明日をまもるナビ メニューへ移動 メインコンテンツへ移動

【武田真一アナ・インタビュー②】「いのちを守る」ためには

NHKの災害報道はいったいどう変わったのか。武田アナはどのような思いで災害報道の見直しを進めてきたのでしょう。

2011年3月11日。
東日本大震災が発生した際、ニュースを担当していた武田真一アナウンサー。

2万人近い犠牲者が出た災害を前に、「言葉や放送で何ができるのか」と無力感を感じますが、被災地を訪ねたことで、自分にできることは「次の災害の時に命が救えるような放送を出す」ことだと考えるようになります。そして災害時の報道の見直しに関わること…

全3回のインタビューの今回は2回目。

NHKの災害報道はいったいどう変わったのか。
また武田アナは、どのような思いで災害報道の見直しを進めてきたのでしょう。


NHKで災害報道の見直しを始めた頃、気象庁にも津波の大きさの表現を改訂する動きがありました。巨大地震が起きた際、最大級の津波を想定し、予想の高さを「巨大」「高い」という表現で発表することで、事態の深刻さを伝えるようになりました。

我々もそれにあわせて、NHKの災害、地震・津波報道のフォーマットを作ることにしました。

震災以前、NHKで我々がやってきたのは、冷静に、きちっと事実を伝えるということでした。もちろん論理的に分かってもらうことは大切です。あの時も、当時のマニュアルをきちんと実行できてはいたのですが、やはりいろいろ足りないところがあって。

その一つに、「危機感みたいなものを伝える」ということがありました。

花:危機感みたいなもの、ですか?

「いざ」という時に、避難のスイッチを入れるために、場合によっては感情に訴えて、「怖い」と感じてもらう必要もあると考えたんです。

そこで強い口調を使ったり、過去の事例を盛り込んだりして、呼びかけることにしたのです。

「今すぐ逃げること」
「命を守るため」
「一刻も早く逃げて」
「東日本大震災を思い出してください」

「とにかく逃げてください!」ということを、叫びながらでもいいから言うようにしたのです。

takedashout.jpg特別展「東日本大震災を伝え続けるために」での展

花:確かに普段は落ち着いているアナウンサーが叫んだりしたら、慌てますね。…でも、「逃げてください」って感情にまかせて言ったら、次のレポートとか続けられなくなったりしませんか?

難しいことですが、そこは技術なんです。

例えばスポーツ中継だと、ワァーッと興奮した描写をしたかと思うと、サッと冷静になったりするじゃないですか。そういうテクニックが必要となってきます。自分が感情的になってはだめなんです。エモーショナルに直接視聴者の方に呼びかけるところもあれば、淡々と状況を客観的に伝えるところもある。

それを使い分けることができるようにする。そして、それをできるのはアナウンサーしかいない、そういう気持ちでいます。365日24時間、いつ何が起きるかわからないので、そのためにいつも我々はスタンバイしています。

花:そういった技術の習得は、どのようにするものなんですか?

さまざまな専門家の知見を聞き、ディスカッションを何度も重ねて、それをマニュアルに落とし込んで…その間にも、気象庁も変更を加えて…また検討をやり直してと…いろいろあって5年をかけて災害報道の改善を行いました。それらを用いて、日々訓練をしています。東京に新しく転勤してきたアナウンサーたちは3月か4月に集中的に訓練を、そして折に触れて研修を行っています。そして、「実践」を積んでいきます。

西日本豪雨や北海道地震など、災害に関する放送は長時間続きます。それを、1時間1時間、次はこうやった方がいいんじゃないか、を考えて対応して…。そういうことを積み重ねて、ちょっとずつ、ちょっとずつバージョンアップしようと努めています。

東京でそういう訓練を積んだアナウンサーが、また地方へ転勤して行って、そこでその知見を広めていきます。また、被災地など現場で学んだ人たちが東京の僕らにフィードバックしてくれます。いろんなアナウンサーから意見を募って、避難所への呼びかけなども常に改善を続けています。

花:呼びかけとは?

僕たちがやらなくてはならないことに、まず「今すぐ、津波から避難して」とか「地震の揺れから身を守って」など直接的に“命を守る”呼びかけがあります。その際、「そばにいる方と声をかけあってください」とか、「身を寄せ合って暖をとってください」「必ず助けは来ます」など、そういった寄り添い、励ますことも大事なのではないかと考えています。

またそれだけではなく、その次のステージでは、直接の災害で命が救われた人が、たとえば避難所などで亡くなってしまうなんてことがないよう、助かった人がどうやって“命をつなぐか”ということも考えています。

花:地震、津波、豪雨、台風…いろいろな災害がありますが、マニュアルの言葉で対応できるんですか。

西日本豪雨では200人を超える方が亡くなりました。大雨に対する呼びかけに関して、僕らは何回も何回も見直ししてきているんです…にも関わらず、これだけ大きな被害が出てしまったということに関して、すごく残念な思いです。無力さを感じます。

おそらく、「災害」というものは、同じようなものは2度と起こらないと思います。そのたびごとに顔が違うというか…

東日本大震災の後に作ったマニュアルの冒頭にも書いたのですが、「大事なのはマニュアルを超えた放送だ」ということ。1回作ったマニュアルが、それから先いつも役に立つわけではない。マニュアルが最低限。「今まで考えて作ってきたことは通用しない」ということを考えていなければならないと思います。

目標を達成するための道のりを考えるときに、「ルールベース」と「プリンシプルベース」というふたつの方法論があります。「ルールベース」は、まずルールありき。ルールを守って手順を守っていけば、ある種の結果が得られる。そういう仕事のやり方もあります。

「プリンシプルベース」は、一番大事なことを原則とします。そしてそれに向かって進む。災害報道だと「命を守ること」です。それを得るためには、ルールや手順を守っていれば確実、というわけではない。「命を守る」という難しいミッションを達成するには、ルールに縛られずに、そのときに最善だと考えられる放送を出していく必要がある。それが「プリンシプルベース」です。

しかし、手順もルールもまったくの「まっさら」だと何もできないから、一応マニュアルは作ります。それをベースにしつつ、その都度その都度、起きていることに応じて、何をどう伝えるのかを考えていく、そういう姿勢で臨んでいます。

花:アナウンサーという言葉で行動を促す側として、逆にその言葉を受け取った人たちに「こうしてほしい」といったことはありますか?災害が起きたその時、どうアクションをしてほしいとか。

「その時」というより、普段の備えをお願いしたいです。

僕らの放送というのは、皆さんが身を守る行動を起こすための「トリガー(引き金)」に過ぎないと思います。だから、視聴者の皆様には何か起きたときに自分はどうすればいいのか、ある程度の準備をしていただきたいんです。

津波がきたら、あの丘に逃げようとか、
地震があったら、あの避難所に逃げようとか、
気象庁のホームページを見て、あらかじめ水害や崖崩れの危険度を確認するとか、
家族がバラバラだったら、どういうふうに行動しようとか…

いろんなことを想定して、とにかく準備をしておいてほしいと思います。

それで僕らは、今が「その時」となったら命を懸けて、声を枯らして呼びかけます。普段は冷静沈着なアナウンサーのそういう呼びかけを聞いたら、「その時」だと思ってください。どうか普段の備えを行動に移してください。


防災への意識と備えを普段から。
私たち、東日本大震災プロジェクト事務局も強くお願いしたいことです。

さて、次回は最終回。
今年6月に、宮城県名取市を訪れた武田アナ。その時の思いをうかがいました。

次の記事
【武田真一アナ・インタビュー③】”あの日”伝えた閖上へ

NHKでは、震災による被害の現状や被災した人々の声、復興の様子を継続的に記録し、その経験や教訓をもとに、防災・減災につながる情報を発信しています。

災害が相次ぐ中、いざという時のための知識や備えは、誰にとっても重要です。以下のコンテンツをぜひ一度ご覧ください。

【NHKニュース・防災アプリ】災害情報や最新ニュースをいち早くお届け
【災害の備え】防災情報の基礎知識や「いざ!避難」という時にとるべき対応を解説
【災害時障害者のためのサイト】障害者や高齢者など誰も取り残されることのないよう
【つくってまもろう】身の回りにあるもので便利なアイテムを手作り
NHK防災・命と暮らしを守るポータルサイト
NHK防災・命と暮らしを守るポータルサイト
この記事は、2018年10月18日に公開した内容をもとに制作しています。