この記事は、明日をまもるナビ「ここまで来た!災害ボランティア」(2022年1月23日 NHK総合テレビ放送)の内容をもとに制作しています。
これだけは知っておきたい、災害ボランティアの活動
▼力仕事から被災者の心のケアまで、災害ボランティアの仕事は広がっている。
▼特殊な技能を武器に活躍する災害支援のエキスパート集団が生まれている。
▼寄付や募金で「支援する側を支援する」ことで被災地を支援できる。
「災害ボランティア」ってなに?
一口に災害ボランティアと言っても、その活動はさまざまです。

災害後の初期は、がれき撤去や分別、水害に遭った家屋からの泥だしなどの力仕事。また自治体が開設するボランティアセンターでの受付や調査などもボランティアに委ねられます。
その後は、仮設住宅などへの引っ越しの手伝いや、避難所などでの炊き出しが始まります。またイベントやサロン活動など地域住民の交流の場づくりも、ボランティアによって行われます。

全国の被災地で活動する災害ボランティア団体「災害NGO結」の代表を務めている前原土武(まえはら・とむ)さんは、「泥をすくうだけでなく、被災した人々の心を少しでも救いたい」と、活動に込めた意味を語っています。

被災者の心に寄り添うボランティア活動は、さらに広がりを見せています。いくつか例を見てみましょう。
●ドローンで思い出映像づくり
空から見ることで、改めてふるさとの魅力を感じてもらい、被災者の皆さんを元気づけようという活動です。東日本大震災で被災した福島県の仮設住宅で記念撮影するなど、復興に向けて変わりゆく町の風景を記録しました。

●歴史資料の保全
津波や水害などで被害に遭った歴史資料の保全活動も全国各地で行われています。貴重な資料を後世に残すため、専門知識を持ったボランティアが駆け付けます。こうした地元の大切な財産を守ることが、被災者の心のよりどころにもなります。

●ご当地ヒーローで防災教育
仙台市では東日本大震災の後に「破牙神(ばきしん)ライザー龍」というご当地ヒーローが誕生しました。宮城・福島・岩手3県の幼稚園や児童施設などを回って、防災教育を行っています。ヒーローが来てくれたと、子どもたちも大喜び。防災意識の向上にも一役買っているということです。

●スポーツ選手も復興支援NPOを設立
番組ゲストの元プロサッカー選手の巻誠一郎(まき・せいいちろう)さんも被災地支援の最前線に立つひとりです。出身地の熊本のサッカーチーム「ロアッソ熊本」在籍中の2016年に熊本地震が発生。復興支援のためのNPO法人「ユアアクション」を立ち上げ、物資の支援やサッカーを通じて子どもたちの問題解決能力を養うプログラムなどを実施しています。

災害支援のエキスパート集団が誕生
●役割ごとにエキスパートがいる
日本各地で災害が相次ぐ中、経験を積んだボランティアの中から、災害支援を専門にする“エキスパート”と呼ばれる集団・団体が出てきました。

一般の災害ボランティアは、土日など休日を利用して泥かきやごみの搬出などを手伝うもので、被災地の災害ボランティアセンターに登録すれば、特別な知識はなくても参加できます。
一方、エキスパートは被災地に長期滞在して、さまざまな専門ノウハウや能力を持って活動する人たちです。災害支援の専門家や、ふだん土木や大工をやっている人が仕事を休んで、被災地に入って活動します。そういった専門家を状況に応じて調整するのもエキスパートの仕事です。
エキスパート集団・団体は助成金や支援金を募集するなど、自分たちで集めた活動資金を使って活動しています。
「災害NGO結」代表である前原さんは、かつて旅行会社の添乗員をしていました。
『仕事で身につけた“多くの人を動かす調整力”で、多くのボランティアを生かせばもっと多くの人を救える。そのサポートをする側の人間になっていこう』と、支援団体を立ち上げて活動することにしたそうです。

●高い技能を持つエキスパート
2021年8月、佐賀県を襲った記録的な豪雨。嬉野市(うれしのし)では数多くの土砂崩れが発生し、大きな被害が出ました。
現地に駆けつけた前原さんが訪ねたのは、お茶農家の山口さんのお宅。目の前の道路と自宅を結ぶ私有地の坂道が大雨で崩れ、使えなくなっていました。
ここで前原さんたちが提案したのは、重機を使って別の場所に新しい坂道を作ってしまおうという大胆なアイデアでした。

担当するのは、道路の舗装技術を持つ仲間です。畑の土を利用して重機で道の土台を造り、砂利を敷きつめます。地面をプレスしながら水をかけて土台を固め、数年間は使える仮設の道が開通しました。作業開始から6時間。ボランティアによる作業のため、費用の支払いはありません。
●調整役としてのエキスパート
2019年の台風19号で大きな被害を受けた長野市では、エキスパート集団が持つ「高い調整機能」が発揮されました。

現場で問題となっていたのは、被災地にあふれた土砂や廃棄物の処理でした。解決策として考え出されたのは、住民が住宅地の廃棄物を近くの公園などに集め、ボランティアが広い仮置き場に搬送し、そこから先は自衛隊が運び出すというものでした。

この一連の作業の調整役を務めたのが、前原さんでした。
「支援は“出たとこ勝負”ではなくて、デザインして組み立てていかないといけない」(前原さん)
この時、前原さんは廃棄物の山を見つけるたびにスマートフォンで撮影し、廃棄物の搬出を担う行政や自衛隊などと共有。そして集めた情報を元に廃棄物の運搬ルートを作成し、自衛隊などと連携して地域の外に運び出す計画を立てたのです。こうした調整の結果、これまでにない早いペースで作業は終わりました。

この取り組みは『ワン・ナガノ』と名付けられ、その後、長野県が基金を創設。NPOなどに助成金を出し、資金面でもサポートしています。実は、前原さんたちの支援団体と長野県は、以前から積極的に関係を構築し、県の災害対策本部のメンバーとして『ワン・ナガノ』の取り組みを支えました。

困難克服のカギは“連携”にあり
被災地では、支援物資をいかに公平かつ効果的に配布するかが、しばしば問題になります。
これをスムーズに解決する上で大切なのが、行政(市役所・役場)・社会福祉協議会(社協)・災害ボランティアの三者の連携です。
2021年、豪雨被害にあった佐賀県大町町(おおまちちょう)では、まず社会福祉協議会と災害ボランティア団体が協力して、被災世帯の「全戸調査」を行いました。世帯の経済状態や再建計画、家族の状況などを聞き取って、それぞれの状況を確認した上で必要な世帯に物資を配布しました。
三者が連携して情報を共有することで、きめ細やかな支援が可能になりました。

行政には住民全員を公平・平等に配慮する使命があるので、被災者だけに集中した対応はできません。そこで、支援に特化したスキルを持つ民間ボランティア団体が被災者を深くケアし、その情報を行政に届ける役割を担います。
復興は地元住民で
●困ったときに助け合う関係性を地域に
佐賀県武雄市(たけおし)は、2019年と2021年、2度の大水害に見舞われました。

2019年の水害の直後に設立された『おもやいボランティアセンター』代表の鈴木隆太(りゅうた)さんは、災害に強い町づくりを進めるためには、地元の住民力が欠かせないと考えています。

「“おもやい”とは、『共有する、一緒にする』という意味。自分が困った時に助けてもらえる関係性を地域の中で残しておきたい」(鈴木さん)
鈴木さんたちが目指しているのは、「被災した住民同士が互いに助け合う」取り組みです。その一つが、2021年の水害で8割以上の世帯が浸水被害に遭った久津具(くつく)地区で行った弁当作りのボランティア活動です。鈴木さんたちと地元のNPO団体が協力して企画しました。

弁当を作るのは、自らも被災した地区の住民たち。60食分の弁当を作り、一人暮らしの高齢者や、被災して台所がまだ使えない人などに届けました。弁当を届ける際、直接顔を見て配ることで安否確認にもなり、体調の変化などにも気づくことができたといいます。

鈴木さんたちは、“一緒に歩む”おもやい精神で、2度の被災を乗り越えようとしています。
コロナ禍で立ち上がった地元の若者たち
●「支援を支援する」新たな取り組み
今、被災地でのボランティア活動で問題となっているのが “コロナ禍”です。そんな中、新たなボランティアの形が生まれています。
2020年7月に九州各地を襲った前例のない集中豪雨。球磨川流域をはじめ、大きな被害が出ました。
浸水した家屋の復旧に多くの人手が必要でしたが、新型コロナの影響で県外からのボランティアは制限されました。

そんな中、被災直後から活躍したのが地元の高校生でした。九州各地で災害支援を行っている八代市の秀岳館高校では、今回の豪雨災害で延べ6600人余りの生徒がボランティア活動に参加。球磨川沿いの浸水した家屋から土砂をかきだし、家財道具や食器を探す作業を行いました。

このような活動に対して、クラウド・ファンディングを使って県外から支援する取り組みも始まっています。
神戸に事務局を置く団体がクラウド・ファンディングで寄付を募ったところ、およそ2か月で目標の500万円を上回る680万円余りが集まりました。支援金は秀岳館高校など、10の団体に届けられ、長靴代や活動現場までの交通費に充てられています。

「心のこもったお金が被災地の若者に届く。届いたお金で若者は気持ちを被災者に届ける。心のこもった支援のシステムだと思う」(呼びかけた兵庫県立大学教授の室崎益輝さん)
災害ボランティアに参加するには?
●「支援金」という仕組みで支援する
コロナ禍でなくても、誰もが被災地に行けるわけではありません。被災地に行かなくても支援できる方法があります。それは「支援する側を支援する」こと。
「義援金」は募金団体から被災自治体を通じて被災者へ届けられるものですが、「支援金」として、現地で支援活動をしている団体などへ直接資金を提供することもできます。使用目的や活動内容を明示してネット上で資金を募る「クラウド・ファンディング」はそのひとつです。
また、災害復旧が落ち着いた頃に、観光で現地に行って宿泊する、現地の名物を食べる、お土産を買うなどで応援する方法もあります。
「まずは気にかけること。被災地に対してちょっと気持ちを寄せることが、支援のスタートだと思います」(前原さん)
●初めての人はボランティアセンターへ
被災地に行ってボランティア活動をしたい場合はどうすればいいのでしょうか?
初めて行く場合は、現地のボランティアセンターに行くのが安心です。特に、土砂撤去や災害廃棄物の処理など、人手を必要としている作業現場に行きたい人におすすめです。
募集内容や応募方法は、被災自治体の社会福祉協議会が開設する災害ボランティアセンターのホームページで確認しましょう。

被災地で求められる支援は力仕事ばかりではありません。作業スタッフのために料理を作ったり、パソコンを使って名簿作成作業や情報発信の後方支援をしたりなど、いろいろな知識や得意なことを生かせる場面がたくさんあります。

自分の専門性を生かしたい人は、そのジャンルに特化した災害NPOをネットで検索して、問い合わせをしてみてはいかがでしょうか。