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あなたの命をまもる「ハザードマップ」 知っておきたい活用法

2021年4月9日

巨大化する台風、街を飲み込む洪水、突然襲い来る土砂災害。私たちは未曾有の自然災害からどう身をまもればよいのでしょうか? 1000年に1度の災害は明日、起こるかもしれません。そこで、災害に備えるためにぜひ準備しておいてほしいのが「ハザードマップ」です。防災の基本となるハザードマップの活用法をしっかり押さえておきましょう。

この記事は、明日をまもるナビ「住んでいる場所の災害リスク」(2021年4月4日 NHK総合テレビ放送)の内容をもとに制作しています。

これだけは知っておきたい、ハザードマップのポイント
1. ハザードマップは、地域で起こる災害を予測し、被害範囲を記した地図
2. 役所や役場で入手できるほか、各自治体のホームページでも確認できる
3. 自宅や勤務先などよく行く場所の危険性と、避難場所、避難経路を確認!


ハザードマップは“予言書”

ハザードマップとは、地震、洪水、土砂災害など、過去の災害データや地理情報をもとに、それぞれの地域で起こる災害を予測し、被害範囲を地図にしたもの。役所や役場で入手できるほか、スマートフォンやパソコンを使って、各自治体のホームページでも確認することができます。

2018年7月、西日本豪雨の際に岡山県倉敷市真備町で起きた大規模水害では、8か所の堤防が決壊し最大で5メートル以上が浸水。約4600棟が全壊し、51人が亡くなる大きな被害となりました。実は、こうした被害が起こりうることは、豪雨の前からハザードマップに記されていたのです。

左は倉敷市のハザードマップ浸水想定で、地図の赤い部分は浸水の危険がある箇所を示しています。右の青い部分は実際の浸水範囲。重ねてみると、大部分が一致していたことが分かります。

ハザードマップで示されていた浸水想定と、西日本豪雨での実際の浸水範囲、出典:ハザードマップポータルサイト
ハザードマップで示されていた浸水想定と、西日本豪雨での実際の浸水範囲
出典:ハザードマップポータルサイト

都市部でも水害リスクはあります。東京都渋谷では、2004年9月の集中豪雨により渋谷駅一帯の道路が冠水し、地下の店舗も浸水。マンホールから水が噴き出して5メートルを超える水柱が発生しましたが、渋谷区洪水ハザードマップには、渋谷駅周辺は1~3メートルの浸水の可能性がある(濃い緑の箇所)と記されていました。

渋谷区洪水ハザードマップ(浸水予想区域図)

京都大学防災研究所 教授の矢守克也さんは、災害リスクを知ることができるハザードマップの重要性を次のように説明します。

京都大学防災研究所 教授 矢守克也さん

「ハザードマップは、科学の力で検証された予言書のようなもの。防災の基本中の基本なので、ぜひ皆さんに見てほしい。火山や津波、土砂災害などいろいろな種類のハザードマップがあるので、それらをまんべんなく見ることも大事です」(矢守さん)


ハザードマップの見るべきポイント

命をまもる大切なハザードマップには、必ず見ておきたいポイントがあります。

埼玉県鴻巣市の水害ハザードマップ
埼玉県鴻巣市の水害ハザードマップ

避難場所や避難経路を確認する
ハザードマップには避難すべき方向や、避難場所、救急指定病院なども書かれています。自宅からの避難経路に危険がないかもチェックしておきましょう。

よく使う場所なども確認する
自分が住んでいる家だけでなく、よく買い物に行く場所や子どもの学校や通学路、親戚の家、会社などの危険性も確認しておきましょう。また、危険箇所を示す色は自治体によって「赤」や「緑」など、異なります。

災害ごとにハザードマップがある
「洪水」「土砂災害」「津波」「火山噴火」など、災害ごとにハザードマップがあります。地域の災害リスクをひと通り確認しておくことが重要です。

紙で持っておく
ハザードマップはパソコンやスマートフォンで見ることができますが、災害発生時は停電やアクセスが集中して見られなくなる場合があります。紙でも見られるように、プリントアウトしておきましょう。


被災して痛感するハザードマップの大切さ

被災をきっかけに、ハザードマップの大切さをかみしめた人たちがいます。

河川の決壊など甚大な被害をもたらした西日本豪雨では、中国・四国地方を中心に犠牲者は300人以上にのぼりました。広島県熊野町にある住宅団地・大原ハイツでは120世帯あまりが暮らしていましたが、土石流が発生し、38棟の住宅が損壊して12人が亡くなりました。

被災した広島県熊野町
被災した広島県熊野町

大原ハイツに住む小川直明さんは、これまで地域の防災活動に積極的に参加しなかったと言います。大原ハイツの半分は土砂災害警戒区域に指定されていましたが、小川さんは災害が起こるとは考えていませんでした。

小川直明さん
小川直明さん

「(災害が)何もないことに慣れてしまっていた。いま見れば山は怖いですけど、それまでは崩れてくると想像もしなかったですね。2014年の広島土砂災害以降、緊急速報メールがよく届いていたため、慣れっこになっていた」(小川さん)

自宅は無事でしたが、土石流は自宅のすぐ目の前まで迫り、新たな土砂崩れの被害にあう危険がありました。小川さんは、砂防ダムが完成するまでの1年半、避難先の住宅での生活を余儀なくされました。


災害の教訓をいかす“避難マップ”作り

豪雨はまたやってきます。次の災害のとき、どうやって命をまもればいいのか。小川さんは真剣に対策を考えるようになりました。

そこで災害の3か月後、地域の住民たちとともに独自の“避難マップ作り”を始めます。実際に現場を見て、土石流の危険性が高まったときにも身をまもることのできる避難ルートを確認。被災の教訓がいかされたマップが生まれました。

住民たちが作った避難マップ
住民たちが作った避難マップ

手作りマップには、豪雨のときに見えにくくなる危険な側溝や、街灯が隠れて暗くなる場所など、きめ細かな情報が記載されています。

「実際に住民が歩いて、自分たちの目で見て作ったわけですから、自分たちのものだという意識があります。何よりも小さいところまで目が届いていると思います」(小川さん)

小川さんたちは完成した避難マップを使って、実践的な避難訓練も行いました。避難中に土石流が迫ってきた場合、どこで身をまもるのか実際に歩いて確かめます。

避難訓練の様子
避難訓練の様子

「大切な人の命は人任せではなくて、自分たちで早めに動いて助けるしかない」(小川さん)

小川さんたちの取り組みにあった、ハザードマップを見るだけではなく、実際に現地を歩いてみること。地域のみんなで命をまもるアイデアをだしあうこと。これらの重要性に加えて、矢守さんは避難マップ作りの際に気をつけるべき点をあげます。

「たとえば、小さな段差も車いすユーザーや高齢者、ベビーカーならどうかといった視点で細かくチェックすることや、雨の日だからこそ分かることがあるので、雨の日に出かけてみることも大事です。また、夜に避難しなければいけないこともありますから、安全に気をつけて、一度ハザードマップ片手に歩いてみてほしいですね。同じ町でも昼と夜でずいぶん違って見えるはずです」(矢守さん)


町を動かした子どもたちの防災マップ

手作りの防災マップが町を動かしたケースがあります。

高知県四万十町興津地区は、南海トラフ地震で大きな被害が想定されている地域です。国の想定では10メートルを超える津波により、平野部の多くが浸水すると予測されています。

いかに被害を減らすべきか、四万十立興津小学校では10年以上前から矢守さんの指導のもと、独自の防災マップ作りに取り組んできました。

防災マップを作っている様子
防災マップを作っている様子

毎年5・6年生が中心となって作る地図には、地元の人の馴染みの建物や場所、さらに「多目的集合所の壁にヒビが入っているのが気になった」「坂が急なのでお年寄りはとても登れない。コケが生えているので滑りやすい」など細かな情報が書き込まれています。

四万十立興津小学校5・6年生による「興津防災マップ」(2007年)
四万十立興津小学校5・6年生による「興津防災マップ」(2007年)

矢守さんは、この地図が防災に役立つだけでなく、町を動かすきっかけとなったと話します。

「以前、この町は海の近くに高齢者福祉施設、川の近くに保育園がありました。お年寄りや子どもたちは、逃げるのに時間がかかります。にもかかわらず、そういう人たちがどうして川や海のすぐそばにいるのかと、子どもたちがこのマップに書いたんです。それを受けて、町は保育園と高齢者福祉施設が合体した施設を、海抜25メートル以上の絶対大丈夫な場所に高台移転しました。高台移転は津波に対して究極の対策ですが、お金もかかりますし、なかなか実現しません。でも、子どもたちの手作り防災マップをきっかけに実施されたんです」(矢守さん)

手作りの防災マップを作ることが地域住民のコミュニケーションツールにもなったのです。

1000年に1度の災害は明日、起こるかもしれません。皆さんもぜひ、ハザードマップを持って自宅周辺のリスクや避難場所、避難経路などを確認してみてください。


【参考】
国土交通省「ハザードマップポータルサイト~身のまわりの災害リスクを調べる~
※NHKサイトを離れます

NHK防災・命と暮らしを守るポータルサイト
NHK防災・命と暮らしを守るポータルサイト

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