この記事は、明日をまもるナビ「津波からの避難」(2021年5月23日 NHK総合テレビ放送)の内容をもとに制作しています。
これだけは知っておきたい、津波から命を守るポイント
▼「海から離れれば安全」ではない。1秒でも早く、1メートルでも高いところへ避難。
▼自動車避難は原則禁止。避難したら絶対に戻らない。
▼土地勘のない場所では、事前に津波ハザードマップで避難場所をチェック。
これだけ違う「波」と「津波」
私たちがよく目にする海の波は、その多くが風の影響を受けて水面が動いて発生します。波の長さは数メートル、大きいものでも数百メートルほどで、岸に到達してもすぐに弱まります。

一方、津波の場合、海底のさらに深くにあるプレートのひずみが一気に跳ね上がり、海面が盛り上がることで発生。波の長さも数キロから数百キロと非常に長く、とてつもなく巨大な水の塊が猛スピードで押し寄せてきます。津波は単なる「大きな波」ではなく、圧倒的な規模とパワーを持った「別の現象」なのです。
東京大学大学院 特任教授の片田敏孝さんは津波の特性と、通常の波との違いを5つのポイントに分けて解説します。

津波は水の壁
津波は水の壁が次から次へと襲ってきます。

「津波が波と違うのは、後ろにも水があること。水の壁が襲ってくるという状況です。だから破壊力が強くなります」(片田さん)
津波の中は水だけではない
津波は陸地に入るとあらゆる物を巻き込み危険度が増します。

「津波は陸地に入ると、家や車などを全部押し流します。さらに土砂も巻き込んで、泥と一緒にがれきが流れて来る。きわめて危険な水の流れだと理解しておくことが必要です」(片田さん)
津波は何波も押し寄せる
津波は何波にも分かれて向かって来ます。数時間後に最大波が到達することも。

「津波はひとつの大きな波が来て終わりではありません。何度も何度も波がきます。海底や沿岸部の地形に影響されます。津波は第一波がいちばん大きいというわけではありません。いくつかの波が重なったところで突然大きな波が出たりして、非常に複雑です」(片田さん)
津波のスピードはジェット機並み
津波のスピードは水深5000メートルのところでは時速800キロもあり、ジェット機並み。

「1960年に地球の真裏のチリで大地震が起きて、22時間で日本に巨大津波が来ました。深いところは非常に速いのですが、陸地に近づいて水深が浅くなると遅くなり、急ブレーキがかかるイメージ。後ろからきた波がどんどん積み重なって、津波は急に大きくなります」(片田さん)
津波は「海から離れれば安全」ではない
東日本大震災では、港から2キロ離れた場所にも川下から津波が遡上(そじょう)。

「津波は川を伝わって内陸の方に遡上(そじょう)してきます。場所によりますが、5キロまで入った事例もあります。平地が続いている場合は、どれだけ内陸にいても追いかけてきます。大切なことは、『1秒でも早く、1メートルでも高いところ』に避難するのが原則です」(片田さん)
危険な「自動車避難」と「ピックアップ行動」
東日本大震災が起きた日、午後2時46分の地震発生から巨大津波の到達まで、人々は何をしていたのか。携帯電話などの情報を基にしたビッグデータにより、その詳細が浮かび上がってきました。
900人以上が犠牲になった宮城県名取市では、地震発生からおよそ1時間後に津波が内陸深くまで流れ込みました。
では、地震発生から津波まで人々はどう行動したのでしょうか。青く光っているのが避難する人。緑色は反対に沿岸部に向かう人。赤は、その場にとどまる人です。

地震発生直後は多くの人が避難しています。しかし、その後は逆に内陸から沿岸に向かう人が目立ち始めます。避難した人よりも浸水域に入った人の方が多い市町村は、名取市を含めて3つの県で24に上りました。
データからは沿岸に向かう人が乗った車の多くが、Vの字を描くように戻っていくこともわかりました。「ピックアップ行動」と呼ばれる動きで、家族や知り合いを助けに行き、多くの人が犠牲になったとみられています。

カーナビの記録からは、車で避難しようとした人々が直面した問題が浮き彫りになりました。3000人以上が犠牲になった宮城県石巻市では、深刻な渋滞が被害を拡大させたとみられています。午後2時46分に激しい揺れでほとんどの車が一旦停止。15分後には中心部の道路が一気に渋滞しました。
なぜこれほど急激に広がったのか。ここで注目されるのは、渋滞が4つの交差点を結び、四角形を作る「グリッドロック」と呼ばれる超渋滞現象です。

地震の後、人々が一斉に車を道路に乗り入れます。車がひしめき合い、直進はおろか右折も左折もできなくなり、渋滞が広がるのです。グリッドロックは橋で囲まれた市街地のほぼ全域で起きていました。
片田さんは津波発生時の自動車避難について3つの注意点をあげます。
- ①自動車避難は原則禁止
車は渋滞すると身動きがとれなくなる。津波の避難は基本的に車を使わないようにしましょう。 - ②キーをつけたまま路肩に停車
運転中に津波に遭遇した場合は、緊急車両や救援車両の通行を妨げないよう、キーをつけたまま路肩に停車し、より高いところに避難しましょう。 - ③状況次第で自動車避難を
自力で避難できない人がいる場合や、渋滞の恐れがない地域では状況に応じて判断しましょう。
外出先での津波被害から命を守る3つのポイント
では、仕事や観光、海水浴や海釣りなどで訪れた土地勘のない外出先で地震に遭遇した場合はどうすればいいのでしょうか?
外出先での津波被害から身を守る3つのポイントです。

①事前に避難場所をチェック
津波ハザードマップがいろいろな形で公表されています。外出するときは事前に津波の危険を知っておくこと。避難場所も書かれているので確認しておきましょう。

また、海沿いには津波避難標識があります。「津波避難場所」と「津波避難ビル」という標識が建物の壁などの見やすい場所に掲げられています。避難場所へ誘導する矢印も示されているので確認しておくことが大切です。

②ラジオやスマホなどで津波情報をチェック
地震が起きたら、ラジオやスマホなどで津波が来るかどうかを素早く情報をチェック。情報に沿って安全な行動をとることが必要です。
③地元の人と声をかけ合いながら避難
津波避難は一刻を争います。地元の人と声をかけ合って、その地域の最もよい避難場所にみんなで迅速に行くことが大切です。
「全国最大の津波想定の町」の取り組み
高知県の西南部に位置する黒潮町は漁業や農業が盛んで、特にかつおの一本釣りが有名です。そんな黒潮町が知られるようになったもうひとつの出来事があります。それは、東日本大震災の翌年、国の検討会が公表した南海トラフ地震での被害想定です。そこで黒潮町は全国最大となる34.4メートルの巨大津波が押し寄せると想定されました。その後、町のいたる所に津波避難タワーが整備され、なかには居室を備えた国内最大級のものもあります。

今でこそさまざまな防災対策を進める黒潮町ですが、34メートルという津波想定が出たときは衝撃が走ったと、黒潮町職員の友永公生さんが振り返ります。
「いろいろな場所で耳にするのが、『逃げる場所ないじゃん、訓練に出ても意味がない』という声。あるいは『危ない町だから、もう住めない』と、よその町に引っ越しされる方。2つの諦めムードがあって、非常に良くない空気でした」(友永さん)
町にただよう諦めの空気を何とかしたいと取り組んだのが、「世帯ごとの避難カルテ作り」です。自宅から避難先までの時間、避難方法、さらに避難を手助けしてくれる近所の人を「防災となり組」としてリストアップ。お年寄りなど災害弱者も避難しやすいようにしました。

町民が安心して暮らせる対策にも取り組みました。津波の想定区域にあった町役場を2018年に高台に移転。その後も周辺の高台に宅地を整備したり、町営住宅を建設したり、一体的な開発を進めています。
さらに、防災を経済の活性化につなげる取り組みとして、日本一の津波想定を逆手にとった非常食用の缶詰を開発。うなぎやかつおといった高知ならではの味を楽しめる缶詰に、“34メートル”のロゴマークを印刷して巨大な津波想定をセールスポイントにしています。東日本大震災の被災地で「甘い物が食べたかった」という声が多かったことを参考に、黒糖やカカオを使ったスイーツまで開発しました。
友永さんは、こうした取り組みと共に町の雰囲気が少しずつ変わっていったと感じています。
「『避難しない』という声が聞こえなくなりました。自然リスクとか災害リスクだけじゃなく、地域それぞれの魅力を合わせて見直す機会にしてもらいたい。それが本当の意味での防災対策だと思います」(友永さん)
津波の被害想定を逆手にとって、PRに利用している黒潮町。片田さんは災害に強いまちづくりのポイントは「災害予測を街全体で共有し前向きに備えていくこと」だと説きます。
「黒潮町の場合は津波で話が進みましたが、地域によってさまざまな災害があるわけですね。たとえば火山の近くであれば噴火だけではなく、いい温泉がある。地域には自然の恵みもありますから、それを受け続けるためのお作法として防災を考えるのがいいと思います」(片田さん)
今後30年内に約80%の確率で発生すると言われている南海トラフ巨大地震。津波から命を守るために、正しい知識で津波に備えておきましょう。
緊急用マスク・簡易防寒着の作り方
東日本大震災の際に日本中で生み出された防災のアイデアグッズがあります。身近なもので簡単に手作りでき、津波などの災害時に非常に有効です。
緊急用マスク
津波や水害の後は土砂が乾いて砂ぼこりが空気中に舞うため、簡単に作れるマスクは必需品です。
※あくまで災害時緊急用であり、コロナ対策用ではありません
<用意するもの>
キッチンペーパー
輪ゴム
<作り方>
①キッチンペーパーを“じゃばら折り”にする
②輪ゴムをつなげて“耳ひも”を作る
③ ①と②をホチキスでとめて、完成。

簡易防寒着
津波などでは着ているものが濡れることで低体温症になり、命を落とす危険があります。ゴミ袋と新聞紙だけで簡単に体温を保つことができます。
<用意するもの>
新聞紙
ゴミ袋
<作り方>
①ゴミ袋の底側3か所に穴をあけて、かぶって頭と手を出す
②新聞紙を中に入れて、ゴミ袋を折り込んで袋の裾を結ぶ
③さらに新聞紙を重ねていき、完成。
【関連サイト】
NHK NEWS WEB 「つくってまもろう」みんなで集めた防災アイデア