この記事は、明日をまもるナビ「教えて!斉田さん 気象データってどう見るの?」(2021年9月19日 NHK総合テレビ放送)の内容をもとに制作しています。
これだけは知っておきたい、天気予報の言葉の意味と活用法
▼暖かく湿った空気が次々に流れ込んで発生する「線状降水帯」
▼激しい雨は30ミリ以上、50ミリ以上で災害の危険度がアップ
▼天気予報はマークだけ見て判断しない。気象キャスターの解説も一緒に
「なぜ?」最近の変な天気と豪雨災害
変な天気が目立った今年の夏。実は、梅雨も例年とはちょっと違っていました。今年、梅雨明けが最も遅かったのはどこだったでしょうか。
答えは「四国」。7月19日に気象庁が梅雨明けを発表しました。
南から湿った空気が流れ込んで、雨が続いていると梅雨明けの発表になりません。いつもは西の方から順番に進む梅雨明けですが、今年は東から高気圧が張り出してきたので、東北・関東が梅雨明けした後、東海・近畿、そして四国と、例年とは逆の東の方から梅雨明けしました。
気象予報士の斉田季実治さんは「いつもと違うことが起こりやすくなっている状況にあります」と今年の気象の異常さを指摘しています。
今年8月、停滞した前線の影響で西日本から東日本を襲った大雨は、異例づくしの豪雨でした。

まずはその期間の長さ。8月11日から19日まで9日間も降り続きました。被害が出た場所も広範囲に及びました。
土砂災害は、鹿児島から福島まで32の都府県で408件(国土交通省発表・9月14日時点)も確認。このうち長崎県雲仙市では、土砂崩れで住宅が押し流され、3人が亡くなりました。

そして、気象庁が今年から運用を始めた新たな情報もあります。8月12日、福岡県と熊本県で「線状降水帯」が確認され、警戒を呼び掛ける「顕著な大雨に関する情報」が発表されました。「線状降水帯」とは、非常に激しい雨が同じ場所に降り続くもので、命に危険が及ぶ可能性が急激に高まります。

この後、8月13日には広島でも確認。14日には、再び九州で確認され、佐賀県嬉野市では、平年の8月1か月の雨量をわずか6時間で超えました。

大雨と線状降水帯のメカニズムとは?
異例の豪雨、そして「線状降水帯」はいったいどうして起きたのでしょうか? キーワードは、天気予報でおなじみの言葉“大気が不安定”です。
まず、「安定な大気」とは、冷たく重たい空気が下にあって、暖かくて軽い空気が上にある状態。これで安定しているため、空気の上昇があまり起こらず、雲はそれほど発達しません。

一方、「不安定な大気」の場合は、逆に、下の方に暖かくて軽い空気、上の方に冷たくて重い空気があるため、この空気同士が入れ替わろうとします。これを「対流」と言い、空気がどんどん上昇するので、雨雲が急速に発達します。

不安定な大気になる原因としては、「暖かい空気が違う場所からやってくる場合もありますし、太陽の光で地面付近の空気が暖められる場合もあります。こうした場合、暖かい空気が上昇し、雲が発生しやすくなります」(斉田さん)
次に「線状降水帯」のメカニズムを説明します。

大雨をもたらす積乱雲が出来るためには、大雨の元となる非常に湿った空気がまず必要になってきます。この暖かく湿った空気は、南の海上から流れ込んできたり、梅雨前線に向かって西から流れ込んできたりすることも多いです。湿った空気同士がぶつかると、上に上がっていき、これが雲になり、積乱雲が出来ます。

この積乱雲が上空の風に流されて、さらに湿った空気がどんどん流れ込んで、また次の積乱雲が発生します。これがまた流されていくと、また積乱雲が出来ます。
積乱雲一つの雨は数十分程度ですが、このように次々につらなって線状に並ぶと、長時間大雨が続きます。これが「線状降水帯」です。長いものでは200キロメートルにもなり、予測するのが難しい現象です。
気象予報士はどうやって予測しているのか?
斉田さんたち気象予報士は、どのように天気の予測をしているのでしょうか。
「地上付近の天気図だけでなく、上空の何種類もの天気図を見て天気予報を組み立てているんです」(斉田さん)

その一つがこの「高層天気図」。これは上空1500メートル付近の風の流れと“相当温位(そうとうおんい)”を表したものです。相当温位とは「温度」と「その空気の湿り具合の指標」をミックスしたもので、単位は“ケルビン”。ケルビンが大きいほど大雨になりやすくなります。
「この天気図では、太い線(※オレンジ色で塗った線)が345ケルビン。ここは1時間に50ミリ以上の激しい雨が降るようなポテンシャルがあるところです。ただ、実際にどこで雨が降るかは、どこで空気が上昇し雨雲が発生するかを見なければいけません」(斉田さん)
天気予報ではこの大気の状態を「暖かく湿った空気」と表現しています。

ラジオ・テレビ以外で気象や避難に関する情報を知る方法として、斉田さんが薦めるのが気象庁のホームページに掲載されている「危険度分布」(キキクル)です。
災害の起こりやすい状況を5段階に色分けして表示、色が濃くなるほど危険な状況になっていることを表します。情報はリアルタイムに更新されていて、実際の雨の量や、土砂災害の場合はその前に降った雨でどれくらい地盤が水を含んでいるかまで計算して、まさに災害のリスクを翻訳した内容になっています。
【詳しくは】気象庁「キキクル(警報の危険度分布)」解説ページへ
https://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/bosai/riskmap.html
※NHKサイトを離れます

もう一つ斉田さんがお薦めしているのが「NHKのニュース・防災アプリ」。
天気や災害に関する地域設定を3か所まで登録でき、「雨が降り出しました」など地域ごとのリアルタイム情報をプッシュ通知で教えてくれます。
【詳しくは】NHK「ニュース・防災アプリ」紹介ページへ
https://www3.nhk.or.jp/news/news_bousai_app/index.html
「○○ミリの雨」ってどのくらい?
よく言われる「○○ミリの雨」が何を表しているのか、斉田さんに聞きました。
「降った雨が流れ去らずにたまった場合の水の深さを表しています」
よく記録的な大雨とされる100ミリ(10センチメートル)の雨は、そのまま流れていかないとこれぐらいの深さになると、斉田さんはビーカーの水で示しました。

東京消防庁の本所(ほんじょ)防災館(東京都墨田区)では、さまざまな強さの雨を実際に体験できます。

番組ゲストの村上佳菜子さんが訪れて、1時間当たりの雨量10ミリから、20・50・70・100ミリを順に体験しました。最後の100ミリはまるでシャワーのようで、目を開けられない状態になりました。

天気予報で雨に関して使われている気象用語では、強い雨に5段階の表現を使っています。これらは、実際に1時間に何ミリの雨を表しているのでしょうか?
正解はこちら!

「1時間に30ミリ以上の『激しい雨』でも道路が川のようになったりすることもありますし、50ミリ以上の『非常に激しい雨』や『猛烈な雨』は、災害の危険性があると思って備えていただいた方がいいですね」(斉田さん)
この『非常に激しい雨』に、台風のような風速30メートルの暴風が加わると、さらに危険なことに。こちらも村上さんが防災館で体験してきました。
「台風が近づいている時は家を出ない。建物の中にいることが大事です」(斉田さん)
台風被害の歴史と台風予想図の見方
毎年のように、日本列島を襲う巨大な台風。これまでさまざまな形で、各地に大きな被害をもたらしてきました。

史上最悪の被害をもたらしたのが、昭和34(1959)年の伊勢湾台風。暴風と高潮により、三重県から名古屋市南部まで広い範囲が水没。5000人を超える犠牲者が出ました。

そして「平成一番の風台風」といわれる平成3(1991)年の台風19号。収穫間近だったりんごが軒並み落下し、被害額は740億円あまりに。「りんご台風」とも呼ばれました。

記憶に新しいところでは、一昨年の「令和元年房総半島台風」(台風15号)。多くの電柱や木がなぎ倒されたことで発生した大規模な停電。千葉県を中心に、93万戸に上り、都市機能が麻痺(まひ)しました。
さらに、そのわずか1か月後、日本列島を襲ったのが「令和元年東日本台風」(台風19号)。関東甲信・東北地方を中心に記録的な大雨となり、阿武隈川や千曲川など70を超える河川で堤防が決壊、115人が犠牲に。停電や断水、鉄道の運休など交通障害も引き起こしました。
どうしたらもっと台風の被害を抑えることができるのでしょうか?
「今は台風は事前にやってくることがわかる災害になっていますので、台風のことをよく知っておくことが大事です」(斉田さん)
ここで、台風予想図の見方を学びます。
この図の点線の丸は予報円と呼ばれるものですが、この予報円の中に台風の中心が通る確率はどれぐらいでしょうか?
正解は「70%」と、高い確率です。
台風の中心が点線の丸の中心部になります。赤い丸が暴風域で黄色い丸が強風域で、台風の大きさは強風域の大きさで決まっています。半径が500キロ以上だと大型、800キロ以上だと超大型です。
台風の中には変な進路を取るものもあります。それが2016年の台風10号です。
本当にあったのは、①の進路。この台風は日本の南の海上で1回ぐるんと回ってから北上して、岩手県に上陸。東北の太平洋側から上陸した台風は観測史上初めてでした。
どうしてこんな進路になったのかを、斉田さんが解説します。
「台風の進路は高気圧や上空の風、偏西風など、周りの環境に影響されます。この時は東からも西からも高気圧が張り出して、関東から北海道付近しか台風の通り道がなく、台風10号はくるんと回って東北に上陸しました」

また、台風は海水温が高いところで発達したり勢力を維持したりするので、ずっと同じ場所に停滞していると、下の海水をかき混ぜて、冷たい空気が上がってくるので、だんだん弱まってくるそうです。
暴風雨の警戒点と備え方
NHKではさまざまな防災情報を紹介しています。
【水害から命と暮らしを守る】
台風シーズンに備えて、暴風雨の警戒点をまとめたものもあります。
【暴風の警戒点】
最大瞬間風速40メートルの強風になると、走行中のトラックが横転し、看板が飛ばされるほどの強さで大変危険です。風が吹き始めてからでは遅いので、台風が近づく前に次のような対策を済ませましょう。
台風前の対策例
- 屋外にある飛ばされやすい物干しざおなどは屋内に入れる。
- 雨戸を閉めて、ダンボールや飛散防止用のフィルムで窓を補強する。
- 最低3日分の食料や電池などを備蓄する。

斉田さんは、2019年の台風19号の時、自宅の観葉植物や物干しざおやベンチを外から家の中に入れて、「気象予報士も実際に対策をやっている」と写真に撮ってSNSで注意喚起しました。
「自分だけじゃなくて、近所の方に迷惑を掛けてしまうこともありますので、きちんと対策しておくことが大事です」(斉田さん)
天気予報の用語や意味を知ろう
「天気予報って外れる日もあるんじゃないか」とお思いの皆さんもいるでしょう。でも天気予報の用語の意味を正しく理解していれば、そう思うことは減るはずだと斉田さんはいいます。天気予報の用語や意味を正しく理解しておくことが大切です。
例えば、「ときどき雨」という天気予報の言葉の意味はどれでしょう?
正解は、②「2分の1未満の時間で雨が降る場合」です。
2分の1とは、“一日24時間のうちの12時間未満に雨が降る”という意味。4分の1は、“6時間未満”を指します。
「ときどき雨」は、2分の1未満の時間で断続時に雨が降る。雨のやみ間があるもの。
「一時雨」は降る時間がより短く、4分の1未満の時間で一時的にざっと降るような雨です。
「晴れのち雨」は、晴れのあとに雨が降るということです。
しかし、天気予報のマークだけ見ると、晴れている時間が長いときは晴れのマークだけだったりします。斉田さんによると、マークはどうしても一番長いものと次に長いものの組み合わせになり、「晴れときどき曇り、ところにより雨で雷を伴う」という時も、晴れと曇りのマークしか出なかったりするそうです。
「マークだけ見て判断すると誤解することがありますので、ぜひ気象キャスターの解説を聞いていただきたい」(斉田さん)
「いろいろな資料を見て予想してお伝えしていますが、それは実際の行動に役立って初めて意味があるものになります。見るだけではなくて、実際の行動に役立ててほしい」(斉田さん)
