BSトピックス スペシャルコラム
ドキュメンタリー
2016年03月02日

東日本大震災から5年、東北から2つのドキュメンタリーを ~「そしてイナサは吹き続ける ~風寄せる集落の11年~」「赤宇木(あこうぎ)」~

東日本大震災から5年。東北から2つのドキュメンタリー番組をお届けします。津波で流された仙台市荒浜の人々の暮らしを、震災をはさむ11年の長期取材で追った「そしてイナサは吹き続ける ~風寄せる集落の11年~」

原発事故で避難が続く福島・浪江町で、突如断ち切られた歴史を記録に残そうと立ち上がった人々の姿を描く「赤宇木(あこうぎ)」の2本です。

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震災の前も後も、変わらず受け継がれているもの ~「そしてイナサは吹き続ける ~風寄せる集落の11年~」 BY 戸沢冬樹

160302_inasa1.jpg「イナサ」とは、仙台平野の海辺の村々に大漁と豊作をもたらす暖かい海風です。この恵みの風が吹き寄せる荒浜集落で、地元仙台の制作チームが11年にわたって撮影を続けてきました。ディレクターは何人も変わりましたが、一貫して撮り続けている一人の老カメラマンがいます。そのカメラを通して荒浜の人たちを見つめる温かいまなざしが、番組のいちばんの見どころです。
160302_inasa2.jpg中でも印象深いのが、漁師の孫娘マユコです。撮影を始めた11年前は12歳。『北の国から』の蛍のようなかわいらしい女の子(写真上)でしたが、震災の体験を経て、22歳(写真下)になりました。

いまも仮設住宅から勤めに出るマユコは、去年の暮れ、港のおじいさんの船にやって来て、昔と同じように新年の飾り付けを手伝っていました。

「見た目はイマドキの女性になったけど、気持ちはあのころと変わらない」

まるで自分の孫を語るような老カメラマンの誇らしげな表情! 震災で集落の姿は変わり、何もかも失われてしまったように見えるけれど、決して変わらず受け継がれているものがある。震災を生き抜いた人たちの強さ、たくましさに勇気づけられる番組です。

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放送予定
「そしてイナサは吹き続ける ~風寄せる集落の11年~」
BSプレミアム 3月6日(日)午後1時~
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元に戻るのは100年後…歴史が唐突に断ち切られた場所 ~「赤宇木(あこうぎ)」 BY 大森淳郎

160302_akogi1.jpg2011年3月17日、私と相棒 七沢潔は第一原発から30キロ圏内の実情を知りたくて国道114号線を北上していた。30キロ圏内の道沿いの家々に人の気配は無かった。ようやく会えたのは、心臓が悪くて避難に踏み切れないでいた天野さんという人だった。話を聞いた帰り際、その天野さんが「アコウギの集会所には避難民がまだいっぱいいるよ」と教えてくれた。アコウギという不思議な地名を聞いた最初だった。アコウギが赤宇木であることも知らなかった。集会所に行ってみると10数人の人々が肩を寄せあうように自活していた。線量を計ると毎時80マイクロシーベルトあった。
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それから2年。福島で増え続ける自殺について取材をしていた。その中で割腹自殺を遂げた今野富夫さんを知った。赤宇木の人だった。さらに1年。阿武隈高地の動物への放射能の影響について調査を続ける科学者たちを追っていた。彼らのフィールドの重要な場所の一つが赤宇木だった。赤宇木は私にとって特別な場所になりつつあった。

これまでは、赤宇木は取材のフィールドだったが、今回は、赤宇木そのものが取材対象である。赤宇木が元の土地に戻るのは100年後とも150年後とも言われる。赤宇木の歴史は唐突に断ち切られたのだ。それはいったいどういうことなのか。まるで原発事故などなかったかのような言葉がまかり通る5年目に問いかけたいと思う。

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放送予定
「赤宇木(あこうぎ)」
BSプレミアム 3月13日(日)午後2時~
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戸沢冬樹(とざわ・ふゆき)/大森淳郎(おおもり・じゅんろう)

【コラム執筆者】
戸沢冬樹(とざわ・ふゆき)/大森淳郎(おおもり・じゅんろう)

★戸沢冬樹…NHK仙台局専任部長。平成2年入局。東京・盛岡・仙台で番組制作にあたる。歴史発見「繁栄の代償・天明大飢饉」、NHKスペシャル「介護の人材が逃げていく」など。/★大森淳郎…NHK仙台局シニア・ディレクター。昭和57年入局。東京・広島・福岡・仙台で番組制作にあたる。ETV特集「モリチョウさんを探して」、同「ひとりと一匹たち」など