この記事は、明日をまもるナビ「足元に潜む地盤災害 どう備える?」(2022年3月12日 NHK総合テレビ放送)の内容をもとに制作しています。
これだけは知っておきたい、液状化と道路陥没のメカニズム
▼強い揺れで地盤の砂粒の噛み合わせがゆるみ、泥水になり地表へあらわれる。
▼昔どのような土地だったか地図で照らし合わせて知ることで、液状化のリスクが分かる。
▼道路の亀裂・ひび割れ・へこみから道路陥没の兆候を知ることができる。
どこにでもある液状化のリスク
2011年の東日本大震災では、1都8県で液状化現象が発生し、住宅地に大きな被害を与えました。


液状化のメカニズムを、地盤災害の研究を長年続けている東京電機大学名誉教授の安田進さんに聞きました。
「ふだんは地中で砂粒同士がかみ合った状態の固い地盤が、地震の揺れによってかみ合わせがはずれます。すると砂の間にあった地下水の中に砂粒が漂って泥水となり、地表に現れます。重たいものは沈下し、軽いものは浮き上がります」


液状化の起こりやすい土地は、砂がゆるく堆積した地盤で、地下水位が浅いところと言われます。安田さんは「全国どこでも、液状化の危険度が高い地域がある」と指摘します。

自分の住んでいるところが液状化しやすいかどうかは、自治体が公表しているハザードマップで見ることができます。また、昔どのような土地だったか地図で照らし合わせて知ることで、液状化のリスクも分かります。
実際に茨城県潮来市では、東日本大震災でかつて湖だった住宅地に大きな被害が発生。その後、地区全体で液状化対策が進められました。液状化は地盤の改良や構造物の強化によって防ぐことが可能になっています。また、自治体やハウスメーカーに相談すると対策を教えてもらえます。

避難を妨げる液状化 対策に乗り出した自治体
東日本大震災で津波による大きな被害を受けた宮城県亘理町(わたりちょう)荒浜地区。ここでは、液状化が避難を妨げていたことが明らかになりました。
この地区で被災した齋藤邦男さんは、地震直後の貴重な映像を撮影していました。
車で避難しようとした齋藤さんが目にしたのは、地面の大きな亀裂。そして水や泥でぬかるんだ道路でした。
「腐ったような油の臭いが地下から湧き上がったような感じ。何か地下水が何か破裂したような」(齋藤さん)

板でタイヤが通る道を作り、脱出を図った齋藤さん。ふだんなら10分もかからない小学校に避難できたのは、地震から45分後。その直後、地区は津波に襲われ、齋藤さんは間一髪で助かりました。
●液状化対策に乗り出した高知県の取り組み
こうした液状化のリスクに、全国に先駆けて対策に乗り出したのが高知県です。近い将来必ず起こるとされる南海トラフ巨大地震では、早いところで地震からわずか10分程度で津波が押し寄せると想定されています。
高知県は避難タワーや避難ビルなど、さまざまな津波避難対策をしてきました。しかし今、液状化が迅速な避難の妨げになるのではないかと懸念しています。
9年前に県が作成した液状化予測マップでは、人口が密集している沿岸や河川沿いを中心に液状化のリスクが高いとされています。76年前に起きた昭和南海地震でも液状化の痕跡がありました。

リスクが高い地域の一つ、中土佐町・上ノ加江地区では、液状化により避難がどの程度遅れる可能性があるのか、実験が行われました。地震発生直後の液状化した道路を再現した装置を用意して、10メートルの長さをさまざまな世代の人に歩いてもらい、かかる時間を計測。さらには要支援者の搬送を念頭に、リヤカーを引いたり車いすを押したりして、その違いも確認しました。

実験の結果、舗装道路を歩いた時間に比べて、遅いケースでおよそ1.6倍程度、時間がかかることが分かりました。車いすの参加者は進むことが困難で、計測自体ができませんでした。

実験をとりまとめた、高知大学理工学部教授の原忠(はら・ただし)さんはこの結果を深刻に受け止めています。
「高台に避難するまでの時間がわずかしかない状況で、(速さが)6割、7割に低減すると、それだけ大きなリスクになる」
実際には、パニック状態の中での移動や疲れの影響などで、この想定よりもさらに条件が悪くなると原さんは指摘します。
高知県ではこの実験結果を踏まえて、液状化対策の手引き書を作成。今後、津波避難計画の見直しも視野に入れて、対策を検討していきます。
【参考】
高知県 危機管理部 南海トラフ地震対策課
「避難路の液状化対策検討のための手引き」(2021年3月公開)
https://www.pref.kochi.lg.jp/soshiki/010201/files/2021041300261/tebiki.pdf
※NHKサイトを離れます
下水管の老朽化が道路陥没の原因に
6年前、福岡県・博多駅近くで大陥没事故が発生しました。去年11月には東京・武蔵野市でも発生。今、さまざまな原因による道路の陥没事故が相次いでいます。小さな規模も含めると、年間およそ9000件にものぼっています。

中でも今後急増すると懸念されるのが、都市の地下に張り巡らされている下水管が原因の陥没です。老朽化した下水管に亀裂が生じ、陥没を引き起こすリスクが高まっているのです。

陥没のメカニズムを実験で検証してみました。雨水を含む土の下にある下水管にわずかな亀裂があると仮定して下の栓を抜きます。すると、その亀裂に砂が雨水と一緒に吸い込まれ、小さな空洞が生まれます。空洞は時間とともに大きく成長し、ある日突然崩れ落ちるのです。


地盤工学が専門の東京大学生産技術研究所教授・桑野玲子(くわの・れいこ)さんは、警鐘を鳴らしています。
「陥没の難しいところは、空洞が成長していっても、陥没の直前になるまで地表から兆候が表れないこと。人間に例えると成人病の状態。あちらこちらに老化現象が表れて危険が迫っている」
下水管の耐用年数は50年。それを超える下水管が増えるにつれ、陥没も増加すると懸念されています。

ある大手地質調査会社では、「空洞探査車」と呼ばれる車両を使い、陥没の原因となる空洞を事前に見つける調査を行っています。地中レーダーから電磁波を発信して地中のデータを取り、深さ2メートルまでにある空洞を見つけます。いま、道路を管理する全国の自治体からの需要が高まっています。

収集したデータはAIで解析して、陥没の危険性の高い空洞を見つけていきます。
解析された道路の断面から、地中に何かがあるサインとして波形のゆがみが現れます。そこから空洞の存在や大きさを発見します。

この会社では、最新の解析技術によっておよそ20メートル下の深い地盤も3Dで可視化できるようになっていて、さまざまな地盤災害のリスクを見つけています。
このような機械を使わなくても、道路の「亀裂・ひび割れ・へこみ」から陥没の兆候を知ることもできます。インターネットの地図サイトから昔の道路の写真を見て、比べると異変が分かります。もし街を歩いていて、以前と違うような状態を見つけたら、市区町村の窓口にすぐに相談・報告してください。

「地盤災害」(前編)はこちら≫
揺れを増大する軟弱地盤はどこに? 足元に潜む地盤災害(1)
