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台風の脅威を知る(3)~高潮で大規模被害に~

複合的な被害を引き起こす、台風。海沿いの地域に浸水被害をもたらす「高潮」も脅威のひとつです。どんな被害があるのか、どのような対策が行われているのか、実例を見てみましょう。

この記事は、明日をまもるナビ「台風上陸に備えよう!知っておくべき対策」(2022年8月28日 NHK総合テレビ放送)の内容をもとに制作しています。


大規模被害をもたらす高潮発生のメカニズム

高潮は、長時間にわたって海面の水位が上がる現象です。
台風や低気圧が近づくと、上昇気流で海面が吸い上げられます。

高潮発生の説明図

さらに、強い風で大量の海水が陸地へと吹き寄せられ、広範囲に浸水被害をもたらします。

高潮発生の説明図

高潮発生の説明図

どんな被害があるのか、実際に高潮被害が発生した2004年の台風16号の事例を振り返ります。

2004年8月末、大型で強い勢力の台風16号は、九州・中国地方を縦断し、西日本を中心に大きな被害を引き起こしました。

大型で強い勢力を保って上陸した台風16号
大型で強い勢力を保って上陸した台風16号

最大風速40メートルの暴風で、瀬戸内海では高潮が発生し、沿岸部に大きな被害をもたらしました。

愛媛県の港湾の岸壁に押し寄せた高潮
愛媛県の港湾の岸壁に押し寄せた高潮
海沿いの住宅に迫る高潮
海沿いの住宅に迫る高潮

香川県高松市では、高潮が満潮時間と重なり、堤防を超えて大量の海水が街に流れ込みました。

大規模浸水した高松市内の道路
大規模浸水した高松市内の道路

高潮によって海水が川を逆流し、河川も氾濫して内陸部にまで浸水被害が拡大。浸水の深さが1メートルに達する地域もありました。

川を逆流した高潮
川を逆流した高潮

高潮はさらに、「都市機能の麻痺」を引き起こしました。市街地が浸水し、一部の地域で停電が発生。公共施設が被災して水道が止まるなど、ライフラインの寸断が相次ぎました。

道路が冠水したことで、避難や救助活動が妨げられました。さらに、避難所も水に浸かってしまい、各地で避難所の不足が問題となりました。

避難所が高潮で浸水
避難所が高潮で浸水

広島市では、電車が臨時の避難所となり、行き場を失った人々が集まりました。

高潮の被害を最も受けた香川県では、およそ2万2000戸の住宅が浸水。各地で家具や仕事道具が泥水に浸かるなど、高潮は経済的にも大きな打撃を与えました。

高松市の浸水の状況
高松市の浸水の状況

台風と高潮の関係とは?

台風に伴って高潮が発生するメカニズムを見てみましょう。

要因①「満潮」
海水面が高い時間帯(満潮に近い)に、勢力の大きな台風が沿岸部に近づくと高潮は発生しやすくなります。

要因② 低気圧による海面上昇
台風が近づくと気圧が低くなり、海面が吸い上げられて高潮が起こりやすくなります。

要因③ 台風の進路
満潮や低気圧による海面上昇だけで高潮が発生するわけではありません。重要なのが「台風の進路」です。

台風は反時計方向に回りながら進みます。台風の東側は台風そのもののスピードに加えて風のスピードが合わさるため、風が強くなります。

台風の進路についての説明

一方、台風の西側は吹く風が台風の進むスピードに相殺されるため、台風の東側よりも風が弱くなります。

台風の進路についての説明

東京湾の場合、
台風が千葉寄りを通った場合は、強い南風が湾の外に吹き付けるので、高潮の被害は起こりにくくなります。
②逆に台風が神奈川側を通った場合は、強い風が湾の奥に向かって吹き込むため、高潮が発生しやすくなります。


海抜ゼロメートル地帯の高潮対策

東京湾の奥にはいわゆる「海抜ゼロメートル地帯」という、東京湾の満潮時よりも低い土地があります。ここに、もし高潮が流れ込んでくると、被害は甚大なものになります。

海抜ゼロメートル地帯は、東京だけではなく名古屋圏や大阪圏にもあります。名古屋圏のゼロメートル地帯は日本最大と言われています。

東京圏・名古屋圏・大阪圏の海抜ゼロメートル地帯

かつてこの名古屋圏を伊勢湾台風が襲いました。63年前の1959年(昭和34年)9月26日、台風15号によって明治以降最多の死者・行方不明者数5098名に及ぶ甚大な被害が引き起こされました。

この台風は、伊勢湾の西側を通ったため、湾奥に風を激しく吹き込み、激しく、高潮の被害を大きくしてしまったのです。

伊勢湾台風の進路と高潮による浸水
伊勢湾台風の進路と高潮による浸水

伊勢湾台風の教訓を生かして、東京の海抜ゼロメートル地帯では高潮に備えた対策が行われています。

●防潮堤

東京湾の沿岸部には、長さおよそ60キロメートルに渡って防潮堤があります。建設が始まったのは100年以上前で、今でも強度を上げる改良が続けられています。防潮堤の高さは、伊勢湾台風クラスの高潮に耐えられる想定です。

防潮堤

防潮堤

●水門

防潮堤が川で途切れているところには水門が設置されています。遠隔操作で開閉でき、高潮だけでなく津波警報が発されたときにも閉鎖することになっています。

水門

●陸こう(開閉式ゲート)

道路があって防潮堤が作れない箇所には、陸こうという開閉式のゲートがあり、道路から流れこむ水の侵入を防ぎます。このように、隙間なく壁を作ることで、高潮から街を守っているのです。

陸こう

●排水機場

ゼロメートル地帯を流れる川などの水位を調整するのが、排水機場です。高潮に備えて水門を閉じると、大雨で川の水位が上がって溢れてしまう可能性があります。そこで、溜まった水を水門の外へ汲み出します。平常時から稼働し続けていて、ゼロメートル地帯の安全な水位を保っています。

排水機場

排水機場

ゼロメートル地帯の対策は、名古屋圏、大阪圏でも行われています。

とはいえ、最近では異常気象が頻発し、台風も水害もこれまでの想定の範囲に収まらないことも多くなっています。

もし、東京の江東5区が水没した場合には、ポンプで水をかき出し終わるまでに2週間かかると言われています。その間、電気も水もトイレも使えないため、この場所にとどまることそのものが災害になってしまう可能性があります。

この地域に暮らすおよそ250万人の人たちが避難を終えるには、少なくとも3日かかると想定されています。そこで、この地域では「広域分散避難」を早めに始めるように区民に呼びかけています。

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