「練習球Ⅱ」

2020年11月2日

作:あさの あつこ

物語の舞台は夏の高校野球、地方大会の準決勝。
9回裏ツーアウトランナー無し。4点を追う攻撃の場面で、鴻山真郷 (こうやま・まさと)がヒットを打った場面から始まる。ベンチから見守る親友で投手の麓水律(ろくすい・りつ)は1塁ベース上の鴻山真郷を見ながらこれまでの出来事を思い出す。
小学校五年生の頃のイジメで野球から離れていた麓水律は、ある日鴻山真郷と偶然出会い、そこから再び野球に戻った。
9回表に2点を失った麓水律は代打でバッターボックスに向かう鴻山真郷から問われ、荷物の中の練習球を見た。そこにはボロボロになり捨てられるのを待つだけだった練習球があった。

テキスト:あさのあつこ「練習球Ⅱ」(角川文庫「晩夏のプレイボール」所収)

語り:山崎 智彦

「黄泉から」

2020年11月9日

作:久生 十蘭

(2019年4月8日放送のアンコール)

主人公の光太郎はフランス遊学から大戦直後の日本に帰国した。近い家族にはすべて先立たれ、唯一の肉親で光太郎を慕っていた従妹のおけいも、戦争中にニューギニアで亡くなっていたが、特に思い出すこともなくフランスで身につけた知識を生かして美術品の仲介人として日々を暮らしていた。終戦翌年のお盆に、光太郎は、戦争で亡くなった弟子たちを悼む恩師に出会う。おけいへの情のなさを責められ、自己流でショコラとマロン・グラッセとワインで彼女を迎える支度をしていると、おけいの戦地での同僚だった千代が、偶然訪ねてくる。千代は、おけいの最期の日々を光太郎に語りだすのだった…。

テキスト:久生十蘭「黄泉から」(岩波文庫「久生十蘭短篇選」所収)

語り:吉岡 大輔

「ひよこトラック」

2020年11月16日

作:小川 洋子

男の新しい下宿先は、七十の未亡人が孫娘と二人で暮らす一軒家の二階だった。定年間近の孤独なドアマンである「男」は、それまで住んでいたアパートをちょっとしたいさかいで追い出され、この下宿に住み始めた。六歳の孫娘は、母を亡くして祖母に引き取られてから言葉を失っていた。やがて年の離れた二人の間に言葉のない交流が生まれる。
下宿の前の農道には時折、カラーひよこを満載したトラックがやってくる。少女はそれをいつも楽しみに待っているが、ある日小さな事故が起きる…。

テキスト:小川洋子「ひよこトラック」(新潮文庫「海」所収)

語り:丹沢 研二

「犬と笛」「蜘蛛の糸」

2020年11月23日

作:芥川 龍之介

(2011年1月15日放送のアンコール)

『犬と笛』
主人公の髪長彦は、木こりで笛の名手。仕事の合間に奏でるその笛の音に心動かされたのは山の神々であった。心地よい演奏を聴かせてくれる御礼にと、髪長彦の前に神々が次々に現れ、「欲しいものは何か」と告げる。そうして3匹の犬をもらった髪長彦が、二人の姫が鬼神のたぐいにさらわれたのでは、という話を耳にする。

『蜘蛛の糸』
人殺しなど悪行の数々を重ねた男、カンダタは、たった一度、蜘蛛の命を助けたことで地獄から極楽へとむかう機会を御釈迦様から与えられる。天上から垂れてきた一本の蜘蛛の糸を見たカンダタは、必死でのぼりはじめた。しかし、気づくと、大勢の地獄の者たちが自分の後に続いている。このままでは、重さで糸が切れてしまう、そう思ってあがいた瞬間…。

テキスト:芥川龍之介「犬と笛」「蜘蛛の糸」(新潮文庫「蜘蛛の糸・杜子春」所収)

語り:山本 哲也

「暮れ花火」

2020年11月30日

作:朝井まかて

脱ぎ着する一瞬だけ見える羽織の裏地に絵を描くことは江戸の町人の隠れたおしゃれ。羽裏絵専門の女絵師おようは、仕事一筋。出入りの悉皆屋(しっかいや)で年下の修吉が寄せる好意にも気づかない。そんなおようを年の瀬に訪ねてきた芸妓の依頼は、春画を羽織裏に描いてほしいというもの。妹分の芸妓が自分の男にちょっかいを出しているので、自分たちの間柄の深さを羽織裏から悟らせたいのだという。そして気に入っている絵があるのでそれを描いてほしいと差し出したその絵は、なんと、かつておよう自身が描いたものだった。

テキスト:朝井まかて「暮れ花火」(講談社文庫「福袋」所収)

語り:小野 文惠