この記事は、明日をまもるナビ「土砂災害 あなたの家は大丈夫?」(2022年6月5日 NHK総合テレビ放送)の内容をもとに制作しています。
これだけは知っておきたい、都市型土砂災害から命と暮らしを守る方法
▼自分の家が安全かどうか、ハザードマップで土砂災害警戒区域を確認する
▼日本中に存在する土石流扇状地の上に作られた住宅地のリスクを知って早めに避難する
▼盛り土の上に建てられた住宅では大雨時の排水が機能しているかチェックする
異常気象による土砂災害が増えている
近年、大雨の季節の土砂災害が増えています。この20年の土砂災害の発生件数を見ると、最も多い2018年は3,459件。過去10年の平均件数は、その前の20年に比べて1.4倍に増えています。
京都大学名誉教授の釜井俊孝(かまい・としたか)さんは、増加の理由に「近年の異常気象」をあげます。
20世紀中頃までは数十年に一度だった集中豪雨が、最近は頻繁に起きており、土砂災害の大きな原因になっているのです。
●土砂災害の3つのパターン
①崖崩れ
急斜面が崩れ落ちる現象です。前触れがなく、突然起きることが多いため、大変危険な災害です。毎年多くの人が犠牲になっています。崩れた土砂は、崖の高さの2倍の距離まで及ぶ恐れがあります。
②地滑り
緩やかな斜面に大量の水が染み込んで、深く、えぐられるようにすべる現象です。ゆっくりとした動きですが、広範囲にわたって被害を及ぼします。
③土石流
山の斜面が崩壊して、大量の土砂や岩などが川や沢に沿って一気に流れくだる現象です。時速20~40キロメートル。破壊力が大きいので危険です。
●土砂災害から身を守るためのポイント(内閣府)
①自分の住む場所が危険か確認
全国の自治体では「土砂災害警戒区域」を指定し、ハザードマップを作っています。自分の家が安全かどうか、ハザードマップで確認することが必要です。
ハザードマップをどう見たらいいのでしょうか?
色がついている場所が警戒の必要なエリアです。
黄色は「土砂災害警戒区域」。赤は「土砂災害特別警戒区域」で、住宅の建築が制限されるエリアです。放射状に広がっているのが、「土石流」の危険がある場所です。

また、ピンク色で点在しているのは急斜面で「崖崩れ」の危険がある区域。
この地図では赤い点の場所(小学校や保育園)が避難場所になっています。

さらに、土砂災害警戒区域かどうかは看板で見分けることもできます。

②気象情報をチェックする
大雨の時には、都道府県と気象庁が出す「土砂災害警戒情報」をチェックしましょう。これが出たら、命に危険を及ぼす土砂災害がいつ起きてもおかしくありません。土砂災害警戒区域や特別警戒区域に住む方は、特に注意が必要です。
③早めの避難
警戒情報が出たら、早めの避難が必要です。
しかし、避難の情報が届かなかったり、届いても大丈夫と思ってしまったりすることがよくあります。そのときに大切なのが「声かけ」です。
NHKでは、特に情報を早く得られる若い世代が情報をキャッチし、その情報を家族、友人たちなど大切な人に電話で伝え、避難を直接促してもらうために、動画を作成して呼びかけています。
【30秒動画:祖母編】大好きなおばあちゃんに、いつ避難を呼びかける?
【30秒動画:友人編】避難の情報をキャッチしたら、どう呼びかける?
新たな危険 都市外縁型の土砂災害とは?
●「都市型土砂災害」に2つのタイプ
今、都市や住宅地を襲う「都市型土砂災害」の危険が指摘されています。
釜井さんはこれを2つのタイプに分けています。
「都市外縁型」=都市が拡大して住宅地が山に接触した場所で起きる土砂災害。
「都市内部型」=都市の中心部、住宅地が続く場所で起きる土砂災害。
ふたつの土砂災害が起きる原因は、それぞれ異なっています。
●土石流扇状地に広がる住宅地
2014年8月、広島市を記録的な大雨が襲い、大規模な土砂災害が同時多発的に発生。中でも、広島駅から車で30分ほどの住宅街に被害が集中し、107か所の土石流、59か所の崖崩れが住宅地を飲み込み、77人の命が奪われました。

なぜこれほど被害が集中したのでしょうか?
このとき、現地を調査した京都大学防災研究所の竹林洋史さんはこう指摘します。
「土石流が流れる下流に多くの家がある。土砂災害に対して無防備な状態で宅地の開発が進められている」
“住宅地が土石流の通り道に建っていた” というのです。

自動車、造船などの重工業が盛んな広島では、昭和30年代後半から人口が2倍以上になり、宅地の開発は山のきわギリギリまで進んでいきました。

当時、自治体は拡大する開発を規制しようとしましたが、開発は進んでいきました。
2014年の土石流被害は、まさにこういった地域で起こりました。
こうした山裾に広がる住宅地は、全国どこにでも存在します。
土石流被害があった場所のハザードマップを見ると、土砂災害警戒区域にたくさんの住宅地があることがわかります。これらの扇形の地形は、過去に何度も繰り返された土石流が堆積して作られたもので、「土石流扇状地」といいます。

「問題はそれが過去の話ではなく、『現在進行形』ということ。今も将来も土石流が起こり得る場所」と、京都大学名誉教授の釜井俊孝さんは、危険性を指摘しています。
では、実際にそういう場所に住んでしまったら、どうしたらいいのでしょうか。
まず「自分の家にどういうリスクがあるか事前に確認すること」。
そして「リスクを知って、早めに避難すること」。
釜井さんは、これらを自分から知ろうと努力することを提案しています。

リスクのある地域に住む一人、広島県熊野町大原ハイツの小川直明さんは、2018年の西日本豪雨で土石流災害の被害に遭いました。
小川さんは被災した3か月後、地域の住民と一緒に独自の避難マップを作成しました。実際に現場を見て、土石流が起きた時にどこが危険で、どこが安全かを確認していきました。

そのマップを元に避難訓練も行いました。住民が実際に歩いてみることで、土石流が起きた時にどう避難すればいいかという情報を互いに共有できたといいます。
災害から4年。大原ハイツの上流には土石流を防ぐための砂防堰堤が完成しました。
釜井さんは、こうした地域の取り組みを評価しています。
「逃げるという行動を一人で起こすのは難しいので、このように地域で連帯・連携して『みんなで行動する』ことを決めておくことが大切です」
【明日をまもるナビ】
あなたの命をまもる「ハザードマップ」 知っておきたい活用法(2021年4月9日公開)
都市内部型の土砂災害の原因とは?
●排水ができていない盛り土が危ない
2017年10月、超大型の台風21号が上陸し、西日本を中心に記録的大雨となりました。
大阪や京都にほど近い、奈良県三郷町(さんごうちょう)では、線路沿いの8軒の住宅の土台の土が突然崩落し、基礎がむき出しになりました。

崩落の原因は、建物が建っていた土地でした。
ここは元々、急な斜面でしたが、そこに土を盛る「盛り土」という方法で土地が平らにならされ、住宅が建てられていました。
大量の雨が盛り土に染み込んでいくことで、水圧が高まり、ついには土を支える擁壁(ようへき)が破壊され、崩落したのです。
山を開き、谷や崖を埋めて盛り土を行う宅地造成は、日本では戦後から盛んに行われてきました。
これまで「盛り土は年月がたてば、強固な地盤になる」と考えられていました。
しかし、釜井さんは「水が介在すると、そうではないケースが出てくる」と言います。
盛り土に水がどう影響するのか? 模型を使って説明します。
①上の部分が盛り土で、下が元々の地盤です。
②雨が降ると、地盤と盛り土の境界線部分に水がたまります。
③さらに雨が降り続くと、盛り土が滑ります。
大雨による水が盛り土と地盤の境界にたまり、盛り土が浮いてしまうことで滑ってしまうのです。
盛り土の崩壊を防ぐ一番の対策は、「地下水を抜くこと」です。盛り土の擁壁から排水パイプを突き出すことで、内部にたまった水を地盤の外に出す役目を果たします。しかし古い盛り土は、現在と建設基準が違っていたため、排水設備がないものや老朽化したものがあります。

つまり、全ての盛り土が危ないわけではなく、排水のできていない盛り土が問題なのです。
●全国に無数にある盛り土による造成地
2006年に、宅地造成等規制法が改正され、各都道府県は「大規模盛土造成地」の数を調べて公表することになりました。その数は、およそ5万1,000か所。大規模盛土造成地とは、盛土をした土地の面積が3,000平方メートル以上のもの。丘陵地の多い横浜市では約3,000か所以上あります。

国は、盛土造成地の安全性の確認を各自治体に求めていますが、着手されているのは、盛り土がある自治体の10%程度にすぎません。
その理由は、盛り土が私有地に多くあるためです。調査には所有者の許可が必要ですが、調査で危険だと判断されてしまうと、土地の値段が下がる懸念があることから、なかなか同意を得られていないのが現状です。
さらに、全国各地には、大規模な盛土造成地だけではなく、小さな盛り土がさらに無数にありますが、そうした情報は分布図からは分かりません。

家や地盤の小さな変化に気をつける
●宅地の不具合を見つける4つのポイント
住宅が建っている土地の不具合をどうやって見つけることができるのか?土木コンサルタントの藤井俊逸(ふじい・しゅんいつ)さんに4つのポイントを教えてもらいました。
①擁壁にひびや隙間がないか
地盤が動くと、それを支える擁壁にひび割れや隙間ができる場合があります。
②擁壁にある排水パイプが正しく機能しているか
排水パイプが詰まり、擁壁の中に水がたまっていると、地盤は崩れやすくなります。排水パイプから、ちゃんと水が出ているか、雨の後に確認することが大切です。
「よくあるのが、土で覆われていたり、植物の根で埋まっていたりするケース。取り除いて水がちゃんと出るようにしなければいけません」(藤井さん)
③建物が傾いていないか
地盤が動くと、家が傾き、建て付けが悪くなることがあります。建物の中で柱が曲がっていたり、床が傾斜したりしているときは、傾きや建付けを定期的にチェックして、きちんと記録しておくことが大事です。
④そもそも自宅の地盤が盛り土か
家を建てるときに、造成前と造成後の図面や、擁壁の形状や構造がわかるものをきちんと残しておくこと。図面がない場合は、古い航空写真と現在の地形を見比べて判断します。
藤井さんが調査した事例です。Aさんの自宅は斜面の住宅街に建つ一軒家。41年前、大雨で庭の半分が崩れる被害にあったことがあります。2年前、駐車場の壁と石垣の間に、新たに4センチほどの隙間が見つかりました。
藤井さんが調査した結果、実はAさんの家の一部が盛り土の上に建っていること、さらに過去の地震などの影響で地盤がわずかに動いていたことがわかりました。
そこでAさんは、藤井さんのアドバイスを受けて、石垣の外側にコンクリートの壁を新たに設置。鉄筋を通して駐車場の壁に固定することで、地盤がさらに動くのを防ぐことにしました。
また、大雨や地震のたびに、擁壁にできたひびが大きくなっていないかチェックしているといいます。
藤井さんは「もし、宅地に不具合や不安なことがあれば、まずは、自治体に問い合わせてみると良い」とアドバイスしています。
●土砂崩れの前兆現象を知る
ほかにも、土砂崩れの危険性を目で確認できる「前兆現象」もあります。
①山から水が流れ出す
②排水パイプの水が濁る
③大雨なのに排水パイプから水が出ない
④盛り土を支える擁壁にたわみや亀裂がある
ハザードマップには盛り土が記されていない場合もあります。そこで過去の地図と今の地図を比べて表示するサイトで、元々はどんな土地だったかを調べる方法があります。
時系列地形図閲覧サイト「今昔マップ on the web」
※NHKサイトを離れます
例えば、現在のNHK放送センターの場所は、昔は谷だった場所を埋めた盛り土の上に建っていることがわかります。

京都大学の釜井さんは、「住宅地での土砂崩れは他人に迷惑を掛ける可能性があるので、土地を買ったらちゃんと管理をすることが大事」として、いろいろな情報をチェックするよう勧めています。