BS放送

6月8日(土)午後7時00分~午後8時59分

「ブレードランナー ファイナル・カット 4K版」

人造人間=レプリカントとブレードランナーとの戦いを圧倒的な映像美とスタイリッシュな演出で描く傑作SF。
リドリー・スコット監督が再編集したファイナル・カット版。

今月の1本4K推しポイント!

おすすめ映画の4K見どころをご紹介

今回ご紹介するのは、1982年に製作されたSF映画の金字塔の「ファイナル・カット 4K版」(2007)です。
2019年11月、雨の降りしきるロサンゼルス。高い知性と身体能力の人造人間=レプリカントが反乱を起こし、地球に戻ってきます。特捜班“ブレードランナー”のリック・デッカードは捜査を開始、レプリカントを追い詰めていきますが…。
物語の設定は5年も過去になりましたが、東洋と西洋の文化が入り混じり雑然とした生活感にあふれる都市、細部まで凝りに凝ったデザインや強烈な光と影の映像美など、リドリー・スコット監督の独創的な未来都市のビジョンが、今もさまざまなクリエーターに影響を与え続ける傑作中の傑作です。

1937年生まれのスコット監督は、ロンドンのロイヤル・カレッジ・オブ・アートで美術を学び、コマーシャル製作などをてがけたのち映画監督になり、SFホラー「エイリアン」(1979)の世界的な成功で一躍注目されました。絵画・彫刻をはじめ美術への深い造詣をもとに、照明・撮影などの映像技術を熟知したうえで最新のデジタル技術にも深い関心を持つ監督の映像は、世界中のファンを魅了し多くの映像作家に影響を与え続けています。現在は「グラディエーター」(2000)の続編を製作中、86歳の今も精力的に活躍しています。

当時、コンピューター・グラフィックスなどのデジタル技術はまだ一般的でなかったため、未来都市は美術セットやミニチュアなどで製作されました。視覚効果監修を務めたダグラス・トランブルは「2001年宇宙の旅」(1968)「未知との遭遇」(1977)など、数々の傑作SF映画で特撮を担当した特撮の第一人者。本作は35ミリフィルムで撮影されましたが、多重合成される視覚効果の場面などでは65ミリの大型フィルムが使われ、高いクオリティーの映像を作り出しています。プロダクション・デザイナーはローレンス・G・ポール。スタジオ内にさまざまなセットを構築し、未来都市を築き上げました。工業デザイナーのシド・ミードも小道具や乗り物、都市のデザインなどに携わり、さらにロサンゼルスに実在するブラッドベリー・ビルや、近代建築の巨匠フランク・ロイド・ライトが設計したエニス・ブラウン邸も撮影に使われています。

撮影監督はジョーダン・クローネンウェス。フランシス・フォード・コッポラ監督の「ペギー・スーの結婚」(1986)でのパステルカラーのポップな色彩、代表作である本作のノワールのように陰影を効かせた照明、さらにはトーキング・ヘッズのステージをシンプルな照明と機敏なカメラワークでとらえた傑作ドキュメンタリー「ストップ・メイキング・センス」(1984)と、どれも創意工夫に富み、光と影を巧みに使った魔法のような映像を作り出しています。オリジナルフィルムをもとに監督が監修した4K版は、映像美がさらに際立っています。例えば、デッカードがレイチェルと初めて会う場面。タイレル社の暗く大きな部屋で、奥から歩いてきたレイチェルが自己紹介するまさに直前、斜めの影がさして、一瞬、顔が見えなくなり、影からでて、表情が見えたところで「I'm Rachel」とセリフを語ります。影で顔を隠すことで、レイチェルの謎めいたキャラクターを映像で表現し、観客の関心をひきつける、まさに“映像で語る”映画ならではの場面です。特撮を使っていない場面も、スコット監督ならではの美学が演出に貫かれています。

レプリカントとの攻防をとおして「人間とは何か」を描く本作。AIが現実のものとなった今こそ、本作のテーマは見るものに迫ります。時代を先取りした傑作、4Kならではの映像体験を満喫してください!