この記事は、明日をまもるナビ「クイズで学ぶ 水害対策の基本」(2022年5月15日 NHK総合テレビ放送)の内容をもとに制作しています。
これだけは知っておきたい、水害対策の最新知識
▼短時間の大雨で急激に事態が悪化する都市水害では「内水氾濫」に注意が必要。
▼甚大な水害につながりかねない「ヒヤリ」としたり「ハット」する危険な現象がみられる河川が全国で増えている。
▼自分たちが暮らす地域で被害をもたらす危険な大雨とはどれくらいの量なのか知っておく。
▼こうなったら避難しようというきっかけ「避難スイッチ」を事前に決めておく。
もうひとつの「水害ハザードマップ」とは?
神田川や荒川が流れ、水害の危険性が指摘されている東京・台東区。ハザードマップには“浸水想定区域”や“浸水の深さ”が色分けされています。

【Q1】台東区にはもうひとつのハザードマップがあります。それはどんな水害に備えている?

【正解】は「内水氾濫」。
都市の水害の特徴は、“短時間の大雨で急激に事態が悪化する”ことです。
舗装された道路やたくさんのビルが密集する都市では、1時間に50ミリ以上の非常に激しい雨が降ると、下水道などの排水処理が追いつかなくなり、マンホールから水が溢れ出したり、地下へ大量の水が流れ込んだりすることがあります。
この現象は「内水氾濫」と呼ばれています。
大雨で川の水位が高くなると、下水が川に流れなくなり、街に水があふれます。川から離れた場所でも浸水のおそれがあり、油断できません。
2019年の台風19号では、135の市区町村で内水氾濫による浸水被害が発生。
神奈川県川崎市では、武蔵小杉駅が浸水し、周辺のタワーマンションでも地下の電気設備が水につかり、停電や断水が起きました。

1999年には福岡市の地下街に水が流れ込み、店舗の従業員が逃げ遅れて亡くなりました。

地上にも危険があります。路面にあふれた水で側溝やマンホールが確認できず、歩いていて転落するおそれがあります。
また、線路や道路の下を通るアンダーパスも大雨で冠水しやすく、気付かずに車で入り込んでしまい、脱出できずに死亡する事故が起きています。

内水氾濫のハザードマップは、想定し得る最大規模の降雨量に基づいてシミュレーションされています。浸水する地域や深さだけでなく、避難するべき方向や、アンダーパスの場所なども記載されていますので、ぜひ活用してください。

水害が心配される河川が増えてきた?
水害から身を守るためには、それぞれの川の持つ特性や特徴を知ることが重要です。
【Q2】最近、水害の激甚化する中、「○○○○〇〇の多い川が増えてきた」といいます。この6文字とは何?
【正解】は「ヒヤリハットの多い川が増えてきた」。
“ヒヤリハット”とは、もともとは工場や工事現場などで、重大な事故や災害につながりかねない一歩手前の危険な状態を指します。こうした「ヒヤリ」とした「ハット」した事例を分析して、安全対策に役立てることが重要です。

東京都や神奈川県の人口密集地域を流れる多摩川。ふだんはおだやかに見えますが、実は2,000メートル近くの標高から河口までのわずか100キロ余りを一気に流れ下っている「急流河川」です。

2019年の台風19号では、河口から60キロ上流の東京・青梅市の調布橋観測所で水位がピークに達すると、その1時間半後には下流の大田区・田園調布観測所で水位がピークになりました。

つまり多摩川は、上流で増水すると、短時間で下流も増水し、急激に水位が上昇する危険があります。多摩川の場合、早めの避難が欠かせないのです。
こうした河川が災害一歩手前の状況になることを、専門家は「ヒヤリハット」と呼び、今後大きな災害につながらないか注視しています。
2013年9月の台風18号では、京都を流れる「桂川」で観測史上最大の水位を記録。有名な渡月橋の橋面を越え、周辺の家屋や旅館などに大きな被害をもたらしました。この時、下流では「ヒヤリハット」になったポイントもありました。

こうした過去のデータを参照できるのが、国土交通省の「水文水質データベース」。川の観測所のデータが見られるサイトです。
国土交通省「水文水質データベース」
※NHKサイトを離れます。
先ほどの桂川を例に見てみましょう。
渡月橋よりやや下流の「羽束師」では、2013年の台風18号の時、最高水位が9.33メートル。専門家が水害発生のリスクが極めて高いと考える「計画高水位」の7.89メートルを超えています。
過去30年を見ても、水位最高記録データのトップ10は近年のものが並んでいます。こうした大きな水害になりかねない「ヒヤリハット」の状況がみられる河川が増えてきています。

「このサイトでは、主要な観測点のさまざまなデータが公開されています。お住まいの地域に近い『地元の川』の水位ランキングを調べておくといいと思います」(京都大学防災研究所教授 矢守克也さん)

大雨災害で被災者から最も聞かれる言葉とは?
【Q3】過去の大きな水害について研究が進む中、犠牲者の多い地域の被災者からは、その大雨について必ずと言っていいほど聞かれる言葉があります。それはどんな言葉?
【正解】「こんな大雨は初めて」。
被災者にとって「初めて」という大雨、この言葉の意味を探ってみましょう。
静岡大学の牛山素行教授による研究です。
これは2018年の西日本豪雨の被害を示した図です。死者・行方不明者を表す赤いマークが、岡山・広島・愛媛3県に集中していることが分かります。

一方、72時間あたりの降水量を示す図では、最大値を示す紫色の地点は高知県に集中しています。つまり、犠牲者を多く出した場所は、必ずしも雨量が多かった地域ではなかったのです。

当時の72時間降水量と過去の最大値を比較すると、多くの犠牲者を出した地域では降水量が「過去最大値」を超えていました。
大きな被害をもたらすのは、まさに「その地域にとっての大雨」なのです。近年、こうしたケースのように降水量が過去の最大値を超える例が各地で起きています。

その地域の観測史上最大の雨量を「既往最大値」(きおうさいだいち)といいます。
気をつけたいのは、この既往最大値は地域によってかなりの差があることです。
例えば、24時間雨量の既往最大値は、北海道小樽市では126ミリなのに対して、高知県高知市では861ミリと7倍近い差があります。
台風がたびたび上陸し、毎年のように豪雨が発生する高知県や鹿児島県、宮崎県。このような地域では既往最大値も大きく、雨に備える設備の整備が進められています。高知県では24時間で300ミリの降水量があったとしても、水害はほとんど起きません。
一方、こうした地域に比べてもともと雨の少ない北海道や岩手県、長野県などでは、150から200ミリでも水害の危険性が高まります。
あなたの地域にとって“危険な大雨”とはどれくらいなのか、知っておきましょう。
●今年6月から始まる線状降水帯予測
今年6月1日から気象庁は「線状降水帯予測」を始めます。

「線状降水帯」とは、発達した積乱雲が帯状に連なり大雨をもたらすもので、これまでも大きな被害を発生させています。

気象庁では、線状降水帯発生のおそれがある場合、情報を「関東甲信」や「九州北部」など全国11の地方ごとに、半日から6時間前までに発表し、警戒を呼びかけることになりました。
「早い段階からリスクが周知されることになるので、水害にどう備えておくかや事前の避難をどうするかなどを考える際に役立てることができます」(NHK二宮徹解説委員)

多くの人に避難を決意させた「避難スイッチ」とは?
避難スイッチとは、「こうなったら避難しよう」というきっかけをあらかじめ決めておく考え方です。
さまざまなことが避難のきっかけになりますが、一方で「まだ大丈夫」「高齢なので逃げるのがたいへん」などと、危険が差し迫っても行動を起こせない場合がよくあります。
【Q4】そんな状況の中、過去の大きな水害で、多くの人々に避難を決意させたスイッチがあります。それは何?
【正解】「人からの呼びかけ」です。
避難スイッチには大きく分けると3つのタイプがあります。
「情報」=国が定める警戒レベルや自治体が出す避難情報に加えて、家の近くを流れる川の氾濫情報など、目安にする情報をあらかじめ決めておく。
「体感」=視覚、聴覚、嗅覚などで分かることをスイッチにしておく。

「人からの呼びかけ」が命を救った、実際の事例があります。
2019年10月13日、台風19号に襲われた長野市長沼地区では、千曲川の堤防が決壊し、およそ2000人が暮らす地区のほぼ全域が水没しました。

この夜、避難指示が出た後でも、住民の半分以上はまだ自宅にとどまっていました。
そんな中で、住民との危機感の温度差を感じていたという消防団員がとった行動が住民の避難を飛躍的に進めました。それは近年使われていなかった「半鐘」(はんしょう)を一斉に鳴らしたことでした。

鳴るはずのない鐘の音で事態の深刻さに気づき、避難を始めた住民がいました。
◎この時の詳しい状況は
「台風から命を守る方法とは 千曲川決壊の教訓」(明日をまもるナビ)
「人からの呼びかけ」が命を救ったもう一つの事例です。
2018年7月の西日本豪雨で、壊滅的な被害を受けた倉敷市真備町(まびちょう)。
住民の福長輝(ふくなが・あきら)さんが危うく難を逃れることができたきっかけは、知り合いの消防団員からのメッセージでした。

当時は避難勧告が出ていましたが、深夜で周囲が見えづらく、避難をためらっていた福長さん。
そこに、知り合いの消防団からSNSを通じて「避難すべき」との連絡があり、福長さんは避難をすることを決めました。
「実際に(川の様子を)見て送ってくれているので、完璧に後押しになった」(福長さん)
ふだんとは違った周囲の様子や知人の声かけが、命を救う避難スイッチとなったのです。
「こうなったら避難するという、自分たちなりの避難スイッチを決めておきましょう。家族で呼びかけて、自分だけではなくみんなで助かる状態を作っていくことが大事です」(矢守教授)
「耐水害住宅」その驚異の新機能とは?
水害で住宅が床上や床下浸水してしまうとそのあとが大変。床板を剥がしたり断熱材を入れ替えたり、多額の費用がかかることも少なくありません。
こうした問題を解決する「耐水害住宅」が、防災科学技術研究所と住宅メーカーによって開発されました。

水位が1メートルを超えても、玄関の扉や窓のサッシは水圧に耐えられる構造になっていて、隙間から水が入ってきません。
床下の換気口は、水が入ってくると自動的にフタが閉まる仕組み。配水管には逆流防止弁が取り付けられ、下水の逆流を防ぎます。
外部電源設備やエアコンの室外機などは高い位置に取り付け、水没しないようにしています。
【Q5】耐水害住宅にはさらに、水位が上がっても大丈夫な新機能が備わっています。それはいったい何?
【正解】は「家が浮く」!
浸水3メートルに達すると、この耐水害住宅はまるで船のように浮き上がります。
建物の周囲には専用ダンパー付き係留装置が装着されて、ショックを最小限に抑えながら、建物を同じ場所につなぎ止めているのです。

豪雨災害で起きやすい “いやな被害”を防ぐ方法とは?
【Q6】豪雨災害のとき、家で起こるととても困る被害があります。それはいったい何?
【正解】「汚水の逆流」。
家が浸水した時、下水道や排水管が満水となり、風呂やトイレの排水口から汚水が逆流する現象が発生します。あとの処理が大変で、においが残ったり、細菌やウイルスなどが病気の原因になったりします。

これを防ぐのに役立つのが、どこの家庭にもある大きなゴミ袋で作った「水のう」です。国や自治体などが推奨する方法です。
●水のうの作り方
①45リットル程度の大きさのゴミ袋を選び、重ねます。
②そこに半分程度水を入れ、空気を抜き、これで完成。
③便器に袋をかぶせ、その上から水のうを穴に詰めます。
水のうを作る専用の袋もあります。これに水を入れて並べてシートで覆えば、土のうの代わりになり、家に流れ込む水をある程度止めることができます。普段の収納スペースにも困らず、中の水は再利用もできます。
ほかにも、水に3分間浸すと重たい土のうのようになるもの(左側の茶色の袋)もあります。

●NHK「水害から命と暮らしを守る」キャンペーン
NHKでは今月から「水害から命と暮らしを守る」という取り組みを行っています。コンセプトは、「みんなで助かるために、いま、できることを」。
「明日をまもるナビ」では、この5月から6月にかけて、水害をテーマにした番組を連続してお伝えしていきます。