この記事は、明日をまもるナビ「首都直下地震 あなたの家は大丈夫?」(2023年1月22日 NHK総合テレビ放送)の内容をもとに制作しています。
これだけは知っておきたい、首都直下地震の揺れに有効な備え
▼一戸建て住宅は新しい耐震基準に合わせた耐震化工事を進めることで被害を大きく減らすことができる。
▼住宅の耐震診断の相談や耐震化の費用補助は自治体の制度が利用できる場合も。
▼自治体が公開している「揺れやすさマップ」や「液状化ハザードマップ」で自宅の場所のリスクを知って、備えておく。
関東大震災から100年 首都直下地震の発生確率は?
関東大震災が1923(大正12)年9月1日に発生してから、2023年で100年になります。この震災を忘れないために、9月1日は「防災の日」に制定されていて、全国各地でさまざまな防災活動が行われています。
関東大震災が起きたのは9月1日の昼頃。マグニチュード7.9の巨大地震でした。死者はおよそ10万5000人。地震による火災が人口密集地帯を襲い、被害が拡大しました。およそ37万棟の住宅被害の9割が火災による焼失で、死者のおよそ9割が火災に巻き込まれて命を落としています。

これまで南関東を襲った巨大地震の発生頻度には特徴があります。
大正関東地震(関東大震災)の220年前の1703年にも、同じように相模湾を震源とするマグニチュード8クラスの巨大地震「元禄関東地震」が起きました。それからの220年間を見ると、マグニチュード7クラスの直下型地震が、大正関東地震までの100年に多く起きていました。

東京都の首都直下地震の被害想定の作成にも関わっている東京都立大学名誉教授の中林一樹(なかばやし・いつき)さんは、この事実を次のように解説します。
「つまり、関東大震災から100年たったこれからが、気をつけなければならない時期に入るということです。マグニチュード7クラスの首都直下地震が発生する確率は30年以内に70%の確率と言われています」

「東京はこうなる」首都直下地震の被害想定
2022年5月、東京都は首都直下地震の被害想定を10年ぶりに見直しました。
最も被害が大きくなると考えられる、都心南部を震源とするマグニチュード7.3の直下型地震が発生した場合、死者は6000人以上、負傷者は9万人以上、建物被害は19万棟以上と想定されています。

震源に近い江東区や江戸川区などで、震度7となるのをはじめ、東京23区のおよそ6割が、震度6強以上の揺れになるとされています。
■ビル内部の揺れと倒壊
鉄筋の高層ビルの室内では、本棚や机などの家具が崩れ、凶器と化します。耐震性の低いビルは倒壊します。
■木造家屋の倒壊と火災
木造家屋の密集地域で耐震化されていない家屋は次々と倒壊。さらに火災が発生し、住宅地は炎に包まれます。阪神・淡路大震災や熊本地震でも、木造家屋の倒壊が多くみられました。激しい揺れが十数秒ほど続くだけでも、家屋を押し倒す強い破壊力があるのです。
■液状化現象
東京湾岸の埋立地や河川の沿岸などでは「液状化現象」が発生。人々の避難や緊急車両の通行が妨げられます。傾いて全壊となる住宅は1500棟以上になるとみられています。
■交通機関と帰宅困難者
大きな揺れで、道路や線路が深刻なダメージを受けます。鉄道やバスなど公共交通機関はすべてストップ。帰宅困難者は453万人にのぼるとみられています。
ターミナル駅など人が集中する場所では“群集雪崩”が懸念されます。
■避難所の定員オーバー
避難者の数は最大で299万人。避難所に多くの人が集まってくるピークは、在宅避難者の水や食料の備蓄が減ってくる4日目から1週間後になるとみられています。
■断水
断水が東京23区の3割、多摩地区の1割で起きると想定。地震発生から17日後には復旧はほぼ完了しますが、下水道が壊れている間は水を流すことはできません。
■停電
震度6弱以上の場所では、電柱や送電線が壊れ、広範囲で停電します。復旧作業は1週間ほどで完了するものの、場所によっては長期化する場合もあります。
■通信障害
携帯電話やインターネットも地震発生直後から数日間つながりにくくなります。被害状況によっては、さらに長期化する地域もあります。

■耐震化が進み被害想定は減少
一方、建物などの耐震化が進んだことで、東京都の10年前の想定に比べて被害数は減っています。

2020年時点の東京都の住宅の耐震化率は92%になっています。
今の状況で首都直下地震に襲われると、倒壊による死者の想定は3200人。しかし、これらの建物をすべて1981年の耐震基準で耐震化率100%まで進めると、建物倒壊による死者を想定1200人まで減らすことができます。さらに2000年に改正された基準まで進めると500人まで減らせます。
「皆さんが自分の家をチェックして、耐震補強に取り組んでいただくことが最も被害を減らす基本なのです」(東京都立大学・中林さん)
【参考】
首都直下地震等による東京の被害想定(2022年5月25日公表)
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どう進める住宅の耐震化 耐震診断の方法
首都直下地震では家屋倒壊による被害の拡大が危ぶまれています。それを防ぐには住宅の耐震化が欠かせません。自分の家が地震に対して強いのか、弱いのか?それを知るために行うのが「耐震診断」です。
木造家屋の診断ポイントを専門家に聞きました。(取材協力:福岡県住宅リフォーム協会)
耐震性を見極める調査のポイントを動画で解説しています。
【ナビ動画】首都直下地震 被害を減らす耐震化
▼外壁の確認
家の基礎の部分や外壁をたたいて確認します。
「(壁が)浮いていればカポンと軽い音。しっかりついていればカツンと硬い音がします」
▼通気口のヒビ割れ
打音検査で壁の状況を確認します。
▼亀裂の確認
亀裂をチェックし、その大きさが耐震性に影響するかどうか検討します。
住宅の耐震性の大きなポイントは
・強い壁がいくつあるか
・バランス良く配置されているか です。
壁を1枚1枚確認して図面に書き起こします。
▼専用器具で傾きチェック
柱や床を専用器具で確認し、劣化や白アリによって住宅にゆがみがないかなどを調べます。
▼床下で基礎部分を調査
床下にもぐって、基礎の部分の強度や鉄筋の有無、基礎が腐っていないかなどを調べます。
▼屋根裏ではりや金具、雨漏りを調査
押入れから屋根裏へ移動し、天井の梁(はり)の状態や、補強金具がきちんと使われているか、雨漏りがないかなどを確認します。
こうした住宅の耐震診断を依頼する際は、自治体の建築課などに相談してみるのも良い方法です。
日本建築防災協会のウェブサイトには、「誰でもできるわが家の耐震診断」があります。10個の質問に答えると、自宅の耐震化が必要かどうか、参考にできます。
【参考】
誰でもできるわが家の耐震診断
※NHKサイトを離れます
一般的な一戸建て住宅を耐震補強する場合、100万から150万円の費用で必要なことができると言われています。自治体によって異なりますが、費用の補助をする制度が設けられています。マンションなど集合住宅も、管理組合での区分所有者の合意が前提ですが、自治体の支援が受けられる場合があります。
「地震で建物が壊れないようにすると、火災の発生を防ぐことにもつながります。みんなが耐震化をすればその地域が強くなります」(東京都立大学・中林さん)
家具の転倒防止対策で被害を減らす
首都直下地震が起きた場合、家具の転倒などで200人以上の死者が出ると見られています。被害を減らすには家具の転倒防止対策が欠かせません。
▼対策グッズ 使い方のポイント
【ナビ動画】首都直下地震 命を守る家具転倒防止
<対策例>
1. つっぱり棒は取り付ける位置が重要=手前ではなく奥に
2. 天井の強度の高いところへ取り付ける=強度を補うために板を当てるのも有効
3. 家具の下にストッパーを併用するとさらに倒れにくくなる
4. L字金具で壁と直接固定も
5. テレビは転倒防止ベルトを使って壁やテレビ台に固定
6. キッチンの重たい調理家電は粘着マットで転落防止
7. 冷蔵庫は転倒防止ベルトで壁に固定
8. 食器はすべり止めシートを敷いて収納
9. ヘアゴムを扉のストッパーに
家電や棚同士を固定、ガラスに飛散防止フィルムを貼るなども効果的です。
■リビングルームの対策
① 水槽
滑り止めのマットを下に敷くと、滑らずに揺れに耐えることができます。
② キャスター付きの家具
キャスターを固定する受け皿を置くと滑り止めになり、揺れても動きにくくなります。
③ 壁掛け時計
フックから針金でぶら下げて、動かないように壁に固定します。
「最も大事なことは、倒れても安全な場所に配置すること。それを決めてから固定するのが順序です」(中林さん)
日頃から家具の転倒防止対策を行い、地震の大きな揺れに備えましょう。
【参考】
大地震の揺れから命をまもる 家庭でできる8つの防災対策(明日をまもるナビ)
2021年5月19日
【ナビ動画】今すぐできる!家庭での“揺れ”対策は?(明日をまもるナビ)
2021年6月4日
地盤が揺れを増幅?表層地盤のリスク
首都直下地震では、最大震度7の揺れになると考えられています。その時心配されているのが、地震の揺れをさらに増幅させる地盤の存在です。
注目されるようになったのは2016年の熊本地震でした。現地で被害と地盤の関係を調査した、防災科学技術研究所の先名重樹(せんな・しげき)さんは、多くの住宅が倒壊する一方で、ほとんどの住宅が残っている場所を見つけました。

2009年、防災科学技術研究所が各地のボーリング調査などを元に、地盤の揺れやすさを予測。その予測地図に実際の熊本地震の被害状況を重ねると、揺れやすいとされていた赤いエリアで、被害のなかった家屋がある一方、逆に揺れが少ないとされた黄色いエリアで多くが倒壊していたのです。
なぜ違いが生じたのか?地表面に近い地盤「表層地盤」が、地震の揺れを増幅させ、被害を拡大させていたのです。

地盤をゼリーに例えると、同じ振動を与えた場合、固いゼリーでは小さく揺れるだけですが、軟らかいゼリーではより揺れが大きくなります。同様に、地表面に軟弱な地盤があると揺れが増幅されます。
先名さんは、軟弱地盤が細かく分布しているため、同じ地区でも被害に差が出たと考えました。

関東地方では、こうした軟弱地盤はどこにあるのか?先名さんたちは、最新の観測機器を使って調査したところ、揺れが強まりやすい場所が数多くあることがわかってきました。

硬い地盤を表す緑や青色のエリアの中に局所的に軟弱な地盤である赤いエリアがあります。

この調査は、東海地方や山梨県、長野県でも行い、今後広げていくことにしています。
【揺れやすさマップ】
このほか、全国には自治体が「揺れやすさマップ」などを公開しているところもあります。
「台地の上であっても、かつて小さな川があって、砂や泥、あるいは落ち葉などを運んで、窪地にたまって軟らかい表層地盤になると揺れやすくなります」(東京都立大学・中林さん)
もし揺れやすい地盤の場合は、家の耐震性を高め、家具の転倒防止を徹底することが大切です。家を建てたり、建て替えたりする時は基礎をしっかり造ることを心がけましょう。
▼表層地盤 リスクとメカニズム解説
【ナビ動画】首都直下地震 地盤が揺れを増幅!?
【参考】
揺れを増大する軟弱地盤はどこに? 足元に潜む地盤災害(1)(明日をまもるナビ)
2022年3月16日
■気象庁の長周期地震動の速報
東京で大きな地震が起きた場合、影響があるのは首都圏だけではありません。
周期の長い大きな揺れが、震源から遠くの場所まで届き、被害を及ぼすことがあります。これを「長周期地震動」といいます。
2011年の東日本大震災では東京の超高層ビルが10分近く揺れたことがありました。もし東京で大きな地震が起きたら、静岡や名古屋、大阪、新潟などのタワーマンションや高層ビルが大きく揺れる恐れがあります。
今年2023年2月1日から、長周期地震動が予測される地域にも注意喚起をするために、気象庁から緊急地震速報を発表することになりました。
【参考】
超高層ビル“長周期地震動”対策の最新技術(災害列島)
2022年11月4日
液状化現象にも注意
建物を傾かせライフラインも寸断させるなど、都市機能をマヒさせる「液状化現象」。地盤の中でかみ合って安定している砂と水が、地震で揺さぶられてバラバラになり、泥水のようになってしまう現象です。
首都直下地震では、大規模な液状化が懸念されていて、そのリスクを事前に把握することが対策の第一歩です。

液状化によって、家屋は沈んで傾きます。地中の水道管やマンホールは浮き上がります。

さらに、液状化現象は避難の妨げにもなります。
東日本大震災で大きな被害を受けた、宮城県亘理町荒浜地区で暮らしていた齋藤邦男(さいとう・くにお)さんは、地震直後、津波に襲われる前の液状化現象がわかる貴重な映像を撮影していました。
車で避難しようとした齋藤さんが目にしたのは地面の大きな亀裂。そして水や泥でぬかるんだ道路でした。齋藤さんは車の下に板を敷いて脱出しました。

ふだんなら10分足らずの高台にある小学校にたどり着いたのは、地震発生から45分後。その直後、住宅地は津波に襲われました。
液状化が起こりやすい場所は
・海や沼、湿地などの埋め立て地
・海や川に近い場所
・過去に液状化が起きた場所 などです。
国土交通省や自治体などが、地域の地盤を調べて液状化しやすい場所のハザードマップを公開しています。これから家を建てようというときは、自治体の窓口などに相談してみましょう。
東京の液状化予測図
※NHKサイトを離れます
熊本市液状化ハザードマップ
※NHKサイトを離れます
茅ヶ崎市液状化ハザードマップ
※NHKサイトを離れます
ハザードマップがない場合は、住んでいる地域が市街地として開発される前の状況を古い地図で調べることで、液状化リスクを知ることができます。
【参考】
液状化と道路陥没はなぜ起こる? 足元に潜む地盤災害(2)(明日をまもるナビ)
2022年3月16日