フェイクニュースなどの課題が増大するデジタル情報空間において、また、GoogleやAmazonなどの巨大サービスプラットフォームやNetflixなどの動画配信サービスといった海外事業者の市場支配力が強まる状況において、NHKにはどのような役割が求められるのか、どのような規律・ルールが求められるのか、という問題意識がありました。つまり、このWGはNHKをとりまく状況からNHKのあり方を考えていくという視点が常に意識されており、それは案①の内容に色濃く反映されています。
 この①の「NHKの役割」には、放送の二元体制と信頼できるメディアの多元性を維持するためNHKは放送全体の発展に貢献すると共に、ネット配信においては新聞・通信社などとの適切な協調・競争関係の構築に努めていくべき、という内容が盛り込まれています。他のメディア事業者との連携・協力・すみ分け(競争への配慮)が強く意識された内容です。このうち連携・協力に関する論点については、2023年6月に在り方検の下に新たに「放送業界に係るプラットフォームの在り方に関するタスクフォース」という場が設けられ、こちらも取りまとめ案11)が出されています。そのため今回のブログでは深入りせず、別な機会に取り上げたいと思います。なお、すみ分け(競争への配慮)の論点については、次項で触れていきます。

 

2.必須業務化で何が変わるのか?
 ではここから、今回の取りまとめ案の主題である、NHKのネット活用業務の必須業務化についてみていきます。図1 は、現在の任意業務から必須業務に変化した場合、現状がどう変更されるのかについて、視聴者・国民の目線から図式化してみたものです。取りまとめ案およびWGの議論を理解するために私が作成したイメージ図であるということをあらかじめお断りしておきます。以下、この図に基づいて説明していきます。

(図1)任意業務から必須業務に変化した場合の変更点
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①テレビを所持していなくてもネットでNHKの番組が視聴可能に
 必須業務化の最大の眼目は、任意業務の現在は放送受信契約がある人にしか提供されていないNHKプラスを、テレビを所持していない人でも、希望すれば相応の負担のもとで視聴できるようにすることだと言っていいでしょう。案ではNHKに対し、全国どこであってもネット利用環境のある人からの求めに応じて、放送番組の同時・見逃し配信を継続的・安定的に行うことを義務づけるとしています。

②「理解増進情報」の廃止
 次に、必須業務化した場合、現在行われているNHKのネットサービスが変更になるという意味で、視聴者・国民にとって影響があるのが「理解増進情報」の廃止です。
 理解増進情報とは、2014年放送法改正でNHKに認められたもので、NHKがネット上で取り組む、番組の周知・広報、再編集や解説・補足などの業務を総称したものです(図2)12)。NHKは任意業務のネット活用業務を行うにあたり、「インターネット活用業務実施基準」の策定が義務づけられていますが、毎年そこで理解増進情報の項目を定め、総務大臣の認可を得た上で実施してきました。具体的なコンテンツの制作や運営は、番組制作の現場や部署単位で進めています。「NHK NEWS WEB」などニュースを深掘りしたテキスト記事や、Z世代を意識したYouTube上でのショート動画、Eテレや地域局における教育や課題解決のためのコミュニティー運営など、多様なコンテンツをNHKのサイトやアプリ、SNSやYouTubeなどで展開しています。これらはNHKとの受信契約の有無にかかわらず、全ての視聴者・国民が無料でアクセスできるものとなっています。

(図2)「理解増進情報」とは?(「NHKインターネット活用業務実施基準」より)
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 WGではこの理解増進情報を巡り、ネット上でビジネスを行う民間メディア事業者の経営に悪影響を及ぼしているのではないか、とか、NHKはなし崩しにサービスを拡大しているのではないか、といった懸念や批判の声があがりました。中でも日本新聞協会は、NHKのテキスト展開に対して、具体的なサービス名をあげながら厳しく批判しました。
 そして、日本新聞協会、民放連、多くの構成員からは、NHKは必須業務化の議論を進めるにあたり、これまでの理解増進情報について自ら検証することが必要ではないかとの意見が出されました。これに対してNHKは、ネット活用業務が必須業務として放送同様のミッションとなる以上、「付加的な情報によって、放送への“誘引”効果を高めるようなサービスについては、今の形のまま残ることはない」「理解増進情報は必然的に再整理されると考えている」13)と、必須業務化とワンセットで説明を行う姿勢でWGに臨みました。
 結局、とりまとめ案では理解増進情報は廃止の方向性が示されました。そしてWGでは、NHKが必須業務化後、理解増進情報に変わる新たな「放送番組以外のコンテンツ」の提供を、誰に、どこまで行うのかが議論されました。次項で見ていきます。

③ 放送番組以外のコンテンツ 提供の「範囲」と「対象」
 この論点については、議論の経緯を振り返りながら内容を確認していきたいと思います。
 図3は、NHKが6月30日、第10回会合14)で提出した説明資料です。NHKはまず、必須業務の業務範囲を「常時同時配信・見逃し配信サービス」と「報道サイト」を基本とするという方針を述べました。その上で、報道サイトについては現在のNHK NEWS WEBなどを再整理したものを想定しており、テキスト情報については、放送と同一の情報内容のもの、ネットの特性に合わせたものを多元提供すると説明しました。このNHKの説明を踏まえて、4回にわたり議論が行われました。

(図3)公共放送WGにおけるNHKの説明(第10回会合資料から抜粋)
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*配信の“対象”は?無料提供はやめるのか?
 議論の焦点の1 つとなったのは、必須業務化後もNHKは無料で放送番組以外のコンテンツを提供し続けるのかどうかでした。これは、NHKは費用を負担しない人たちに対してサービスを提供し続けるのかどうかと同じ意味でもあります。
 有識者からは、現在のNHK NEWS WEBは誰でも無料で見ることができて受信契約の締結も促されないが、必須業務化した際にはどうするのかを明確にすべきではないか(曽我部真裕構成員)、とか、現状のニュース防災アプリの中でも、無料で提供できるものとそうでないものを区別して議論すべきではないか(大谷和子構成員)、といった意見が出されました。日本新聞協会からは、デジタルで有料配信を成長させようとしている地方紙各紙から、NHKによる無料で大規模なニュース配信は抑制してもらいたいという切実な声が寄せられているというコメントがありました。中には、公共放送ないしはテレビに対するPR活動は必要であり、PRであれば負担者にも納得してもらえるのではないか(瀧俊雄構成員)、といった発言もありましたが、有識者の多くは、「無料での提供」、「費用負担者以外への無制限な提供」については、消極的、否定的な声が多い印象を受けました。
 こうした発言に対し、NHKはどのように応答したのでしょうか。図3で示したとおり、NHKは第10回会合で提出した資料において、必須業務の範囲として示した報道サイトの説明に「様々なデバイス・認証等なしで閲覧可能」という文言を入れていました。しかし、それから2か月弱がたった8月10日の第12回会合で改めて考えを問われると、「必須業務になった場合には、現在のように、全ての情報をそのまま最後まで見られるというようなことは考えておりません。認証をかけて契約を確認するなど、何らかのアクションがあることを前提にしていたいと考えております15)」とコメントしました。NHKはこの発言をもって、必須業務化後は、無料での提供や費用負担者以外への提供を縮小すると表明したと私は受け止めました。

*配信の「範囲」は?テキストは提供するのか?
 議論のもう1つの焦点は、必須業務化後に放送番組以外のコンテンツをどこまで配信するのか、特に日本新聞協会が強く反対しているテキスト情報の配信をどうするのかでした。これについては、有識者から一定の理解を示す発言が続きました。たとえば、放送の枠からあふれたもののテキスト化を封印するのは社会的なリソースの無駄になるのではないか(内山隆構成員)、取材・報道したものをデジタル空間の参加者にワンソースマルチユースに似たイメージでいろいろな形で出し分けていく必要があるのではないか(宍戸常寿構成員)、などです。
 また、テキストの全面撤退は、理解増進情報を提供している現状から大幅に後退することになり、一般視聴者からすると大幅な不利益ではないか(曽我部構成員)、といった意見もありました。しかしこの意見に対しては、日本新聞協会が、理解増進情報を既得権として考えているのではないか、ルールを逸脱したものでも一度出してしまえばサービス低下になるのでやめられないという意見には非常に懸念を覚えた、と強く反発しました。

*競争評価の仕組みの導入
 以上のような論点と並行して議論されていたのが、NHKがネット上で存在感を増すことでメディアの多元性や放送の二元体制が損なわれないようにするにはどうすればいいのか、というものでした。日本新聞協会や民放連の懸念だけでなく、有識者からも、受信料を財源とすることがいわゆる「国家補助」に該当しうるという指摘があり(京都大学・川濵昇教授)16)、WGではNHKのネット活用業務が市場における公正競争を阻害しないかどうかを判断する何らかの評価・検証の仕組みが必要であるとの認識が共有されました。その上で、その仕組みをどの段階で行うのか(NHKの業務開始前か後か)、誰が行うのか(NHKの内部か外部か)について議論が行われました。
 NHKは第10回会合で、「「必須業務」範囲想定外の新規サービスを開始する場合」には、「経営委員会の監督のもと、情報空間全体のステークホルダーの状況も理解する専門家からなる委員会(を想定)」が主体となり、市場影響などについて審査の上で適否を判断すべき、そして、パブリックコメントなどを経て予算・事業計画に盛り込むことを想定しているとの考えを示しました。そして想定しているこの委員会については、「任命、プロセス等を適切に整備することで執行部からの独立性、他の伝統メディアの意見提出機会等を確保する」と説明しました17)。つまり、この時点でNHKが想定していたのは、①必須業務範囲で想定していない新たなサービスをNHKが開始したいと思った場合において、②事前に、③NHKが設けた委員会が主体となって、④独立性を担保した上で評価する、というものでした。

 NHKがこの説明で参照していたのが、イギリスで現在行われている、公共放送BBCと放送通信分野の独立規制機関であるOfcomによる競争評価の枠組みでした(図418))。イギリスの場合、まずBBCが主体となり、検討中の新規事業や大幅な事業変更が公共目的の促進に貢献するか、市場競争に悪影響を及ぼさない妥当な措置がとられているかなどを判断します(=「公共価値テスト」)。その上で、BBCはOfcomにテスト結果を提示、Ofcomはそれを審査し、「競争評価」が必要だと判断すれば自ら実施し、事業の適否を判断するという流れになっています。

(図4)イギリスの競争評価のプロセス(公共放送WG事務局資料より抜粋)
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 NHKの提案に対し、有識者からは、Ofcomは公共の価値と公正競争に及ぼすリスク要因を直接的に比較することは困難だと認識しているということが報告され、業務の公共的価値という“錦の御旗”のもとに公正競争の議論が劣後する懸念があり、純粋に公正競争の観点で評価手法を構築すべきではないか(林秀弥構成員)、といった発言がありました。
 また、WG当初から日本新聞協会はNHKの必須業務化そのものに強い反対の姿勢を見せてきましたが、複数の構成員から、むしろ必須業務化することによって、競争評価の実施など、NHKに対して重い責任と規律を課していくことができるのではないか(落合孝文構成員、長田三紀構成員)、との発言がありました。

*取りまとめ案公表へ
 こうした議論を経て、8月31日、在り方検の親会にWGの取りまとめ案が提示されました(図5)。
必須業務でNHKが配信する放送番組以外のコンテンツについては、ⅰ)国民の生命・安全に関わる伝達の緊急度の高い重要な情報、ⅱ)放送番組に密接に関連する情報又は放送番組を補完する情報、に限定して放送法で定性的に規定すべき、との記載になりました。また、提供する対象については、例外を除き、費用を負担する人を原則とするということが読み取れる内容となっています。

(図5)在り方検・親会に示された公共放送WG取りまとめ(案)概要(抜粋)
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 実はこの案ですが、親会2日前の8月29日に開かれたWGの13回会合で提出された原案19)から一部修正されたものとなっています。修正前の原案には、ⅱ)の文言の前に「放送番組の時間的制約のために載り切らなかった情報など」という文章がありました。WGでは日本新聞協会が、「懸念が解消されない状況での取りまとめは遺憾。放送番組の時間的制約のために載り切らなかったなどの文言も出てきた。運用時に拡大解釈される余地は残っており、修正の検討を求める」と発言していました。また民放連も、「放送番組に密接する情報や補完する情報という文言で限定できるのか。今後の法制化や制度化で、しっかり限定できるように要望したい」と発言していました。NHKの必須業務化に最後まで強い懸念が残る中で提出されたと取りまとめ案となりました。
 また、先述した競争評価については図6のような枠組みになりました20)。文書だけでは理解しづらかったので、私なり図式化してみました。まず、NHKが必須業務の内容に関する原案を策定し、外部の第三者機関が、日本新聞協会や民放連など、適宜関係者の参加の上、原案の評価・検証を行います。それをもとに総務大臣がNHK予算に意見を付して国会に提出、国会の予算審議で適否が判断され、適当とされた場合、NHKが業務を実施するというプロセスが示されました。

(図6)取りまとめ案で示された競争評価の仕組み
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3.WGを1年間傍聴して感じたこと
 公共放送WGは2022年9月に開始し、取りまとめ案が示されるまで13回の議論を重ねてきました。私は全ての会合を傍聴し、これまで7回にわたり本ブログ21)で議論の内容を整理してきました。議論の整理については、できるだけ議事録や自身の傍聴メモ、提出された資料に基づきながら客観的にまとめるべく努力してきました。
 ここからは、これまでの1年間の傍聴で感じてきたことや今後への期待を、私自身の主観も交えながらコメントしておきたいと思います。

①競争評価を前に考えるべきこと
 本ブログの冒頭で私は、WGは「NHKの公共的価値の追求と情報空間におけるメディアの多元性維持という、時にあいいれない2つの目的をどのように両立していくのか」という困難な問いに向き合ったと述べました。この問いは今後、NHKの必須業務の内容を決めるための競争評価の枠組みに場を移し、より具体的な問いとして関係者それぞれが向き合っていくことになります。
 取りまとめ案では、競争評価は「エビデンスベース」で行うこととされました。エビデンスとは、裏付け、客観的証拠という意味です。NHKが市場をゆがめるおそれがないかどうか、因果関係の大きさや有無を分析するためのデータを集めていくことになります。ただ、市場といっても、コンテンツの市場なのかジャーナリズムの市場なのか、エビデンスといっても誰がどのように用意していくのか。先行する欧州の状況を参考に進めていくことになると思いますが、道のりはかなり厳しいと推察します。
 特に、これまでWGを傍聴していて感じたのは、事業者自身がエビデンスを準備し、公表していくことの難しさでした。なぜそう感じたのか、以下述べていきます。

*自らにとって“耳の痛い”エビデンスを示せるか?
 NHKは必須業務化にむけた議論に臨むにあたり、ネットユーザーなどを対象に独自調査を行い、デジタル情報空間において伝統メディアやNHKの役割がいかに求められているか、どういう機能が期待されているかについて、膨大なデータを示しながらWGで説明しました22)。そしてユーザーの期待を「情報空間の参照点」と「信頼できる多元性確保」という2つの柱として整理し、これらの期待に応えていくことこそが、デジタル時代におけるNHKの役割であり、ネット活用業務の必須業務化を求める根拠でもあると説明しました。
 2つの柱のうち、競争評価に関わるのが「信頼できる多元性確保」です。これを実行していくためには、他メディアとの連携・協力と同時に、“すみ分け”が強く意識される必要があります。すみ分けを考える責任は当然、業務を行うNHKの側にありますが、NHKがWGで示したユーザー調査のデータからは、この領域でNHKの役割は期待されていない、とか、この領域は他の民間事業者がより役割を果たしているといった、NHKにとっては耳が痛い内容や、すみ分けの示唆にあたるような分析はほとんど読み取れませんでした23)。有識者からはNHKに対し、エビデンスをもとにした説明だという評価もありましたが、競合する民間事業者から見ると、NHKが自身で必須業務化を進めるために示したものと受け取られてしまったのではないかと感じました。

*“消去法的”発想で公共性を考える
 またNHKは、WGで幾度となく理解増進情報の検証を自ら行うべきだと言われていました。私もブログで何度かそのことに触れ、NHK内部で検証議論を進めるべきだと述べてきました。必須業務化に伴って必然的に整理するというのではなく、約10年間にわたるNHKの放送番組以外の多様なネットサービスの模索と成果の中から、民間事業者とすみ分けが必要なサービスとは何か、今後も残し続けるべきサービスとは何かを現場を巻き込んで議論し、その検証を踏まえることで、WGの三友仁志主査から期待されてきた“日本のメディアのリーダーとしての矜恃(きょうじ)”24)を持って、必須業務後のあり方を語ることができるのではないかと思っていたからです。
 本文でも引用しましたが、WGでは競争政策が専門の林構成員から、業務の公共的価値という“錦の御旗”のもとに公正競争の議論が劣後する懸念がある、という趣旨の発言がありました。私はこの発言を、NHK職員としての自分への戒めにしなければならないとの思いで受け止めました。公共的なサービスの中にも、民間事業者がビジネスベースでできること(やろうとしていること)はたくさんあります。これらを“消去法的”に選別し、絞り込んでいったものの中から、なぜ民間事業者にはできないのか、なぜそれがビジネスにならないのかをエビデンスベースで証明していくことが、「信頼できる多元性確保」への貢献の基本姿勢なのだと私は考えています。

*民間事業者に対して思うこと
 競争評価の関係者となる新聞や民放についても触れておきます。
 WGでは日本新聞協会や民放連に対して、NHKによる民業圧迫を主張するならそれを証明するエビデンスを提示すべき、という意見が何度もあがっていました。両者は、ネット活用業務を行う側のNHKがまずエビデンスを示すべきであるとの主張を繰り返し、議論は平行線のままでした。
 民間の、特に伝統メディア事業者のネットビジネスが厳しい最大の要因は、ユーザーが伝統メディアからネットに大きくシフトしていることであり、それに対して事業者や業界の側がビジネスモデルを転換しきれていないということにあると思います。また非都市圏では、デジタルに詳しい人材の不足が深刻で、ネット展開をしたくても思うように進められないという窮状も耳にします。いま世界的に課題となっている、ニュースサイトや動画サイトなどから適正な収益配分が行われていないということも要因としてあげられるでしょう。
 とはいえ、NHKの理解増進情報をはじめとしたネットサービスに何らかの要因があるのではないか、という指摘については、私自身は否定できないのではないかと考えています。年間約200億円をネット活用業務に費やすことが可能なNHKと、民放や新聞、特に地方紙やローカル局では、取り組めるサービスに大きな違いがあるということはいうまでもないからです。また、NHKにおいて“すみ分け”がきちんと意識されていないとすれば、ユーザーの奪い合いが市場のどこかで起きているかもしれません。
 以上のように要因は複合的であり、それを分析し証明することは困難です。そのことを日本新聞協会や民放連側に求めるのは酷ではないかと、WGの議論を聞いていて感じることもありました。ただ、要因の分析はさておき、WGの議題となったNHKのネット活用業務の拡大は食い止めておきたい、そのような考えが少しでもあったとしたら残念です。そしてそう考える背景に、NHKは“錦の御旗”のもとで公共的価値を追求しているとのまなざしがあるのだとすれば、それも残念です。

*志を同じくする“競争相手”との連携・協力のために
 今後、競争評価の枠組みを作っていく上でなにより大事なのは、NHKと民間メディア事業者との信頼関係です。デジタル領域におけるコンテンツ市場やジャーナリズム市場の競争を計る指標として何がふさわしいのかはこれから決めていくことになりますが、それぞれがデータを持ち寄り、それを同じテーブルに並べることに合意できなければ、そもそも評価そのものが始まりません。NHKのみならず民間事業者にとっても、さまざまな指標や市場の分析を通じて、個々の事業者がネット上のビジネス戦略を構築する上で参考になるような情報共有がなされる場になることを期待しています。
 また、デジタル情報空間全体に視野を広げてみると、NHK対民放・新聞という競争の外側にこそ、巨大な競争空間が存在していることは明らかです。親会の構成員でユーザー動向の分析が専門の奥律哉氏は、新聞、NHK、民放の三者だけでなく、ユーザーがどこからニュースを得ているのかを考えれば、ネット事業者も含めて全体のシェアを見ていく定点観測が不可欠ではないか、と語っています25)。信頼性の高い情報発信や民主主義への寄与、社会における基本的情報の共有といった“志”を共有できるメディアが何らかの連携・協力して臨まなければ、デジタル情報空間での深刻な課題や海外の巨大なサービスプラットフォームなどとの競争に対応できない状況にあるということは、NHK・民間事業者で共有できる現状認識だと思います。志を同じくする“競争相手”と連携・協力していくためには、信頼に基づいた公正な競争関係の構築が不可欠です。NHKの人材や知見、そして受信料そのものを、こうした連携・協力に活用していく検討も、在り方検の別な議論の場26)では始まっています。そして、この連携・協力の枠組みは、放送・新聞といった伝統メディアに限るものではなく、公共を意識して取り組む多様なメディアやネット上の発信者を巻き込みながら柔軟に考えていく必要があります。

② どこまで視聴者・国民目線の議論ができたのか?
 冒頭でもう1つ私が述べたのは、「メディア事業者を主語としたこの議論において、どこまで視聴者・国民目線の議論ができたのか」というものでした。
 今回目指している制度改正は、WGで山本隆司主査代理が指摘していたように、放送の定義自体を変えるという議論をしているわけではなく、NHKの設置根拠となる法律としての放送法の側から制度を変えていくというものでした。そう考えると、NHKにとって今回示された制度改正の方向性は大きなギアチェンジであると言えます。しかし、視聴者の立場で見たらどうなのでしょうか。

*「テレビを所有せずNHKを視聴する意思がある人たち」の目線
 まず今回の必須業務化によって、相応の負担のもとでNHKプラスを視聴することが可能となる「テレビを所有せずNHKを視聴する意思がある人たち」の目線で考えてみます。
 今回の制度改正では放送の定義を変えることは想定されていないため、NHKプラスは放送ではなく通信(著作権法上は自動公衆送信)のままです。そのため、著作権法上、もしくはビジネス契約上、配信ができない映像については、テレビでは視聴できてもNHKプラスでは視聴できないということになります。そして、NHKにインフラの整備が義務づけられている放送波とは異なり、通信環境の準備は視聴者サイドで行うことになっています。つまり、そもそもこのサービスは、ネットが利用できる環境になければ利用することはできません。また必須業務化に伴い、NHKには放送同時・見逃し配信を継続的・安定的に提供する義務が課せられることになりますが、災害時など、どこまでその義務が果たせるのか、どこまでそれをNHKに果たさせるべきなのかについてもまだ整理できていません。こうしたことを鑑みたとき、制度改正後、テレビを所有せずに相応の負担のもとでNHKを視聴する意思がある人たちがどのくらい出てくるのか、私にはまだイメージできません。

*「テレビを所有せずNHKを視聴する“意思がない”人たち」の目線
 次に、「テレビを所有せずNHKを視聴する“意思がない”人たち」の目線で考えておきたいと思います。NHKは今回の必須業務化によって、こうした人たちに向けてコンテンツを提供する回路を縮小することになります。WGで突っ込んだ議論はなされませんでしたが、YouTubeやSNSなどの外部のサービスプラットフォームに対しても、NHKは現在、さまざまなコンテンツを無料で展開しており、これらのサービスについても、今後どのように整理していくのかを考えていかなければなりません。
 必須業務化後のネットサービスを基本は費用負担者向けとする、というこの判断は、公正競争の観点以上に、受信者の公平負担という観点から導き出されたものだと議論を聞いていて感じました。必須業務化してネット視聴の意思のある人に相応の負担を求めるのであれば、相応の負担をしない人に同等のサービスを提供するというのは問題があるのではないか、という論理です。ただ、「テレビを所有せずNHKを視聴する“意思がない”人たち」は、公共放送を支える“受信者共同体”に入らない自由を選択している人たちであり、その人たちに向けては緊急情報以外の情報は伝達する必要がない、とも受け取れる今回の取りまとめ案の内容は、いささか直線的な結論のような気がしなくもありませんでした。
 そもそも本WGが開始された時の問題意識に立ち戻って考えれば、情報空間全体のインフォメーション・ヘルス27)をいかに確保していくか、そこでNHKは何ができるのかが大きな問題意識だったはずです。日常的に新聞やテレビなどの伝統メディアに接触している層から最も遠いところに存在している人たちに、どうしたら事実に基づく多様な視点の情報に接してもらえるか、それを押しつけではない形で届けるにはどうしたらいいのか、そして、どこまでそうしたことに社会は取り組むべきなのか。これは在り方検全体で共有している問題意識であり、その取り組みからNHKが後退することになるということには違和感があります。NHKが2度にわたって行ってきた社会実証28)も、こうした問題意識のもとで行われたと認識しています。
 これまでの理解増進情報や社会実証で得た知見をNHKのためだけに生かす、というのでは確かに理解は得られないかもしれません。だとしたら、日本の情報空間の今後に還元するということを条件に、「テレビを所有せずNHKを視聴する“意思がない”人たち」に対するNHKのトライアンドエラーの場を残し、その成果を、新たな連携・協力の取り組みの場に生かしていく、こうした形での必須業務化の方向性も模索できるのではないでしょうか。

③今後の在り方検の議論への期待
 最後に、在り方検の議論全体を通じて感じていることを記しておきます。在り方検は2021年11月に開始し、これまで2年弱の議論が行われてきました。最初の1年間に最も意識して議論されてきたのは、デジタル情報空間におけるインフォメーション・ヘルスの確保という論点でした。そしてここ1年は、市場支配力を増すサービスプラットフォームや海外動画配信サービスとの競争という論点が強く意識されてきました。在り方検では、こうした状況下で、放送の二元体制を築いてきたNHKと民放、新聞も含めた伝統メディアは何をすべきか、いう視点で絶えず議論が進められてきたように思います。
 国民の知る権利に奉仕するため取材・編集に基づく確かな情報を届け、あらゆる権力をチェックし、多様な視点を提供することで、民主主義社会を維持し個人の自律的な判断を助けるという役割は、今後も変わらない伝統メディアの役割だと確信しています。しかし、デジタル情報空間の最大の特徴は、メディア企業に所属していなくても誰もが情報やコンテンツを自由に発信し、ビジネス化していくことも可能であること、そして、肩書き・立場・属性を問わず対等な関係性でコミュニケーションができるということです。こうした情報空間において、伝統メディア事業者は単なる情報発信者としではなく、人や地域、さまざまな取り組みを、「束ね」「つなぎ」「対話を下支え」する信頼できる“媒介者”として、より大きな力を発揮できるのではないかと思っています。こうした視点で、デジタル情報空間における伝統メディア、放送、NHKの役割を再定義していく議論が必要ではないかと考えます。
 デジタル情報空間の課題ばかりではなく“可能性”にも着目していくことで、在り方検の今後の議論が新たなメディアの公共性を考える、より豊かな議論になっていくことを期待しています。

おわりに
 私は全国各地の地域メディアの取材によく行きます。民間メディア事業者の置かれている状況は年々深刻になってきていますが、こうした中、ネットを活用しながら地域の課題解決に寄与したり、資金循環に貢献したりする“公共的なビジネス”に取り組む事業者が増えています。全国各地で、地域ビジネスを通じた地域メディアの公共性の再定義が始まっていると実感しています。
 こうした中、NHKは一層の想像力を持って謙虚な姿勢で臨まなければ、必須業務化後の新たなネット活用業務は競争評価を突破できず、視聴者・国民に公共的なサービスを届ける機会は極端に減ってしまうことになりかねません。本文で触れたように、競争評価のプロセスは、当初NHKが提案していたものよりも厳しいものとなりましたが、NHKをこれまで以上に外部に開き、職員一人一人がNHKを取り巻く外部環境の変化に気づくためのいい機会になるのではないかと考えています。メディアを研究する立場とNHK職員という2つの立場で、今後も議論に注目していきたいと思います。


1) 総務省「デジタル時代における放送政策の在り方に関する検討会」
 https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/kenkyu/digital_hososeido/index.html

2) 総務省・在り方検「公共放送WG取りまとめ(案)」(2023年8月31日)
 https://www.soumu.go.jp/main_content/000898674.pdf

3) https://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01ryutsu07_02000267.html

4) 放送法第20条2項

5) 放送法第86条

6) 放送法第20条

7) 対象を世帯にするか個人とするか、IDをいくつ払い出すか、同一IDで何台の端末を利用可能とするかなどは決まっておらず、継続して検討することになっている

8) 注2)P19の記載から

9) 注2)

10) 総務省・在り方検「公共放送WG取りまとめ(案)概要」(2023年8月31日)
 https://www.soumu.go.jp/main_content/000898676.pdf

11) 総務省・在り方検「放送業界に係るプラットフォームの在り方に関するタスクフォース取りまとめ(案)」(2023年8月31日)
 https://www.soumu.go.jp/main_content/000898681.pdf

12) NHK「インターネット活用業務実施基準」(2023年4月1日施行)P3
 https://www.nhk.or.jp/net-info/data/document/standards/221221-01-jissi-kijyun.pdf

13) 総務省・在り方検・公共放送WG(第10回)「NHK説明資料」(2023年6月30日)
 https://www.soumu.go.jp/main_content/000890187.pdf

14) 注13)参照

15) 総務省・在り方検・公共放送WG「第12回議事要旨」P13
 https://www.soumu.go.jp/main_content/000897598.pdf

16) 総務省・在り方検・公共放送WG(第6回)「川濵昇京大教授説明資料」(2023年3月15日)
 https://www.soumu.go.jp/main_content/000868816.pdf

17) 注13)P7


18) 総務省・在り方検・公共放送WG(第4回)事務局資料「諸外国の公共放送に関する制度について」(2022年12月22日)P42
 https://www.soumu.go.jp/main_content/000880070.pdf

19) 総務省・在り方検・公共放送WG(第13回)「取りまとめ(案)」(2023年8月29日)
 https://www.soumu.go.jp/main_content/000899290.pdf

20) 注13)P13~17

21) 村上圭子「これからの"放送"はどこに向かうのか?」Vol9,Vol,10を参照
 https://www.nhk.or.jp/bunken/research/domestic/20230801_7.html
 https://www.nhk.or.jp/bunken/research/domestic/20230301_7.html

22) 総務省・在り方検・公共放送WG(第3回)「NHK説明資料」(2022年11月24日)
 https://www.soumu.go.jp/main_content/000847287.pdf

23) 注22)P48においてNHKと民放に対する期待・実現度を比較した図が提示されている

24) 総務省・在り方検「公共放送WG(第8回)議事要旨」P18
 https://www.soumu.go.jp/main_content/000890205.pdf

25) 総務省・在り方検親会(第22回)発言

26) 総務省・在り方検「放送業界に係るプラットフォームの在り方に関するタスクフォース」

27) 「情報的健康」ともいう。多様な情報にバランスよく触れることで、フェイクニュースなどに対して一定の「免疫」(批判的能力)を獲得している状態のこと(在り方検・第1次取りまとめより)

28) NHK「インターネット活用業務についての社会実証」https://www.nhk.or.jp/net-info/social_proof/

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村上圭子
報道局でディレクターとして『NHKスペシャル』『クローズアップ現代』等を担当後、ラジオセンターを経て2010年から現職。 インターネット時代のテレビ・放送の存在意義、地域メディアの今後、自治体の災害情報伝達について取材・研究を進める。民放とNHK、新聞と放送、通信と放送、マスメディアとネットメディア、都市と地方等の架橋となるような問題提起を行っていきたいと考えている。

メディアの動き 2023年08月22日 (火)

【メディアの動き】民放ローカル局13 社が系列を 超えて連携,地域の魅力発信のための コンソーシアム設立

7月14日,北海道から沖縄までの民放ローカル局13 社が,地方創生等のライブ配信事業を手がけるLiveParkや楽天グループとともに,地域の魅力を発信するコンソーシアム「のぞいてニッポン運営委員会」を設立,サイトを開設した。
放送エリアに限定されていた各局の番組やオリジナルコンテンツを全国配信することで,地方経済への貢献をめざす。

コンソーシアムのポイントは3 つ。
(1 )系列やエリアを問わない,志を同じくするローカル局による連携。
  これまで数年間のトライアルと議論を通じて,地域に共通する課題の共有と,互いに異なる魅力の発見からつながりを育んできた。
( 2)連携企画やサイト編成,SNS 展開などを横断的に手がける編集部の存在。
  地域コンテンツ流通の重要性は繰り返し指摘されているが,視聴してもらうための方法についてはどのメディアも苦戦中だ。
  地域情報の魅力を最大限引き立てる司令塔をめざす。
( 3)ネットショッピング,旅行予約,ふるさと納税等,オンライン上の総合サービスを手がけるプラットフォームとの連携。
  連携にはさまざまな課題が指摘される中,コンテンツを供給するローカル局にとって持続可能なビジネスモデルの構築をめざしている。

コンソーシアム発起人でLiveParkファウンダーの安藤聖泰氏は,キー局主導でさまざまな枠組みが構築されることが長年の慣習となっている放送業界の中で,ボトムアップで丁寧に組み立ててきたと思われる。
新しい座組みの今後に注目していきたい。

メディアの動き 2023年08月22日 (火)

【メディアの動き】あいテレビの深夜番組のセクハラ発言, BPOが「人権侵害なし」の見解

愛媛県の民放あいテレビで放送されていた深夜番組の女性出演者が,番組内でのたび重なるセクハラ発言で精神的苦痛を受けたと申し立てた問題で,BPOの放送人権委員会は7月18日,人権侵害は認められず,放送倫理上の問題もあるとまでは言えないとする見解を公表した。

問題になったのは,あいテレビが2016 年から2022 年の3月まで毎週放送していた深夜のバラエティー番組『鶴ツル』で,出演者の女性フリーアナウンサーが,番組内で2人の男性出演者からしばしば下ネタや性的な言動を受け,羞恥心を抱かせられ,自身のイメージも損なわれたと申し立てた。

委員会は審理の結果,申立人が番組での性的な言動に長年悩んできたことは「真実」と考えられるが,本人が2021年11月に番組プロデューサーに伝えるまでは,あいテレビがそれに気づくことができたとは言えず,その後の対応にも過失があったとは言えないと判断した。
また放送局の責任を問うことについては,表現の自由の制約につながりうることから「謙抑的であるのが妥当」という考え方を示したうえで,「申立人の人格の尊厳を否定するような言動」があったとは言えないことから,「人権侵害があったとは認められない」と結論づけ,「放送倫理上の問題があるとまでは言えない」とした。

一方で,フリーアナウンサーとテレビ局,男性中心の職場に置かれた女性,という視点に照らし,申立人が圧倒的に弱い立場だったとして,あいテレビに対し,出演者が気軽に悩みを相談できる職場環境やジェンダーに配慮した体制を整備することを要望した。

メディアの動き 2023年08月22日 (火)

【メディアの動き】NHK,NW9の新型コロナウイルス 関連動画をめぐり関係者を処分し,調査結果を公表

7月21日,NHKは5月15日に放送した『ニュースウオッチ9(NW9)』のエンディング動画の中で不適切な伝え方があったとして,取材を担当した職員や上司の編集責任者等を処分するとともに,内部調査の結果を公表した。

動画のテーマは「新型コロナ5 類移行から1週間・戻りつつある日常」。
約1分間の動画の中で3人の遺族のインタビューを紹介したが,実際はワクチン接種後に死亡した人の遺族であったにもかかわらず,新型コロナに感染して死亡した方の遺族だと視聴者に誤認させる伝え方をしていた。

翌5月16日のNW9では,NHKに遺族を紹介したNPO 法人理事長の反応やSNS 上の批判を受けて謝罪。
7月5日には遺族らがBPO放送人権委員会に申し立てを行い,放送倫理検証委員会でも審議入りが決まっている。

なぜこうした問題が起きたのか。調査報告では,職員等の社会問題に対する認識の欠如,担当者間の情報共有不足,提案・取材・制作におけるチェック不足,取材先や視聴者に対する真摯な姿勢の欠如があるとしている。
NHKは2021年12月放送のBS1スペシャルにおいて,誤った内容の字幕をつけるといった,取材者や視聴者の信頼を損なう問題を起こしている。
再発防止策として,放送ガイドラインに沿って複眼的試写を行うなどのチェック機能の強化が行われたが,再び問題が起きてしまった。
NHKは今後,議論を尽くす組織への改善等を行っていくという。公共放送を担う1人1人の意識が根底から問われている。

メディアの動き 2023年08月22日 (火)

【メディアの動き】オーストリア議会,全世帯徴収型の公共放送の新財源制度法案を可決

オーストリアの議会下院は7月5日,受信機の有無にかかわらず,すべての世帯と企業から公共放送ORFの財源となる「ORF 負担金」を徴収することを定めた法案を可決した。
新財源制度は2024 年1月から施行される。

現行の受信料は,テレビやラジオ受信機を所有する世帯と企業から徴収しており,インターネットでORFのサービスを利用していても,テレビやラジオを所有していなければ徴収対象にならない。
これについてオーストリア憲法裁判所は2022 年7 月の判決で,「公共放送のサービスを利用できる人すべてに財源への貢献義務を課すことも,公共放送の独立性を保障する一側面である」とし,現行制度を違憲としたため,制度改正が必要となった。

ORF 負担金制度は,ドイツの「放送負担金」制度にならって設計され,世帯は住居ごとに一律額が徴収される(別荘は対象外)。
2024 年からの月額は15. 3 ユーロ(約2, 400 円)で,現行の18.59 ユーロ(約2,900 円)から値下げされる。企業からは,従業員の給与の総額に応じて設定された額が徴収される。
また可決した法案は,ORFのインターネットによる番組配信の範囲を拡大する条項も含む。

現在は,番組配信は放送後7日間のみとされているが,今後はジャンルによって30日や6か月などに延長され,放送前の先行配信や,配信専用の番組の制作も可能となる。

また,新聞社の事業を圧迫しないよう,ORFのウェブサイト上の文章記事は週に350 本までに制限され,コンテンツの割合を動画70%,文章30%にするよう定められる。

メディアの動き 2023年08月21日 (月)

【メディアの動き】台風進路予報円 精度良く表示, 災害危険度が高い地域を明確化

気象庁は,台風の進路を予報する際の予報円と暴風警戒域(台風の中心が予報円内に進んだ場合に風速25m以上の暴風となるおそれのある範囲)を,これまでより狭く絞り込んで,精度良く表示する方法を6月下旬に始めた。


数値予報技術の改善などにより実現したということで,台風による災害の危険度が高い地域の明確化につながると期待されている。
この方法が,7月15日に南シナ海で発生し,北西へ進んだ台風4号に初めて適用された。
この方法について,気象庁が2019(令和元)年に東日本や東北で河川の氾濫や土砂災害が相次ぎ,甚大な被害をもたらした「令和元年東日本台風」をモデルケースに検証したところ,3日先以降の予報円と暴風警戒域がこれまでより狭くなり,特に5日先の予報円は,約40%狭くなって,精度が向上したという。
気象庁は「災害の危険度が高い地域をより絞り込めるようになるので,早めの避難などの防災行動につなげてほしい」と話している。


ただ,変わらないこともある。▼予報円の定義が「台風の中心が70%の確率で入ると予想される範囲」(つまり30 %は入らない可能性がある)であることや,▼台風の進路予報が3・6時間おきに発表され,そのたびに変化すること,▼いわゆる「迷走台風」など進路予報の難しい台風については,どうしても予報円が大きくなること,などである。
今回の新たな表示方法の導入をきっかけに,メディアを通じて最新の情報を常に確認することの大切さを,改めて認識する必要があるだろう。

メディアの動き 2023年08月21日 (月)

【メディアの動き】韓国KBS,受信料の分離徴収が確定, 施行令改正受け,憲法裁に判断求める

韓国で7月12日,公共放送KBS の受信料を電気料金とともに徴収する方式から分離徴収に改める放送法施行令が施行された。
これを受け,KBSは,改正施行令が憲法に違反していないかなどの判断を憲法裁判所に求めた。

KBSは1994 年以降, 月額2,500ウォン(約270円)の受信料を電気料金とともに徴収してた。
この方式は,KBSに安定した収入をもたらした一方,放送を見ていなくても支払う仕組みとなっていることに対する国民の反発もあり,政府は制度の見直しを行っていた。
今回の改正について,ハン・ドクス(韓悳洙)首相は「国民の料金に対する意識と関連する権利への理解が深まると期待される」と述べた。

一方,KBSのキム・ウィチョル(金儀喆)社長は声明で,「受信料を徴収するために2,000億ウォン(約217億円)以上を浪費せざるを得なくなり,公共サービスのための番組の削減や廃止につながるだろう」との見通しを示し,「国民に多大な損害と混乱をもたらすことが予想されるので,改正を受け入れるのは困難だ」としている。
そのうえでキム社長は,憲法裁判所に判断を求めた目的について,「今回の改正が公共放送の憲法上の価値を損なう可能性の有無を検討し,どのような徴収方式が国民の大多数にとって有益かを判断することだ」と述べた。
同時にキム社長は,「KBSが最善の努力をしてきたにもかかわらず,急速に変化するメディア環境の中で,国民に対し,その価値を十分に発揮できていないことについて,心からお詫びする」と謝罪した。