この記事は、明日をまもるナビ「ペット共生社会 災害にどう備える?」(2021年12月19日 NHK総合テレビ放送)の内容をもとに制作しています。
これだけは知っておきたい、ペットの防災のために準備すること
▼環境省がガイドラインを策定し、人とペットが一緒に避難することを推奨
▼ペットの行動範囲をチェックし、室内で家具が倒れる・電気製品が落下するのを防ぐ
▼「呼び戻し」と「ハウス」のしつけがいざという時にペットの命を守る
ペットの避難対策は飼い主の命にもかかわる
2011年の東日本大震災では、犬だけでも3000匹以上が津波などの犠牲に。福島では、置き去りにされて野生化したペットが問題になりました。2016年の熊本地震でも、ペットがいるために多くの人が避難所に入らず、車中泊を余儀なくされました。
数々の被災地を調査し、ペットと防災について詳しいNPO法人 ANICE(アナイス)代表の平井潤子(ひらい・じゅんこ)さんが災害現場を回って感じたのは、
- ペットのために避難をためらっている飼い主が多い
- 飼い主がペットのために危険な場所へ戻っている
「ペットの避難対策は飼い主の命や安全にもかかわっている。地域の問題として考えていかなければいけないことだと思っています」(平井さん)

環境省はガイドラインを策定し、人とペットが一緒に避難することを推奨しています。ただし、最寄りの避難所がペットを受け入れてくれるか、事前に確認しておくことが必要です。
【参考】
環境省「人とペットの災害対策ガイドライン(PDF)」
※NHKサイトを離れます
避難所は人の場所とペットの場所をはっきりと分けることが基本になっています。ペットを飼っていない人からのさまざまな苦情の心配もあり、住み分けが必要です。場所によってはペットの受け入れが難しい避難所があるのも事実です。

そのため、ペットの飼い主は、ふだんから避難所以外の避難先を複数想定しておくことが大切です。
- 被災地から離れた親族
- ペットホテル
- 動物病院
- ペット仲間など
家族とペットの同居型の避難所はまだ数は少ないものの、福島県福島市、岡山県総社市、福岡県久留米市が開設しています。
災害時に役立つペットの「しつけ」と「備え」
ふだんからのペットのしつけと備えは、どのようにしたらよいのでしょうか。
防災のスペシャリストで犬の訓練士の資格を持つ梶山永江(かじやまひさえ)さんに教えてもらいました。梶山さんは、故郷の宮古市が東日本大震災で被災したことをきっかけにペットの防災活動を始め、いまでは岩手県全域で防災教室を開いています。

●日頃からの「備え」のポイントは?
岩手県滝沢市にお住まいのご夫婦の家にうかがい、愛犬の防災対策をチェックしてもらいました。
梶山さんがまず確認したのは、飼い犬の家の中での行動範囲。
大きな地震が起きた時、家具やテレビなどの大型電化製品は、人はもちろん、ペットにも被害を及ぼす危険があります。それだけではなく、炊飯器などのキッチンの小型家電なども脅威になります。

そこで役立つのが、ホームセンターなどで手に入る防災グッズ。炊飯器などの家電には滑り止めをつけるのが有効です。

【参考】
明日をまもるナビ「揺れから命を守る9つのアイテム」
ペットのための水や食料などの備蓄も大切なポイントです。
最も重要なのは「主食」です。国のガイドラインでは、ペット用の食糧と水を少なくても5日分は備えるよう示しています。他にも、病気をかかえたペットを飼っている場合は、薬や療養食も必要です。

●「しつけ」の2つのポイント=「呼び戻し」と「ハウス」
まず、飼い犬を呼び戻せるかどうかを試します。普通のしつけに見えますが、この「呼び戻し」が一番大切だと梶山さんはいいます。

地震の際、倒れた家具の隙間などにペットが入り込んでしまうことがあります。そこで飼い主が助けにいくことは、自身を危険にさらすことにつながります。そんな時必要なのが、この「呼び戻し」なのです。

「災害時や緊急時には、人もペットもパニックになっています。いつも『大丈夫だよ、俺のところ来いよ』という気持ちできちんと呼ぶのが大切」(梶山さん)
ペットの安全を守るしつけは、もうひとつあります。それは「ハウス」。
「危ないときにハウスって言ったらハウス(ケージ)に逃げ込めるように、安全な場所だということを教えます」(梶山さん)

飼い主の合図で自らケージなどに入り、そこで落ち着いて過ごす「ハウス」。倒壊の恐れがない安全な場所にケージを置くことで、被害を防ぐことができます。
また、ケージに入ったペットがパニックになってしまった時は、布をかぶせるなどして暗くする工夫が役に立ちます。
「狭くて薄暗いほうがワンちゃんたちは案外落ち着くのです。屋根などでちょっと薄暗くすると、安心して奥のほうに行ったりします」(梶山さん)
避難所でのペットとの過ごし方
もし避難所へ行くことになったとき、避難所での負担を減らすために飼い主はどのようなことに気をつければいいのでしょうか。
2021年11月。梶山さんが避難所での生活を想定した訓練を開催しました。参加したのは、岩手県内に暮らす4組の飼い主です。
この日、まず行ったのはケージに入る訓練です。
ペットを自由にしてしまうとトラブルのもとになるため、避難所ではケージが必要です。通常は飼い主が持参しますが、場合によっては、避難所が用意したものを使うこともあります。

ふだん周りが見えるようなハウスに入っている犬が、慣れていないケージに入るのは意外と大変です。餌で誘導しても入ってくれず、抱きかかえられてようやく入ることができる犬もいます。

避難所では多くの場合、飼い主とペットは別の場所で過ごすこととなります。
その時に必要となるのが、名前や特徴などペットの情報をまとめた「注意書き」です。ケージに貼っておくことで、避難所の担当者に「噛みついてしまう」などのトラブルを防ぎます。

飼い主が見えないとすぐにほえる犬もいます。そうした犬には日頃から「離れる練習」をするよう梶山さんは飼い主に呼びかけています。

避難所で最も大切なのは、自助と共助。自分たちが助け合ってできることを、自主的にやることです。災害直後は避難所のスタッフも大忙しで、ペットのことにまでなかなか気が回りません。
そのため飼い主が率先して運営に参加する意識が必要だと梶山さんは考えています。
●ペット飼育のためのスターターキット
平井さんらが運営するNPO「ANICE」では、飼い主たちが避難所の中のペット飼育が運営できるように「スターターキット」を用意しています。

キットを開けると、飼い主へのメッセージがあります。
『このスターターキットを開けた方は、上から順番にカードの指示に従ってください』
飼い主はカードの指示に従って、ほかの飼い主への案内表示を貼ったり、ペットの飼育スペースを設置したりするなど、ミッションを順に実行します。


さらに、排泄物の廃棄方法や場所を決めたり、飼い主を集めてルールを確認したりします。
マニュアルがあってもすべて読むのは難しいので、このキットを使ってミッションを1つずつこなしていけば、スムーズに設営が進められるようになっています。
横浜市の一部の避難所では、こうしたスターターキットによる訓練をすでに実施しています。
いざという時のために飼い主が用意すること
●飼い主が離れているときのために
災害が起きたとき、飼い主がペットと一緒にいるとは限りません。自宅で猫を飼っている平井さんは、「自分が家に戻るまでに猫がまず生き延びていてくれるのが大事」と、複数の水飲み場を常に用意しているそうです。

家からペットが逃げ出してしまう場合も考えておく必要があります。
犬であれば、登録したときに交付される「鑑札」を付けます。猫用には迷子札もあります。
対策の一つとして、マイクロチップが有効とされています。動物の首の後ろの皮下に入れるもので、それをスキャナで読みとれば飼い主の情報が分かります。
2022年6月から、新たに飼われる犬と猫にはマイクロチップの装着が義務付けられます。以前から飼われている犬や猫については努力義務となります。

【参考】環境省「動物の愛護と適切な管理」Webサイト
犬と猫のマイクロチップ情報登録に関するQ&A
※NHKサイトを離れます
●ペットのための防災グッズ
ペットと避難所に行くために用意するべきものをまとめました。
〇水
〇ペットフード
環境省のガイドラインには5日分とありますが、巨大地震で人の支援物資でさえいつ届くか分からない状況に備えて、「ローリングストック方式で最低1か月分は必要」(平井さん)です。
〇トイレ関連・ペットシーツ
〇洗濯ネット
猫が逃げるのを防ぎます。獣医師による避難所の巡回診療のときなど、屋外でキャリーバッグから出したときに使います。
〇ガムテープ、油性サインペン
ケージにペットや飼い主の名前、居場所の情報を記入します。衣服に付いたペットの毛を取るのにも便利です。
〇風呂敷
ケージをくるんで視界をふさいだり、周囲の音を緩和して動物がパニックになるのを防ぎます。
●その他の動物の避難はどうする?
犬や猫以外の動物、例えば小鳥と一緒に避難するときはどうしたらよいのでしょうか?
避難所に鳥かごを持ち込むときは、ゴミ袋などの大きな袋に入れて、上部は換気のために開けます。
餌の殻や羽根がまき散らないので、周りへの配慮にもなるほか、視界を遮ることで小鳥にとっては落ち着く環境になります。最近では小鳥の避難用のキャリーケースもあります。

避難所にはペットを飼っていない人たちも大勢います。一番大事なのは、お互いを思いやること。アレルギーや病気がある方、動物を怖いと思う方からは距離を保ったり、消毒や清掃をきちんとしたりすることも大切です。
「飼い主にとっては、ペットはいざという時の心の支えになる大事な存在。そのためにはまず飼い主が無事でいられるように、わが家の防災対策と合わせて考えてみていただければと思います」(平井さん)
【参考】
「災害発生時、ペットをどうする? 犬、猫の飼い主が知っておくべき準備と対策」
東日本大震災などで被災した飼い主と専門家の声からまとめた2020年7月の特集記事です。