この記事は、明日をまもるナビ「在宅避難」(2021年4月18日 NHK総合テレビ放送)の内容をもとに制作しています。
避難所に“行ってはいけない人”とは?
正解は「高層マンションに住んでいる人」です。
東京の各自治体が呼びかけている「在宅避難」。たとえば「港区マンション震災対策ハンドブック~在宅避難のすすめ~」には次のように記載されています。
自宅が居住可能であれば、避難所に行かずに慣れ親しんだ自宅で生活を続ける「在宅避難」が原則です。

防災教育に力を入れている慶應義塾大学准教授の大木聖子さんは、大都市の高層マンションに居住している人も在宅避難の準備が必要だと呼びかけます。

「避難所というのは基本的に家をなくした方、住めなくなった方のためのもの。高層マンションは比較的、耐震性があって倒壊する恐れが少なく、たくさんの人が住んでいるので、みなさんが1か所に避難すると避難所がパンクしてしまいます。なるべく家族と自宅にとどまるといいと思います」(大木さん)
まずは水と食料。最低でも3日分を備蓄
災害時の在宅避難に欠かせないのが備蓄です。水と食料を最低でも3日分、可能であれば1週間分を備蓄しておく必要があります。
備蓄品1|水
1人1日、約3リットルが目安。最低でも3日分、可能であれば1週間分を用意。

水は大人が1人1日約3リットル飲むので、家族の人数分を掛け算した数が最低限の量です。
「水はたくさん必要なので少しずつ飲もうと思ってしまいますが、脱水症状になって危険です。2016年の熊本地震では脱水症状などの二次的被害、災害関連死のほうが直接死よりも多くなりました。水は我慢せずに十分に補給しましょう」(大木さん)
備蓄品2|食料
最低でも3日分、可能であれば1週間分を用意。

食料はふだん食べる物を多めに購入し、消費したら買い足す「ローリングストック法」で備蓄しておきましょう。その他、ごはんは水を加えるだけで食べられるアルファ化米を用意すると便利です。高齢者がいれば硬いものは避けるなど、家族のニーズを知ることも大切です。また、プルーンなどのドライフルーツは栄養価が高く保存がきくので買い置きに便利です。
大木さんは災害時の注意点として、冷蔵庫に保存している生ものから消費することをあげます。
「(災害時は停電になっている可能性があるため)被災した初日は冷蔵庫の中にある肉や魚など、傷みやすい食材を使った鍋がおすすめです。出来たてのものが家族みんなで食べられるだけで心もちょっとホッとします」(大木さん)
備蓄品3|カセットコンロ、ガスボンベ
災害時にはガスや電気が止まる可能性もあります。調理するためにカセットコンロとガスボンベも備えておきましょう。

京都在住の井上敦子さんは、4年前からローリングストックに取り組んでいます。阪神・淡路大震災を経験した夫の雅文さんは、避難生活で食べ物や水が手に入らず苦労しました。子どもたちには同じ思いをさせたくないと、ローリングストックに力を入れています。

敦子さんが備蓄しているのは、缶詰、レトルトごはん、ゼリー飲料などの長期保存できる食べ物です。買い物で心がけているのは、家族が食べるものを少し多めに買うこと。その際に注意しているのは、主食だけではなく、不足しがちな栄養がとれる食品を多めに準備することです。ビタミンやたんぱく質が不足しがちになるため、野菜や果物のジュース、肉や魚を使ったレトルト食品や缶詰などを意識的に加えるようにしています。
井上さん一家は1~2か月に1回、賞味期限が近づいている非常食を、災害時を想定した方法で子どもたちと一緒に料理してきました。水を無駄使いしないようにポリ袋などを使い、カセットコンロで調理。非常食とは思えない、バラエティー豊かな食卓になります。

ローリングストックの最大の利点は、ふだんから非常食を使った料理に慣れ、いざというときの心構えを育むことにあります。
「子どもたちが小さいうちから慣れておいて、いざ災害が起こったときにも不安をできるだけ軽減できたらいいなと思います」(敦子さん)
在宅避難開始!最初に使う備蓄品
地震発生後、家族の無事を確認したら在宅避難の始まりです。電気とガスが止まり、水も出ない状況で、復旧するまでの7日間を乗り越えるため、最初に必要な備蓄品が次の4つです。
備蓄品4|スニーカー
地震が起きたときはガラスなどが割れて、部屋の中に破片が散らばります。足をケガしないように、リビングや寝室にもスニーカーを用意しておきましょう。被災時は外から帰宅する場合でも、靴を脱がずに土足のまま入りましょう。
備蓄品5|充電式の掃除機
部屋に散らばった細かいガラスなどを吸うのに使い、安全を確保しましょう。充電式であれば停電しても使えます。または、ほうきやちりとりがあると便利です。

備蓄品6|携帯ラジオ
最新の災害情報を得るのに必要なだけでなく、給水車などライフラインに関する情報も入手できます。

備蓄品7|懐中電灯・ランタン・ヘッドライト
電気が消えると暗くなり、ケガをする危険があります。手が塞がらないヘッドライトを家族の人数分を用意するのもオススメです。

ランタンがあれば停電しても灯りを確保することができますが、用意できないときは身近な物で簡単に作れる「ペットボトルランタン」が便利です。
ペットボトルランタンの作り方
1. 紙コップを2つ用意して、底に十字の切り込みを入れる。
2. 水の入ったペットボトルの飲み口を下にして、紙コップに差し込む。
3. もうひとつの紙コップをペットボトルにかぶせ、懐中電灯を差し込む。
ペットボトルを通して光が拡散するので、部屋全体が明るくなります。飲み物の種類によって光の色が変わり、いろいろと試せば心も和らぎます。
最大の盲点は「トイレ」
東日本大震災の際に千葉では、約1か月間も水洗トイレが使えない地域がありました。仮設トイレが設置されても、被災者の長蛇の列ができます。さらに、衛生環境の悪化で、水分を控えてトイレを我慢する人が続出しました。だからといって、トイレを我慢し続けると体調を崩して命にもかかわります。そこで備えたいのが「携帯トイレ」です。
備蓄品8|携帯トイレ
おおきく凝固剤タイプと吸収シートタイプがあり、目安は1人1日5回、1週間分で35回分の備蓄が必要です。

携帯トイレの使い方


- 便器の中には水がたまっているため、携帯トイレの底に水がつくと取り出したときに水が垂れる。それを防ぐため、便座を上げてゴミ袋などをかぶせる。(写真の青いポリ袋)
- 便座を下ろし、その上から携帯トイレ(写真の黒いポリ袋)をとりつける。
- 排泄後、凝固剤を黒いポリ袋に入れるとすぐに固まる。
- ニオイが漏れないように携帯トイレ(黒いポリ袋)を十分に縛り、フタつきのバケツ などに捨てる。
- 多くは可燃ゴミ扱い。念のため自治体に確認し、ゴミの回収が始まったら捨てる。
日本トイレ研究所の加藤篤さんは災害時のトイレについて注意を促します。

「トイレが嫌で水分をとらなくなると病気のリスクが非常に高まります。脱水すると体温が下がり、血圧は上がります。最悪の場合、脳梗塞、心筋梗塞、そしてエコノミークラス症候群になり、関連死にいたることもあります」(加藤さん)
携帯トイレは固まり具合や吸水量などの違いがあるので、いくつか試して自分に使いやすいものを見つけておきましょう。
ストレス対策の備蓄品
在宅避難の4~5日目になると、ストレスとの闘いが始まります。水やガスが止まってお風呂にも入れず、停電でテレビを見ることもゲームをすることもできません。ストレス対策の備蓄品も必要です。
備蓄品9|水のいらないシャンプー
水を使わなくても髪をスッキリできます。ニオイを抑えることができるので、ストレスも軽減します。
備蓄品10|スイーツ缶
非常食が続くなかで、たまに甘い物を食べるとストレスを解消できます。缶詰タイプで2~3年の長期保存可能なガトーショコラやチーズケーキなどがあります。羊かんやわらび餅なども日持ちするのでおすすめです。
番外編 液体ミルク
被災のストレスで母乳が出なくなることがあります。粉ミルクだと沸騰したお湯が必要ですが、液体ミルクならそのまま使えます。乳児のいる家庭に必要です。

ここまで在宅避難に必要な備蓄品を見てきました。最後に大木さんは、モノ以外にも大切なことがあると語ります。
「人が生きて行くには最低でも3つのものが必要と言われてます。住む場所、食べる物、そして人とのつながりです。災害時は家族でイライラすることもあります。いつも以上に『ありがとう』と声をかけあって、近所の方ともいつも以上に挨拶をする。コミュニケーションをとりながら過ごしてほしいと思います」(大木さん)
その他、在宅避難で必要なものは、農林水産省や各自治体のホームページなどでも確認できます。いざというときに備えて、ぜひ準備しておきましょう。
【参考】
農林水産省「災害時に備えた食品ストックガイド」
※NHKサイトを離れます