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揺れを増大する軟弱地盤はどこに? 足元に潜む地盤災害(1)

最大震度7を観測し、8600棟以上が全壊した2016年の熊本地震。被害が拡大した原因の一つが、揺れをより大きくする「軟弱な地盤」でした。膨大な計測データを集めた研究が進んだことで、これまで安全とされてきた場所にも、危険な地盤が潜んでいることが分かってきました。どうすれば地盤災害から身を守れるのか、2回に分けてお伝えします。前編では“軟弱地盤”に迫ります。

この記事は、明日をまもるナビ「足元に潜む地盤災害 どう備える?」(2022年3月12日 NHK総合テレビ放送)の内容をもとに制作しています。

これだけは知っておきたい、軟弱地盤のリスクと対策
▼最新調査で軟弱地盤は細かく複雑に分布していることが分かってきた。
▼「揺れやすさ」がわかる最新地図でリスクを確かめておく。
▼持ち家の耐震改修には自治体の助成制度がある場合もある。


そもそも地盤とは何か?

「地盤」とはおもに“砂と粘土”からなる層(地層)です。「岩盤」という固い岩の層の上に、「地盤」が重なっています。粘土は軟らかく、砂はしっかりしているため、地盤の違いによって発生する被害が違ってきます。

固い岩盤の上に重なる「地盤」
固い岩盤の上に重なる「地盤」

地盤によって地形を大まかに分けてみると、丘陵・台地は固く、揺れにくいとされています。ただしそこを削った谷の下流では軟らかい粘土が堆積しているため、揺れやすくなっています。低湿地のある平野部も同様です。地盤は細かく見ていくとさらに複雑になっていて、長い年月をかけて変化します。

地盤の分布の概念図
地盤の分布の概念図

地盤災害の中には、崖崩れ、地滑り、土石流、斜面崩壊、地盤沈下、地震の揺れ、液状化、陥没などさまざまものがあります。
この中でも、特に私たちの住んでいる場所で身近に懸念されるのが、「揺れの増大」「液状化」「道路陥没」の3つの災害です。

3つの地盤災害
3つの地盤災害

揺れやすい地盤のリスク

地震波は軟らかい地盤で増幅し、被害を拡大させます。この揺れが大きくなりやすい場所が「想定を超えて数多く存在する」ことが、最近の調査によって分かってきました。

地盤のリスクが大きく注目されるようになったのは、6年前に最大震度7を観測した熊本地震です。
現地で調査した防災科学技術研究所・主幹研究員の先名重樹(せんな・しげき)さんは、それまでの揺れの想定と実際の被害の違いに注目しました。

地形やボーリング調査などを元に地盤の揺れやすさを想定した「揺れやすさマップ」では、赤い色が濃いほど、揺れが強まりやすい場所だとされていました。
ところが、実際の家屋の被害状況を重ねると、赤いエリアで被害がなかったり、逆に揺れがあまり強まらないはずのエリアで多くの家屋が倒壊したりなど、これまでの想定では説明がつかない結果になっていたのです。

揺れが強まらないはずのエリアでも多くの家屋が倒壊
揺れが強まらないはずのエリアでも多くの家屋が倒壊

想定との矛盾に加え、先名さんがもう一つ注目したのが、極めて近い場所でも家屋の被害に大きく差が出ていた点です。

極めて近い場所でも家屋被害に大きな差
極めて近い場所でも家屋被害に大きな差

地盤をゼリーに例えると、同じ振動を与えた場合、固いゼリーでは小さく揺れるだけですが、軟らかいゼリーではより揺れが大きくなります。

ゼリーでの実験例 同じ振動でも固さによって揺れに差が出る
ゼリーでの実験例 同じ振動でも固さによって揺れに差が出る

同じように、軟弱な地盤では揺れが増幅され、被害を大きくします。

軟弱地盤の分布によって被害に違い

この軟弱地盤がこれまでの想定以上に細かく複雑に分布しているため、同じ地区でも被害に差が出たと先名さんは考えています。

防災科学技術研究所の先名重樹主幹研究員
防災科学技術研究所の先名重樹主幹研究員

軟弱地盤の分布を解き明かす

こうした軟弱地盤の分布を、より詳細に解き明かすプロジェクトが進められています。
使用したのはわずかな揺れも捉える高性能の地震計。地面を掘らなくても、捉えた振動を分析すれば、軟らかい地盤がどこにあるのか分かります。

わずかな揺れも捉える高性能の地震計
わずかな揺れも捉える高性能の地震計

最初の調査対象は、首都直下地震で大きな被害が想定される関東地方です。地盤データの収集は、1キロ間隔で関東平野全域およそ1万4000か所で行われました。さらに、ビルや道路などを建設する際に行われたボーリング調査のデータをおよそ30万か所で収集し、分析しました。

こうして作られた新たな地盤のデータからは、局所的に揺れが強まりやすい場所が関東地方でも数多くあることが明らかになってきました。
地図は250メートル四方で色分けされ、色が濃くなるほど軟弱で、揺れが強まりやすいエリアだとされています。

住宅や学校が密集する東京・目黒区の池尻大橋駅周辺では、わずか一駅離れるだけで、固い地盤の緑色から、軟らかい地盤の赤色に変わっています。

東京・池尻大橋駅から三軒茶屋駅付近の地盤
東京・池尻大橋駅から三軒茶屋駅付近の地盤

一方、海と山に囲まれた神奈川県南西部の二宮町(にのみやまち)では、青色の固く揺れにくい地盤の中、局所的に赤色のエリアが見られます。新たな調査は「山の近くは地盤が固く、低地や川沿いは地盤が軟らかい」という常識をくつがえすものになりました。

神奈川県二宮町の地盤の分布
神奈川県二宮町の地盤の分布

横浜市の中心部にほど近い神奈川区の台地は、これまで比較的地盤が固いとされてきました。ところが、台地の表層に軟らかく揺れやすい層が部分的に10メートルほど堆積していることが今回の解析で分かりました。

台地の表層に見つかった軟らかい地層
台地の表層に見つかった軟らかい地層

一方、保土ケ谷区の川沿いの住宅街では、揺れがあまり強まらない調査結果に。もともとあった軟らかい粘土層が下流に運ばれたためだと、調査を行った神奈川大学工学部教授の荏本孝久さんは分析しています。

川沿いなのに揺れが強まらない調査結果
川沿いなのに揺れが強まらない調査結果

東京・台東区の浅草周辺を見てみると、2019年の想定と最新の2021年では、揺れやすさの分布がより細かく分かるようになっています。こうして、新たなデータは地盤の分布をより詳細に知る必要性をつきつけました。自分が暮らしている場所はどうなのか?地図を調べてみることをお勧めします。

より細かく分布が分かるようになった新マップの表示
より細かく分布が分かるようになった新マップの表示

【参考】全国の「揺れやすさ」が分かるマップ
防災科学技術研究所「全国地震動予測地図」
https://www.j-shis.bosai.go.jp/map/
※NHKサイトを離れます

全国地震動予測地図の画面
全国地震動予測地図の画面

揺れやすい地域で大きな被害を防ぐためには、「家の耐震改修」「家具の固定」「安全な避難経路を実際に歩いて確かめておく」などの対策があります。持ち家の耐震改修には自治体の助成制度がある場合もあるので、利用方法を調べてみましょう。

大きな被害を防ぐ対策・耐震改修工事・家具の固定・避難経路を知る

【参考】
家庭での揺れ対策
大地震の揺れから命をまもる 家庭でできる8つの防災対策(明日をまもるナビ)
https://www.nhk.or.jp/ashitanavi/article/1762.html

「地盤災害」(後編)に続く≫
液状化と道路陥没はなぜ起こる? 足元に潜む地盤災害に備える(2)