この記事は、明日をまもるナビ「夏本番 カミナリからどう身を守る」(2022年7月3日 NHK総合テレビ放送)の内容をもとに制作しています。
これだけは知っておきたい、雷の基礎知識
▼落雷を避けようと樹木等の側にいると、落雷を受けた樹木等から雷が人体に飛び移ること(側撃雷)があり、危険。
▼金属を身につけていてもいなくても、落雷の危険度は実は変わらない。
▼落雷が、屋内に流れ込み、テレビやパソコンなどの電子機器を故障させる「雷サージ」が増えている。
意外に知らない!?雷の基礎知識
●年間10万回~100万回
そもそも日本で一年間に起こる落雷数はどのくらいあるのでしょうか?
実は、落雷は多い年で100万回、少ない年でも10万回起きています。ひとつの積乱雲で数百回から数千回発生しているのです。
その数は昔よりも増えていて、地球温暖化が原因です。
「海水温が上昇」→「水蒸気が増える」→「上昇気流が発達し、雷雲(積乱雲)が増加」→「雷が増えている」と言われています。
●人的被害も毎年発生
落雷は特に7月・8月、日射が強くて積乱雲が発生しやすい内陸部で非常に多く発生します。落雷による人的被害も毎年発生しています。

防衛大学校地球海洋学科教授の小林文明さんは、落雷への注意を呼び掛けています。
「昭和の頃は、落雷で亡くなる人は年間数10人でしたが、雷の危険性を子どもの頃から学習するようになった結果、少なくなりました。しかし、いまだにゼロにはならず、毎年起きています」

●雷は“探しながら走る”
そもそも雷とは、“電気の放電現象”。ジグザグになって見えるのは、もともと電気を通しにくい大気中を、雷の先端(リーダー)が、通りやすいところをあちらこちらと探しながら進んでいくためです。

●氷の摩擦が電気に
では、雷の電気はどのように起こるのでしょうか?
積乱雲の中では、水蒸気が小さな氷になります。氷の粒同士がぶつかり合い、こすれ合うことで静電気が発生。このときマイナスとプラスの電荷が発生し、それが大きくなってやがて放電。これが雷となるのです。
●下から上に!形もさまざま!
①上空に向かう雷。上向きの放電も多く見られます。

②「多地点同時雷撃」という現象。メカニズムはわかりませんが、多く観測されています。

③飛行機のコックピットから上向きの放電、テールのところから下向きの放電が出ています。

飛行機は電気を逃がす設計になっているので、燃えたり落ちたりすることはありません。基本的に、車や飛行機のような金属の中は安全です。
気をつけたい3つの雷被害
予測できない動きで命を奪う雷。落ち方には大きく分けて3通りあります。
①側撃雷
樹木等に落ちた雷が、そばにいる人間に飛び移り、被害を与えるものです。
2012年8月、大阪で起きた落雷被害は、雷を避けようと木の下に逃げ込んだ人が被害を受けたケースです。
野外コンサートの開演前、突然の雷雨が会場周辺の人々を襲いました。
多くの人が雷雨を避けようと公衆トイレに殺到しましたが、入れなかった人たちは周辺の木の下に逃げ込みました。そこへ雷が木に落ち、近くにいた2人の女性が亡くなりました。
なぜ、木から地面ではなく、人間に電気が流れるのでしょうか。
その理由は、人間の体液が木に比べてはるかに電気を通しやすいことにあります。そのため、木から1~2メートル近くにいると、雷は人に流れてくるのです。
②地電流
雷は、地面を伝わって人を感電させることもあります。これを「地電流」と呼びます。
2017年8月、東京・多摩川の花火大会会場で、男女7人が地電流による痺れを訴え、病院へ運ばれました。

この日は雷雨が強まったため、花火大会は中止となり、観客が会場の外に移動している最中でした。グラウンドに立っているポールに落雷し、周囲に座っている人たちが地面から感電しました。

地電流は1キロメートル離れていても流れることがあります。多摩川のケースでは、電流はお尻と足の間を流れ、心臓を通らなかったため、亡くなる人が出なかったのではないかと分析する専門家もいます。
③直撃雷
周囲が開けた場所で起きるのが「直撃雷」です。農作業やゴルフ、サッカーや野球などの最中に起きた事例があります。
2016年8月、埼玉県川越市では、高校のグラウンドに雷が落ち、男子生徒が亡くなりました。
当時、川越市には雷注意報が出され、雨雲が急速に発達。しかしグラウンドでは雨は降っていませんでした。
④晴れていても雷は落ちる
晴れていても雷は突如襲いかかります。
頭上は晴れていても雷が落ちてくることがあります。積乱雲からは真下だけではなく、横向きに雷が落ちることもあるのです。

海や山でも落雷事故は起きます。特に海は危険です。
2005年7月31日には千葉県白子町(しらこまち)の海水浴場で落雷があり、死傷者が出ました。雷が落ちたのは波打ち際。海水は電気を通しやすく、海面も雷が伝わるので危険です。
さらに、たとえばウィンドサーフィンは、何もない海の上で帆を立てるので、非常に危険です。
あなたは生き残れるか!?カミナリクイズ
ここからは、クイズ形式でさらに雷を学んでいきましょう。
クイズ1
ゴルフ場で、さあこれから自分の打順というときに、雷が近づいてきました。手にはゴルフクラブ、腕時計。そしてネックレスと金属のバックル付きのベルトも身に着けています。
雷に打たれないためには、どう対応すればいいでしょうか?
答え
①まず、ゴルフクラブを手から離す!
雷は高い所に落ちるのでクラブを振り上げるのは最も危険です。
②急いでその場から離れる!
③金属製の腕時計やネックレスは、あえて外す必要はありません。
実は、“雷のときは金属類を身体から外せ”と言われているのは、防衛大学校・小林さんいわく「ひとことで言うと迷信」。
研究機関で行った人形を使った雷の実験でも、金属をつけているかいないかは落雷に影響しないことがわかっています。

「直撃雷が落ちても、眼鏡のフレームから放電したり、ジッパーの金属を伝わって電流が逃げたりと、逆に金属を着けていることで、一命を取り留めたという例もあります」(小林さん)
また、ゴム長靴やゴム手袋、カッパやレインコートも過信は禁物です。
ゴムは電気を通しにくい絶縁物質で、家庭用電気くらいなら絶縁効果はあります。しかし雷はケタ違いのエネルギーを持っているので、落雷でも安全というのは誤解です。
コンクリートブロックに雷を落としてみると、粉々に砕かれるほどのパワーがあります。雷の電圧はおよそ1億ボルト。
ゴム長靴やレインコート、ゴム手袋では役に立ちません。

●屋外のレジャーでの避難のポイント
①ゴルフクラブや釣りざおなど長い物は手放す!
②避難するときは頑丈な建物か車の中へ!
特に車は金属でおおわれているので安全です。
レジャーで出かけている時もまずは車へ逃げ込みましょう。
③車は窓を閉める!
密閉した金属空間のみ安全です。
ゴルフ場のカートは、囲いしかないオープンなので危険です。
クイズ2
雷が光ってから音がするまで10秒ありました。まだ安全でしょうか?ちなみに音の速さは秒速340メートルです。
答え
正解は×「安全ではない」。
雷雲は大きければ数10キロメートルもあります。少しでも音がしていたらすでにあなたは雷雲の範囲にいて、いつでも雷が落ちてくる可能性があります。光と音の時間差は目安になりません!
では、どのくらい離れていたら安全なのか?
小林さんが紹介するのが「30分ルール」です。最後の雷鳴が聞こえてから30分間次の雷鳴がしなかったら行動を再開してOKという基準です。
クイズ3
突然の雷に遭った時、雷から身を守ることができる姿勢があります。それは3つのうちどれでしょう?
答え
正解は②。これは「雷しゃがみ」といいます。
落雷を避けるにはまず車や建物に避難することが鉄則です。しかし外出先で雷を避ける場所がない場合、緊急手段としてこの「雷しゃがみ」を行ってください。
●雷しゃがみのポイント
①両足をそろえる
②かかとをそろえて、つま先立ちになる
③できるだけ姿勢を低くする
④耳をふさぎ、親指で強く押さえて鼓膜を守る
足を開いていると、その間を電流が流れてしまいます。電流が下半身のほうに流れていかないように足をそろえます。また、設置面積は少ないほうが良いので、つま先立ちします。
地面に寝たり、四つんばいになったりするのは、電流が心臓を通るので危険です。
牛や羊などの家畜が被害を受けたケースが出ています。
家の中も油断禁物!“雷サージ”とは
雷の危険は外にいるときばかりではありません。家の中にいても安心できないのが「雷サージ」と呼ばれる現象です。
離れた場所に落ちた雷が、電柱の電源線や通信ケーブルなどを伝わって屋内に流れ込み、テレビやパソコンなどの電気製品を故障させます。雷サージによる異常な電流が電子回路をショートさせるのです。
雷サージでショートした電子回路が発火、火災を引き起こすこともあります。
さらに人間が電子機器や家電製品に触れていると、感電することもあります。
「雷サージ」は、雷が落ちた地点から最大で半径2キロの広い範囲で発生する可能性があります。
どのように対策すればいいのか?
家電製品の電源線、電話やパソコンに繋がっている通信線、テレビのアンテナ線を抜いておけば万全です。
ただ、雷が鳴った時、これらすべての線を抜くことはそう簡単ではありません。
「避雷器」を設置しておくのも有効な方法です。
雷サージの異常な電流だけを外へ逃がし、電気製品を守る働きがあります。
家庭用には、雷サージを低減する機能が内蔵された電源タップも市販されています。また、通信線からの雷サージを防ぐタイプもあります。
雷サージは、電流が電源線やケーブルを伝わり直接入ってくる以外にも、空中からの雷の放電(電磁波)によって、電子機器、スマホ等に影響を与えることもあります。
昔からこのような被害はありましたが、いまは電子機器の数が増え、より広範囲に被害が広がっています。
また、人が感電することを防ぐには、電化製品から1メートル以上離れ、部屋の中心にいれば、電気が伝わらず安全です。
「ここでも“30分ルール”が有効です。雷雲が通り過ぎるまで、部屋の中央で待ちましょう」(小林さん)

雷を予測する「雷ナウキャスト」
現在では雷の発生を予測できるようになっています。それが気象庁が提供する雷情報「雷ナウキャスト」です。
落雷が発生している場所や活動の強さを4段階の色で表示しています。
日本全国どこの場所でも、3時間前の状態から1時間後の予測まで10分ごとに更新されて見ることができます。
活動の強さは1から4まであり、色分けして表示されています。
「特に3と4は、これを見た瞬間に避難行動を取るとよいでしょう」(小林さん)
▼最新のナウキャスト(雨雲の動き・雷・竜巻) ※NHKサイトから離れます
上部のボタンから「雷活動度(雷ナウキャスト)」を選びます。
【参考】
気象庁「雷ナウキャスト」とは ※NHKサイトから離れます
雷から身を守るポイント!
最後に、雷から身を守るポイントをまとめました。
①気象情報を、こまめにチェック!
「気象情報プラス自分の目と耳で確かめましょう」(小林さん)
②雷の予兆を感じたら早めに避難!
周りに逃げる場所がなければ雷しゃがみで雷雲の通過を待つ!
「雷しゃがみは最後の手段です。とにかく早く安全なところへ逃げましょう」(小林さん)
③事前に天候不順がわかる場合、海や山に出かける予定は再考を!
「これからレジャーの季節。コンサートにも山にも行きたいところですが、最後は予定の変更をためらわないでほしいです」(小林さん)