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小惑星衝突に備える 回避方法を探す宇宙科学者たち

2013年、世界を震かんさせた驚くべき出来事がありました。ロシア・シベリア上空で起きた小惑星の爆発です。衝撃で一瞬のうちに建物や窓ガラスが吹き飛ばされました。こうした出来事はおよそ100年に1回の確率で地球上のどこかで起こると考えられています。日本国内でも、小規模な隕石の落下が相次いでいて、あなたが住む地域でもいつ起きてもおかしくないのです。今回は、最新科学による危機回避の取り組みを紹介し、小惑星の衝突に備える方法を考えます。

この記事は、明日をまもるナビ「宇宙からの災害 小惑星衝突に備える」(2022年4月24日 NHK総合テレビ放送)の内容をもとに制作しています。

これだけは知っておきたい、小惑星の衝突に備える取り組み
▼地球に衝突するおそれのある小惑星は、早期発見できれば軌道計算から衝突時刻と衝突地点を正確に予測できる。
▼NASA「地球防衛調整局」が世界中の天文台やアマチュア天文家とのネットワークを作り、未知の小惑星の発見に力を入れている。
▼世界各国の研究者が集まった「地球防衛会議」が、小惑星の衝突から地球を守る対策を検討している。


身近に起こっている 宇宙物質との衝突

小惑星など宇宙からの物質が地球と衝突することは自然現象です。砂粒より小さなサイズであれば毎日のように起きています。それが一定以上の大きさの場合、災害をもたらすことがあります。

「流星」(流れ星)や「火球」は、数ミリから数センチメートルの大きさの物質が地球の大気圏に突入したときに発光するもので、ほとんどが空中で燃え尽きてしまいます。

2021年に日本国内で撮影された「火球」の映像
2021年に日本国内で撮影された「火球」の映像

しかしさらに大きなサイズになると、燃え尽きずに地上に到達。これが「隕石」です。

2020年に千葉県船橋市に落下した習志野隕石
2020年に千葉県船橋市に落下した習志野隕石
2018年9月 愛知県の民家の屋根を破壊した小牧隕石
2018年9月 愛知県の民家の屋根を破壊した小牧隕石

これは地球に衝突する宇宙物質の質量と衝突頻度を表した表です。

地球に衝突する宇宙物質の質量と衝突頻度を表した表

約6600万年前、メキシコのユカタン半島北部のチクシュリューブに衝突した小惑星は直径約10キロメートルと推定され、恐竜が絶滅するきっかけになったと言われています。この規模の小惑星の衝突は数千万年から1億年に1回程度起こりうると考えられています。

直径10メートル程度の小惑星の場合、およそ100年に1回ぐらいの頻度と言われています。


実際に起きた小惑星衝突の被害

●上空での爆発が引き起こす大きな被害

2013年2月15日。ロシア中部の都市・チェリャビンスク上空に、巨大な火の玉が突如現れ、爆音と衝撃が人々を襲いました。

巨大な火の玉
巨大な火の玉

死者は出なかったものの、負傷者はおよそ1500人、4500棟の建物が被害を受けました。

その正体は直径17メートル、質量1万トン(推計)の小惑星でした。秒速18キロの速さで大気圏に飛び込んで火球となり、上空およそ20キロで爆発、大きな光を放ちました。爆発した小惑星は、無数の隕石となって、周囲100キロの広い範囲に落下しました。

付近の大学では、1600枚の窓ガラスが割れ、その破片で数十人がけがをしました。その時の様子が校内の防犯カメラに記録されていました。

午前9時20分、廊下に閃光(せんこう)が差し込みます。その2分25秒後、爆音とともに窓ガラスが割れ、学生たちが吹き飛ばされました。

窓ガラスが割れ、驚いて逃げる学生たち
窓ガラスが割れ、驚いて逃げる学生たち

●被害をもたらしたのは…衝撃波

小惑星の衝突現象を長年研究している東京大学の杉田精司(すぎた・せいじ)教授が、この映像を分析し、メカニズムを明らかにしています。

小惑星は大気圏に突入後、空気との摩擦で高温となり、高度20キロ前後で6000度に達した時に爆発。すさまじい閃光を発しました。各地で撮影された光は、この現象をとらえたものと考えられています。

閃光は見えているが衝撃波は届いていない
閃光は見えているが衝撃波は届いていない

その後の爆音と風圧は「衝撃波」によるものだと杉田さんは指摘します。

物体が高速で空気中を移動するとき、その周囲には高速の空気の波ができ、次第に後方に広がっていきます。この波が衝撃波です。

遅れて衝撃波が地上に届く
遅れて衝撃波が地上に届く

爆音を伴う衝撃は、破片が地上に衝突して起きたのではなく、衝撃波がもたらした現象だったのです。

「衝撃波のみで、かなりの被害が出た事実は今まで報告されたことはない。非常に驚きをもって受け止めている」(杉田さん)

東京大学大学院の杉田精司教授
東京大学大学院の杉田精司教授

この小惑星の大きさをコンピュータグラフィック(CG)で再現し、スタジオのセットに映し出してみると…5階建てのビルにも匹敵する巨大さでした。

番組出演者と小惑星の大きさを比較
番組出演者と小惑星の大きさを比較

小惑星のサイズがもっと大きい場合、何が起きるのか?

ロシアでは1908年、中央シベリアのツングースカで直径およそ60メートルの彗星(すいせい)が爆発した例があります。

東京都に匹敵する広い範囲にわたって、8000万本もの木々が衝撃波でなぎ倒されました。また、上空1キロの高さで爆発したため、数キロメートルの範囲が焼け野原になりました。人が住む地域ではなかったため、大きな人的被害は報告されませんでした。

1908年ツングースカ爆発でなぎ倒された樹木
1908年ツングースカ爆発でなぎ倒された樹木

衝突回避のカギは早期発見

そもそも「小惑星」とは太陽のまわりを回っている小さな天体で、特に火星と木星の間の“小惑星帯”には無数に存在しています。

無数に存在している小惑星
無数に存在している小惑星

その数は、現在発見されているだけでおよそ80万個。それぞれが独自の軌道で回っているので、常に接近したり衝突したりしています。

このうち地球に近づく軌道を持つ「地球接近小惑星」は数多く確認されており、毎年新たに発見されています。計算で軌道が確定されている地球接近小惑星は、今後100年ぐらいは地球に衝突するおそれはないことがわかっています。

太陽のまわりにある小惑星とその軌道をシミュレーション化した映像
太陽のまわりにある小惑星とその軌道をシミュレーション化した映像

ただ、見つかっていない小惑星は遥かに多くあります。また、小惑星だけでなく彗星も地球に衝突するおそれがあります。
こうした小惑星や彗星を早く発見し、軌道を計算することが重要です。
早期発見できれば、軌道計算で衝突時刻と衝突地点を求めることができ、かなり正確な被災範囲を事前に予測できます。

小惑星を連続観測することで軌道や衝突の予測が可能
小惑星を連続観測することで軌道や衝突の予測が可能

「とにかく早く見つけて、軌道を決めてあげることが地球防衛の一番の鍵」とJAXA宇宙科学研究所の矢野創さんは強調します。

JAXA宇宙科学研究所の矢野創さん
JAXA宇宙科学研究所の矢野創さん

●地球防衛の一翼を担うアマチュア天文家

2016年、アメリカのNASA(アメリカ航空宇宙局)に「地球防衛調整局」が設置されました。ここでは地球に近づく小惑星を発見、監視し、衝突の危険がある場合は警報を出すことを目指しています。

NASA 地球防衛調整局

中でも重要な役割が、危険な小惑星の早期発見です。現在、特に発見が急がれているのは、衝突すれば甚大な被害が予測される直径140メートル以上の小惑星です。

この大きさのものは地球の近くに2万8000個以上あるとみられています。危機回避の対策のためには、小惑星が遠くにあるうちに見つける必要があります。しかしその多くは、正確な軌道がわかっておらず、地球に近づいてようやく発見されるものもあります。

太陽のまわりにある小惑星(イメージ画像)
太陽のまわりにある小惑星(イメージ画像)

そこでNASA「地球防衛調整局」は、世界中の天文台と連携することでこうした小惑星の発見に力を入れています。

小惑星の専門家でアリゾナ大学・月惑星研究所のビシュヌ・レディ准教授は、より多くの目で監視することが必要だと指摘します。
「発見が早ければ、ハリケーンなどの災害と同様に人々を避難させる余裕ができます。しかしまだ全体の3分の1しか見つけられていません」(レディ准教授)

アリゾナ大学のビシュヌ・レディ准教授
アリゾナ大学のビシュヌ・レディ准教授

こうした中、地球防衛の一翼を担うのが世界中のアマチュア天文家です。

小惑星を観測するアメリカのアマチュア天文家
小惑星を観測するアメリカのアマチュア天文家

アマチュア天文家は、地球近くを通る彗星や小惑星を観測して撮影し、得られた明るさや位置データなどを大学などの研究機関に提供します。研究機関はそれをもとに、さらに正確な軌道や地球に近づくタイミングを計算します。

集められたデータを分析検討する研究者
集められたデータを分析検討する研究者

レディ准教授は、今後さらに多くのアマチュア天文家が小惑星監視に参加することに期待しています。

「高性能な望遠鏡が入手しやすくなっていますし、より多くの人が監視に参加すれば、今後20~25年の間に140メートル級小惑星の90パーセントを捉え、発見できるようになるでしょう」(レディ准教授)

この観測ネットワークには、日本のアマチュア天文家も参加しています。

小惑星の観測では、昔から日本のアマチュア天文家が活躍し、数多くの小惑星を発見してきました。沖縄・石垣島にある国立天文台の観測施設では、高校生が小惑星を観測する「美ら星(ちゅらぼし)研究探検隊」プロジェクトが2005年から行われていて、毎年のように新たな小惑星を発見しています。

高校生たちが見つけた小惑星
高校生たちが見つけた小惑星

「地球防衛会議」が地球を救う

地球に衝突する危険な小惑星を見つけたらどうするか。世界各国の研究者が集まり、対策を検討する場があります。その名は「地球防衛会議」。 JAXA宇宙科学研究所の矢野創さんも小惑星探査の専門家として参加しています。

地球防衛会議に集まった研究者たち
地球防衛会議に集まった研究者たち

2017年5月、東京の日本科学未来館で開かれた「地球防衛会議」には、NASAをはじめ各国の専門家およそ200人が集まり、小惑星の衝突から地球を守るための話し合いが行われました。

「小惑星衝突は現実の脅威です。甚大な被害につながるので、前もって準備しておく必要があります」(欧州宇宙機関の研究者)

この会議では、直径100~250メートルの架空の小惑星の接近を想定したシミュレーションが行われました。10年後に北大西洋から日本近海のどこかに落ちる可能性があると仮定して議論しました。

架空の小惑星接近を想定して議論
架空の小惑星接近を想定して議論

研究者たちは、いくつかのグループに分かれ、「小惑星の組成の分析」、「衝突したときの衝撃の予測」、「衝突回避の方法」など、さまざまな角度から対策を話し合います。

グループ討議のテーマ
グループ討議のテーマ

衝撃を予測するグループでは、1908年のツングースカ爆発など過去の小惑星衝突を参考に被害を推定しました。今回想定される小惑星の大きさはツングースカの2倍から4倍で、都市を丸ごと破壊する威力を持つと試算されました。

どのように衝突を回避できるかを検討するグループでは、さまざまなアイデアが出されました。

1.「衝突方式」=人工物を小惑星にぶつけることで、破壊したり軌道を変えたりする。

人工物を小惑星にぶつける衝突方式(イメージ画像)
人工物を小惑星にぶつける衝突方式(イメージ画像)

2.「けん引方式」=小惑星の近くに探査機を送り込み、小惑星との間に働く引力を利用して少しずつ小惑星を引っ張ることで地球と衝突する軌道からそらす。

探査機との間の引力で小惑星をそらす「けん引方式」(イメージ画像)
探査機との間の引力で小惑星をそらす「けん引方式」(イメージ画像)

3.「塗料方式」=小惑星に特殊な塗料を吹き付け、太陽熱の吸収率を変えることで軌道を変化させる。

小惑星に特殊塗料を吹き付け軌道を変化させる「塗料方式」(イメージ画像)
小惑星に特殊塗料を吹き付け軌道を変化させる「塗料方式」(イメージ画像)

こうした案それぞれのメリット・デメリットが検討された結果、今回の想定ケースでは小惑星の地球到達まで時間が限られていることから、「衝突方式」がベストとされました。

「衝突方式」は、すでにNASAによって実行に移されています。2021年11月、実験探査機「DART(ダート)」を乗せたロケットが打ち上げられました。

ターゲットは地球からおよそ1100万キロ離れた小惑星「ディモフォス」。直径はおよそ160メートルです。

重さおよそ500キロの探査機は、早ければ今年2022年9月末に到達。時速2万4000キロでディモフォスに衝突し、軌道が実際に変化するかどうかが確かめられる予定です。

DART(ダート)約500キロ 早ければ9月末に到達 時速2万4000キロでディモフォスに衝突


小惑星衝突が回避できないときは?

もし、小惑星の衝突が回避できないとわかったとき、どうするか?その対応方法について、地球防衛会議は3つの重要ポイントを提言しています。

①大量避難を想定して、あらかじめ計画を立てておく
②公共交通機関は避難のためだけに使う
③職場や教育現場で衝突に備えた教育を行う

数多くの人の避難に備えて日本国内の自治体でも対策が進められています。それが、7つの市と町が参加する交流組織「銀河連邦」です。

「銀河連邦」の構成国
「銀河連邦」の構成国

参加している市や町は、いずれもJAXAの研究施設がある自治体。さまざまな自然被災した際には、他の市や町が避難・物資の支援を行う「応援協定」を結んでいます。災害の中には “小惑星の衝突” も含まれています。

JAXAの研究施設がある自治体が銀河連邦に参加
JAXAの研究施設がある自治体が銀河連邦に参加

このように小惑星の衝突は、過去に地球上で起きた出来事であり、また未来に確実に起きる自然災害です。事前に観測・予測し、被害を減らそうという取り組みが世界中で始まっています。

一方で、小惑星は、その物質や構造を知ることで、地球・生物・人類の起源や進化に迫ることができる貴重な存在です。

「小惑星は将来、『宇宙の資源』として人類の新たな宝にもなる。そういった恵みの側面もぜひ忘れないでほしい」と、矢野さんは話しています。

矢野創さん(JAXA宇宙科学研究所)