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被災者を取り残さない 技術×福祉で支援につなげる

2024年4月19日

高齢者や困難な事情を抱える人たちを支援から取り残さない。その目的で始まっているのが、専門ボランティアの連携や、行政による被災者データベースづくりなどの取り組みです。

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被災地では、高齢者や困難を抱えた世帯など、支援の情報を得られなかったり、どこに相談したらいいかもわからなかったりする方もいます。

「り災判定で自宅が半壊以下の判定を受けた人は、支援金もほとんどもらうことができません。自宅を修理できないまま在宅避難を続ける人が、これまでの震災でも多く出ています。そういう人たちを支援から取り残さないことが大切です」(兵庫県立大大学院・減災復興政策研究科教授 阪本真由美さん)


“技術”と“福祉” 専門ボランティア同士の連携

支援から取り残されてしまう被災者をボランティアの力でサポートする、ある取り組みが注目されています。
「技術」と「福祉」の分野で活躍する専門のボランティアの連携で、被災者の支援につなげるという取り組みです。

阪本真由美さん

技術」とは、技術を専門としているボランティア団体。重機を使ってがれき除去をしたり、屋根に上って天井を直したりする、専門技術を持ったボランティア団体です。

そして、「福祉」分野で、高齢者や障害のある方をサポートするボランティア団体もあります。

「これらの団体は今までは別々に活動していたのですが、協力して一緒に活動するという新しい取り組みが生まれてきています」(阪本さん)

■福島県南相馬市で始まった新たな取り組み

2022年3月16日、福島県沖を震源とする地震が発生。
地震発生から1か月半後の福島県南相馬市に、全国から技術系ボランティアが集結していました。日本中の災害現場で活躍してきた手だれたちです。

そこへやってきたのは、地元のボランティア団体・みなみそうま災害支援チーム「このゆびとまれ」の中井康博さん。
技術チームに作業する場所を伝えるのが、「このゆびとまれ」の役割です。

中井康博さん

「このゆびとまれ」ができたのは地震の翌日。
メンバーは、福祉的な視点を持った人たちで、地元で被災者の生活再建を支えるのが目的です。地震発生から早い段階で、南相馬市が福祉と技術が連携できる体制を作りました。

市民から届くボランティア依頼のうち、高い技術が必要なものを「このゆびとまれ」が管理、技術チームとの調整を行います。

書類を確認する中井さん

この日、中井さんたちは、雨漏りに悩む被災者の家に、事前調査にやってきました。

バケツで雨漏りに対応

以前、地元の業者が屋根にブルーシートを張りましたが、緩んでしまいひどい雨漏りが起きていました。外壁も壊れたまま、直せていない状態でした。
そこで後日、ボランティアの派遣でブルーシートの張り直し作業をすることが決まりました。

後日、技術チームによって行われた作業
後日、技術チームによって行われた作業

安心した被災者の女性が、心の内を話し始めました。
「(夫が脳梗塞で施設にいるため)夜、すごく寂しいの、ひとりで。心細いというのかな。テレビ見てね、ごまかしてる」

中井さんと話す被災者の女性

緊急事態で助けを求めてきた人の中には、それ以外の悩みを抱えている人も少なくありません。

実は、福祉と技術の連携は、技術チームも求めていました。
技術チームは家の修復作業をきっかけに、心身の健康や生活面に課題がある人を見つけることがあります。ただ専門外であり、次の現場へも行かねばならず、後を委ねる地元の団体がなかなか見つからないという悩みがありました。南相馬での取り組みは、それを克服する試みです。

「僕らの補修だけじゃ心配なこともあるので『継続的に見てもらったほうがいい』と話するんです。地域のNPOなどが『できることあるな』とつながれば安心感があると思います」(技術系ボランティアのコーディネーター・樋口裕司さん)

樋口裕司さん

技術と福祉が連携できる体制で、復興から取り残される人のいない町を目指しています。


状況を把握し支援する「被災者データベース」

ことし1月に震度7の地震が発生した石川県では、生活再建の難しい被災者を行政が見つけ、状況を把握するための新たな取り組みが始まっています。

「被災者の支援に大事なのは、どこに被災者がいるのか、どんな困り事を持っているのかという情報です。
石川県は、この被災者の情報を統合した『被災者データベース』を作成。市町村が持っている『り災証明』などの情報が入った『被災者台帳』に、避難所にいる人の名簿情報などを登録します。
さらに、在宅避難や広域避難をしている方には、LINEでの情報登録を呼びかけました。3月末の時点でおよそ6万人が情報を寄せ、一つのデータベースとして統合されています。
この情報を、行政だけではなく、NPOなどの民間団体にも使ってもらい、被災者支援につなげようという、これまでなかった新しい取り組みです」(阪本さん)

被災者情報をデータベース化して統合
被災者情報をデータベース化して統合

「在宅避難している方には、行政とNPOが連携して1軒ずつ聞き取り調査をして、困り事があるかなど被災状況を確認して回っています。そこで把握できた支援が必要な方をボランティアにつなぐことも行っています」(阪本さん)

被災者への聞き取り調査の様子
被災者への聞き取り調査の様子

この記事は、明日をまもるナビ「能登半島地震 生活再建に向けて」(2024年4月21日 NHK総合テレビ放送)の内容をもとに制作しています。

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