明日をまもるナビ メニューへ移動 メインコンテンツへ移動

大規模停電にどう備える?

台風の被害で、被災した方々をさらに苦しめるのが“停電”です。とりわけ大規模停電は命に直結する問題。台風による大規模な停電は毎年のように発生しているんです。台風シーズンに向けて、これからの「夏場の停電」にどう対処するのか、専門家とともに学びます。

この記事は、明日をまもるナビ「台風による大規模停電 どう備える」(2021年6月13日 NHK総合テレビ放送)の内容をもとに制作しています。

これだけは知っておきたい、台風による「大規模停電」で想定すべきポイント
▼“隠れ停電”に注意
▼限られた電力を有効活用するには家庭内で“電力トリアージ”を
▼すぐに復旧するとは限らない。停電時に役立つ品を備えよう


大規模な停電は命に関わります!

2019年9月に日本列島を襲った台風15号は記録的な暴風で、8万1000棟以上が損傷する被害が出ました。人々をさらに苦しめたのが、大規模な“停電”です。各地で相次いだ倒木などによって電線が切断され、電気が止まりました。

特に被害の大きかった千葉県では、ほぼ全域にわたって約64万戸が停電。連日30℃を超える猛暑のなか、その期間は各地で1~2週間にも及び、完全復旧には1か月以上を要しました。

台風15号による千葉県での停電
台風15号による千葉県での停電

停電が長く続くと通信障害が発生する恐れがあり、インターネットや携帯電話が使えない場合もあります。危機管理アドバイザーとして君津市と木更津市の災害対策本部で活動した国崎信江さんが痛感したのは、現場での情報不足でした。

木更津市 危機管理アドバイザー・君津市 防災アドバイザー 国崎信江さん
木更津市 危機管理アドバイザー・君津市 防災アドバイザー 国崎信江さん

「長期にわたる停電の直接の原因は倒木などによる切電でしたが、情報不足も大きな問題でした。例えば、電話の通信基地局や東京電力(東電)の事務所も停電していました。そのため東電の職員間でも情報共有するのが難しかった。行政ともコミュニケーションが取れず、私たちもテレビで復旧に1週間かかると言われ、対応できる態勢を組んでいたら、『いや、さらにもう1週間、つまり2週間』と言われ、混乱を極めた状態でした」(国崎さん)

停電が長期化すると、どんな深刻な影響があるのでしょうか?

およそ100人が入院していた南房総市の総合病院「中原病院」では、停電が続く中も診療を続け、病院に備えていた自家発電で3日間をなんとかしのいでいました。しかし、限界が近づきます。

真っ暗な中で診療を続ける医師
真っ暗な中で診療を続ける医師

停電から3日目、東京電力が電源車250台を用意していることを知り、病院は災害用の衛星電話で支援を要請しましたが回答は得られません。この病院は6割が透析治療の患者で、生命の維持に欠かせない人工透析の機械に限られた電力を優先して使いました。

限られた電力を生命維持に欠かせない人工透析へ優先
限られた電力を生命維持に欠かせない人工透析へ優先

そのため、冷房が使えず病院はいわば蒸し風呂状態になり、患者は脱水症状などで命の危険にさらされかねない状態でした。4日目の夕方、ようやく電気が使えるようになりました。しかし、停電していた期間で重症患者5人が亡くなりました。

病院だけでなく、特別養護老人ホームでも停電の影響が深刻でした。木更津市の施設では、停電によりエアコンが使えなくなり、30度を超える気温の中、職員が懸命に入所者の暑さをしのごうとしましたが、高齢の女性に熱中症の症状が現れました。職員はすぐに救急車を呼びましたが、病院から受け入れを断られ続けたのです。病院側も停電していたため、とても新規の患者を受け入れる余裕がなかったのです。最初の電話から6時間たってようやく病院に搬送されましたが、回復しないまま亡くなりました。

この事態を受け、この施設では今後の大規模停電に備え、大型の発電機を購入しました。補助金を利用しても費用の負担は約4000万円かかりました。燃料が満タンで3日間の電力を賄えます。さらに燃料を優先的に供給してもらうよう、近隣のガソリンスタンドにも協力を要請し協定を結びました。

※参考サイト
NHK NEWS WEB 災害列島 命を守る情報サイト「“停電に奪われた命” ~千葉・台風15号の教訓は生きるのか~


“隠れ停電”に注意!

当初、停電は数日で復旧すると思われていましたが、至るところで倒木による断線が起き、復旧は困難を極めました。
それでも停電発生から10日が経った頃には多くの地域で停電が解消されましたが、思わぬ事態が起こっていました。11日目に「停電戸数がゼロ」とされた大網白里市では、その後も「停電が解消しない」という問い合わせが相次いだのです。

2019年 台風15号による停電軒数の推移
2019年 台風15号による停電軒数

その理由は電線の仕組みにありました。電線には、6600ボルトの高い電圧で電気が流れる高圧線、そこから家庭用の100〜200ボルトに変換された電気が流れる低圧線、そして、住宅などに電気を供給する引き込み線があります。このうち、東京電力がモニタリングシステムで状況を把握できていたのは高圧線のみ。低圧線や引き込み線は把握できませんでした。

そのため、ここにトラブルが起きるといわゆる“隠れ停電”となってしまいます。東京電力は高圧線の修復をもって、大網白里市の停電戸数をゼロと発表していたのです。

“隠れ停電”が起こる仕組み
“隠れ停電”が起こる仕組み

山間部での“隠れ停電”では、倒木に妨げられて復旧作業が思うように進まず、16日間も電気のない生活を余儀なくされた家もありました。

千葉県では、こうした大規模・長期間の停電が起こらないよう、予防策として、東京電力の送配電会社と協定を結び、計画的に電線の周りの木を切る“予防伐採”を行っていくことになりました。また自治体独自で進めているところもあります。

さらに千葉県は、2019年当時は各施設の電源設備などの情報がなく電源の確保と調整に時間がかかった反省から、電力供給の優先順位を決める“電力トリアージ”に取り組んでいます。トリアージとは優先順位を決めて対応すること。県内2700か所の病院や福祉施設の電源設備を調査、優先度を4段階に分けて、特に緊急性の高いおよそ170の施設に電源車を優先配備するよう決めました。

千葉県の“電力トリアージ” 2020年9月時点
千葉県の“電力トリアージ” 2020年9月時点

住民主導の停電対策と電気自動車の活用

2019年の台風で大きな被害を受けた南房総市の大井地区では、想定外の事態にも対応できるよう、住民が自主防災組織を立ち上げました。

この日は住民たちが集まって、停電時に電源確保をするためのさまざまな機器を検証しました。ディーゼルエンジンの発電機は動作音が大きく、扱いにもコツがいるなどということから、組み立て式のソーラー発電機を導入。簡単に設置できて動作音もなく好評です。世帯ごとに使いたい発電機を提供することで、停電時でも地区の暮らしを守ろうと考えています。

組み立て式のソーラー発電機
組み立て式のソーラー発電機

千葉市でも台風による大規模停電を受けて、個人で太陽光発電を導入する家庭が急増しました。

しかし、そこには落とし穴があるといいます。ある家庭での太陽光パネルの出力は1500ワットほど。冷蔵庫を使い、災害情報を得るためにテレビをつけた状態で、エアコンを使おうと思っても、消費電力が太陽光パネルの出力を上回り、電力不足で稼働できません。さらに、夜になると太陽光発電が止まり、電気が全く使えなくなってしまいます。

太陽光発電の出力オーバーに注意
太陽光発電の出力オーバーに注意

そこで、「家庭用の太陽光パネルで停電を乗り切る方法がある」と、南房総市の自主防災組織のリーダーで、通称“電力おじさん”こと芳賀裕さんが教えてくれます。

家庭での“電力トリアージ”を
家庭での“電力トリアージ”を

芳賀さんは、東日本大震災の計画停電をきっかけに、自分で停電対策を研究。限られた電力を有効に活用するためには、家庭内でも“電力トリアージ”が必要だといいます。

「(発電できる電力の)容量が限られているので、まず使いたい物の優先順位をつけてください。生活をどうやって維持していくか、最低限必要なものをまず考えましょう」(芳賀さん)

例えば、お年寄りや赤ちゃんがいる家庭はエアコンを優先。ただし、エアコンは消費電力が大きく、動かないこともあるので扇風機も準備しておくこと。食品の確保を優先するなら冷蔵庫を優先し、昼のうちに冷やしておけば、夜に電力がなくても温度をある程度保てます。

家庭内の電化製品の優先順位を考えましょう
家庭内の電化製品の優先順位を考えましょう

夜間の備えには昼のうちに電気を蓄えておく「蓄電池」が有効。近年は小型化が進み、1万円程度の物も販売されているので、スマホの充電や照明はこれで十分です。

さらに芳賀さんは、低い電力で使える製品の有効活用をおすすめします。部屋の窓に取り付けているのはパソコン用のファンで、小型の扇風機を併用することで寝ている間の暑さを和らげるといいます。

窓に取り付けられたパソコン用のファン
窓に取り付けられたパソコン用のファン

「工夫して生活するのがいちばん大事。我々の生活は電気と切り離せません。今のうちに、何が必要かというのをもう1回皆さんが思い出して、忘れないようにしてほしいと思っています」(芳賀さん)

相次ぐ台風による停電に備えて全国各地の自治体も新たな取り組みを進めています。電気自動車の活用です。

電気自動車を使った練馬区のパトロール車

給電への活用デモ
電気自動車を使った練馬区のパトロール車 / 給電への活用デモ

2年前の台風では千葉県内の福祉施設や保育園など一部で電源として活用された例もありました。山梨県では自動車メーカーと協定を結び、非常時の電力供給体制づくりを進めています。

東京都練馬区では、2018年からふだんから街を巡回するパトロール車に電気自動車を採用しています。非常時に駆けつけて、あらかじめ用意した給電機につなぎボタンを押すだけで電気製品を動かすことができるようにしています。

災害時、地域でいかに電源を確保するか。私たちの命に直結する課題です。


停電時に“役立つ”4つのアイテム

災害時の停電に備えて、全国各地の自治体は支援の取り組みを進めています。しかし、すぐに電気が届くとは限りません。ふだんから備えて、うまく活用できるようにしておきましょう。

①ポータブル蓄電池+ソーラーパネル

ポータブル蓄電池+ソーラーパネル

最近の蓄電池は安くコンパクトになりましたが、充電がなくなればただの箱。そこで、太陽光で充電できるソーラーパネルもセットで用意しておくのがおすすめ。折りたたみ式のパネルなら保管場所をとらず、持ち運びもできるので便利です。

②ガーデンソーラーライト

ガーデンソーラーライト

庭に挿しておくだけで、夜に暗くなると自動で点灯し、一晩明るさを保つライトです。上部のソーラーパネルで太陽光を蓄電するので、コードや電池などはいりません。夜間に明かりがあると足元が安全になり、防犯対策上も有効です。また、ライト部分が外せるタイプであれば、夜は家の中に入れてランタン代わりにも使えます。

③シガーソケットUSBチャージャー

シガーソケットUSBチャージャー

電気自動車は災害時に電源として有効ですが、ガソリン車でも活用できます。シガーソケットUSBチャージャーがあれば、シガーソケットに挿して電力供給ができます。また、車はテレビやラジオによる情報収集ができ、エアコンで体温を調整できるため、いざというときに防災道具・避難場所として使えます。ただし、使用する際はバッテリー上がりに注意しましょう。

④マグネシウム空気電池

マグネシウム空気電池

写真のものは、箱の上部から1500mlの水を注ぎ、ふたを指で押し込むと数分で発電開始。USBの差し込み口が箱に備わっているので、スマートフォンなら約20回充電できます。注水後5日間ほど使えるそうです。


夏場の停電対策に4つの「日用品」

ここからは、国崎信江さんがおすすめ、夏場の停電、暑さに備えるグッズです。

①瞬間冷却パック

瞬間冷却パック

急速に体を冷やしたいときに役立ちます。叩くと一瞬で冷えるので、熱中症の症状が見られたときの応急手当に。製品によりますが、10分から15分くらいは冷たさが持続。一時的に患部を冷やしたり、首や脇に当てれば体温を下げられます。

②冷感シート
③冷感タオル

冷感シートと冷感タオル

暑さを和らげるのが冷感シート。おでこに貼れば熱中症対策に。本体を冷やすと効果が上がるので、ふだんから冷蔵庫に常備しておくのがおすすめです。
冷感タオルは一見すると普通のタオルですが、水に濡らして振るだけで冷たくなります。水は常温でも大丈夫です。100円ショップでも購入できるので、1枚あると重宝します。

④チューチューアイス

チューチューアイス

そのまま飲んだり、凍らせて食べたりできる、チューブに入ったジュースです。冷凍しておけば、停電時は保冷剤として使えます。クーラーボックスの中に入れても、比較的細くてコンパクトなのでスペースもとりません。溶ければ飲み物にもなり一石二鳥です。