この記事は、明日をまもるナビ「教えて!斉田さん どうなる?この夏の天気」(2022年6月19日 NHK総合テレビ放送)の内容をもとに制作しています。
これだけは知っておきたい、線状降水帯の予測と対策
▼線状降水帯が発生するおそれのあると半日から6時間前までに予測を発表
▼予測の鍵となるのは水蒸気の観測。衛星を使った観測システムとスーパーコンピューターを導入して解析
▼予測的中率は現時点では25%だが、気象情報を注視するきっかけに
線状降水帯とは何か?
近年、集中豪雨を引き起こす原因として注目される「線状降水帯」。
気象庁は今年6月からこの線状降水帯の予測を開始しました。発生するおそれのある場合、半日から6時間前までに予測を発表することにしています。


●「線状降水帯」発生のメカニズム

雨雲のもととなる、暖かく湿った空気が次々と流れ込んで積乱雲が発生します。それが上空の風によって流されて線状に連なり、同じ場所で大雨が長く続きます。これが「線状降水帯」です。
気象庁では、幅が20キロメートルから50キロメートル、長さが50キロメートルから300キロメートルの帯状の状態になるものを線状降水帯と呼んでいます。
積乱雲1つの寿命は30分から1時間ぐらいと短いですが、次々に同じ場所で発生することによって大雨が続くのです。数時間で平年の1か月分の量が降ることもあり、災害につながりやすくなります。
よく言う「ゲリラ豪雨」は、発達した積乱雲1つから局地的に短時間に降る急な大雨のことです。「線状降水帯」は、その積乱雲が次々と連なる状態です。
大きな被害をもたらす線状降水帯
2021年8月、九州北部に線状降水帯が発生し、大きな被害をもたらした『令和3年8月豪雨』。その被害を振り返ります。
わずか1週間で年間雨量の5割に達する地域も出るなど、各地で記録的な雨量を観測しました。

雨が降り始めたのは8月11日。翌日午後2時の時点で、九州では11の河川で氾濫危険水位を超えました。
13日以降も線状降水帯によって非常に激しい雨が降り続きました。
各地で土砂崩れが相次ぎ、長崎県雲仙市では親子3人が犠牲になりました。

14日には、福岡県、佐賀県、長崎県の一部で大雨特別警報が発表。
佐賀県武雄市では、3年前(2019年)に続いて、再び浸水被害が相次ぎました。
市内で浸水被害を受けた店舗の数はおよそ230。被害総額は85億円にのぼりました。

線状降水帯によって発生する豪雨被害は、日本のどこでも起こる可能性があるのです。
発生をいち早く知らせる「顕著な大雨に関する情報」
この線状降水帯に対して、気象庁が去年から始めた取り組みがあります。それが「顕著な大雨に関する情報」。線状降水帯の発生をいち早く知らせる情報です。

2021年の1年間で、気象庁は17回発表しました。そのほとんどが6月から9月の夏に集中しています。西日本だけでなく、過去には東日本や北日本でも発生しています。
1995年から2009年に起きた集中豪雨(3時間で130ミリ以上)のうち、線状降水帯が占めていた割合は64.4%と、かなり高くなっています。

線状降水帯は東西のみならず、南北にも発生する場合があります。2015年9月の関東・東北豪雨の時には、南北に長い線状降水帯が発生し、鬼怒川の堤防が決壊して14名が亡くなりました。
この時は、日本海にあった低気圧と、日本の東の海上を北上する台風との間で風がぶつかって上昇し、線状に積乱雲が発達しやすくなっていました。

線状降水帯の予測技術
これまで難しいとされていた線状降水帯の発生予測は、どのように実現できたのか、気象庁を取材しました。
予測技術の開発には、世界トップクラスのスーパーコンピューター「富岳(ふがく)」が活用されています。

予測の鍵は、大気中の水蒸気をどれだけ正確に観測できるかにかかっています。気象庁は、水蒸気を観測するマイクロ波放射計を17か所に設置しました。

気象レーダーやアメダスの整備など、陸上観測を強化するとともに、これまで観測地点がなかった海の上は、人工衛星を使った観測システムを観測船に配備することで、“線状降水帯のもと” をキャッチする取り組みを始めました。

「陸で雨を降らせる雨雲は必ず海の上を通って陸に行きます。われわれはその上流に向かっていき、数時間後の陸での雨の現象の予測に役立てればと思います」(気象庁 環境・海洋気象課 日比野祥 調査官)
観測システムは、衛星から電波を受信する際、大気中に水蒸気があると生じる電波のわずかな遅れを利用して、海上の水蒸気の量を推定します。積乱雲に発達する可能性のある水蒸気を、より正確に、ほぼリアルタイムで捉えることができるようになったのです。


気象庁は、雨の多い6月から10月にかけて、2隻の観測船を東シナ海や四国沖に交代で配備する予定です。さらに今年度中には、海上保安庁の船や民間のフェリーの協力を得て、合わせて16隻で観測にあたる体制を作ることにしています。

予測的中率は25%
線状降水帯の予測的中率は現時点では25%。これは、地方ごとに広域で予測する場合の数字で、2019年から21年に発生した線状降水帯をもとに検証したものです。

線状降水帯の予報は、現状では九州北部地方や東海、関東甲信越という地方ごとの発表になっています。今後は範囲をより狭くして、2024年には都道府県単位、2029年には市町村単位で予測する方向で進められています。

「精度はまだ高いとは言えませんが、大雨の危険性が高まっていることを知らせる、意味のある情報。気象情報に注視して、気をつけるきっかけになる情報だと思っていただきたい」(気象予報士の斉田季実治さん)

予測は、気象庁のホームページやメディアを通じて発表されます。ハザードマップで、河川の氾濫や土砂災害のリスクを確認しましょう。線状降水帯が発生する前に、早めの避難を心がけることが大切です。