この記事は、明日をまもるナビ「2022年 自然災害を振り返る」(2022年12月18日 NHK総合テレビ放送)の内容をもとに制作しています。
これだけは知っておきたい、2022年の気象災害の傾向
▼近年、西日本で多く発生していた線状降水帯が東北地方でも発生。
▼大気中を流れる大量の水蒸気=大気の河が台風の風で日本上空に流れ込んで線状降水帯を発達させる。
▼日本付近の海水温が過去100年で約1℃上昇したことが、台風を大きく変えている
東北地方の記録的大雨
2022年の気象災害は「これまでにない」ものが続きました。
まず関東甲信地方では、速報値で6月27日と非常に早く梅雨が明けました。これは過去72年間で最も早い梅雨明けでした。
その後、6月なのに40度を超えるような猛暑。8月には青森県から福井県にかけて、さまざまな場所で線状降水帯が発生し、豪雨災害が起こりました。
8月3日から4日にかけて青森県で記録的大雨による災害が相次ぎました。
青森県外ヶ浜町(そとがはままち)では、住宅地の近くの川から水があふれ、辺り一帯が冠水。十和田市では、雑木林から押し流されたとみられる土砂や木が道路に散乱しました。

8月3日、午前11時までの12時間の雨量は、平川市碇ヶ関(ひらかわし・いかりがせき)で178ミリ、深浦町(ふかうらまち)で172ミリなど、各地で観測史上最も多い記録となりました。
青森県にかつてない大雨をもたらしたものは「線状降水帯」です。
東北地方で初めて『顕著な大雨に関する情報』が発表されました。
その後、雨の中心は徐々に南下し、山形県にも線状降水帯の発生が確認されました。飯豊町(いいでまち)では、24時間の降水量が306ミリを記録。
これは、平年の8月1か月分の降水量の1.7倍でした。

この雨の影響によりJRの鉄橋が崩落。県道にかかる橋も流されました。

【参考】
明日をまもるナビ「大雨特別警報の舞台裏に迫る!」
(2022年11月24日公開)
線状降水帯の要因「大気の河」とは?
近年、線状降水帯といえば、九州北部豪雨、西日本豪雨、熊本豪雨など、西日本で多く発生していました。しかし、2022年は東北地方でも線状降水帯が発生したのです。
この線状降水帯の要因として、今注目されている研究があります。それが「大気の河」と呼ばれる現象です。
この研究を行っているのが、名古屋大学宇宙地球環境研究所教授の坪木和久さんです。

「大気の河」とは「大気中を流れる大量の水蒸気」を指します。
この画像は、日本列島付近の水蒸気の量の分布を表したものです。青色の部分が特に水蒸気の多い「大気の河」です。青森から日本海に向かって東西に延びていて、その長さはおよそ8000キロです。
「地球上で一番大きなアマゾン川3本ぐらいの水が日本上空に流れているイメージ。信濃川でいうと1000本ぐらい。それぐらいたくさんの水が空の見えない川に流れています」(坪木さん)
ではなぜ、その「大気の河」が東北地方に発生したのでしょうか?
今年は、2つの台風が相次いで東シナ海を北上し、大量の水蒸気を持ち込みました。その水蒸気が前線に沿って流れ込んだ先が青森だったのです。

「日本では、台風と大気の河と線状降水帯は1セットと考えていただいたほうがいい」(坪木さん)
【参考】
災害列島「アマゾン川が日本の空に? 線状降水帯につながる『大気の川』とは
(2022年9月13日公開)
過去最強クラスのスーパー台風と呼ばれた「台風14号」
9月14日に発生した台風14号。17日には、中心気圧910ヘクトパスカルとなり、過去最強クラスの勢力をもつ「スーパー台風」と呼ばれるまでに成長しました。
台風14号は、猛烈な勢力を保ったまま18日に鹿児島県に上陸。そして日本列島を縦断し、各地で猛威を振るいました。
宮崎県椎葉村(しいばそん)では、地盤がえぐられて、大きく崩れました。全国で死者は5人、けが人は150人以上にのぼりました。
台風は当初の予想よりも勢力を落とし、9月20日には、三陸沖で温帯低気圧に変わりました。海の上ではなく陸上を通過したため、水蒸気の供給がなくなるなどして勢力が早く落ちたと見られています。
また、この台風14号のときは、『ダムの事前放流』が効果的だったと考えられています。下流の洪水被害を防ぐため、ダムの水をあらかじめ減らしておき、降雨時に多く貯水できるようにします。西日本を中心に、過去最多の123か所のダムが事前放流を行って台風に備えました。
突然発生&急接近した「台風15号」
日本列島のすぐ近く、高知県の南の海上で9月23日に発生した「台風15号」は、東海地方に接近し、翌日には温帯低気圧になりました。

台風としての寿命は1日だけでしたが、予想以上に大きな被害をもたらしました。
静岡県では線状降水帯が発生。1時間に100ミリを超える猛烈な雨が降り続き、気象庁は「記録的短時間大雨情報」を16回発表しました。

静岡県の各地は、平年の9月の1か月分を超える記録的な大雨になりました。
浜松市のマンションでは、1階の入口まで水が入り込み、敷地にある駐車場は、濁った水で池のようになりました。
静岡市葵区の山あいにある旅館では、館内の大浴場につながる廊下に大量の濁った水が流れ込みました。宿泊客とスタッフにケガはなく、客は消防のヘリコプターで救助されたということです。
ライフラインにも影響が出ました。静岡県内では送電鉄塔が土砂崩れにより倒壊し、一時およそ12万戸で停電しました。

さらに静岡市清水区では、各世帯に水を供給する取水口で水を取り込めなくなるなど、全体で6万世帯以上が断水。完全復旧は10月上旬でした。
静岡県では3人が亡くなり、床上浸水した住宅は5000棟以上。被害は当初の予想を大きく上回りました。

中でも多くの住宅が浸水した静岡市清水区鳥坂(とりざか)の一部の住民は、今も家の2階での生活を余儀なくされています。支援を受けるための「り災証明」の発行に時間がかかる上、子どもの生活を安定させたいなどの理由で、仮の住まいに生活の拠点を移した家族もいます。
この台風15号は、北緯30度線の北側で発生し、ごく短い間だけ台風となり、その後は弱い熱帯低気圧でしたが、静岡県に大きな災害をもたらしました。

その原因を坪木さんは、「台風の東側の大気の河」だと分析しています。
台風の東側から南の水蒸気だまりにつながる大気の河ができていて、そこから水蒸気がどんどん流れ込み、線状降水帯が長時間発生していたのです。
「台風は弱くても決して侮れません。台風に伴う大気の川がいかに危険で、大きな災害をもたらすかをこの災害は表しています」(坪木さん)

これからもこのような台風が続くのでしょうか。
「長い目で見ていくと、台風はより強くなる。数は少なくなるが、より強くなって日本により大きな災害をもたらす可能性が高くなる。それが現在の知見で言われていることです」(坪木さん)
気象庁の観測では、過去100年間で日本周辺の海水温はおよそ1℃上がっています。この海の温度の変化が台風を大きく変えるのです。
坪木さんは、「これまでの経験に基づいた災害対策ではなく、“最新の知見に基づく対策”をとっていくということが重要」と強調しています。
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