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水害から命を守る「声かけ」を見つける ベスト避難チャレンジ

気候変動により、豪雨や台風が激甚化しています。必要なのは「早めの避難」。危険が差し迫る前に、最適な避難先に移動することが必要です。「早めの避難を呼びかける」ために、NHKが2020年から取り組んでいるのが「ベスト避難チャレンジ」。水害から大切な人の命をまもるため、あなたならではの声かけを一緒に考えてみましょう。

この記事は、明日をまもるナビ「あなたにとってのベスト避難とは?」(2022年3月6日 NHK総合テレビ放送)の内容をもとに制作しています。

これだけは知っておきたい、避難を促す声かけの方法
▼避難したきっかけの約3割が周りの人からのひと言。
▼「間接的に、それでいて強力に誘導する」声かけが効果的。
▼その人にどんな声かけのアプローチが一番効くかは、地域や人によって違う。


「ベスト避難チャレンジ」とは?

分かっていても難しい「早めの避難」はどうやって実現できるのでしょうか?NHKが2年間取り組んできたのが「#ベスト避難チャレンジ」です。

人気の動画クリエイター集団フィッシャーズが登場する4コマ動画を用意。そのうちの3コマ目に、避難をためらっている人に行動を促す「ひと言」を考えて投稿してもらいました。

「水害から命を守る」キャンペーン #ベスト避難チャレンジ 動画クリエイター フィッシャーズ

避難行動を促すには、周囲からの声かけが重要です。2018年7月の西日本豪雨で避難した方を対象にしたアンケートでは「人からの声かけ・近隣住民の避難」が、避難したきっかけのおよそ3割を占めました。

最初に避難するきっかけを尋ねたアンケート
最初に避難するきっかけを尋ねたアンケート

防災心理に詳しい京都大学防災研究所教授の矢守克也さんは、こう分析しています。
「避難の指示や大雨情報が大事と思われがちですが、意外にも、周りの人からのひと言がやはり避難行動には大事だと分かります」

京都大学防災研究所教授の矢守克也さん
京都大学防災研究所教授の矢守克也さん

なかなか逃げようとしない頑固な人や、若い人にも響くような“マイ・ベスト声かけ”とは何か?いくつかのケースから考えてみましょう。


被災地で考える それぞれのベスト避難

愛媛県西予市(せいよし)野村町で暮らしている清家(せいけ)さん一家。
一家のうち、中学生の翔徳(しょうとく)くんを始め、なんと4人が防災士の資格を取得しています。防災士とは、地域の防災力を高めるために、防災に関する知識を学んでそれを広めていく役割をもつ資格です。きっかけは、ある水害の経験だといいます。

一家で4人が防災士の清家さん家族
一家で4人が防災士の清家さん家族

4年前の西日本豪雨で、この地域では肱川(ひじかわ)が氾濫。住民5人が犠牲になるなど大きな被害が出ました。
肱川の水位が上がり、地域にも避難勧告が出された中、役所にいた父・卓(すぐる)さんからの電話で、家族は避難所に避難しました。ところが祖父の芳徳(よしのり)さんは「俺は家を守る」と言って、ひとりで家に残りました。
ほどなくして、肱川は急激に水位が上昇して氾濫。芳徳さんの携帯電話は水没し、家族と連絡がとれない状況になってしまいました。その後、芳徳さんは自宅に隣接する車庫の2階へ避難。その直後、1階部分が濁流に飲み込まれました。まさに危機一髪でした。

九死に一生を得たという芳徳さんは、こう振り返ります。
「『自分の家を守る』という感覚でいたが、自分の身の安全は自分で守らなくちゃならないという状況で、家に残ったことは反省しております」

危うく難を逃れた祖父の芳徳さん
危うく難を逃れた祖父の芳徳さん

これをきっかけに、清家さん一家は「誰かひとりが」ではなく、「ひとりひとりが」防災意識を持つ大切さに気づいたそうです。

水害後、被害にあった地域全体で防災意識は高まっています。
この日、清家さん一家を中心にご近所の皆さんに集まってもらい、「ベスト避難チャレンジ」に取り組んでもらいました。

近所の人たちと一緒にセリフを考える
近所の人たちと一緒にセリフを考える

高齢者の多い野村町では、より迅速な避難が必要です。このチャレンジでは「孫がおばあちゃんに避難を促す」という場面が設定されました。

ベスト避難チャレンジ「祖母と孫 編」
ベスト避難チャレンジ「祖母と孫 編」

皆さんが考えた声かけの言葉は以下の5つでした。

皆さんが考えた5つのセリフ

この中から、参加者全員で一つに絞った「ベストワン」に選ばれたのはこちら。

「おばあちゃん!ここで逃げなきゃいつ逃げるの!死んだらダメだよ!」

「一生懸命さ、緊迫感が決め手だった」と清家さん一家。
矢守さんも
「避難しない人の多くは『まだ大丈夫』と言われます。その意味で『今でしょ』『ここでしょ』というアプローチが良いと思います」と、選ばれたポイントを説明しました。


大人の心を動かしたい 小学生が考える “ベスト避難”

この「ベスト避難チャレンジ」は、ホームページからの投稿だけではなく、各地で行われている防災イベントや小中学校の防災授業でも使われています。専門家の監修の下、NHKのスタッフが水害避難のガイダンスを行います。
東京都の足立区立長門小学校では、NHKの小西政親アナウンサーが出前授業を行いました。

授業をする小西政親アナウンサー
授業をする小西政親アナウンサー

隣接する葛飾区との間を流れる中川から、およそ100メートルの場所にある長門小学校。過去には洪水の被害にも遭ったことがある地域で、3年前の台風19号では、特別警報が出されるなど住民およそ380人が小学校へと避難しました。
こうした経験から、学校では月に一度、水害などを想定した避難訓練を実施。さらに、地域住民とも合同で訓練を行なうなど日ごろから防災教育に力を入れてきました。

今回は5年生37人に、新たな防災学習として「ベスト避難チャレンジ」に取り組んでもらいました。

体育館に集まった5年生たち
体育館に集まった5年生たち

この授業で、子どもたちへのサプライズが。それは4コマ動画を演じているフィッシャーズの3人が授業の中で突然モニター内に登場し、授業に参加するというもの。

小西アナが4コマ動画の説明を終えると…
「ステキなゲストがいるんです!この方々!」
「どうも、フィッシャーズで~す!」
「えっ?」「マジで!?」
子どもたちはもう大興奮!

いきなりの登場にみんなびっくり
いきなりの登場にみんなびっくり

さっそく5つのグループに分かれて、3コマ目を埋めるセリフを考えます。

1.父ちゃん 裏の川がだいぶ増水してきたよ 2.いまはコロナもあるし動かない方がいいんだよ 3コマ目は空欄 4.すぐ避難しよう!

「フィッシャーズに会えたので、やっぱり笑ってもらいたい」
セリフづくりは大いに盛り上がりました。

ディスカッション・タイム
ディスカッション・タイム

フィッシャーズが見守る中、迫真の演技をつけながらセリフを発表。

「もっとお父さんと、遊びたいよお~~」
「このマンション、もう誰もいないよ…さよならお父さん」
「コロナと命どっちが大事?命でしょ?!私がどうなってもいいのか!」
「じゃあ、オレだけ避難するよ」
「1分1秒でも寿命を延ばしたいなら、今すぐ避難しようよ!」

このマンションもう誰もいないよ さよならお父さん

お父さーん!

フィッシャーズの3人は、ひとつひとつの発表に爆笑したりうなずいたり、ときにはツッコミをいれながら熱心に聞き入っていました。子どもたちも満足した様子で、とても充実した授業になりました。


逃げたくなる“声かけ” その極意とは?

避難したくなる声かけのポイント、それは「間接的に、それでいて強力に誘導する」ことだと矢守さんは考えています。

間接的に それでいて強力に誘導する

「まだ大丈夫」と思っている人に早めの避難を促す場合、「逃げないと命が助からないから逃げよう」といった直接的な言葉ではなかなか避難してくれないかもしれません。そんな時、“間接的に、それでいて強力に誘導する” 言葉、例えるなら“直球ではなく変化球”のような言葉が効果的なのです。

相手の心理に訴えかける声掛けを、矢守さんは5つに分類します。

相手の心理に訴えかける誘導の声掛け 5つの分類
相手の心理に訴えかける誘導の声掛け 5つの分類

この5つの分類パターンをもとに、ベスト避難チャレンジのホームページに投稿された作品の中から「ひねりの効いた声かけ」を、矢守さんに選んでいただきました。

ベスト避難チャレンジ「親子編」
ベスト避難チャレンジ「親子編」

①あなたが損するんだよ

「でもおばあちゃんがひどい目に遭ったらおじいちゃんも悲しむよ」

直接的に「おばあちゃんが危ない」と訴えるのではなく、「ひどい目に遭ったら、おじいちゃんが悲しむ」と言うことで、「逃げる」「命が助かる」といった言葉を用いずに相手の心理に訴えかけています。しかも、私が悲しいではなくて、“おじいちゃんも” 悲しい、ここがポイントです。

②あなたが得するんだよ

「避難所で初恋の人に会えるかもよ?」

“避難所に早く逃げた人の順にいい場所がもらえるらしい”とか、“物がもらえる”など「得する情報」のような言葉もひとつの方法です。

③いいこと(役立つこと)しようよ

「近所のママさん達が『行動力があって素敵ね!』って褒めてたよ」

ふだんから人との結びつきが強く、コミュニケーションがとれている地域では、このような声掛けが効果的。「あなたが避難をすると人の命を救うことになる」といったニュアンスになります。

④それじゃ、他の人に迷惑をかけるよ

「僕は遺体安置所で父ちゃんのこと見たくないよ。死にたいの?」

この趣旨は、「あなたが逃げないことで、あなた以外の人を危険に巻き込むよ(迷惑かけるよ)」ということ。「ご近所の手前とか、周囲からの視線」に訴えかける方法です。

⑤話題を変えちゃう

「仏壇は水に浮くけどおばあちゃん泳げたっけ?」

冗談やユーモアを交えるなど、話題を変えるアプローチは、アメリカでの調査で効果があったという報告もあります。

大事なポイントは、その人にどんなアプローチが一番効くかは、地域や人によって違うということです。
「このアイデアをうまく利用しながら、自分が避難してほしい大切に思っている人のパーソナリティを想定して考えるのが、一番のポイントだと思います」(矢守さん)