この記事は、明日をまもるナビ「災害時 車をどう使うべきか」(2021年11月21日 NHK総合テレビ放送)の内容をもとに制作しています。
これだけは知っておきたい、災害時の車の使い方
▼津波や地震の場合の避難方法は「原則徒歩」、車中泊避難は「やむを得ない場合に限る」
▼車がないと避難できない高齢者や要配慮者は、優先して車を使うルールを決めておく
▼車中泊避難する場合は、自治体が指定する場所を選ぶと避難生活がしやすい
知っておきたいルール「原則は徒歩」
災害時の自動車使用は、2つのケースがあります。一つは自動車を使って避難する「自動車避難」です。もう一つは自動車を避難場所にする「車中泊避難」です。
内閣府は、津波や地震の場合の避難方法は「原則徒歩」を推奨しています。
台風や水害の場合は「移動中に洪水等に見舞われることや渋滞による避難の遅れが発生するおそれがあることに留意」としています。車中泊避難は「やむを得ない場合に限り」としています。

●地域事情から自動車避難を推奨する自治体
このような国の見解がある中で、地震と津波に備えて、渋滞の発生しない環境を整えて自動車避難を推奨しようとしている自治体があります。
宮城県山元町(やまもとちょう)は、東日本大震災の津波が沿岸から3.6キロの地点まで到達し、町のおよそ4割が浸水しました。

沿岸部の人々は車で標高の高い内陸を目指しましたが、道路は国道の交差点の手前で大渋滞。600人を超える犠牲者の中には、車で避難中渋滞のために逃げきれなかった人も多くいたと見られています。
しかし、それでも町は「避難する時、車を使わないように」と求めることはできません。
「山元町の沿岸部は平坦な土地で、徒歩避難だとどうしても波に飲み込まれてしまう」(山元町役場・危機管理室の担当者)
そこで町は渋滞を起こさないよう、国道の交差点は通らず、国道の下をくぐる2か所の抜け道に、分散して避難するルートを提示しました。

さらに、住民は知り合いの車に分乗し、避難する車の台数を削減しました。これには要支援者やお年寄りに声をかけ、逃げ遅れを防ぐというメリットもあります。避難を終えたエリアには黄色いタオルを残します。
2015年8月に行われた訓練では、住民のおよそ2割、2,500人が690台の車や徒歩で避難。想定の津波到達時間より早い30分ほどで全員が避難を完了しました。
山元町では沿岸部から高台に向かう新たな10本の避難路の整備を進めています。現在8本が開通し、残り2本も近く開通を予定しています。
こうした自治体の取り組みについて、防災の専門家である東京大学特任教授の片田敏孝さんは、「特に水関係の災害は、避難は徒歩が原則」としながら、
「高齢者や要配慮者の方(避難のときに支援が必要な人)は、現実的には車を利用しないと避難ができない。どのような人が車を優先して使うべきかを地域の共通認識として、地域住民の合議の上で、皆さんが納得して決めることも大切になる」と指摘しています。
熊本地震で注目を集めた「車中泊避難」
今から5年前(2016年4月)に起きた熊本地震で、特に被害の大きかった益城町(ましきまち)の駐車場に、およそ3,000台の車があふれました。地震が続いて自宅の倒壊のおそれもあったことから、車での寝泊まりを多くの人が選んだのです。
この時に注目を集めた言葉が「車中泊避難」です。

熊本地震で、実際どのくらいの人が車中泊避難をしたのか。アンケートに答えた人のうち、自宅以外に避難した被災者の7割が車中泊を選びました。

車中泊を選んだ理由で一番多かったのが「一番安全だと思った」で、8割の人がそう答えました。続いて「プライバシーの問題」で避難所より良いと思った方が3割でした。

車を避難生活の場とするメリットは次の通りです。
- 雨風がしのげる
- プライバシーを保てる
- 鍵がかけられるので防犯上も安心
- エアコンで快適に過ごせる
- ラジオから災害情報を得られる
- シガーソケットやコンセントから電気を得られる、充電ができる
車中泊避難を最大限に生かす自治体の取り組み
コロナ禍の今、全国の自治体のほとんどが、密を避けるために避難所の収容人数を減らさざるをえなくなっています。
そんな中、車中泊避難を最大限生かすための対策に乗り出した自治体が、神奈川県のほぼ中央に位置する綾瀬市(あやせし)です。市内に鉄道の駅はなく、市民の主な移動手段は車です。
市では車中泊避難のために、公園や公共施設の駐車場3か所に、600台以上の車をとめる場所を確保しました。長い期間の避難に備え、24時間使える「防災トイレ」の整備も進めています。
国や民間企業に働きかけて、さらに車中泊避難ができる場所を増やそうとしています。市内にある防衛省の所有地を使おうと、国との協議を始めました。

安全な車中泊避難を実現するため、エコノミークラス症候群の対策も始めています。その一つが特殊なストッキングの備蓄です。強めの締めつけで足の血行をよくするものです。

さらに、一度に12人が利用できる仮設の風呂を用意し、車が集まる場所に設置する計画も進めています。
「皆さん、苦しい思いをされると思うので、少しでも気持ちが落ち着いて、安らげるような気分になってもらえたらうれしい」(綾瀬市の担当者)

車は災害時であってもむやみにどこにとめてもいいわけではありません。
基本は自治体の指定避難所の駐車場です。そこでは避難生活に不可欠な3つのものが手に入りやすくなります。水・食料、情報、そして特にトイレが重要です。綾瀬市のように避難エリアに仮設トイレを準備する自治体も増えています。

また、自治体と民間の商用施設が提携し、災害時に駐車場を一時避難場所として開放しようという動きも進んでいます。スーパーマーケットやショッピングモールの他に、特に注目されているのが、広大な駐車場を持つパチンコ店です。トイレなどの施設もあり、災害時の活用が期待されています。

こうした車中泊しやすい場所は自治体が公表しているハザードマップに記載され、ネットでも調べることができます。
そのひとつとして、長野県では車で安全に避難できる場所を地図化して、インターネットで公開しています。
【長野県】-車で避難・安全確保-避難場所マップ
※NHKサイトを離れます
【参考】
明日をまもるナビ 津波発生時の「自動車避難」は危険
▼後編につづく
車中泊避難を快適にするには?災害時の車の使い方(2)