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未就学児の命をまもる!新しい防災訓練

いつ起きてもおかしくない大地震。毎年のようにやってくる“観測史上初”の豪雨。想定外が当たり前となった災害に、いつもの防災訓練で対応できるのでしょうか。防災専門家や東日本大震災を経験した若者たちが考え、試行錯誤を繰り返しながら生まれた「新しい防災訓練」を紹介します。

この記事は、明日をまもるナビ「進化する防災訓練」(2021年5月9日 NHK総合テレビ放送)の内容をもとに制作しています。

これだけは知っておきたい、防災訓練のポイント
▼これまでと同じ防災訓練では、近年の災害の変化に対応できない。
▼未就学児には、歌や踊りなどを取り入れて訓練を行えば身につく。
▼災害を“自分ごと”にして防災意識を高める。


防災訓練 三大ここがヘン!

防災教育に力を入れている慶應義塾大学准教授の大木聖子さんは、現状の防災訓練は災害の変化に対応できていないと指摘します。

「近年、日本を襲う災害の形はどんどん変化しています。それなのに、防災訓練は変わってきたでしょうか?『日本の防災訓練もう少しがんばろう』と伝えていきたい」(大木さん)

慶應義塾大学准教授 大木聖子さん
慶應義塾大学准教授 大木聖子さん

大木さんが指摘する防災訓練のヘンなところは次の3つです。

 

防災訓練 三大ここがヘン!

現在の防災訓練の課題

①いつも同じことしかしていない
防災訓練をいつどこで行うか予告され、校内放送が流れるとみんなで机の下にもぐる、校庭へ避難するように指示されるなど、昔からやり方が変わらない。

②停電を想定していない
地震が起きると停電することが多いのに、電気を使う校内放送で生徒に指示を出している。

③余震を想定していない
大きな地震の場合は揺れが1回で終わることは少ない。避難中にも地震は起きる可能性があるのに、余震を想定していない。


未就学児の命を守る3つのポーズ

これまであまり行われてこなかったもののひとつが、未就学児の防災訓練です。災害時、未就学児が自分を守るには、どのような訓練をすればよいのでしょうか。東京・港区にある保育園では以前から月に1回、子どもたちを外に避難させる訓練を行っていましたが、教務部長の西村文孝さんはそれだけでいいのか不安があったと言います。

「いわゆる典型的な紋切り型の防災訓練というのはずっとやってきましたが、訓練がそもそも正しいのかどうかわからない中でやっていました」(西村さん)

そこで保育園では2019年から大木さんと一緒に、試行錯誤を繰り返しながら新しい防災訓練の開発を行ってきました。月1回の訓練で最初に取り組んだのは、地震や火災から「命を守る3つのポーズ」を子どもたちに覚えてもらうことです。

 

命を守る3つのポーズ

命を守る3つのポーズ


①サルのポーズ

サルのポーズ

机があるときは、机の下にもぐっておサルさんのように机の脚をしっかり持って、落下物から頭を守る。


②ダンゴムシのポーズ

ダンゴムシのポーズ

机がないときは倒れる可能性のある棚のほうにお尻を向けて、ダンゴムシのように丸まって頭を守る。


③アライグマのポーズ

アライグマのポーズ

火災が起きたら煙を吸わないように姿勢を低くして、ハンカチや服で口と鼻を押さえながら避難する。

さらに、「命を守る3つのポーズ」をどこでやるかも大切です。地震の場合、揺れが起きたら瞬時に「安全な場所」に移動するのが原則。避難場所として最適なのは、3つの「ない」を満たしている場所です。

 

3つの「ない」を満たす命をまもる場所

3つの「ない」を満たす命をまもる場所

  1. モノが落ちてこない
  2. モノが移動してこない
  3. モノが倒れてこない

子どもに避難行動を教える3つの工夫

命を守る3つのポーズを未就学児に教えても、思う通りにはなかなか動いてくれません。そこで大木さんが考えたのが3つの工夫です。繰り返すことで、子どもたちが自主的に避難行動をとれるようになりました。


①さるさるサンバ

さるさるサンバ

歌に合わせて「サル」「ダンゴムシ」「アライグマ」のポーズを振り付け。歌と踊りに乗って、子どもたちは楽しみながら3つのポーズを覚えてくれました。


②和太鼓

地震を表現する和太鼓

子どもたちにとって経験のない「地震」をイメージしてもらうために、地震がきた合図を太鼓で表現します。太鼓の音に強弱をつけて地震の大きさを表し、本当の地震のように終わったと思ったら、また大きく鳴らします。音が鳴っている間は「命を守るポーズ」をとれるように、ゲーム感覚で練習しました。

最初は戸惑い気味の子どももいましたが、2回、3回と繰り返すうちにほとんどの子どもたちが自然にポーズをとりだしました。その後、訓練を一歩進め、地震が起きた時の警報音を聞いたら身を守るよう教えると、子どもたちは警報音にも自然と反応できるようになりました。


③紙芝居

紙芝居の1シーン

子どもたちに避難への興味を持ってもらうために紙芝居を使用します。双子の兄弟が火事に巻き込まれ、「ゆうどうくん」が2人を安全な場所へ導いて助けてくれるというストーリー。ヒーローとなった「ゆうどうくん」は避難経路を知らせる誘導灯です。紙芝居のおかげで、子どもたちは率先して「ゆうどうくん」を見つけ、自ら避難経路を把握するようになりました。

ゆうどうくん

未就学児が災害時に自分で自分の命をまもるための「3つのポーズ」と3つのないを満たす安全な場所、そして避難行動を覚えてもらうための3つの工夫、ぜひ家族や周りの子どもたちにも教えてあげてください。


水と命の大切さを伝える2つの訓練

中学生のときに東日本大震災で被災し、その後、復興支援や防災の活動に携わってきた東北出身の若者たちがいます。彼らが目指しているのは、災害を“自分ごと”にする防災訓練。中学生に防災への意識を高めてもらうため、大木さんら専門家も招いて災害を体験した彼らならではの新しい防災訓練を考え出しました。

グループのリーダー役である佐藤陸さんは中学2年生の時、福島県いわき市で被災しました。

佐藤 陸さん

「被災したとき母親が必死に弟と弟の友だちを、なんとかして机の下に押し込んでいたのを覚えています」(佐藤さん)

陸さんは震災後、しばらくの間、限られた水での生活を余儀なくされました。その経験をもとに考えた訓練が「Know No Water(ノーノーウォーター)」。これは水がない非常事態を知ってもらうという意味で、水の大切さを実感してほしいという思いが込められています。


水の大切さを体感する訓練「Know No Water(ノーノーウォーター)」

Know No Water(ノーノーウォーター)のやり方


▼最初に自分がふだんどれくらいの水を使っているかを予測。
▼水を入れたウォーターバッグを使って実際に手洗いや歯磨きを行い、使った水の量を計測。
▼ウォーターバッグはそのまま家に持ち帰り、家族で備蓄すべき水の量を考える。

ウォーターバッグで、自分が使った水の量を計測する
ウォーターバッグで、自分が使った水の量を計測する

使う水の量には個人差がありますが、自分に必要な量を知っておくことは大切な訓練になります。さらに大木さんは、災害時にできる給水所の場所やルートも知っておいてほしいといいます。

「災害時にはおよそ半径1キロ~2キロ圏内に給水所ができますが、地震などでいつもどおり歩くことが難しい場合もあります。事前に給水所までの安全なルートを確認しておくことが大切です」(大木さん)

一歩間違えれば家族が命を落としかねない体験をしたのは、中学2年生の時、福島県いわき市で被災した鈴木千秋さんです。

鈴木千秋さん

「家の目の前で土砂崩れがあって、迎えの時間がずれていたらおばあちゃんが巻き込まれていたんじゃないかという経験がありました。そこで人ごとではなく、“自分ごと”になりました」(鈴木さん)

災害を “自分ごと”にしてもらい、命をまもることの大切さを知ってもらうためにどうすればいいのか。

鈴木さんたちの議論は「命はどうして大切なのだろう?」という問いかけから始まりました。導き出した答えは「自分がいなくなったら悲しむ人がいる」。大きな災害を経験したことがない中学生たちに、人の存在には価値があることを想像してもらいたいと考えました。そうして考えた訓練が「ホメッテー」です。


命を守ることの大切さを知る訓練「ホメッテー」

ホメッテーのルール

ホメッテーのルール


▼6つの面それぞれに『相手を褒めるテーマ』を書いた特製のサイコロを作成。
▼サイコロを振った人ががんばったエピソードやうれしかったことを披露して、それに対して周りの人が褒める。
▼ほかの4つの面が出たら、サイコロを振った人の良いところを周りの人が褒める。
▼順番にサイコロを振って、お互いに褒めあうことで友だちの大切さを再認識する。


東日本大震災で命を落とした19歳以下の人は、およそ1000人にのぼりました。褒めあえる大切な友だちが突然命を奪われる災害の恐ろしさ。それを“自分ごと”として捉える防災訓練です。

若者たちと10か月を共にした大木さんは、自身も学ぶことがあったと振り返ります。

「10か月間、毎週のように生徒たちと一緒に話し合いを続けて、防災の原点に立ち返った気がしました。なぜ防災をやるのか。それは、『あなたの命が大事』だから。自分の命、家族の命、大切な守りたいものがある。そういう思いを持つことが防災の始まりだと、あらためて気づかされました」(大木さん)

大きな災害を経験したことのない子どもや若者たちに、今回、紹介した新しい防災訓練でぜひ命を守る方法を伝えてみてください。