文研ブログ

メディアの動き 2016年12月02日 (金)

#56 "スマホでテレビ" は、いつ実現するの?

メディア研究部(メディア動向) 村上圭子

11月22日、福島県沖で発生した地震により、津波警報が発令されました。
NHKや民放では、放送と同じ内容、もしくは同じ情報源を活用した内容を、
地震発生後すぐにインターネットでリアルタイムに配信しました。
早朝だったので、ベッドの中や通勤中にスマホのアプリやSNSで
ご覧になった方も多いかもしれませんね。

(写真 NHKニュース・防災アプリ)
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こうした災害時や、アメリカ大統領選、小池東京都知事の会見など
人々の関心の高いニュースについては、
ネットでも放送と同じ内容が視聴できる、「同時配信」というサービスが当たり前になってきました。
5年前の東日本大震災の時には、発生から半日くらいたってから
各局が五月雨的に配信する状況でしたから、大きく変わったと言えるでしょう。

しかし、こうしたサービスは、何かあった時だけであり、
地上波放送のチャンネルまるごとをスマホで見ることはできません。
実験的な取り組みとして、TOKYO MXとNHKが実施しているのみです。
一方、イギリスでは約10年前から、アメリカでも数年前から、
こうしたサービスは一般的となっています。
なぜ日本では同時配信のサービスの実施が各国に比べて遅れているのでしょうか。

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(クリックすると大きくなります)

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(クリックすると大きくなります)

理由はいくつかありますが、最も大きな理由としては、
日本では2006年から「ワンセグ」サービスという、
携帯電話(ガラケー)にテレビと全く同じ内容を放送の電波を使って届けるサービスを、
地上波放送局各局が取り組んできたという経緯があったことがあげられます。
ただ、人々の持つモバイル端末が、ガラケーからスマホに移り、
ワンセグチューナーが入ったスマホはごく一部となり、
サービスは廃れていっています。
もしかすると、ワンセグって何だろう?と
サービスをご存じない方も少なくないのかもしれませんね。

同時配信は、テレビと同じ内容をスマホで見ることができる、という意味では、
ユーザーの皆さんにとってはワンセグとあまり変わらないかもしれません。
しかし、放送の電波ではなくインターネット回線を使う、という意味で技術的には大きく異なります。
そして、技術的に異なるだけでなく、放送法や著作権法上の扱いも異なります。
そのため、ワンセグに代わって同時配信をすぐに実施するということには
なかなかならなかったのです。

しかし、一人暮らしで家にテレビがない人、スマホで映像を見る人が増える中、
テレビで見ることができる内容をなぜスマホで見ることができないのか、という声はどんどん大きくなっています。
こうした状況を受け、現在、総務省では同時配信に関する議論が始まっています。

 「放送を巡る諸課題に関する検討会」
 「情報通信審議会 放送コンテンツの製作・流通の促進等に関する検討委員会」

先月くらいに、新聞を始めニュースでも大きく取り上げられていたので、
ご存じの方も少なくないかもしれませんね。

また、NHKでも今月半ばまで約1万人の方に参加していただいて、
一日約16時間、総合テレビとEテレを同時配信する実験を行っていて、
今後、NHKとしてどのようなサービスが求められるのかを検証中です。

(写真 NHK同時配信(試験的提供B)アプリ)
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(スマートフォン画面)


日本における同時配信サービスは今後、どのような姿になっていくのか、
実施に向けてはどのような課題があるのか、
放送研究と調査12月号』で詳細にまとめています。
同時配信の他にも、「AbemaTV」など、
複雑に絡み合う日本の動画配信事情についても最新状況をまとめていますので、
ぜひご一読ください。