この記事は、明日をまもるナビ「世界の大水害と地球温暖化」(2021年10月31日 NHK総合テレビ放送)の内容をもとに制作しています。
これだけは知っておきたい、地球温暖化の現実と未来
▼地球温暖化の影響によって、台風や大雨の頻度は減るが、一度に降る雨量は増える。
▼地球が+4℃温暖化すると、人間には止められなくなる。
▼気温の上昇を+1.5℃程度で止めるには、あと30年で世界のCO2の排出量を実質0にする必要がある。
世界に異変が起こっている
世界各地では今年もさまざまな豪雨災害が起きています。
今年7月、ドイツを縦断するライン川流域を襲った洪水。3週間、断続的に雨が降り、土壌の水分量が増加したところへ、わずか1日で平年の1か月分を超える集中豪雨が重なり、川の水位が急上昇したとみられています。国際研究チームは、この地域の1日の降雨量は最大19%増加。今回のような豪雨が発生する可能性も、最大9倍に増加すると分析しています。

10月には、イタリア北西部で12時間の雨量が742ミリを超え、ヨーロッパ全体での観測史上最高を記録しました。

さらに同じ10月、急速に発達した爆弾低気圧がアメリカ西海岸に上陸。極度の干ばつが続いていたカルフォルニア州が豪雨に見舞われ、サンフランシスコなどの都市部では10月としては観測史上最多の24時間雨量を記録。大雨による土砂崩れが相次ぎました。
さらに、中東・オマーンの砂漠地帯にサイクロンが上陸するなど、世界各地で異例の豪雨が頻発しています。

今年8月、温暖化について世界各国の科学者がつくる国連のIPCC=「気候変動に関する政府間パネル」が地球温暖化に関する報告書を公表しました。
その執筆者のひとり、国立環境研究所地球システム領域・副領域長の江守正多さんは、「昔はなかったような、より激甚な大雨が起きている。その長期的な傾向の背景には地球温暖化がある」と指摘しています。

江守さんは、地球温暖化の影響で確実に起こるのは、「一度に降る雨が増えること」だと言います。
温暖化が進むと、雨が降る日数・頻度は減少し、台風の発生数も減るという研究がありますが、台風がより強く発達する割合は増えていくということです。
2019年10月に日本列島を縦断した台風19号が、もし1980年に起こったらどうなったか、比較したシミュレーションがあります。
1980年に比べて2019年のほうが、降水量が10%増加しています。2019年には長野市の千曲川の流域で堤防が決壊し、多くの家屋が床上浸水し、2人が亡くなりました。しかし1980年の気候では、ほとんど浸水域は見られませんでした。

温暖化の影響は大雨だけではない
●氷が解ける
地球温暖化の影響は雨だけではありません。ほかにもさまざまな異変が起こっています。
年間を通して、面積の8割が氷に覆われた北極圏のグリーンランド。雪が数百メートル降り積もってできた氷床が解け、あちこちに新たな湖が出現。海では次々と氷河が崩落しています。

2019年の1年間だけで、解けた氷の量は5320億トン。観測史上最大となったことが明らかになりました。解けた水を東京23区のエリアに注ぎ込んだとしたら、東京タワーやスカイツリーも超えて、800メートル以上の水位になるほど。それだけ膨大な氷が毎年のように失われているのです。

グリーンランドでは今年、普通は雪しか降らない標高の高い非常に寒い場所で、観測史上初めての雨が降りました。
この雨は、グリーンランドの環境にさらに重大な悪循環を生み出しています。それは「降った雨が再び凍って氷になること」です。
こうした氷は通常の氷と比べて白くないために、太陽光の反射率が落ちて熱をより吸収し、温まって解けやすくなります。そうした氷の面が広がり、さらに太陽光を吸収して、溶けていくという悪循環になります。
●大規模な山火事
さらに温暖化は、森を次々と焼け野原に変えています。
2019年から20年にかけて続いたオーストラリアの山火事。乾燥と高温で火は瞬く間に広がり、カンガルーやコアラなど30億匹以上の動物が犠牲になりました。
去年2020年、世界で焼けた森林の面積は約63万平方キロメートル。日本列島の1.7倍もの広さが失われたのです。

さらに、もっと大規模な悪循環が地球上で起きる恐れがあると江守さんは指摘しています。
●熱帯雨林が草原に
南米のアマゾンでは、温暖化と関係していると思われる乾燥化で、雨の量が減っています。この乾燥化と森林伐採の影響が重なって、あるティッピングポイント(臨界点)を超えてしまうと、アマゾンの熱帯雨林の木がどんどん枯れていきます。
木から水の蒸発量が減るとその分だけ雨が減り、さらに乾燥して木が枯れていく悪循環に陥ってしまうことで、熱帯雨林が消滅してサバンナと呼ばれる樹木の少ない草原に変化してしまうのです。

●凍土のメタンガスでさらに温暖化
シベリアの永久凍土の中にはメタンが閉じ込められています。気温上昇によって凍土が解けていくとメタンがガスになり、爆発して穴ができる事例が最近見つかっています。メタンガスは同じ重さのCO2と比べて約25倍も影響が強い温室効果ガスです。凍土が解けてメタンが出てくると温暖化して、さらに凍土が解けてメタンが出るという悪循環が強く懸念されています。

世界気温 “+4℃の未来予測”
今年8月、国連のIPCCが公表した地球温暖化に関する報告書で示されたのが、CO2排出の予想シナリオに基づく世界平均気温の変化です。

この表には①~⑤の5つの対策と気温変化のパターンが示されています。
④「低い」の場合は、気温の上昇が産業革命前と比べて+1.5℃程度で止まっていきます。こうなるためには、あと30年の間に世界のCO2の排出量を実質0まで減らさなくてはいけません。
③「中間」が現在の対策レベル。国連加盟国の対策目標が全部達成されたとしても、2050年頃には+2℃を超えてしまい、今世紀末には+3℃近くまで上がり続けます。
対策をせずに①②のレベルでどんどんCO2を出していくと、今世紀末には+4℃に近づいてしまいます。
もし世界気温が+4℃上昇すると何が起こるのでしょうか。
●砂浜が消える
まず、海水面が1メートル上昇すると、海岸線は打ち寄せる波で浸食され、日本の砂浜の約9割が消えてしまいます。

●すしも消える?
海の温度が上がって漁業も大打撃を受けます。私たちが大好きなすしも、近海ものは年を追って姿を消していきます。


●夏に運動は×
また、夏場の運動もできなくなります。夏のオリンピックが開ける規模の都市は、現在アジアに300以上ありますが、2085年には標高の高いモンゴルのウランバートルかキルギスのビシケクの2か所以外では開けなくなると予測されています。

●台風が大型化
日本列島を襲う台風の脅威も、さらに増していきます。+4℃と今の気候を比較すると、含まれる水蒸気量が20%増加し、全体の降水量は30%以上増加します。

中でもリスクが高まるのが首都圏を流れる荒川です。国が想定する最大規模に匹敵する水量が押し寄せると、首都・東京はかつて経験したことのない水害に見舞われます。国が行ったシミュレーションによると、浸水は広い範囲で2週間以上続き、死者は約2300人。浸水戸数約610,000戸、孤立者約540,000万人と想定されています。

家庭でできる温暖化対策とは?
家庭でできる温暖化対策にはどのようなものがあるでしょうか。実際のCO2削減効果データを見ながら考えてみましょう。

日本人1人が1年間続けた場合に削減できる温室効果ガスの排出量を比較してみました。
●太陽光パネルの導入
火力発電所で化石燃料によって発電した電気から、太陽光パネルによるCO2を出さない電気に転換すると大きな効果が期待できます。
太陽光パネルを設置できないマンションなどの集合住宅に住んでいる場合でも、買っている電気の契約を「再生可能エネルギー100%による発電」に変える方法もあります。
●電気自動車
電気自動車にするだけでなく、充電する電気を太陽光パネルからのものにすると、日本の平均的な発電所の電気で走らせるよりも、CO2削減効果は倍ぐらいになります。
●食
温室効果ガス削減のひとつとして、牛や豚などの「肉」を食べる量を減らすという考え方が出てきています。
食肉用の牛や羊などのゲップから出るメタンガスには、同じ重さあたりCO2の25倍の強い温室効果があります。牛の吐くゲップだけで世界中の温室効果ガスの約4%、一つの国ぐらいの排出量を世界全体の牛が出している計算です。牛をたくさん育てることは地球温暖化を促進していることになります。
そこで注目されているのが「代替肉」です。
最近はハンバーガーチェーンでも、大豆などに由来する植物ミートのパテを選べるところが増えています。

また、肉の一部を培養して作る「培養肉」の研究も進んでいます。2013年にはオランダで世界初の培養肉ハンバーガーが誕生しました。東京大学では、1枚肉のステーキを培養しようと研究中で、2025年頃の実用化を目指しているということです。
ちなみに、この世界初の培養肉ハンバーガーは1個3,000万円!研究費がかかりすぎて超高額になっていますが、世界各国で量産化を目指して研究が進んでいます。

植物ミートによるハンバーグや肉は、スーパーマーケットやインターネット通販で取り扱いが徐々に増えてきていますので、興味がある方はぜひ試してみてください。


「日本人は『負担意識』が強すぎるのではないか。温暖化対策のために『何か我慢をしなければいけない』とか、『面倒くさいことをさせられるんじゃないか』と思ってしまう。それには限度があります。数パーセントの排出を減らすのなら我慢できるが、それではもう温暖化は止まらないところに来ている。無理をしなくても自分に合ったやり方で、それぞれ気候変動に関して意味のある行動ができるということをわかっていただけたらと思います」(江守さん)
