BSトピックス スペシャルコラム
スポーツ
2014年09月19日

■BSスポーツ■竹林宏アナウンサーに聞く、野球実況の作法(1)  by 大平裕之

~NHKのアナウンサーなら誰もが経験する「野球実況研修」とは?~

日本のプロ野球もアメリカのMLBも、いよいよレギュラーシーズンの覇者が決まるクライマックスに差し掛かっています。そこで今回から、野球実況を主に手掛ける竹林宏アナウンサーに、その中継の裏舞台について聞きました。1回目の今回は野球のラジオ実況における“鉄則”を教えてもらいました。
 

竹林宏アナウンサーはNHKに1987年に入局して以来、ずっとスポーツ実況に携わっています。その間、高校野球からプロ野球、アメリカのMLBに至るまで、さまざまな野球中継を手掛けてきました。高校時代まで実際に野球選手としてプレーしていた竹林さんにとって、その実況は“天職”とも言えるもの。まずはNHKでアナウンサーを志す人なら必ず経験する、高校野球のラジオ実況に関して教えてもらいました。

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■高校野球の強豪県・高知で実況のイロハを学ぶ

――スポーツ・アナになりたいと思ったきっかけは何ですか。

竹林 高校3年生まで自分でも野球をやっていましたから、それがスポーツ・アナを目指すきっかけとなっています。秋田県の高校でポジションはピッチャーでした。もっともほとんどが控えで、母校の成績も夏の地方大会に限っても、高校の3年間でわが校が初戦を突破したのは1回だけ。それも私が出場していない1年生のときの話ですので、勝利には全く貢献していません。
アナウンサーになってからは野球をみなさんにお伝えする立場として、その技術や作戦についてたくさんのことを教えられました。いま振り返ると、高校時代、そんな知識が少しでもあれば、もうちょっとはマシな高校球児になっていたかもしれませんね(苦笑)。その意味では、いま高校野球で強豪と言われる学校の選手たちは野球のことをよく知っています。いつも感心させられます。
 
――初めての野球実況はいつのことですか。

竹林 1987年にNHKに入って、最初に配属された四国の高知局で夏の高校野球・高知大会をラジオで実況したのが初めてです。実はNHKでは入局後すぐ行なわれるアナウンサーの新入研修に「野球実況研修」というものがあります。これは平日、神宮球場で行なわれている大学野球などにグループで出向き、1回の表はA、裏はBという具合に各々が実況し、その録音テープを元に先輩アナウンサーに教えを請うものです。私の場合は東都大学野球の試合が研修の場でしたが、最初はなかなか言葉が出てこなかった苦い思い出しかありません。
アナウンサーとして基礎となるひと通りの研修を終えると、今度はそれぞれの配属先で仕事を覚えていくことになります。野球の実況に関しては地元で行なわれる高校野球の練習試合などで、先輩アナウンサー指導の下、今度は1試合すべてを実況する実戦トレーニングを重ね、本番に備えました。

――高知県は高校野球が盛んな所としても知られています。

竹林 はい。私が配属された高知県には、全国優勝を果たした高知高校を筆頭に、高知商業、明徳義塾、伊野商業など、野球が強い強豪校がたくさんあります。高知だけでなく四国地方は高校野球が盛んな土地として知られていますので、野球の実況を目指していたアナウンサーとしては、いろいろと勉強できるいい所に配属されたと思います。
私は松山局の勤務ではなかったのですが、先日亡くなられた、愛媛県にある済美(さいび)高校の上甲正典(じょうこう・まさのり)監督にも、駆け出しのアナウンサーだったころ、取材でお世話になりました。当時は宇和島東高校の監督をしていらっしゃったのですが、面倒見がよくて、私みたいな新人アナウンサーの取材にも気さくに応じていただいたことが忘れられません。


■ラジオ実況の基本は「途中経過」と「投げました!」

――ラジオで野球を実況する際、最初はどんな点を注意するように教えられましたか。

竹林 1つは「得点と回数はたくさん言え」ということです。みなさんいつラジオのスイッチを入れられるかわかりませんので、いつでも途中経過がわかるように、「いま何回どっちが何対何でリードしているか」は多く言うに越したことはありません。しかし、これが結構忘れがちになる。目の前のプレーを伝えることに一生懸命で、途中経過を伝えることがおろそかになるんです。理想は1分に1回くらい。せめてバッター1人のプレーが終わるごとには途中経過を入れなくてはいけないと思います。基本中の基本ではあるのですが、これが何年たっても難しいというのが実感です。
もう1点は、ピッチャーが投げるタイミングに遅れないで「投げました!」と実況することです。「投げました!」と言っている間に、バットの快音が聞こえるようでは遅れています。ちゃんと「投げました!」という言葉が実際の動作に間に合うようにしゃべる。実は野球実況ではこれがとても大事なのです。というのも、それぞれのピッチャーが150球ずつ投球するとしたら、1試合に計300回、この「投げました」という動作があるわけです。つまりここのしゃべりが遅れてしまうと、1試合全部の実況が遅れてしまうことにもなり兼ねません。実況のリズムも確実に悪くなります。しかし、他にもいろいろな情報を伝えなければいけない野球中継で、1試合に300回もタイミングを間違えずに「投げました!」と言うのも、結構難しいものです。私はいまでもうまくいかなくて悩むことが多々ありますが、この2つが野球放送におけるラジオ実況の“鉄則”と言えるのではないでしょうか。

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日本もアメリカも、2014年のレギュラーシーズンがそろそろ終わろうとしています。優勝争いもクライマックスを迎え、10月からはチャンピオンチームを決めるプレーオフがともに始まります。NHKでは最後までその熱戦をお送りする予定です。どうぞこれからも野球観戦はNHKの放送でお楽しみください。
これまで数え切れないほどの名勝負を伝えてきた竹林アナウンサーに、次回も野球中継の裏側を根掘り葉掘り聞きます。こちらもどうぞお楽しみに! 

★次回竹林アナウンサーの実況は、BS1 9月20日(土)午後2:00~ プロ野球「巨人」対「ヤクルト」です。
 

colimg_fri_takebayashi_2014.jpg【竹林 宏(たけばやし・ひろし)アナウンサー】
1987年NHK入局。その後、野球や陸上など、さまざまなスポーツ中継に携わる。とくに野球は高校時代まで自らプレーするほど魅せられ、NHKでは実戦派の“野球通”として知られている。

 

 

 

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大平裕之(おおひら・ひろゆき)

【コラム執筆者】
大平裕之(おおひら・ひろゆき)

フリーライター。BSオンライン、BSファン倶楽部(現BSオンライン#)等にて、約10年にわたってコラム「スポーツアナ実況席」の聞き手・構成をつとめる。自身もメジャースポーツウォッチングを趣味としている。