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太陽フレアで大規模通信障害!?現代に与える深刻な影響とは

2022年10月6日

太陽表面の爆発現象「太陽フレア」。発生した電磁波やプラズマの噴出は、地球に住む私たちの生活に大きな影響をもたらします。暮らしに欠かせない電力や通信に障害を与えるなど、ICT(情報通信)技術が高度に発達した現代社会の脆弱性を突いた災害になります。太陽活動が活発化していく中で、対策はどこまで進んでいるのか。現代社会に生きる私たちにとっての新たな脅威について考えます。

この記事は、明日をまもるナビ「太陽フレア 新たな脅威に備える」(2022年10月2日 NHK総合テレビ放送)の内容をもとに制作しています。

これだけは知っておきたい、太陽フレアの恐ろしさ
▼太陽フレアの発する電磁波、高エネルギー粒子、プラズマなどが地球にさまざまな被害をもたらす。
▼太陽フレアは、太陽黒点の極大期に頻繁に発生する。太陽黒点の増減は11年周期で繰り返され、次のピークは2025年頃。
▼太陽フレアによって過去にも停電・通信障害・人工衛星への影響が起きている。


太陽フレアとは何か?

太陽フレアとは太陽の表面の爆発現象です。X線などの電磁波、高エネルギー粒子、プラズマなどが8分から数日間で地球に到達し、さまざまな被害をもたらします。

太陽フレアの大きさは1万~10万キロメートル。温度は数千万度に達します。アメリカのNASAの太陽観測衛星SDOが捉えた2012年の7月の映像を見てみます。この太陽フレアはかなり大規模なもので、高さが10万キロメートルぐらいあります。

太陽フレア 太陽表面で起きる爆発現象 大きさ1万~10万キロメートル 温度数千万度

同じ日の太陽を特殊な方法で見た映像では、電気を帯びたガスが大量に放出される「プラズマ噴出」が観測されていました。電気を帯びたガスが秒速1000キロメートル以上のスピードで飛び出しています。これが仮に地球を直撃すると大災害になる可能性があります。

プラズマ噴出が観測された太陽の写真

太陽フレアはかなりの頻度で起きています。爆発の規模が最も小さいAクラスだと1年間に1万回程度。Mクラス以上になると頻度は減りますが、被害が大きくなります。

爆発の大きさと太陽フレアの発生頻度
爆発の大きさと太陽フレアの発生頻度

爆発が発生する位置も重要です。2012年7月には、太陽の裏側で150年ぶりの大フレアが発生しました。海外のメディアでは、地球の正面側で発生し、衝突していたら、「現代文明を18世紀に後退させたかもしれない」と報道されました。

2012年7月23日に過去最大級のフレアが発生
2012年7月23日に過去最大級のフレアが発生

実は今、太陽活動は活発化しつつあります。太陽には活動の周期があり、3年後の2025年頃をピークに太陽フレアが増えると見込まれています。

太陽フレアと大きく関係するのが、太陽の表面にある「黒点」の活動です。黒点は巨大な磁石のように強い磁場を持っているため、温度が低く黒く見える場所です。

太陽の黒点

太陽フレアは、大きな黒点のまわりで生じる現象です。

黒点の拡大映像
黒点の拡大映像

黒点の増減は11年周期で繰り返されていて、次のピークが2025年とみられています。黒点の極大期になると、強力な太陽フレアが毎日のように起きるなどの危険な状況が起こり得るため、日本でも今年、総務省が被害想定と対策を検討しました。

11年周期で増減する黒点
11年周期で増減する黒点

太陽フレアがもたらす3つの被害

太陽フレアによって地球にどんな被害が起きるのか。私たちの生活に大きく関わる被害として、主に3つが心配されています。それが停電、通信障害、人工衛星への影響です。こうした被害は、これまでにも発生しています。

大規模な太陽フレアが発生した場合、これらの被害額は日本の国家予算を上回る1兆ドルから2兆ドルにのぼると、アメリカの機関で試算されています。

太陽フレアによる主な被害「停電」「通信障害」「人工衛星」

1.停電

1989年3月、Xクラスの巨大な太陽フレアが発生。カナダ・ケベック州では、およそ9時間停電し、600万人が影響を受けました。

このとき太陽では電気を帯びた粒子の塊「プラズマ」が発生していました。

プラズマのイメージ図
プラズマのイメージ図

ふだんの地球は、周りを取り巻く磁場に守られ、プラズマをはねのけています。時々、プラズマは北極などの極地に入り込み、オーロラを発生させます。

プラズマをはねのける磁場のイメージ図

ところが、フレアの規模が大きいと、緯度が低い地域でもオーロラが現れます。この現象は「磁気嵐」と呼ばれています。※

低緯度地域でもオーロラ

磁気嵐によって、地表の磁場が変動し、送電線に異常な電流が発生することがあります。その結果、電力設備の機能が失われます。

1989年の太陽フレアでは、アメリカ・ニュージャージー州で変電所が破壊されました。変圧器に過剰な電流が流れ、ショートしてしまったのです。

フレアで破壊された変圧器(1989年)

※日本でも過去の文献にオーロラが見えた記録が残っています。鎌倉時代の歌人、藤原定家の「明月記」の中には、1204年2月京都の夜空に「赤気」(長引く赤いオーロラ)が現れて恐ろしい様子だという記述があります。

2.通信障害

太陽フレアによるX線などの電磁波によって、地球の電離層が乱され、無線通信ができなくなります。

過去の例)
・2001年4月、飛行中の航空機と空港の間で電波が届かなくなる事態が発生しました。航空機はおよそ40分間位置がつかめなくなり、大事故につながりかねない状況でした。

2001年4月 通信障害で航空機の位置が不明に

・2017年9月には、超大型ハリケーン「イルマ」に襲われたカリブ海沿岸地域で無線通信が全面的に途絶え、救助活動に支障が出る事態となりました。

3.人工衛星の被害

今年2月、アメリカのスペースエックス社が打ち上げた通信衛星49基のうち最大40基が、大気圏に落下しました。太陽フレアにより、地球上空の大気が加熱されて膨張。衛星が受ける抵抗が増したために軌道を外れ、落下したと考えられています。

2022年2月 通信衛星 最大40基が落下

2003年には、日本の宇宙探査機「はやぶさ」1号機が小惑星イトカワに向かう途中、太陽フレアの影響を受けました。粒子の直撃により、はやぶさの太陽光パネルが劣化。出力が低下し、航行スケジュールの遅れを余儀なくされました。

「はやぶさ」の太陽光パネルが劣化して出力低下

また、太陽フレアによってGPSなどの測位衛星からの電波にズレが生じ、カーナビやスマートフォンの位置情報などが正しく機能しなくなることが考えられています。

GPSなども精度低下


日本で想定される被害は?

2022年、国は100年に1度、あるいはそれ以下の頻度で発生する規模のフレアが発生した場合どのようなことが起きるか、最悪のシナリオを検討し、6月に報告書を発表しました。

【参考】
総務省 宇宙天気予報の高度化の在り方に関する検討会
・「宇宙天気の警報基準に関するWG報告:最悪シナリオ」
・報告書(令和4年6月21日公表)
※NHKサイトを離れます

停電
送電網などでの対策が不充分な場合、大規模な広域停電が起きる可能性は否定できません。もし大規模停電が起きたら、あらゆる産業に影響が及ぶと指摘されています。

通信障害
消防、警察、鉄道、タクシーなどの無線に支障をきたし、公共サービスの維持が困難になります。

想定される通信障害「船舶・航空無線」「無線システム」「携帯電話システム」「衛星携帯電話」「緊急通信」

「携帯電話は、基地局と太陽の位置関係によっては、携帯電話の電波の雑音が大きくなるので、つながりくい状況が発生するおそれがあります」(情報通信研究機構 宇宙環境研究室長 津川卓也さん)

情報通信研究機構 宇宙環境研究室長 津川卓也さん
情報通信研究機構 宇宙環境研究室長 津川卓也さん

最悪の場合、2週間にわたって断続的に携帯電話やスマートフォンのインターネットなどがつながりにくくなり、社会が混乱することが懸念されています。

また、警察無線や消防無線などいわゆる防災系の無線が通じにくくなることも、安心に暮らしていく上では大きな問題になります。

人工衛星
地球のまわりにある人工衛星は1万3000基以上。天気予報、衛星放送なども衛星に依存しています。GPS(測位衛星)の場合、時には数十メートルも誤差が出て、位置情報自体が出せなくなるケースも想定されています。

配送や農業、建設など各分野で、今後の普及が予想されるドローンは、衝突したり、墜落したりすることも起こり得ます。GPSによる車の自動運転も大きな誤差が生じたら大事故につながりかねません。


スーパーフレア 発生の可能性

40年以上太陽物理学を研究する、同志社大学特別客員教授の柴田一成(しばた・かずなり)さんは、国の想定する太陽フレアよりもさらに大きな「スーパーフレア」が起きる可能性があると考えています。

同志社大学特別客員教授の柴田一成さん
同志社大学特別客員教授の柴田一成さん

スーパーフレアとはどんな現象なのでしょうか?

1859年に発生したキャリントン・イベントと呼ばれる太陽フレアは、これまでに観測された中で最大の規模のX45と推定されています。このとき、欧米の電信網では通信障害や火花による火災が起きました。さらに、世界各地でオーロラが見えたといいます。

キャリントン・イベント(1859年)の際のオーロラ観測点(青い点の場所)
キャリントン・イベント(1859年)の際のオーロラ観測点(青い点の場所)

スーパーフレアは、その10倍以上の規模をもつ、途方もない巨大な太陽フレアです。もし起きれば、全世界に甚大な被害が及ぶことが考えられます。

従来、太陽ではスーパーフレアは起きないと考えられてきました。しかし、柴田さんは世界に先駆けて、この考えをくつがえしました。

太陽フレアに関する観測データは百数十年分しかありません。しかし、太陽に似た星を仮に1000個観測すれば、太陽を1000年観測したことと同じだと、柴田さんは考えました。

「星1000個×1年」=「太陽×1000年」

そこで注目したのが、NASAが打ち上げたケプラー宇宙望遠鏡のデータです。はくちょう座の方向にある16万個の星の、明るさの変化が記録されています。

ケプラー宇宙望遠鏡

柴田さんは1つ1つの星の分析に取り組み、スーパーフレアを観測することに成功。スーパーフレアのデータを、148個の星で365回見つけました。

148の星で365回のスーパーフレアを観測

2012年に論文を発表し、太陽に似た星でスーパーフレアが観測されたことなどをもとに「太陽でも発生する可能性がある」と結論づけました。

2012年に発表された論文

もしスーパーフレアが起こると地球はどうなるのでしょうか?

柴田さんは次のような被害を予測します。
①全ての人工衛星は壊れてしまう
②北極圏のオゾン層が破壊される
③世界的な通信障害が発生する

スーパーフレアが発生する場合、巨大な黒点が観測されます。

実際の観測とスーパーフレアの想像図
実際の観測とスーパーフレアの想像図

上図左の黒点は実際に観測されたXクラスのフレアです。太陽全体に比べてこのように小さな黒点でも大フレアが発生し、いろいろな被害を及ぼします。ところが、上図右のように、望遠鏡がなくても分かるような巨大な黒点ができた場合、より大規模な警戒が必要になります。例えば…
①飛行機は飛行禁止
②宇宙飛行士は地上に帰還
③数日間電気を使わないよう、計画停電を行う

柴田さんは
「そういうことができるような社会の仕組みを作る必要がある。そのためには、社会のリーダーの責任が極めて大きい。正しく認識して、対策を取ることが必要」と警鐘を鳴らしています。

古い屋久杉の年輪からは、およそ1300年前に大規模なフレアが発生し、地球に大量の放射線がきた痕跡が見つかりました。1000年から1万年に1回というスーパーフレアの頻度は、1000年に1回という東日本大震災のような巨大地震の頻度と同じ程度です。
「こう考えると、日本人は特に、対策を考えなければいけないと身近に感じていただけると思います」(柴田さん)

屋久杉の年輪から西暦770年代に大規模なフレアが発生したと推定


私たちができる太陽フレア対策と「宇宙天気予報」

1.私たちができる対策

停電対策「非常食・水」「予備電源の準備」

停電への備え

地震や台風など一般的な防災の備えとして、停電対策の防災グッズを用意しておけば、太陽フレアでの停電にも役立ちます。

通信障害・人工衛星故障への備え「複数の連絡手段を確保」「起こったことが見えないと知る」

通信障害・人工衛星故障への備え

連絡手段を複数持っておきましょう。
電波に頼る携帯電話が仮に使えないときには公衆電話。インターネットも光ケーブルなど地上のネット回線では使える可能性があります。

太陽フレアの災害の大きな特徴は、地震や台風と違い、目に見えないこと。そういう災害があると知っておくことが、いざという時に慌てないポイントです。

2.太陽フレア被害を抑える宇宙天気予報と宇宙天気予報士

太陽フレア対策としてこれから特に重要だと考えられているのが「宇宙天気予報」です。

東京・小金井市にあるNICT(情報通信研究機構)は1988年から「宇宙天気予報」を行っている国の機関です。365日24時間体制で人工衛星などによる観測データから太陽の監視を続けています。

NICT(情報通信研究機構)

アメリカが打ち上げたSDOと呼ばれる探査衛星で撮影した太陽の画像から黒点やガスの様子を分析し、データを予測に利用しています。

6種類の太陽分析画像
6種類の太陽分析画像

予報は、毎日2回、専門家たちの話し合いで決まります。

まず伝えるのは、その日の太陽フレアの規模や回数。そして、24時間先までの太陽フレアの見通しを、「非常に活発」「活発」「やや活発」「静穏」の4段階で発表します。

太陽フレア予報の画面

登録している企業や研究者たちに毎日メールで通知しています。いつもと異なる現象が起きれば、ただちに臨時情報として伝えます。

企業や研究者への通知メール

太陽フレアによる被害を抑えるため、この機関では、宇宙天気予報を広く一般の人に伝えていくための取り組みを始めています。

それが、「宇宙天気予報」です。

未来の宇宙天気予報はこんな感じかもしれません。
「こんにちは。2036年8月20日の宇宙天気予報をお伝えします。今週の太陽ですが、非常に活発化しています。明日も引き続き活発と予想され、警戒が必要です。太陽風も早く、地磁気も大荒れの見通しです。宇宙空間では被ばくの恐れが高まっています。宇宙ステーションではしばらく船外活動は行いません。また極域を通る航空機は航路変更のため、到着の遅れが予想されています。そしてGPSやみちびき衛星などの衛星測位システムにも影響が出る可能性があります。自動車、トラクター、建設機器などの自動操縦はセーフモードにするかご使用はお控えください」

宇宙天気予報の画面

このように、未来の宇宙天気予報では、太陽の活動に加えて社会への影響や対策を伝えることになるかもしれません。

国の検討会では、対策の一つとして、「宇宙天気予報士」の資格制度を作ろうという提言がありました。提案したのは、NHKでもおなじみの気象予報士の斉田季実治さんです。斉田さんはNICTが主催する宇宙天気ユーザー協議会のアウトリーチ分科会長を務めていて、国の検討会にも参加しています。

気象予報士の斉田季実治さん

斉田さんは、太陽フレアの危険を少しでも多くの人に知らせるために、宇宙天気予報士がメディアでキャスターとして伝えることや、影響を受けやすい企業のアドバイザーとして役割を果たせるのではないかと考えているそうです。

宇宙天気予報士に期待される役割

宇宙天気予報士は、気象予報士とは違って国家資格ではなく、民間の資格として構想されています。太陽活動が2025年にピークを迎える前の年までに実現したいと急いでいるとのことです。

柴田さんは地球規模での対策の必要性を訴えています。
「スーパーフレアは、知恵を働かせて、現代の文明がその影響を受けないようにすることができるはずです。怖がらずに、きちんと対策を考えて準備すれば被害を間違いなく防げます。人類全体で協力し合って進めることがとても大事です」

【参考】
宇宙天気警報 太陽フレアの被害を防げ(解説委員室)
2022年4月27日

NHK防災・命と暮らしを守るポータルサイト
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