文研ブログ

メディアの動き 2019年01月18日 (金)

#163 「著作権70年時代」にできること、すべきこと

メディア研究部(メディア動向) 大髙 崇


昨年12月30日、TPP協定が発効したことで、日本国内での著作権は「著作者の死後70年」まで保護されることになりました。従来は死後50年までだったので一気に20年延長です。この問題については、放送アーカイブ活用の側面から考えた論文を『放送研究と調査』の2018年8月号9月号に掲載しましたので、お読みいただけるとうれしいです。

三島由紀夫(1970年没)をはじめとした有名作家の作品はもちろん、無名の、例えば私が絵を描いたり曲を作ったりしたものでも、死後70年を経過しないと他の人が無断で使用することはできなくなりました。作者が誰かわからない、とか、連絡先がわからない、といった理由で作品が「お蔵入り」のままになってしまう、「権利者不明問題」は、この先さらに深刻になるでしょう。NHKでいえば、過去に放送し保存している番組(放送アーカイブ)は約100万本に達しますが、番組内で使用した著作物の権利者の連絡先がわからないなどの理由で、再利用できないものが大量にある状況です。

この著作権保護期間延長を受けて、1月10日に急きょ都内で開催されたシンポジウム「著作権延長後の世界で、我われは何をすべきか」を取材してきました。

163011601.jpg
(写真・シンポジウム会場)
満席! 関心の高さがうかがえます。

著作権法の研究者や弁護士、漫画家や写真家が所属する団体の方々に加え、著作権の消滅した文芸作品をインターネット上で公開している青空文庫のメンバーなど、多数の関係者が登壇。「これから何ができるか、何をすべきか」について、多くの斬新な提案と熱い議論がなされました。このうち、私が注目した発言をご紹介します。

東洋大学の生貝直人准教授が着目したのはアメリカの著作権法。絶版などの理由で入手できない作品について、保護期間の最後の20年間は、図書館などがデジタル化して利用してもよい、という条項があります。日本の著作権法でも同様の法改正を行い、絶版のものなどは、非営利のアーカイブ機関であればインターネット公開ができるような環境づくりをすすめてはどうかと提案しました。

また、日本漫画家協会理事の赤松健さんは、国会図書館がスキャンデータとして保有する1968年以前(50年以上前)の作品を、利用者には無料配信し、広告収益を作家や出版社へ還元するビジネスモデルを唱えました。

こうした、法制度改革や新しいビジネスモデルのアイデアが続々と登場し、放送アーカイブの利活用にあてはめて応用できそうなものも多く、とても建設的なシンポジウムとなりました。

もともとは「プロの作家」の権利だけを念頭に作られた著作権法。しかし今は、インターネットを通じて誰もが「著作者」になれます。「著作権70年時代」を迎えて、創る人も、使う人も納得できるようなルールを作るために、発想を新しくする必要がいよいよ高まっています。