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【富士山噴火】火山灰が東京に与える影響、被害とは? 徹底検証(4)

2021年10月21日

富士山の噴火で、大量の火山灰が降ったとき、首都圏やそこに住む人々の暮らしに何が起きるのでしょうか。交通網は麻ひし、電気や水道など命に関わるインフラが機能を失う中で、私たちはどう生き延びればいいのか?噴火が起きたときの行動のポイントを、火山とともに暮らす地域の知恵とともに考えます。

この記事は、明日をまもるナビ「富士山噴火 そのとき あなたは」(2021年10月17日 NHK総合テレビ放送)の内容をもとに制作しています。

これだけは知っておきたい、富士山の火山灰の脅威
▼最も大切な備蓄品は「水」。4人家族の1週間分として2リットル6本入りが7ケース必要
▼火山灰がどのくらい予想されるか判断し、どう行動を取るのかを今から考えておく

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火山灰が首都圏に そのとき何が起きるのか?

大量の火山灰が降ったとき、私たちの住む地域や暮らしに何が起きるのでしょうか?過去の事例から想定される被害を検証してみました。

阿蘇山の火口
阿蘇山の火口

①停電
2016年の熊本県阿蘇山の噴火。60万トンを超える噴出物を出し、一夜にして町が灰に覆われました。
噴火からまもなく2万戸以上の大規模停電が発生しました。その原因は、電柱などにつけられた絶縁体の「がいし(碍子)」でした。がいしに積もった火山灰が雨に濡れたことで大量の電気を通し、漏電が起きたのです。
雨が降れば、首都圏でも大規模停電が起きる可能性があります。

電柱などにつけられた「がいし」
電柱などにつけられた「がいし」

②信号の誤作動
阿蘇山の噴火では、鉄道も運転を見合わせました。原因は信号の誤作動でした。
「レールに流れている電流で、指令所は電車の位置を感知します。しかし表面に灰が積もると、短絡(接触不良)を起こし、電車の位置が分からなくなり、信号や切り替えが誤作動を起こします」(東京の私鉄の担当者)

レールに付着した灰の除去作業
レールに付着した灰の除去作業

③エンジントラブル
航空機のジェットエンジンが火山灰を吸い込むと、高温で溶けた灰が内部で固まり、最悪の場合エンジンが停止してしまいます。

溶けた火山灰が付着したジェットエンジン内部
溶けた火山灰が付着したジェットエンジン内部

④水質汚染と水道への影響
火山灰が川の水を汚染すると、浄水処理に影響が出て、減水あるいは断水する地域が出てくる可能性があります。東京都水道局では、浄水場に屋根をつけたり、シートをかぶせたりして、火山灰の侵入を防ぐ計画です。さらに、他の浄水場から水を管路のネットワークで回すことで被害を最小限にする取り組みも進めているということです。

東京の浄水場
東京の浄水場

⑤発電所
見逃されている問題の一つに、東京湾周辺の火力発電所の存在があります。火力発電所には大量の空気を吸い込むための吸入口にたくさんのフィルターを付けています。これらが火山灰で詰まり、発電能力が低下し、広域停電になる恐れがあります。

東京湾周辺に点在する火力発電所
東京湾周辺に点在する火力発電所

⑥灰の除去
住宅地や幹線道路に積もる火山灰は4億立方メートル以上が想定されています。東日本大震災のときの津波堆積物や壊れた家屋などのがれきの10倍以上の量になります。火山灰は燃やせないため、撤去場所の確保も問題です。もちろん除去、処分にも長い時間がかかります。

⑦健康被害
公衆衛生学を研究する国際医療福祉大学大学院教授の和田耕治(わだ・こうじ)さんは、火山灰が引き起こす健康被害を強く懸念しています。
「火山灰がいわゆるPM2.5といわれる小さな粒子になって飛び、肺に滞留してぜんそくや肺の病気があった場合には、一時的に呼吸が悪くなる。また見落とされがちなのが、目に入った場合に角膜が傷つくこと。コンタクトレンズはなるべく使わず、メガネかゴーグルなどで、目に灰が入らないように防ぐことです」(和田さん)

火山灰は呼吸器にも影響を及ぼす
火山灰は呼吸器にも影響を及ぼす

あらゆる生活インフラや私たちの身体に深刻な影響を及ぼす富士山の噴火。2004年に内閣府の富士山ハザードマップ検討委員会は、宝永噴火と同じような噴火が起こった時の被害想定を2兆5,000億円と試算しています。
しかし、山梨県富士山科学研究所所長の藤井敏嗣さんは「これは必ずしもすべての事例を勘案しているわけではなく、この金額は過小評価だと思います」と警鐘を鳴らしています。


火山とともに暮らす 桜島の知恵

火山灰が降ったら、私たちはどう行動すればいいのか?ヒントになるのは、60年以上にわたって活動を続ける鹿児島県の桜島。毎日のように降り積もる火山灰の中で、火山とともに暮らす人々の知恵を学びます。

多いときで年間1000回近くも噴火する桜島
多いときで年間1000回近くも噴火する桜島

①火山灰は下水に流さない
火山灰は下水に流すと詰まってしまいます。そこで桜島では「克灰袋」(こくはいぶくろ)という袋を市が無料で配布。この中に灰を集め、近所の集積所に持っていき定期的に市が回収してくれます。
「灰は積もったら各家庭、個人個人ですぐ取る。そういう習慣」と住民は言います。

克灰袋と集積所
克灰袋と集積所

②車の運転はスピードを落とす
火山灰が降る中での運転はスピードを落とすのが当たり前。硬い火山灰が直接フロントガラスに当たると、車のスピードと相まってガラスが傷んでしまうためです。

③スリップ事故を防ぐ
活発に噴火する火山と隣り合わせの暮らしを支えるのが鹿児島市です。
火山灰が降れば、スリップ事故などが起きないよう、ロードスイーパーという車で、道路の灰を取り除きます。

鹿児島市が備えるロードスイーパー
鹿児島市が備えるロードスイーパー

2018年には、大規模噴火を想定し、火山灰などの噴出物が積もる中での走行実験を世界で初めて行いました。四輪駆動自動車以外は、ほとんどがまともに走れず、避難方法を見直すきっかけとなりました。

火山灰などの噴出物が積もる中での走行実験の様子
火山灰などの噴出物が積もる中での走行実験の様子

こうした備えだけでなく、鹿児島市は今、国内外とネットワークを結び、火山防災のノウハウを伝える活動もしています。


火山灰が降ったらどうするか

その桜島とは比較にならない量の火山灰が想定される富士山。宝永噴火級の規模と分かるのは噴火が始まってから30分から1時間後。時間の猶予はありません。
次の1時間後に、東京で0.5ミリくらい火山灰が積もれば、電車は動かなくなります。早く帰宅することが大事とはいえ、帰宅困難問題も起こります。

富士山は噴火するもの。誰もがそう意識して、備えや準備をすることが必要だとNHKの二宮徹解説委員は指摘します。

●火山灰を防ぐ服装や装備

2000年の有珠山噴火や、2011年の鹿児島県新燃岳の噴火など、多くの火山取材の経験を持つ二宮解説委員は、火山灰が降り続く中での服装を紹介しています。

  • 花粉症対策で使うような「ゴーグル」
  • 密着して隙間の全くない「防じんマスク」(粉塵作業用)
  • 表面がツルツルした「ナイロン製のジャンパー」
    (建物の中に入る時に簡単に火山灰を払い落とすことができる)
火山灰を防ぐ装備と服装
火山灰を防ぐ装備と服装

また、家庭で花粉症対策のために使う「換気口用のフィルター」も、火山灰がたくさん降ったときに屋内に火山灰が入ってくるのを防ぐのに役に立つということです。換気口用フィルターはホームセンターなどで入手可能です。

●とくに重要な備蓄は「水」

さらに、火山灰で流通が止まってしまう事態に備えて、さまざまな備蓄品が必要になります。
中でも二宮解説委員が重要だと考えるのが「水」です。
「大抵の災害では3日程度で給水車が来ますが、大量の火山灰で交通網が遮断され、1週間経っても届かない恐れがあります。災害時は1人1日3リットルが必要と言われますので、4人家族なら、1週間分として2リットル6本入りの水が7ケース必要になります」

カナリア諸島の噴火で住宅地に押し寄せる溶岩流
カナリア諸島の噴火で住宅地に押し寄せる溶岩流

●富士山噴火 事前にわかる?

深刻な被害をもたらす富士山の噴火。その予兆はいったいどのくらい前に分かるものなのでしょうか。

「噴火の前触れとして、地震や地殻変動が起こることはあります。今年9月のカナリア諸島の火山噴火では、非常に浅いところで地震が起こり始めて、2,3日前にわかりました。富士山のマグマは桜島などと違い、サラサラのマグマです。噴火直前に地震が起こり始め、すぐに噴火してしまうこともあります。気象庁が監視しているから大丈夫だと思わずに、どういう現象が起こるのか本当は分からないのだと考えておいていただきたい」(藤井さん)

このように火山噴火の予測が難しいことをふまえ、藤井さんは、
「もし噴火が起こった時には、自分がいる場所で、どのぐらいの火山灰が予想されるか判断し、どういう行動を取るのかを今から考えておく必要があります」と、備えの大切さを強調しています。

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