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切迫する巨大津波にどう備える

東日本大震災で多くの犠牲者を出したのが「巨大津波」です。再び巨大地震が起きた場合、北海道沖から岩手県沖にかけ、東日本大震災を上回るような「最大クラスの津波の発生が切迫している」という新たな想定を、2020年4月に国の検討会が公表しました。さらに“超”巨大地震が数百年単位で起こる、「スーパーサイクル」と呼ばれる周期の存在が調査によって明らかに。南海トラフなど各地でその脅威が迫っています。私たちはどう備えればいいのか。命を守るためにできることを考えていきます。

この記事は、明日をまもるナビ「震災10年 巨大津波にどう備える」(2021年11月7日 NHK総合テレビ放送)の内容をもとに制作しています。

これだけは知っておきたい、新たな巨大津波の想定と対策
▼東日本大震災を上回る規模の巨大津波が日本海溝と千島海溝の巨大地震で起きる
▼“超”巨大地震が数百年単位で繰り返す「スーパーサイクル」が切迫している
▼想定を上回る津波への避難方法の見直しが青森県などで進む


巨大地震が切迫している場所はどこ?

昨年4月、内閣府の「日本海溝・千島海溝沿いの巨大地震モデル検討会」が巨大地震の発生が切迫している場所を新たに公表しました。

一つが千島列島から北海道沖合にかけての千島海溝。もう一つが日本海溝のうち北海道の南から岩手県の沖合です。いずれもマグニチュード9以上の地震が想定されています。

巨大地震の震源域、日本海溝と千島海溝
巨大地震の震源域、日本海溝と千島海溝

日本列島は4つのプレートの上に位置している島国。そこで巨大地震が起きると、必ず津波がやってきます。過去400年間、世界で記録が残っている津波犠牲者のうち、その3割は日本で出ているのです。

日本全国で津波の被害が出ている
日本全国で津波の被害が出ている

津波の規模の想定は、北海道えりも町で27.9メートル、青森県八戸市で26.1メートル、岩手県の宮古市で29.7メートル。30メートルはマンションの10階の高さに相当します。

巨大地震と想定される津波の高さ
巨大地震と想定される津波の高さ

検討会の委員をつとめる東北大学災害科学国際研究所所長の今村文彦さんは、「東日本大震災が起きたエリアの北にある日本海溝・千島海溝は、現在までエネルギーがたまって解放されていないエリア。発生したらこのぐらいの影響があると考えられます」と警告しています。

【参考】
内閣府「日本海溝・千島海溝沿いの巨大地震モデル検討会」概要報告(令和2年4月21日公表)
※NHKサイトを離れます


巨大津波を生み出す「スーパーサイクル」とは?

東日本大震災から10年。浮かび上がってきたのが「スーパーサイクル」という、地震の発生周期です。“超”巨大地震ともいえる地震が数百年単位で繰り返しているというのです。
リスクが指摘されているのが、北海道沖、房総半島沖、そして南海トラフです。

スーパーサイクルのリスクがある3つの震源域
スーパーサイクルのリスクがある3つの震源域

スーパーサイクルはどのように割り出されたのか?
産業技術総合研究所の宍倉正展(ししくら・まさのぶ)さんは、南海トラフの震源域のほぼ中央、和歌山県串本町などで、海辺に生息するフジツボなどの化石を過去およそ5500年分にわたって採取、分析しました。

過去5500年分の海辺の生物の化石を分析

海面付近の岩場などに生息するフジツボなどの生物は、大地震で地盤が隆起すると、地上では生きられず、年月を経て化石になります。地盤はその後、徐々に沈んで海面付近に戻り、再びそこに生物が生息。90年から150年ごとに大地震による隆起と沈み込みが繰り返され、何層もの化石が出来上がります。

そしてある時、ケタ違いの巨大地震が起こると、隆起も大きくなり、化石は海面まで戻りきりません。その下の新たな海面付近で生物が住み着いて化石になるという、次の過程が始まるのです。

巨大地震による隆起が化石を形成する
巨大地震による隆起が化石を形成する

調べてみると、約400年から600年で一つの大きな化石が形成されていることがわかりました。つまり巨大地震による隆起がその周期で起きている。それがすなわち「スーパーサイクル」なのです。

南海トラフでの直近のスーパーサイクルは1707年に起きた宝永地震だったとみられ、すでに300年以上が経っています。宍倉さんは次の南海トラフ地震がスーパーサイクルに当たり、巨大地震になる可能性もあるとみています。

北海道東部の沖合の千島海溝はさらに切迫していると考えられています。過去6500年分の津波堆積物の調査から、千島海溝でのスーパーサイクルは平均350年前後。前回からはすでに400年程度が経過しています。

北海道東部での津波堆積物の調査
北海道東部での津波堆積物の調査

なぜ数百年単位となるスーパーサイクルで巨大地震になるのでしょうか?
そのメカニズムを今村さんは次のように説明します。

「陸側のプレートが海側のプレートにずっと引っ張られて、耐えられなくなるとプレートが上がります。その上に海水があるので津波が発生し、沿岸部で巨大になってしまう。戻りきらない部分が蓄積されて、それが数百年たまると、大きなひずみのエネルギーになって、それが『スーパーサイクル』になります。東日本大震災で発生したところはすでに(エネルギーが)放出されたのですが、北側・南側は残っています。(地震発生の)過去のサイクルを調べると400年前で、切迫性が高くなっているのが現状なんです」(今村さん)

沈み込んだ陸側のプレートが上がると…
沈み込んだ陸側のプレートが上がると…
プレートが海水を押し上げて津波が発生
プレートが海水を押し上げて津波が発生

新想定の巨大津波 対策に追われる青森

昨年4月の検討会の想定で、東日本大震災の津波を上回るとされる青森県の太平洋沿岸部では、津波の高さや到達時間のこれまでの想定が変わったため、対策の見直しを迫られています。

青森県の太平洋側で東日本大震災以上の津波が襲来
青森県の太平洋側で東日本大震災以上の津波が襲来

●八戸市
東日本大震災では6メートル以上の津波が押し寄せた八戸市。今回の想定では最大26.1メートル。東日本大震災の4倍を超える高さです。

地区の多くが浸水した八戸市白銀(しろがね)地区。当時は、海抜17メートルの高台にある三島神社に300人ほどが避難しました。地区の自主防災会では、震災後、毎年ここを一時避難所として訓練を続けてきました。しかし、想定された津波では避難所の2階まで浸水してしまうため、避難場所の見直しを検討しています。

海抜17メートルの神社の避難場所も見直し
海抜17メートルの神社の避難場所も見直し

●三沢市
海から800メートルのところにある三沢市立第三中学校では、津波の到達時間が大きく変わり、従来の45分から30分に早まりました。
そこで避難計画を見直し、訓練を行っています。1分でも避難時間を短くするため、いくつかの工夫を取り入れました。

避難時間を短くするための工夫
避難時間を短くするための工夫
  1. 外へ出るのは上履きのままで=靴の履き替えで人の流れが滞るのを避けるため。
  2. 全校生徒がそろってから行っていた人数確認を学年ごとに変更。
  3. 浸水想定区域の外にスムーズに避難するために、道路を横断する場所を減らした。

こうした工夫の結果、訓練開始から全員が安全な場所にたどり着くまで18分と、これまでよりも7分短縮することができました。

これまでより早く避難場所へ
これまでより早く避難場所へ

●青森市
津波は津軽海峡を通り、内湾の陸奥湾まで入り込んでくると想定されています。
「湾の入り口が狭いため、津波が来たとしても小さくなると思われがちですが、2波、3波と繰り返してだんだん津波が高くなることがあります」(今村さん)

青森駅前の商店街で想定およそ3メートル。これまで浸水域ではなかった青森市役所は1.4メートルの津波が押し寄せます。

津波は陸奥湾内にも押し寄せる
津波は陸奥湾内にも押し寄せる

海から1.2キロのところにある青森市内の特別養護老人ホームも、今回新たに浸水域に入り、90分あまりで津波が到達するとされました。この施設の浸水の想定は約2メートルで、2階に続く階段の中ほどまで水没。1階で生活する20人はほとんどが車いすを利用し、自力で避難できません。

特別養護老人ホームの1階ほとんどが水没(AR疑似体験アプリの映像から)
特別養護老人ホームの1階ほとんどが水没(AR疑似体験アプリの映像から)

施設では浸水域外への避難は間に合わないとして、2階への『垂直避難』を基本方針にしています。しかし、エレベーターが停電などで止まると階段を使わざるをえません。限られた時間の中でどう避難するのか。避難方法などの具体的な改善策を話し合っています。

時間がかかりすぎる車いすごとの避難は見直しが必要に
時間がかかりすぎる車いすごとの避難は見直しが必要に

NHK青森放送局では、新たな浸水想定や対策、課題などを各市町村ごとに取材した特設ページを開設しています。

【参考】
NHK青森 特設ページ "日本海溝津波"から青森を守る


巨大津波からどう逃げるのか?

巨大津波からどう逃げるのか。課題は“到達時間の早さ”です。太平洋側では30分で津波が来る想定の地域もあります。

●室戸市の津波シェルター
南海トラフ地震で24メートルの津波が想定されている高知県室戸市の都呂地区には、とっさに逃げ込むことができる津波シェルターが設置されています。
70名が収容可能で、内部にトイレやらせん階段などを設置。崖に横穴を掘削した世界初の津波避難施設です。漂流物などを防ぐ衝突防止柱、二重の止水扉で避難者を守る仕組みになっています。

衝突防止柱に守られた津波シェルターの入り口
衝突防止柱に守られた津波シェルターの入り口
津波シェルターの内部
津波シェルターの内部

●最後の手段?避難カプセル
目前に差し迫った巨大津波に対し、浮いて漂流し救助を待つ、カプセル型の避難装置がアメリカで開発されています。
アメリカの津波の専門家と航空宇宙学の専門家のコラボで、NASAの技術コンテストに入賞したアイデアです。

カプセル型の避難装置
カプセル型の避難装置

その特徴は

  • 外殻に航空機アルミニウムを使用。球体で衝撃に強い。
  • レースカー用の4点式シートベルトで左右の肩と腰を固定
  • 食料・GPS・救助用ビーコンなどを内部に準備
  • 換気口は大量の水が中に入りにくい構造

紹介した2人用以外に、もっと大きな10人用も開発されています。

内部にはレースカー用のシートが2つ
内部にはレースカー用のシートが2つ

AIで津波被害を予測

宮城県気仙沼市は、10年前の震災で15メートルを超える津波によって壊滅的な被害を受けました。東北大学災害科学国際研究所所長の今村文彦さんはこの地で40年近く、住民と共に津波防災の取り組みを続けてきました。

震災前、今村さんも作成に関わった津波ハザードマップは、過去100年あまりの津波の記録を基に想定したものでしたが、あの日の津波はその想定を大きく超えていました。

東北大学災害科学国際研究所所長の今村文彦さん
東北大学災害科学国際研究所所長の今村文彦さん

命を救うためには津波がいつ、どの範囲まで達するか、いち早く正確に伝えなければなりません。そのため今村さんが取り組んできたのが、AIとスーパーコンピューターを組み合わせた南海トラフ巨大地震の新たな津波予測です。

スーパーコンピューター上で地震の規模や震源の場所などを2万通りシミュレーションし、発生する津波を分析。その1つ1つのケースについて、沿岸のすべての地域で津波がどこまで到達するか、道路一本に至るまで解析しています。

その解析結果をAIがすべて学習。地震が発生したとき、わずか数分程度で、津波がいつ、どこまで達し、どの深さまで浸水するのか、予測できるようになってきたのです。

道路一本に至るまで津波の到達域を解析
道路一本に至るまで津波の到達域を解析

さらにその情報を、スマートフォンの位置情報をもとに、その場所の津波到達時刻や浸水範囲を知らせる仕組みも開発中です。現在、川崎市などでこのアプリを使った使用実験が始まっています。

スマートフォンに津波情報を知らせるシステムを開発中
スマートフォンに津波情報を知らせるシステムを開発中

「認知マップ」で防災を“自分事”に

今村さんは「いかにAIが発達したとしても、過去に関しての精度はいいが、未経験のさまざまな状況の中で本当に正しい判断ができるかはまだ疑問。最後は“人間力”です」と語り、自分の行動力と判断力の大切さを説きます。

そこで今村さんが勧めるのが「認知マップ」づくり。ハザードマップを見ないで、自分の記憶だけで地図を描くという試みです。
「実際の災害の時には、ハザードマップやスマホを見ながら移動していない。頭の中に残っているこの認知マップに沿って行動するので、ふだんの生活の中で経験として頭に入っていることが正しいかどうかが問題になるのです」(今村さん)

自分の記憶だけで描いた「認知マップ」
自分の記憶だけで描いた「認知マップ」

「認知マップ」をもとに実際に歩いてみると、今までぼんやりとしか認識していなかった方向や距離感、所要時間が正確に分かります。地震によって起きる危険な状況を想像しながら認知マップを描くと、安全な道や場所などが見えてきて、いざという時に正しい行動が取れるようになるのです。

実際に歩いてみて正確なマップに修正
実際に歩いてみて正確なマップに修正

「防災を実践する上で大切なのは“自分事”です。そこで出てくる発想が、今後の防災、また命を救うためのヒントにつながります」(今村さん)