#264 「トイレットペーパー買いだめ」に見る群衆行動と流言
メディア研究部(メディア動向) 福長秀彦
“パンデミック”(感染症の大流行)や大災害の時には、人びとの不安や恐怖などによって事実の裏づけのない「流言」が拡散して、社会に悪影響を及ぼす「群衆行動」を引き起こすことがあります。新型コロナウイルスでも、事実無根の流言がきっかけとなって、「トイレットペーパーの買いだめ」という群衆行動が起きました。その事例研究を『放送研究と調査』7月号に書きましたので、簡単にご紹介します。
流言の内容は、「トイレットペーパーは原材料がマスクと同じなので、マスクの増産に伴って品不足になる」「マスクの次はトイレットペーパーが不足する」などで、2月中旬以降、Twitterに次々と投稿されました。この後、各地で散発的に買いだめが起き始め、2月末になると買いだめは急加速して全国に波及しました。
トイレットペーパーの買いだめについて、3月に全国の20~79歳の男女4千人を対象に、インターネット調査をしました。それによると、「買いだめをした」人は全体の8%、「買いだめをしようとしたが、できなかった」人は9%でした。
買いだめをしたり、しようとした理由は次の通りでした。
買いだめの主な理由は、自分が流言を信じたからではありませんでした。流言を信じた他人に買い尽くされてしまうと思ったからでした。この心理は、トイレットペーパーが売り切れる店舗が増えるとともに増幅し、買いだめに拍車をかけました。また、流言とは関係なく、空の商品棚を見て不安に駆られた人も多くいました。
流言を否定する情報は、店頭からモノが消えてゆくに連れて、効果が逓減しました。流言を打ち消すテレビ報道の多くが、空の商品棚の映像を伝えたことで、結果的に不安を煽り、買いだめを促すことになってしまいました。
買いだめに限らず、いったん群衆行動が起きると止めるのは容易ではありません。群衆行動にエスカレートする前に、流言の拡散を抑えこむ必要があります。7月号には、この点について幾つか提言を書きました。ご一読頂ければ幸いです。