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防災のカギは女性の参画 女性が関われば避難所が変わる

2022年11月9日

災害後の避難生活がストレスとなり、体調の悪化につながることがあります。特に女性たちをとりまく状況は深刻です。エコノミークラス症候群など、避難生活で体調を崩す女性の割合は男性より多いという調査もあります。そうした中、避難所運営や防災活動に女性が関わることで、変わり始めた現場があります。防災への女性の参画のあり方を実例から考えます。

この記事は、明日をまもるナビ「“防災”のカギは女性の参画」(2022年11月6日 NHK総合テレビ放送)の内容をもとに制作しています。

これだけは知っておきたい、防災への女性参画のカギ
▼熊本地震におけるエコノミークラス症候群の入院患者のおよそ77%が女性。災害時の避難の現場には、女性ならではの多くの問題がある。
▼女性が中心になって避難所を運営することで、避難所の環境が改善した事例がある。
▼避難所への持ち出し品の中に、女性や乳幼児のためのグッズも用意しておく。


避難生活で体調を崩す女性たち

なぜ女性の参画が「防災」のカギになるのか。それを考えるうえで、重要なデータがあります。それは、熊本地震におけるエコノミークラス症候群の入院患者の77%が女性だったという調査結果です。

熊本地震におけるエコノミークラス症候群の入院患者 女性が77%

阪神淡路大震災以降20年以上にわたって、災害現場で女性の声に耳を傾けてきた、浅野幸子さん(減災と男女共同参画研修推進センター共同代表)は、次のように分析します。

「避難所に仮設トイレがあっても、男女別でなかったり、不衛生だからとトイレに行くのが嫌で我慢したりなどの理由で、水を飲む量を減らしてしまう女性が多かった。そのため血栓が血管の中にできやすくなり、エコノミークラス症候群になってしまう」

減災と男女共同参画研修推進センター共同代表の浅野幸子さん
減災と男女共同参画研修推進センター共同代表の浅野幸子さん

【参考】
明日をまもるナビ「新潟県中越地震から18年 4つの教訓をいまに伝える」から
「災害関連死をなくすために」(中越地震での事例と安全対策)

災害時の避難の現場で、女性たちが多くの問題に直面する例はほかにもあります。2011年の東日本大震災の実例を見ていきます。


災害時 女性たちの苦悩とは?

2011年の東日本大震災で、宮城県南三陸町では家屋の6割以上が全半壊し、およそ800人が隣町の登米市の小学校などに避難しました。

避難所に向かう人々

女性たちは、多くの悩みを抱えながら避難生活を送っていました。
当時、閉校中だった小学校の教室で数世帯の家族と共同生活を送った女性たちに話を聞くと、「着替える場所」や「洗濯物を干す場所」などに不安を感じていました。また「炊事当番が女性だけに割り振られたこと」も悩みの種でした。

屋外の木陰で洗濯物を干したり着替えたりすることも
屋外の木陰で洗濯物を干したり着替えたりすることも

このような女性たちの不安や困りごとを調査したのが、登米市で男女共同参画推進条例の作成に携わっていた、須藤明美(すとう・あけみ)さんです。

登米市男女共同参画推進条例策定委員(当時)須藤明美さん
登米市男女共同参画推進条例策定委員(当時)須藤明美さん

須藤さんは震災から1か月あまりがたった頃から仲間とともに市内の避難所で聞き取りを始めましたが、当初、女性たちは「避難所で自分のことや要望などしてはいけないのでは」と、なかなか悩みを話そうとしなかったといいます。

避難所で女性たちに話を聞く須藤さんたち
避難所で女性たちに話を聞く須藤さんたち

女性たちが次第に打ち明け始めると、さまざまな問題点が明らかになりました。
「すごく大きいサイズの下着しかこないので困る」
「トイレはできれば男女別々にしてほしい」
「寝返りをうった時に隣に知らない男性がいて、よく寝られなかった」
「生理用のナプキンが欲しくても、避難所で管理しているのが男性で、そこにもらいに行かないといけなかった」

東日本大震災での、こうした女性たちの声を教訓として残そうと、仙台市の団体が4コマ漫画を作成しました。描いたのは福島市に住むイラストレーターのico(いこ)さんです。

福島市に住むイラストレーターのicoさん
福島市に住むイラストレーターのicoさん

生理用品を配る避難所の男性リーダーと女性たちのやりとりを描いた漫画 タイトルは「知らなかっただけなんです」

漫画「知らなかっただけなんです」

「この場合は知らなかっただけ、ということを強調したかった。女性の目や女性の配慮が加われば、こういったことは今後解消されるかな」(icoさん)

「サイズの合う下着が届かなかった」「化粧ができずに困った」という体験談も漫画に
「サイズの合う下着が届かなかった」「化粧ができずに困った」という体験談も漫画に

実は、icoさん自身も東日本大震災で実家が津波で流され、その後2019年に東北地方を襲った台風19号では、福島市内の自宅アパートが浸水しました。

当時は親戚の家などに避難しましたが、2歳の娘がいるいま、避難所には女性のリーダーがいてほしいといいます。

「避難所でも授乳しないといけない。それをわかってくれる女性がいるだけで全く気持ちが違う」(icoさん)


防災に女性が参画する重要性

災害時に、女性がどんな問題に直面したのかをまとめました。

災害時に女性が直面する問題

●育児・介護・女性用品の不足
サイズや用途を言いたくても、“わがまま”だと受け取られる恐れからなかなか言い出せない人がいます。

●プライバシーや衛生の問題
女性にとって、着替えたり体を拭いたりすることが難しい環境があります。我慢し続けると衛生状態も悪化します。

●不眠、ぼうこう炎や婦人科系の疾患
物資や環境の問題が十分改善されないなか、不眠をはじめ、ぼうこう炎、ちつ炎、外陰炎といった婦人科系の疾患に直面することがあります。

●炊き出しや掃除などの過度な負担
●DV、性暴力
災害時でもDVや性暴力、性的ハラスメントが起きています。これは学術調査により、東日本大震災で改めて明らかになりました。

浅野さんは、「当事者の女性たちが、避難所の運営への参画や、防災対策づくりに入っていることが当たり前の状態を作っておくことが大事」と指摘します。

しかし、今年5月に内閣府が発表した調査結果では、1741の自治体の61.9%で、防災危機管理部局に女性職員が「ゼロ」、まったくいないことが明らかになっています。

全国の市区町村の防災・危機管理部局 1741の自治体の61.9%で女性職員が「ゼロ」

【参考】
防災担当者 “女性がゼロ” 全国6割の自治体で(災害列島)

「防災に対して、「人を救助する」とか「重いものを運ぶ」といった“力仕事”のイメージが強かったのではないか。動きやすい健康な男性が中心になって動かしていく発想だけでは、合理的に対策を立てたり、体制や仕組みを作ったりしていく発想につながらなくなる」(浅野さん)


女性の視点で避難所運営を改善

女性たちが避難所の環境改善に乗り出したことで問題が解決した例があります。

●パーソナルリクエスト票で希望に応える(宮城県登米市)

東日本大震災の時、南三陸町の住民が過ごした登米市の避難所で、その運営を担ったのは、主に南三陸町で地区の役員を務めていた男性たちでした。男性たちは、当時、女性たちの不安や困りごとにはなかなか気づけなかったといいます。

その時、問題解決に動いたのが須藤明美さんでした。女性たちそれぞれのニーズに応えようと考え、「パーソナルリクエスト票」を作り、震災の2か月後に避難所で配布しました。

須藤明美さんが作成し配布した「パーソナルリクエスト票」
須藤明美さんが作成し配布した「パーソナルリクエスト票」

欲しい下着のサイズや種類、ふだん使っていた化粧品や生理用品、アレルギーがあって特定のメーカーしか使えない人にはその要望も書き込めるようにしました。すると、数日のうちに276人の回答が集まりました。登米市などの協力で、1か月後にはそれぞれの元に希望する品々を届けることができました。

女性たちの希望した品物をそれぞれに届ける
女性たちの希望した品物をそれぞれに届ける

リクエスト票には、避難所でどんなサービスを希望するかも書いてもらいました。「ヘアカット」や「マッサージ」のほか、「男女別の洗濯物干し場」「相談相手がほしい」などの項目も。少しでも以前の暮しに近づけ、ストレスを解消してほしいと考えたのです。

マッサージの順番を待つ間に会話をすることで、すっきりした気持ちになり、お礼を言って喜んで帰っていく女性が多くいたといいます。

ハンドマッサージを受ける女性たち
ハンドマッサージを受ける女性たち

避難所運営の男性のリーダーだった佐藤さんも、「ものすごくタイミングが良かった。そうでないとギクシャクしていたかもしれない。ああいう考え方をしてもらって、運営が楽になりました」と、支援に感謝しています。

浅野さんのコメント
「“足湯”や“ハンドマッサージ”といった個別の支援は、被災者の声に耳を傾ける活動にもなります。話し相手になっていると、何気ないつぶやきの中から、深刻な状態や、足りていないニーズがポロッと聞けることもあります。同じように被災をしている人たちには言えない愚痴なども、外部の人だからこそ言えるのかもしれません」

●避難所運営の中心に女性(熊本県益城町)

2016年の熊本地震では、避難所運営の中心に女性がいたことで、不安や困りごとを抑えられたケースがあります。

益城町の吉村静代さんは、最大400人が避難したこの小学校で、混乱した状況を改善しようと動きました。

避難所運営のリーダーになった吉村静代さん(右)
避難所運営のリーダーになった吉村静代さん(右)

阪神淡路大震災以降、町で防災に関する勉強会を重ね、地域活動にも取り組んでいた吉村さん。まず手掛けたのは、避難所内の“区画整理”です。
避難通路と非常口をつくり、出入口近くは高齢者の方と要配慮者の方のスペースを基本としました。また、体育館とは別の教室を借りて、乳幼児がいる世帯の専用スペースと女性専用スペースをつくりました。

体育館に作られたくつろぎのスペース
体育館に作られたくつろぎのスペース

最初は男女兼用になっていた仮設トイレも、別々にわけました。さらに、男女の役割を固定化せず、掃除や食事配りなどは、男女関係なく「できる人がやる」ように促しました。

男女の分け隔てなく役割分担
男女の分け隔てなく役割分担

「一切役割分担はしていません。できる人ができることをやる。皆さんに言ったのは「ここは生活の場よ」と。だからみんなでやりましょう。楽しくしようねと言って、やっていました」(吉村さん)

益城町で避難所を運営した吉村静代さん

浅野さんのコメント
「女性が運営の中心で、全体の取り組みの方向性を決めるところにいたということが重要です。女性は日常生活のなかで、常に臨機応変なことをやっているので、災害で女性たちが力を発揮するのは、理にかなっていると思います」

「避難所では、少数の人で対応するのは難しいので、いろんなリーダーの人が複数いる状態をつくって、男女バランスよく、いろんな方が活躍できるようにしていくとうまくいくんじゃないでしょうか」


女性や子ども連れの避難に役立つグッズ

女性や子ども連れが避難する場合に役立つグッズを、浅野さんのご協力のもと、そろえてみました。

女性が避難所に持っておきたいものとして、基本的な日用品のほかに、生理用ナプキンや体を拭くシートが必要になります。

女性が避難所に持っていきたいものと避難所での過ごし方
女性が避難所に持っていきたいものと避難所での過ごし方

中身が見えないゴミ袋は、生理用品などを使った後のものを片付けるときに役立ちます。また、ちょっとした目隠しや、寒いときには穴をあけてかぶると防寒服がわりになります

女性の避難に役立つグッズ
女性の避難に役立つグッズ

乳幼児と避難するときに持っていきたいものとしては、「幼児用のミルク」「離乳食」のほかに、子どもが少しでも安心できるよう使い慣れた「ぬいぐるみ」もおすすめです。

水が足りず、哺乳瓶を洗うのが難しい場合には「紙コップ」を使います。割り箸があれば、粉ミルクを溶くことができます。

実は、生まれたての赤ちゃんでも、たて抱っこをして無理のない形で紙コップを唇に近づけてあげると、ちゃんと飲めるそうです。

乳幼児の避難に役立つグッズ
乳幼児の避難に役立つグッズ

「避難のときに必要なものは1人1人違うと思いますので、それぞれご自分でカスタマイズしていただいて、これがいいなと思うものを用意していただきたい」(浅野さん)

【参考】
『非常用持ち出し袋』 女性や乳幼児に必要なものは?(水害から命と暮らしを守る)
防災グッズ 何を用意したらいいの?(明日をまもるナビ)


役員が男女半々 自主防災会の工夫

南海トラフ地震の危険が指摘されている高知県安芸市。川向地区の津波避難タワーで2022年9月、住民らで作る自主防災会のメンバーが参加して訓練が行われました。

安芸市川向地区の津波避難タワー
安芸市川向地区の津波避難タワー

この地区の防災訓練にはある特徴があります。参加者が、子どもから高齢者までの幅広い年齢層にわたり、特に女性の姿が目立つことです。

幅広い年齢層の参加者たち
幅広い年齢層の参加者たち

こうした状況を後押ししているのが、川向地区防災会の規約です。30人の役員が、男女半々になるよう定められているのです。このルールのおかげで女性たちが意見を言いやすくなり、防災活動にも変化が見られるようになったといいます。

役員を男女半々にした川向地区防災会の規約
役員を男女半々にした川向地区防災会の規約

17年前、川向地区防災会の立ち上げと規約づくりの中心を担った仙頭(せんとう)ゆかりさんは、その狙いを語ってくれました。「わが事として考えるのには、いろんな世代の方、いろんな思いを持っている方に参加してもらうのが一番」

仙頭ゆかりさん
仙頭ゆかりさん

今回の防災訓練でも、女性をはじめ幅広い年齢層が参加した効果が表れていました。仮設トイレの設置や手洗いの方法についても、住民それぞれの視点からのアイデアが飛び交います。

テント式の災害用仮設トイレの前で相談
テント式の災害用仮設トイレの前で相談

「トイレの位置が男女並んでいると嫌だとか、洗濯物は男性と女性で分けてほしいなど、男では気づけない意見が出ています。当然、この地域の自治体でも配慮して(避難計画が)対応できていますので、そういう意味でも女性の意見がはっきり出るのはいい」(男性役員)

訓練には、地域の中学生や高校生たちも参加し、司会や説明係を担当します。いざという時には、自分たちが避難所の運営を担うという心構えも生まれています。

訓練に参加する中高生たち

訓練に参加する中高生たち

役員の人数は男女半々というルール。これが、地域の防災力を高めています。

さまざまな世代が参加する避難訓練
さまざまな世代が参加する避難訓練

浅野さんは、女性だけではなく多様な人たちが防災に参画することの意義を次のように強調しています。

「災害が起きてからではなくて、平常時から、きちんと女性が参画している状況をつくっていくことが重要です」

「女性の参画だけでなく、マイノリティーの方や障害がある方、日本で暮らしている外国人の方など、多様な人の弱さと対応力の両面を見ていくことで、災害対応力がさらにアップしていくのではないかと思います」

減災と男女共同参画研修推進センター共同代表の浅野幸子さん
減災と男女共同参画研修推進センター共同代表の浅野幸子さん
NHK防災・命と暮らしを守るポータルサイト
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