文研ブログ

メディアの動き 2019年10月04日 (金)

#211 「割れ」の時代に

メディア研究部(メディア動向)大髙 崇


知らないインターネット用語を目にすると自分が時代遅れなのではないかと焦るものですが、今回も思い切り焦ってしまいました。9月19日に高知市で開催されたマスコミ倫理懇談会(マス倫懇)の全国大会に出席した際、その用語を知りました。

それは、「割れ」
ご存知でしたか? 「知らない!」という人が多いと少し安心できるのですが……。

ネット用語などに関する解説記事を掲載するWEB百科事典「ニコニコ大百科」では、次のように説明されています。

割れとは、「Warez(ウェアーズ・ワレズ)」から派生した日本におけるネットスラングで、インターネットからのダウンロードやクラッキングなどの不正な手段を通じて、市販ソフトウェアを非合法にコピー・配布・販売・使用を行うこと、および、非合法にコピー・使用されたソフトウェアそのものを指す。


……いま大きな社会問題となっている「違法アップロード&ダウンロード」を行うこと全般を指すようです。9月24日に、海賊版サイト「漫画村」の元運営者が逮捕されましたが、大量の人気漫画を無断掲載した漫画村は、まさに「割れ」の象徴と言えるでしょう。

マス倫懇全国大会では、出版広報センター海賊版対策WG座長の伊東敦さんが講演し、海賊版サイトの運営者や、確信犯的なユーザーは「割れ」を積極的に肯定し、「ネットのコンテンツはタダであるべき」という考えが支配的で、彼らは正規版を購入する人を購入こうにゅうちゅうと称してさげすむ傾向が強い、と解説しました。
漫画村が閉鎖した今でも、雨後の筍のように漫画や雑誌の海賊版サイトが生まれ、多くのアクセスを獲得しているのも「割れ」に対する支持の強さを表しています。出版界を揺るがす大問題ですが、海賊版対策のための著作権法の改正も進まず、事態は深刻化する一方です。

WAREZ.jpg
イラスト:へぎっ


「割れ」の問題を放送に引き寄せて考えると、ご存知のように、放送番組も動画投稿サイトなどで違法に、大量にアップロードされています。そして、動画のコメント欄で「いい番組!」「貴重!」「アップ感謝です」といった言葉をよく見かけます。
「割れ」思想の肯定はできませんが、一方で、ではどうすれば正規版の過去番組を入手できるんだ、というユーザー(視聴者)の声も聞こえてきます。見逃しサービスなどで視聴できるのは、放送番組全体のごく一部。「割れ」を批判するのは簡単ですが、「割れざるをえない状況」はどう変えてゆくのか、私たちは問われ続けています。